発想法 - 情報処理と問題解決 -

情報処理・学習・旅行・取材・立体視・環境保全・防災減災・問題解決などの方法をとりあげます

タグ:KJ法

今回から、『発想法』(中公新書)のなかの中核部分である第 III 章「発想をうながすKJ法」(65〜114ページ)について解説していきます。

第 III 章「発想をうながすKJ法」は次の7つの節からなっています。「備品・探検・記録」「グループ編成」「KJ法A型図解法」「KJ法AB型による文章化」「叙述と解釈をハッキリ区別せよ」「ヒントの干渉作用」「累積的KJ法」。

わかりやすくするためにこれらを次のように4つの場面に整理します。

 第1場面:「備品・探検・記録」(66-73ページ)
 第2場面:「グループ編成」「KJ法A型図解法」(73-94ページ)
 第3場面:「KJ法AB型による文章化」「叙述と解釈をハッキリ区別せよ」「ヒントの干渉作用」(94-111ページ)
 第4場面:「累積的KJ法」(111-114ページ)

今回は、第1場面「備品・探検・記録」をとりあげます。その要点をピックアップすると次のようになります。
 
備品を用意
 ペン、紙片などを用意する。

主題を決める
 何を問題にするかというテーマ(主題)を明確にする。

探検
・ 内部探検
 ブレーンストーミングをおこなう。
・外部探検
 問題のもっと積極的な解決のためには外部探検をおこなう。 
 
記録
 事実・意見・アイデアなどを、ひと区切りの内容ごとに圧縮し、エッセンスを紙片に書きだす。

これらを要約すると、主題を決めて、「探検」→「記録」という手順になります。

これらの過程を、現代の、情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からとらえなおすと次のようになります。

外部探検とは取材のことであり、目でみたり耳できいたりして心のなかに情報をインプットすることです。また、内部探検(ブレーンストーミング)では、過去にすでに心のなかにインプットされている情報をつかいます

記録とは、情報の要点を書き出すこと(単文につづること)でありアウトプットに相当します

そして、探検と記録の中間の過程は、見たり聞いたりしてインプットされた情報のどれ(何)を記録するかを心のなかでかんがえる過程であり、そこでは情報の選択(あるいは評価)がおこなわれており、プロセシングに相当します。わたしたちは、自分にとって重要な事柄を中心にして記録をとっているわけです。また、ブレーンストーミングは心のなかを内観して、すでにインプットされている情報を想起したり評価したり操作したりする過程であり、これもプロセシングに相当します。

これらを要約すると次のようになります。

 インプット:探検(取材)する
 プロセシング:情報を選択する
 アウトプット:記録をつける(単文につづる)

これらは全体としてひとつの情報処理の過程になっています。情報処理をつよく意識することが今日では大事です。

次に、これらにについて詳説します。

*備品
 次の物品類を用意します。
 (1)黒色ペン
 (2)赤色・青色・緑色のペン
 (3)クリップ多数
 (4)輪ゴム(必要に応じて)
 (5)紙片あるいは付箋(75X25mmを推奨)、ラベルなど
 (6)A3用紙
 (7)ワープロ
 (8)机・テーブル

備品として用意する物品として、本書『発想法』では、色鉛筆もあがられていますが、色ボールペンあるいはサインペンでよいです。

本書では、紙片として「名刺大の紙片」があげられています。これでもよいですが、今日では付箋あるいはラベル(シール)が便利です。大きさは、 個人でおこなう場合は 75X25mm の大きさが推奨できますが、決まりはなく自分のつかいやすい大きさでよいです。大きすぎるとたくさんひろげたときに場所をとり、小さすぎると文字が記入しにくくなります。

なお今後、紙片あるいは付箋などを総称して「ラベル」とよびます

*主題設定
自分の心のなかをじっくり内観し、本当は、自分はどんなことにとりくみたいのか、何を問題にしたいのかというテーマをはっきりさせます。単純な行為ですが、問題解決の出発点としてとても重要なステップです。


1. インプット:探検(取材)する
外部探検としては、観察や聞き取りにより心のなかに情報をインプットします(くわしくは本書第 II 章を参照してください)。

ブレーンストーミングをおこなう場合は、心のなかにすでにインプットされている情報をつかうので、あらたな取材は省略してかまいません。

発想法初級ではブレーンストーミング(内部探検)のみおこない、外部探検は中級でおこないます。


2. プロセシング:情報を選択する
テーマ・課題をめぐり、重要な事柄、関連情報は何であるかかんがえます。直観も重視します。

ブレーンストーミング
ブレーンストーミングは集団でもできますが個人でもできます。まずは個人でやってみるのがよいでしょう。

心のなかに過去にインプットされた情報(心のなかにすでにある情報や記憶)をおもいだします。心のなかを内観しながら、すでにインプットされている情報を活用します

 個人でおこなう場合
・ブレーンストーミングを個人でおこないます。
・自分の心のなかをじっくり内観します。
・記憶を想起しながら、事実・意見・アイデアなど、テーマに関係のありそうなことなら何でもだしていきます。
・他人からえられた情報も想起します。

数人の会議でおこなう場合
・参加者の意見をできるだけはきだします。
・アイデアだけでなく、関連的な知識もあつかいます。
・多種多様な意見をだすようにします。
・ブレーンストーミングの批判禁止の条項はとくに有効です。
・事実報告や見解もはきだします。



3. アウトプット:記録をつける
事実・意見・アイデアなどの情報を、ひと区切りの内容ごとに圧縮し、エッセンスを「ラベル」に書きだします。紙片や付箋やラベルなどを総称して「ラベル」とよびます。
1枚1項目とし、 単文につづり、 述語までしっかり書きます。 
・コンテキスト(文脈)をおもんじます。
・内容の意味や構造をころさないまま、その細部をきりすてて圧縮します。
・抽象化しすぎないことが大切です。
・書きだす付箋の枚数は約50枚を推奨します。枚数はなるべく多い方がよいですが、多すぎると後の処理に時間がかかり、少なすぎると実施しても意味がないので、まずは、50枚ぐらいがよいと経験上いえます。
・「発想をうながすKJ法」の第一場面である、取材(探検)から記録をつけるまでの一連の作業を「ラベルづくり」とよぶことにします。 


最後にもう一度、「ラベルづくり」の方法(ラベル法)を整理すると次のようになります。〔インプット→プロセシング→アウトプット〕の過程になっています。

取材する → 情報を選択する → 単文につづる


文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論社、1967年6月26日


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ネパール王国探検記―日本人世界の屋根を行く (1957年) (カッパ・ブックス)

ネパール王国探検記 (講談社文庫)

フィールドワークの記録をいかに書くか、『ネパール王国探検記』はそれを知るための原点となる非常に重要な本です。

1953年、ヒマラヤの巨峰マナスル登山隊の科学班の一員であった川喜田二郎は、ネパール王国に約半年間にわたって滞在し、ヒマラヤ山麓を踏査しました。本書はそのときの学術探検記です。おもに文化人類学的視点から当時のネパールの様子を詳細に記録しています。

川喜田が参加したのはマナスル第一次登山隊、この隊は、13名からなる登山班のほかに2名からなる科学班がつくられ、川喜田はこの科学班のメンバーでした。


ネパールの首府カトマンズはロマンチックな町だった。まず驚かされるのは、お寺の多いこと。まるでお寺で埋まっているかと思うばかりだ。見慣れないヒンズー教のもののほかに、日本の寺院建築から受ける印象と通じる木造のものが少なくない。

カトマンズを発って5日目のことだった。私たちのコースは、海抜1300メートル以上もある「ネパール谷」の盆地から、いったんは海抜2000メートル以上のカカニ丘を越え、それから一挙に亜熱帯の谷間へくだっていたのである。

われわれの歩んできた道、それはカトマンズとポカラとを結んで東西に走る、いわばネパールの東海道だ。

ヒンズー教の人生観が支配しているらしい亜熱帯では、同時にカースト制度の社会ができあがっているらしい。カースト制度というのは、インドの社会を支配する有名な階級制度である。それぞれの階級をなすカーストは、ほかのカーストとは絶対結婚しないといわれる。上級のカーストの者はとりわけ下級のカーストの者を不浄扱いし、ばあいによっては、体に触れることも厳禁する。各カーストには、それぞれ職分というものがあり、ほかの職業を自由にえらぶことができない。

カリ・ガンダキ。この大河は、はるかなチベット高原に源を発し、やがて、世界屈指の2巨峰 -ドーラギリとアンナプルナ- の間で大ヒマラヤを真っ二つに断ち割り、氷河の水をあつめつつさらに南へ、亜熱帯の世界へと休みない旅を続けている。

カリ・ガンダキ上流に位置するトゥクチェ。ここでくらすタカリー族の富裕階級は、高等教育を受けさせるために、自分の子弟ををインドの大学に送っていて、私が訪れた当時にはすでに、パナレス大学を卒業したマスター・オブ・アーツが一人生まれていた。

トゥクチェを過ぎると、峡谷はしだいに打ちひらけていく。いつのまにか私たちはすっかり様子のちがった世界に来ていたのだ。それは高原と砂漠の国である。たった数日行程のうちに、なんという変わりようだったろう。ここはチベット人の世界である。

チベット人の世界にふみこんでから、いちばん目につくもののひとつはおびただしいチョルテン(仏舎利塔)である。

チベット人がくらすカルチェ村にすみこんで。いたるところに牧場があった。耕作地がおしまいになっているところよりずっと上の方まで。

死体を粗末にするチベット人は、死体の霊魂のゆくえについては、どうやら非常に関心を抱いているらしい。この村では、人が死ぬとラマは彼の霊の死後の運命を占うのである。

愛することも厳しく、憎むことも徹底している。喜びにつけ悲しみにつけ、チベットの空のように鮮烈で深い。

純粋に遊牧的な生活をするチベット人にくらべて、半農半牧で定住生活をする農耕チベット人のほうに一妻多夫の割合が多いのは、定住生活のために財産をたくわえる見込みが多いためである。そのため、家産を分割すると不利になる事態が、いっそう頻繁に起こるからであろう。

熱帯の悪疫の流行する風土が教えた、衛生学的な経験の知恵と、それとむすびついて発展した心理的な物差しが、カースト社会の形成にたいして、ひとつの必要条件を与えてはいなであろうか。

私はまず、ノートに書き付けた記録を、片っ端から一枚ずつのカードに分解して書き写してゆく。カードの上端に、内容を一行で簡潔にあらわしたキャッチ・フレーズを書きこむ。

カードをバラバラ見ながら、思いつくままに、さらに小分けの項目を紙きれにひとつずつ書く。それから、そのメモを書きつけた紙きれを、机の上いっぱいに並べて、ああでもない、こうでもない、と思いながら順序だてる。それがすむと、それにしたがって、原稿を書き下ろすための第何章第何節というプログラムをつくる。そのプログラムどおりにカードを並べる。カードをくくりながら原稿書きにかかる。

人間というものは、表現してみなければ知識が身につかないものである。

ヒマラヤに住む人びとの映像がだんだんはっきりした形をとってきた。

紀行の形を借りて説いたフィールドワークの方法論への執着は、ついにKJ法となり、『発想法』『続・発想法』という諸著作へと展開してきたのである。


本書は、今から61年前におこなわれたネパール王国のフィールドワークのようすを紀行として記録するとともに、最終章では、ヒンズー文化・チベット文化・漢文化について、比較しながらそれぞれを考察をしています。

本書には、体験記録と方法論の二重構造が存在します。ひとつは、当時のネパール王国を知る貴重な記録であり、もうひとつはフィールドワーク方法論です。

フィールドワークとKJ法、情報処理の仕方についてまなぶうえで、本書は大いに参考になります。


定性的データを処理する方法である「KJ法」の原典です。今回は、その中核である第Ⅳ章「狭義のKJ法Ⅰランド」について解説します。

KJ法とは「データをして語らしめる」方法であり、具体的には、ブレーンストーミングやフィールドワークでえられた定性的データ(数量化できないデータ)を図解化して処理していく技術です。

これは、既存の仮説を確認したり、すでにできあがっている体系を学習したりするための方法ではなく、その逆の、あらたに仮説を発想したり、新規に体系を構築したりするための方法です。


以下に要点を整理します。
 
KJ法の手順は大局的にはつぎの通りです。

 《取材》→《KJ法1ランド

取材とは、フィールドワーク、記録類からの抜粋、討論、その他によりデータを取得することです。

KJ法1ラウンドの手順は以下の通りです。

 《ラベルづくり
   ↓
 《グループ編成》(ラベル拡げ→ラベル集め→表札づくり)
   ↓
 《図解化》(空間配置→図解化)
   ↓
 《叙述化》(文章化または口頭発表)

・ラベルづくり
 取材によって得られたデータをラベルに記入します。1枚1項目の原則にたって、1枚のラベルがひとつの「志」をもつように書きます。

・グループ編成
「ラベル拡げ」:データ化したラベルを自分の前に縦横にならべます。
「ラベル集め」:拡げられたラベルをすべて読み、「志」が似ていると感じられるラベルを集めてセットにします。セットにならない「一匹狼」がのこってもよいです。
「表札づくり」:セットになったラベルの内容を要約し、あたらしいラベルに「表札」として記入して、セットの上にのせクリップでとめます。

 グループ編成は、ラベルの束が数束以内、最大10束以内になるまでおこないます。

・図解化
「空間配置」:模造紙をひろげ、ラベルの束をすわりのよい位置に空間的に配置します。
「図解化」:
 模造紙にラベルを貼り付け、各グループごとに島どりをし、表札を転記、関係記号を記入します。
 各島に、「シンボルマーク」を記入します。「シンボルマーク」とはその島が情念的に訴えかける意味内容をズバリと表現したものです。
 図解の表題と註記を記入します。註記は、(1)とき、(2)ところ、(3)出所、(4)作製者、の順に記します。

・叙述化
 図解の内容をよく噛みしめて味わい、内容をストーリー化します。


以上をふまえ今回は、KJ法の上記の手順を、情報処理(インプットプロセシングアウトプット)の観点からあらためてとらえなおしてみます。

まず取材は、見たり聞いたりして情報を取り入れることでありインプットに相当します。

「KJ法1ラウンド」のうち、「ラベルづくり→グループ編成→図解化」は、定性的データをもとにしてイメージを形成していくプロセスであり、プロセシングに相当します。「ラベルづくり→グループ編成→図解化」の手順を「イメージ化」とよぶこともできます。

叙述化(文章化または口頭発表)は、メッセージを相手につたえることであり、外部にむかって情報をアウトプットすることです。叙述化は「言語化」とよぶこともできます。

したがって、情報処理の観点からKJ法をとらえなおすと以下のように整理できます。

 1.インプット:取材(観察・聞き取りなど)
 2.プロセシング:イメージ化
 3.アウトプット:言語化(叙述化)

取材については、 観察や聞き取りをあらたにおこなうことが基本ですが、過去に観察したこと、過去に聞き取ったこと、心のなかにすでにインプットされている情報を活用してもよいです。過去に見聞きしたことは記憶として心の中にすでに蓄積されています。そのためにはブレーンストーミングをおこない、過去の情報を想起します。通常は、まずブレーンストーミングをして記憶を想起し、そのつぎに取材にでかけて、あらたな観察や聞き取りをした方が効果的です。

KJ法で図解をつくっていくプロセスはイメージをつくっていくプロセスにほかならず、イメージをえがくことは情報処理の基本です。

KJ法によるイメージ化の特色の第1は、似ているデータをあつめるところにあります。ここでは類似性の原理をつかっていて、似ている情報はそもそも自然にあつまってくるのです。KJ法は類推の技術化といってもよいです。

第2の特色は、複数のラベルの内容を「表札」に統合・要約するときにおこなう圧縮表現です。この圧縮表現は、空間を利用した情報処理の次元を高め(情報処理の次元を2次元から3次元に上げ)、情報処理を加速しその効率を一気に高めます

第3の特色は、イメージ(図解)の中に言語がうめこまれていることです。このために、アウトプットの言語化がとても効率的にやりやすくなります。

このように、KJ法を、現代の情報処理の観点からとらえなおすことは重要なことであり、これにより全体の見通しがとてもよくなります。 


文献:川喜田二郎著『KJ法 -渾沌をして語らしめる-』中央公論社、1986年11月20日


本書は、「移動大学」という特殊な挑戦を通して、フィールドワークやチームワーク、さらに文明の改善についてのべています。

「移動大学」とは、テントでのキャンプ生活をしながら、フィールドワークと「KJ法」にとりくむ2週間のセッションです。わたしは2回参加しました。

「移動大学」の特色は、そのユニークなキャンパス編成にあります。

まず、6人があつまって1チームをつくります。つぎに、チームが6つあつまって1ユニットをつくります。1ユニットは36人になります。そして、ユニットが3つあつまって全キャンパスになり、その定員は108人になります。

このようにして、個人レベル小集団レベルシステムレベルという3つのレベルがキャンパス編成のなかにおりこまれています。

「移動大学」はどのような経緯ではじまったのでしょうか。要点はつぎのとおりです。

1968~69年、大学紛争が全国的に荒れ狂った。この問題にとりくんだ結果、これは大学問題というよりももっと根のふかい文明の体質の問題であることがわかり、それを根本的に解決しなければならないということになる。その問題とは、環境公害・精神公害・組織公害の3公害である。

文明の体質改善という問題に最も役立つような事業は何かという問いから「移動大学」という構想がうまれた。「移動大学」は、文明への根本的反省からスタートしたのである。そのキャッチフレーズは「参画社会を創れ」である。

2週間のセッションでは、フィールドワークと「KJ法」にとりくみます。「KJ法」とは、移動大学創始者の川喜田二郎が考案した総合的な問題解決手法です。

問題の現場に実際に行ってみることは重要なことである。フィールドワークは「探検の5原則」に基づいておこなう。

1)テーマをめぐって360度の角度から取材せよ
2)飛び石伝いに取材せよ
3)ハプニングを逸するな
4)なんだか気にかかることを
5)定性的に取材せよ

「探検の5原則」に基づき、「点メモ」→「花火日報」→「データカード」→「データバンク」といった技術をつかって、フィールドワークからデータの共同利用、チームワークを実践し、あつまったデータは「KJ法」でくみたて、問題解決に取り組む。

「移動大学」の実践から、川喜田はつぎのことを協調しています。

「移動大学」は、問題解決にとりくむひとつの広場であり、この広場の中で、いきいきとした人間らしさ、春暖のもえる姿をまのあたりにした。

現代社会では、「個人レベル」と「システムレベル」はあるのだが、生身の個性的な人間がヤリトリする「小集団レベル」が消滅している。今日、「小集団レベル」が生かされる広場が求められている。「移動大学」のように、ハードウェア・ソフトウェア・研修が三位一体的に活用されたとき、広場は立派に広場の用をなす。

こうして、仕組みさえきちんとつくれば、ひとつの「小集団」が一体になって問題を解決し、創造性を生みだすことは可能であるとかんがえているわけです。「小集団」がつくりだず場が「ひろば」です。

ここでは、その「ひろば」自体が、ひとつの場として、まるでひとつの生命であるかのように活動し、創造性を発揮し、創造をしていくのです。これは、創造という目的のために、創造のためのひろばをまずはつくってみようということではありません。その場それ自体に創造性が生じるのです。

本書の書名が「創造のひろば」ではなく、「ひろばの創造」となっている点に注目しなければなりません。


文献:川喜田二郎著『ひろばの創造 -移動大学の実験-』(中公新書)中央公論社、1977年5月25日
 

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創造性の本質について論じた本です。著者は、創造について、保守との対比、問題解決(ひと仕事)、伝統体(小集団や組織)、実践、世界内的な姿勢、文明の原理などの観点から総合的に解説しています。(本書は、川喜田二郎著『創造と伝統』(1993年)のなかから「I 創造性のサイエンス」を新書化したものです)。



1)創造と保守とが循環する
創造は保守と対比できる概念です。保守とは現状を維持するということですが、それに対して創造とは現状を打破し、新しい状態に変えていくことです。

これら両者は相互補完的に循環する関係にあります。創造はかならずどこかで保守に結びつき循環するものであり、保守に循環しなければ創造とはいえません。また、現状打破とは破壊のことではありません。現状打破は循環に結びつきますが、破壊には循環がありません。保守とも創造とも結びつかない方向に向かったのが破壊です。

循環には半径があり、大きな創造は大きな半径をもち、長い時間をかけて保守にむすびつき、社会の大きな循環を生みだします。

2)創造性とは問題解決能力のことである
創造性とは、ひと仕事をやってのける能力のことです。いいかえれば問題解決の能力のことです。ここでは総合という能力が要求されます。たとえば、現代の大問題である環境問題とか世界平和にとりくむためには総合的な問題解決能力が必須です。つまり創造性が必要です。

3)実践により矛盾を解消する
創造的行為の三カ条は、「自発性」「モデルのなさ」「切実性」です。これらはたがいに矛盾するようですが、実践によってこれらの矛盾対立は解消されます。実践のない抽象論では解消できず、実践を離れての創造はありえません。実践的行為のなかで矛盾を解消するのが創造です。

4)世界内的に生きる
自分を世界の外において、外から世界をみて論評しているだけで何も行動しないというのではなく、世界の渾沌の中に自分おいて、問題解決の行為を実践するのが創造です。

5)創造性は個人をこえる
創造的行為にあたっては個人と組織との間には壁はありません。創造性は個人をこえます。個人が創造性を発揮するだけでなく、集団が集団として創造性を発揮した例は数多くあります。創造的なグループは存在するのです。

そのようなグループは創造的な伝統を形成することができ、そのような伝統のあるグループは「伝統体」とよぶことができます。

6)渾沌→矛盾葛藤→本然
わたしたちは経験したことのない難問にぶつかることがあります。そのとき最初に来るのは渾沌です。

そして矛盾葛藤が生じます。

しかし、その矛盾葛藤を克服し、問題を解決しなければなりません。その過程が創造です。問題を解決した状態を「本然」(ほんねん)といいます。渾沌から、矛盾葛藤を克服し、本然にいたるのが創造です。


以上のように、渾沌を出発点として、総合的な問題解決の実践により矛盾葛藤を克服して、本然(ほんねん)にいたることが創造であるわけです。そして創造は保守とむすびついて社会に循環をもたらします。

わたしたちは、断片的な作業ではなく、ひと仕事をやってのけなければなりません。また、研究室や書斎・オフィスにいるだけでは創造はできず、フィールドワークやアクションリサーチの具体的な実践が必要になってきます。

さらに注目すべきは、著者は、デカルトの物心二元論のアトミズムを否定しています。デカルトにはじまる機械文明・物質文明のゆきづまりを明確に指摘、創造の原理によるあららしい「没我の文明」を提唱しているのです。 本書は、デカルト路線を体系的に否定した最初の本です。

本書の初版、川喜田二郎著『創造と伝統』(祥伝社、1993年)が出版されたとき、哲学者の梅原猛さんは書評のなかでつぎのように記述しています。
「川喜田さんに先を越された感じがする」

その後、梅原さんもデカルト路線を明確に否定したあらたな文明論を展開することになります。

3・11をへて、川喜田・梅原らが提唱するように、文明の原理を根本的に転換する必要があると感じる日本人は増えてきているのではないでしょうか。


▼ 文献
川喜田二郎著『創造性とは何か』(祥伝社新書)祥伝社、2010年9月

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「野外科学」とは現場の科学のことであり、現場でいかに情報収集をして、どのようにそれらをまとめて発想していくかを論じています。
第I章では、「野外科学」の概念について解説しています。

「野外科学」の姿勢・方法は未解決の課題を追求する探検であり、未開拓の空白領域をうめていく行為です。それはあたかも、どんな魚が釣れるかしらずに出かけてゆく魚釣りのようなものです。既存の仮説を検証すればよいというのではなく、あらたに仮説を発想したり、アイデアをうみだすことをめざします。

第 II 章では、野外調査法と記録の仕方についてのべています。具体的にはつぎのようにします。

(1)観察とインターヴューによって現場で情報収集(取材)をし、その結果を、現場ノート(フィールドノート)に記録します。現場でとったノートや日記は非常に重要です。真の権威は現場のデータにあります。

(2)データのまとめのために「データカード」をつかいます。情報のひとかたまりごとに、1枚ずつのカードにしていきます。「データカード」の実例(77ページ)は参考になります。

(3)調査結果の組み立て、文章化とアイデアや仮説の発想のために、「データカード」を1枚ずつ見ながら、要点を「紙切れ」に書きだします。それらの「紙切れ」を平面的にひろげ、もっともすわりのよい位置に空間配置をします。この空間配置を見ながら文章化をすすめます。このとき、「データカード」をもういちど見直しながらその内容をおりこんでいきます。あらたにおもいついたアイデアや仮説も書きとめます。

第Ⅲ章と第Ⅳ章は、野外科学の実践事例としてネパール探検とチベット探検のことが具体的に記載されています。

本書はふるい本ですが、原理的には今でも大変有用であり、本書でのべられている方法を現代の情報技術をつかっておこなえばよいのです。

上記(1)では、紙のノートをつかってもよいですが、タブレットやパソコンが現代では有用でしょう。

上記(2)のためのはブログが有用です。情報のひとかたまり(1ユニット)ごとに記事を書き、その記事を要約した見出しを各記事の上部につけていきます。ブログ1件が1枚の「データカード」に相当します。

ここでは、複数の内容を1つの記事におしこまないことが重要です。内容が2つある場合は、記事も2つに分けます。1記事1項目主義です。このようにすると、記事の要点を適切にフレーズにして見出しをつけることができます。

上記(3)では、各ブログの見出しをポストイットやラベルに書きだし、これを空間配置し、それを見ながらワープロをつかって文章化します。そのとき、ブログの記事(本文)を参照しながら、その記事をおりこんでいきます。

ポストイットやラベルを空間配置をするときに、既存の分類項目にとらわれないようにすると、あたらしいアイデアや仮説がうまれやすいです。既存の分類項目にとらわれない空間配置からの方が発想がでてきます。

なお、空間配置や図解化のために役立つソフトとしては OmniGraffle があり、これをつかえばポストイットやラベルはいりません。

このような行為をくりかえすことにより、ひとつの課題(問題解決)に首尾一貫してとりくむことができるようになります。

文献:川喜田二郎著『野外科学の方法』(中公新書)中央公論社、1973年8月25日

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川喜田二郎著『発想法』は本ブログの原典であり、私の仕事の原点です。私は、学生時代にこの本を読みとても大きな感銘をうけました。

『発想法』はふるい本ですがいま読んでも啓発されることが多く、何といっても情報処理と問題解決の元祖であり、温故知新といった意味でも重要な書です。

『発想法』には、技術(技法)と考え方(思想)の2つの側面があります。第2章「野外科学の方法と条件」と第3章「発想をうながすKJ法」はおもに技術について説明しています。それに対して、第1章「野外科学 -現場の科学-」、第4章「創造体験と自己変革」、第5章「KJ法の応用とその効果」、第6章「むすび」はおもに考え方(思想)についてのべています。

まずは、 第2章「野外科学の方法と条件」と第3章「発想をうながすKJ法」にとりくんでみるのがよいでしょう。

現代の情報化の観点からこれらをとらえなおすと、多種多様な情報をいかにまとめるかということについてのべています。つまり情報処理と文章化のやり方がテーマです。第2章はどちらかというと あらい情報処理、第3章はよりすすんだ情報処理のすすめ方についてのべていて、中核となるのは第3章の「KJ法」です。

これらのポイントをひとことでいうと空間をつかうことです。情報処理はこれにつきます。アタマの中で時系列にかんがえていたり、ワープロをつかって時系列に入力していたりするのは、情報が前から後へながれているだけで一次元です。

そこで空間をつかうことにより、情報処理の場を一次元からから二次元へ、さらに三次元へと高めていくことができます。これにより、直列ではない並列的な情報処理ができるようになります。

手持ちの情報をまずは、ポストイットやラベルやカードに書き出し、平面的に配置してみてください。これだけでも情報処理の効率は格段にによくなり、文章化がすすみます。最初の一歩をバカにしてはいけません。空間をつかうことは誰にでもできることですが一方で情報処理の究極でもあります。


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発想法の原典 〜川喜田二郎著『発想法』〜 
 
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千早耿一郎著『おれはろくろのまわるまま - 評伝 川喜田半泥子 -』(日本経済新聞社、1988年6月)を読みました。

川喜田半泥子は、KJ法創始者の川喜田二郎の父であり、本書は、川喜田半泥子の本格的な伝記です。半泥子は、銀行家にして鬼才の陶芸家、複線的な人生を生涯つらぬき通しました。


半泥子は、自然の素材に対して忠実であることを美の特徴であるとした。半泥子の茶碗には自然の姿がある。半泥子は、ほとんど茶碗に絵付けをしない。茶碗そのものに自然をうつした。わざとらしい人工の跡を見せない。これは、荘子の「無為自然」の思想に通じる。無為自然とは、人為をすてて自然のままに生きることである。文明人は、本来渾然として一体をなしている自然を、認識のために分解してしまうが、自然のまま無差別の世界に生きることにこそ本来の道がある。

半泥子の子、川喜田二郎はKJ法を創始しました。その実践の究極は「本然」に到達することです。本然とは、もともとそうであること、自然のままであることです。わたしたちはいずれ、もともとの姿、本然にたちかえることになります。KJ法でとく「データをして語らしめる」とはそのための筋道であり、こうして、渾沌それ自体をして語らしめることができるのです。

データをして語らしめるKJ法の本質は、自然の素材をして語らしめる半泥子の方法に通じています。川喜田二郎は、著者・千早耿一郎に、「しらずしらず父親の影響を受けたかもしれませんね」とかたったそうです。


▼ 参考文献
千早耿一郎著『おれはろくろのまわるまま - 評伝 川喜田半泥子 -』日本経済新聞社、1988年 
おれはろくろのまわるまま―評伝・川喜田半泥子


川喜田二郎著『発想法』(中公新書、1967.06.26 発行)は発想法の原典として重要です。この著書で中核となるのは第三章の「発想をうながすKJ法」です。

人間がおこなう(人間主体の)情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点から現代的にこれをとらえなおすと、発想法とはよくできたアウトプットをだす方法です。そのために、フィールドワーク(外部探検)とKJ法が有用であり、フィールドワークにより内面に情報がとりこまれ(インプット)、KJ法により文章が書けます(アウトプット)。

KJ法では、「類似性の原理」をつかって図解をつくって文章化をすすめます。情報には、似ている情報があつまるという性質がそもそもあります。類は友をよぶといった感じです。類似(相似)に気がつくことが重要です。

なお、フィールドワーク(外部探検)のかわりに、過去にインプットされた情報をつかう「ブレーンストーミング」(内部探検)をおこなってもよいです。 


▼ 参考文献
川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論社、1967年6月26日 
同改版、2017年 

 
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