発想法 - 情報処理と問題解決 -

情報処理・学習・旅行・取材・立体視・環境保全・防災減災・問題解決などの方法をとりあげます

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川喜田二郎著『創造と伝統』は、文明学的な観点から、創造性開発の必要性とその方法について論じています。



I 創造性のサイエンス
 はじめに
 一、創造的行為の本質
 二、創造的行為の内面世界
 三、創造的行為の全体像
 四、「伝統体」と創造愛

II 文明の鏡を省みる
 一、悲しき文明五〇〇〇年
 二、コミュニティから階級社会へ
 三、日本社会の長所と短所

III 西欧近代型文明の行き詰まり
 一、デカルト病と、その錯覚
 二、物質文明迷妄への溺れ

IV KJ法とその使命
 一、KJ法を含む野外科学
 二、取材と選択のノウハウ
 三、KJ法と人間革命

V 創造的参画社会へ
 一、民族問題と良縁・逆縁
 二、情報化と民主化の問題
 三、参画的民主主義へ
 四、参画的民主主義の文化

結び 没我の文明を目指せ


本書の第I章では「創造的行為とは何か」についてのべています。第Ⅱ章と第Ⅲ章では「文明の問題点」を指摘しています。第Ⅳ章では「問題解決の具体的方法」を解説しています。第Ⅴ章と結びでは「あたらしい社会と文明の創造」についてのべています。


■ 創造的行為とは何か
「創造とは問題解決なり」であり、「創造とは問題解決の能力である」ということである。

創造は必ずどこかで保守に循環するもので、保守に循環しなければ創造とは言えない

「渾沌 → 主客分離と矛盾葛藤 → 本然(ほんねん)」が創造における問題解決の実際の過程である。これは、「初めに我ありき」のデカルトの考えとはまったく異なっている。

創造的行為の達成によって、創造が行われた場への愛と連帯との循環である「創造愛」がうまれてくる。これが累積していくと、そこに「伝統体」が生じる。「伝統体」とは、創造の伝統をもった組織のことである。


■ 文明の問題点
文化は、「素朴文化 → 亜文明あるいは重層文化 → 文明」という三段階をへて文明に発展した。

文明化により、権力による支配、階級社会、人間不信、心の空虚、個人主義、大宗教などが生まれた。

デカルトの考えを根拠とする、西欧型物質文明あるいは機械文明は行き詰まってきた。


■ 問題解決の具体的方法
現代文明の問題点を改善するための具体的方法としてKJ法を考え出した。

KJ法は、現場の情報をボトムアップする手段である。

現場での取材とその記録が重要である。


■ あたらしい社会と文明の創造
今、世界中で秩序の原理が大きく転換しようとしている。秩序の原理が権力による画一化と管理によって働いてきたのであるが、今や情報により多様性の調和という方向に変わってきた。

多様性の調和という秩序を生み出すことは、総合という能力と結びついて初めて考えられる。

人間らしい創造的行為を積みあげていくことで「伝統体」を創成することになる。

創造的行為は、個人、集団、組織、そして民族、国家、それぞれの段階での、環境をふくむ「場」への没入、つまり「没我」によってなされるのである。

「没我の文明」として、既成の文明に対置し、本物の民主主義を創り出すことを日本から始めようではないか。




1. 情報処理の場のモデル

ポイントは、情報処理の概念を上記の理論にくわえ、情報処理を中核にしてイメージをえがいてみるところにあります。

情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)をくわえることにより、情報処理をおこなう主体、その主体をとりまく環境、主体と環境の全体からなる場を統合して、つぎのイメージえがくことができます(図1)。そして、情報処理の具体的な技法のひとつとしてKJ法をとらえなおせばよいのです。

140822 場と主体
図1 主体と環境が情報処理の場をつくる


図1のモデルにおいて、主体は、個人であっても組織であっても民族であってもよいです。人類全体を主体とみることもできます。環境は、主体をとりまく周囲の領域です。場は、主体と環境の全体であり、それは生活空間であっても、地域であっても、国であってもかまいません。地球全体(全球)を、情報処理のひとつの場としてとらえることも可能です。

図1のモデルでは、主体は、環境から情報をとりいれ(インプットし)、情報を処理し(プロセシング)、その結果を環境(主体の外部)へ放出(アウトプット)します。

このような、主体と環境とからなる場には、情報処理をとおして、情報の流れがたえず生じ、情報の循環がおこります。



2. 問題解決(創造的行為)により場が変容する

創造とは問題解決の行為のことであり、問題解決は情報処理の累積によって可能になります。よくできた情報処理を累積すると、情報の流れはよくなり、情報の循環がおこり、問題が解決されます。これは、ひと仕事をやってのけることでもあります。

そして、図1のモデル(仮説)を採用するならば、この過程において、主体だけが一方的に変容することはありえず、主体がかわるときには環境も変わります。つまり、情報処理の累積によって主体と環境はともに変容するのであり、場の全体が成長します。



3. 没我

情報処理は、現場のデータ(事実)を処理することが基本であり、事実をとらえることはとても重要なことです。間接情報ばかりをあつかっていたり、固定観念や先入観にとらわれていたりしてはいけません。

このときに、おのれを空しくする、没我の姿勢がもとめられます。場に没入してこそよくできた情報処理はすすみます。
 


4. 伝統体が創造される

こうして、情報処理の累積により、主体と環境とからなるひとつの場が成長していくと、そこには創造の伝統が生じます。伝統を、創造の姿勢としてとらえなおすことが大切です。そして、その場は「伝統体」になっていきます。それは創造的な伝統をもつ場ということです。

「伝統体」は個人でも組織でも民族であってもかまいません。あるいは地球全体(全球)が「伝統体」であってもよいのです。



5. 渾沌から伝統体までの三段階

すべてのはじまりは渾沌です(図2A)。 これは、すべてが渾然と一体になった未分化な状態のことです。次に、主体と環境の分化がおこります(図2B)。そして、図1に見られたように情報処理が生じ、 情報の流れ・循環がおこります。情報処理の累積は問題解決になり、創造の伝統が生じ、ひとつの場はひとつの「伝統体」になります(図2C)。
 


140822 創造の三段階

図2 渾沌から、主体と環境の分化をへて、伝統体の形成へ
A:創造のはじまりは渾沌である。
B:主体と環境の分化がおこる。情報処理が生じ、情報の流れ・循環がおこる。
C:情報処理の累積は問題解決になり、創造の伝統が生じ、ひとつの場はひとつの伝統体になる。


A→B→Cは、「渾沌 → 主客分離と矛盾葛藤の克服 → 本然(ほんねん)」という創造の過程でもあります。客体とは環境といいかえてもよいです。

これは、デカルト流の、自我を出発点として我を拡大するやり方とはまったくちがう過程です。我を拡大するやり方では環境との矛盾葛藤が大きくなり、最後には崩壊してしまいます。



6. 情報処理能力の開発が第一級の課題である

『創造と伝統』は大著であり、川喜田二郎の理論はとても難解ですが、図1と図2のモデルをつかって全体像をイメージすることにより、創造、問題解決、デカルトとのちがい、物質・機械文明の問題点、伝統体などを総合的に理解することができます。

今日、人類は、インターネットをつかって巨大な情報処理をする存在になりました。そして、地球はひとつの巨大な情報場になりました。

上記の図1のモデルでいえば、地球全体(全球)がひとつの巨大な場です。その場のなかで、人類は主体となって情報処理をおこなっているのです。

そして、図2のモデルを採用するならば、こらからの人類には、よくできた情報処理を累積して、諸問題を解決し、創造の伝統を生みだすことがもとめられます。

したがって、わたしたちが情報処理能力を開発することはすべての基本であり、第一級の課題であるということができます。



▼ 文献
川喜田二郎著『創造と伝統』祥伝社、1993年10月
創造と伝統―人間の深奥と民主主義の根元を探る

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140804b

図 仮説発想の野外科学と仮説検証の実験科学


川喜田二郎著『発想法』の第I章では「野外科学 -現場の科学-」についてのべています。

この野外科学とは、地理学・地質学・生態学・人類学などの野外(フィールド)を調査・研究する科学にとどまらず、仮説を発想する科学として方法論的に位置づけられています。仮説を発想することは発想法の本質です。

野外科学によりいったん仮説が発想されると、今度は、実験科学の過程によって仮説の検証をしていきます

つまり、野外科学は仮説を発想するまでの過程、実験科学はそのごの仮説を検証する過程であり、両者がセットになってバランスのよい総合的なとりくみになります(図)。

何かをしようとするとき、意識するしないかかわらず、既存の仮説を採用したり、固定観念にとらわれてしまっていることがよくあります。これは実験科学だけをやっているということになります。これですと、やっぱりそうだったかと確認はできても、あらたな発見が生まれにくいです。

そこで、野外科学の精神にしたがって仮説をみずから立ててみることをおすすめします。そのためにはつぎのようにします。

 1.課題を明確にする
 2.情報収集をし、似ている情報をあつめて整理する
 3.「・・・ではないだろうか」とかんがえる


仮説を生みだす野外科学は実験科学や行動の母体にもなります。 

自分がたてた仮説がただしいかどうかはあとで検証すればよいのです。仮説をたてると推論ができたり想像もふくらみます。仮説を検証する方法は、それぞれの専門分野でよく発達している場合が多いので、それを積極的につかってもよいです。


▼ 文献
川喜田二郎著『発想法』(中公新書)1967年6月26日

フィールドワークのデータにもとづいて「騎馬民族倭人連合南方渡来説」を発想し、ヒマラヤ・チベットと日本とのつながりについて論じた本です。

目次はつぎのとおりです。

1 珍しい自然現象
2 生物の垂直・水平分布とその人間環境化
3 諸生業パターンが累積・融合した地域
4 ネパール盆地の都市国家
5 相似る自然・文化地理区の特性をいかした相互協力
6 文化の垂直分布とその原因
7 ヒマラヤ・チベットの人間関係諸相
8 素朴な民族の生態
9 チベット文明の生態系
10 文明の境界地域の持つ特異性と活動性
11 ネパールの宗教文化はユーラシアに広くつながる
12 ヒマラヤ・チベットと日本をつなぐ文化史
13 アムールランド文化の日本への影響
14 生命力の思想 - 霊の力を畏れる山地民 -
15 ヒマラヤが近代化に積極的・科学的に対応する道


方法論の観点からみて重要だとおもわれることをピックアップしてみます。

フィールドで得た材料から大いにイマジネーションを働かし、さまざまな仮説を導き出すことを重要視した方がよい。

人間が土地とつきあって生まれてきたものが文化なのである。

人間は在る物を見るのはたやすいが、そこに何が欠けているかを見ることはむずかしい。この欠けている物に気づくということが必要なのである。

物事の欠点ばかり見ずに長所も見ろ。

自然現象について考える際には、普段の状態だけで万事を類推するのでなく、カタストロフィーともいうべき異常事態を考慮した説をもう少し重要視してもよい。

森林一つでも、文化の背景でいかに捉え方が違うか。

これからの科学には、近視眼でメカニズムだけを解明するのでなく、複合的諸要因のかもしだす、息の長い判断をも行う道が、痛切に求められていくだろう。


著者は、「騎馬民族倭人連合南方渡来説」をとなえ、チベット・ヒマラヤと日本は意外にもつながっているとのべています。

「騎馬民族倭人連合南方渡来説」とは、西暦紀元前後、ユーラシア大陸北方に出現・膨張した騎馬民族が南下してチベットへ、さらにベンガル湾まで達し、その後、倭人と連合して東南アジアから海岸線を北上、日本まで到達したという説です。こうして、チベット・ヒマラヤは日本とつながっていて、文化的にも共通点・類似点が多いという仮説です。

本書には、ヒマラヤ・チベット・日本についてかなり専門的なことが書かれており、ヒマラヤやチベットの研究者以外にはわかりにくいとおもいますが、フィールドワークによってえられる現場のデータにもとづいて、自由奔放に仮説をたてることのおもしろさをおしてくれています


▼ 文献
川喜田二郎著『ヒマラヤ・チベット・日本』白水社、1988年12月

『素朴と文明』第三部では、現代は漂流していることを指摘し、文明の問題点をあきらかにしたうえで、その解決の鍵は「創造」と「参画」にあることをのべています。

第三部の目次はつぎのとおりです。

第三部 地図と針路
 1 文明の岐路
 2 カギは創造性と参画にある

第三部の要点を書きだしてみます。

現代は漂流しているのである。その現代が荒海を航海するには、まずもって地図を試作しなければならない。

文明はもともと素朴から生まれてきたものだ。それなのに、その文明は素朴を食い殺しつつあり、それによって文明自体が亡ぶ。そういう危惧が多分にあるということである。

私の意味する生態史的パターンでは、高度に洗練された精神文化や社会制度までそれに含めているのである。例えばアジアの前近代的文明においても、これらの文明を文明たらしめている中核には、ぶ厚い伝統をなして流れている「生きる姿勢」の伝統がある。これはまた「創造の姿勢」につながっているのだ。それは、特に高等宗教に象徴化されて現れてくる。

解決の鍵は「創造」にあると思う。

第一段階 渾沌。
第二段階 主客の分離と矛盾葛藤。
第三段階 本然(ほんねん)。
これはひとつの問題解決のプロセスなのであるが、それはまた私が強調してきた創造のプロセスでもある。

今日の最大の災厄は、自然と人間の間に断層が深まり、同時に伝統と近代化の間に断層の深まりつつあることなのである。これを乗りこえ、調和の道へと逆転させるしか活路はない。そうしてその鍵は「創造性」を踏まえた「参画」に存すると確信する。


以上を踏まえ、以下に、わたしの考察をくわえたいとおもいます。

1.生態系とは〔人間-文化-環境〕系のことである
著者は、文化の発展段階をとらえるために生態史的アプローチを採用しています。生態史の基盤となるのは生態系であり、それは、主体である人間と、人間をとりまく自然環境とからなっているシステムのことです(図1)。

140713 人間-文化-自然環境系

図1 人間-自然環境系


このシステムにおいて、人間と自然環境とは、やりとりをしながら相互に影響しあい、両者の相互作用のなかから文化(生活様式)を生みだします。この文化には、人間と自然環境とを媒介する役割が基本的にあり、文化は、自然環境と人間の境界領域に発達し、その結果、人間-文化-自然環境系が生まれます(図2)。

140713b 人間-文化-自然環境系

図2 人間-文化-自然環境系




2.文化には構造がある
この 人間-文化-自然環境系における文化をこまかくみていくと、文化には、技術的側面、産業的側面、制度的側面、精神的側面が存在し、これらが文化の構造をつくりあげます(図3)。

140713 文化の構造
図3 文化の構造


図3において、技術的な文化は自然環境に直接し、精神的な文化は人間に直接しています。自然環境にちかいほどハードな文化であり、人間にちかいほどソフトな文化ともいえます。

文化のそれぞれの側面が発達するにつれて、たとえばつぎのような専門家が生まれてきます。

 技術的側面:技術者など
 産業的側面:経営者など
 制度的側面:政治家など
 精神的側面:宗教者など



3.現代の文化は、グローバル社会をめざして発展している
著者が発想した「文化発展の三段階二コース」説とはつぎのとおりでした。

〔素朴文化〕→〔亜文明あるいは重層文化〕→〔前近代的文明→近代化〕


この説において、「亜文明」とはいいかえれば都市国家の時代のことであり、「前近代的文明」とは領土国家の時代のことです。したがってつぎのように整理することもできます。

〔素朴社会〕→〔都市国家の時代〕→〔領土国家の時代〕


そして、現在進行している「近代化」とはいいかえればグローバル化のことであり、領土国家の時代からグローバル社会の時代へと移行しつつある過程のことです。

〔素朴社会〕→〔都市国家〕→〔領土国家〕→〔グローバル社会〕


つまり現代は、領土国家の時代からグローバル社会の時代へ移行する過渡期にあたっているわけです。

なお、都市国家の時代から領土国家の時代へ移行したことにより都市が消滅したわけではなく、領土国家は都市を内包しています。それと同様に、グローバル社会に移行しても領土国家が消滅するということではなく、グローバル社会は領土国家を内包します。ただし国境は、今よりもはるかに弱い存在になります。

以上を総合すると、次の世界史モデルをイメージすることができます。

140716c 世界史モデル
図4 世界史モデル



4.文化は、ハードからソフトへむかって変革する
上記の発展段階(文化史)において、前の段階から次の段階へ移行するとき、大局的にみると、まず「技術革命」がおこり、つづいて産業の変革、そして社会制度の変革、精神文化の変革へとすすみます。つまり文化は、ハードからソフトへむかって順次変革していきます(図3)

たとえば、都市国家の時代から領土国家の時代に移行したときは、鉄器革命という技術革命からはじまり、産業の変革、社会制度の変革へとすすみ、最終的に、精神文化の変革により いわゆる高等宗教が出現・発達しました。

この「ハードからソフトへ文化は変革する」という仮説を採用した場合、グローバル社会へとむかう現代の変革(グローバル化)の道筋はどのように類推できるでしょうか。

それはまず工業化が先行しました。その後、いま現在は情報化がすすんでいて、情報技術がいちじるしく発達、つまり情報技術革命が伸展しています。それにともなって産業の変革・再編がおこっています。しかし、法整備などの社会制度の変革はそれにまだおいついておらず、これから急速に整備されていくものとかんがえられます。

そして、変革の最後にはあらたな精神文化の構築がおこると予想されます。グローバル社会の精神文化は、領土国家の時代の いわゆる高等宗教の応用で対応できるといったものではなく、人類がはじめて経験するグローバル文明に適応する、あたらしい精神文化がもとめられてくるでしょう



5.生きがいをもとめて - 創造と参画 -
あたらしい精神文化の構築において「創造」と「参画」が鍵になると著者はのべています。

グローバル化の重要な柱が高度情報化であることを踏まえると、創造とは、すぐれた情報処理ができるようになることであり、よくできたアウトプットがだせるようになることです。そのためには、人間は情報処理をする存在であるととらえなおし、人間そのものの情報処理能力を開発することがもとめられます。

また、参画とは社会に参画することであり、社会の役にたつこと、社会のニーズにこたえる存在になることです。具体的には、お金をもらうことを目的としないボランティア活動などがこれにあたります。

情報処理能力の開発とボランティア活動は、近年急速に人々のあいだにひろまりつつある現象です。

したがって、第一に、みずからの情報処理能力を高め、第二に、自分の得意分野で社会の役にたつことが重要であり、これらによって、生きがいも得られるということになります。そこには、解き放たれた ありのままの自分になりたいという願望がふくまれています。

このように、来たるグローバル社会では、精神文化としては生きがいがもとめられるようになり、「生きがいの文化」ともいえる文化が成立してくるでしょうこれは価値観の転換を意味します

領土国家の時代は、領土あるいは領域の拡大を目的にしていたので、そこでは、戦いに勝つ、勝つことを目的にする、生き残りをかけるといったことを基軸にした「戦いの文化」がありました。たとえば、国境紛争、経済戦争、受験戦争、自分との戦い、コンクールで勝つ、戦略が重要だ、成功体験・・・

しかし、来たるグローバル社会の文化は、領土国家の時代のそれとはちがい、原理が根本的にことなります。

情報処理能力を高めるためには、まず、自分の本当にすきな分野、心底興味のある分野の学習からはじめることが重要です。すると、すきな分野はおのずと得意分野になります。そして、その得意分野で社会の役にたつ、ニーズにこたえることをかんがえていくのがよいでしょう。


文献:川喜田二郎著『素朴と文明』(講談社学術文庫)講談社、1989年4月10日

本書第二部では、第一部で発想された仮説「 文化発展の三段階二コース」説を日本史のデータをつかって検証しています。

第二部の目次はつぎのとおりです。

第二部 日本誕生 - 生態史的考察 -
 序 総合的デッサンの試み
 1 北方からの道
 2 水界民のなぞ
 3 農業への道と日本
 4 倭人の日本渡来
 5 渡来倭人の東進北進
 6 騎馬民族倭人連合南方渡来説
 7 日本到来後の古墳人
 8 中国文明とは何か
 9 朝鮮半島の古代文化地図
 10 白村江の意味するもの
 11 日本の知識人は島国的
 12 水軍と騎馬軍との結合で中世へ
 13 重層文化の日本
 14 半熟に終わった日本文明

要点を書きだすとつぎのようになります。

旧石器時代の後期から少なくとも縄文前期ぐらいにかけては、圧倒的に北の文化が南下する流れが優勢だったのである。

一気に素朴から文明へと飛躍したのではなかった。その中間段階へと、白村江の敗戦を境に踏み切ったのである。その中間段階を、私は「重層文化」の段階と呼んだ。それは具体的には次のような平明な事柄である。すなわち、素朴な土着文化的伝統と、お隣の外来の中国文明との、折衷から融合へという道を選んだわけである。

日本の文化の発展段階は、聖徳太子から大化の改新を経て天武天皇に至るあたりを境にして、素朴文化の段階から重層文化の段階に移ったのである。

地縁=血縁的な素朴な日本の伝統社会のゆき方がある。他方では律令制と官僚群による中国から導入された法治主義がある。この両方のゆき方の並立からしだいにその融合に進んだとき、ここに封建制が出現したのである。

戦国期以来ようやく前近代的文明への文化変化を推し進めたきた。


「文化発展の三段階二コース」説によれば、日本は、次の発展段階をたどったことになります。

〔素朴文化〕→〔重層文化〕→〔前近代的文明 → 近代化〕

本書第二部では、日本史のデータをつかってこれを検証しています。具体的にはつぎのようになります。

 素朴文化:旧石器時代から白村江の敗戦のころまで
 重層文化:白村江の敗戦のころから戦国期まで
 前近代的文明:戦国期から江戸時代末期まで
 近代化:江戸時代末期から

上記のひとつの段階から次の段階へ移行するときには、「技術革命」がまずおこり、つづいて産業、そして社会の変革にいたり、最後には、人々の世界観・価値観が変容し、あらたな精神文化が確立するとしています。つまり、ハードからソフトへと変革が順次進行します。

ある仮説にもとづいてさまざまなデータを検証し、その結果をアウトプットするということは、その課題に関する多種多量な情報を体系化することでもあります。著者は、本書第二部で、「文化発展」という仮説から日本の歴史を再体系化しました。検証と体系化の実例として参考になります。


文献:川喜田二郎著『素朴と文明』(講談社学術文庫)講談社、1989年4月10日

人類の文明史の本質を総合的にとらえることをおしえてくれる好著です。

本書前半の目次はつぎのとおりです。

問題の始まり
 1 文明をとらえる地図が必要だ
 2 仮説の発想も学問のうちなのだ

第一部 素朴と文明 - 文化発展の三段階二コース説 -
 1 重病にかかった現代の科学観
 2 文化には発展段階がある
 3 文化発展の三段階二コース説
 4 生態史的アプローチ
 5 文明も流転する大地の子供である
 6 パイオニア・フリンジ
 7 チベット文明への歩み
 8 大型組織化に伴う集団の変質
 9 管理社会化と人間疎外
 10 なぜ三段階二コースか
 11 文明の挑戦と素朴の応戦
 12 亜文明から文明へのドラマ
 13 重層文化から文明へのドラマ

本書前半の要点はつぎのとおりです。

世界像→世界観→価値観という一連の深い結びつきを指摘せざるを得ない。

仮説の発想も、仮説の証明と同じ重みで扱うべきである。仮説の発想も学問のうちなのだ。

「文化」とはほとんど人類の「生活様式」と同義語に近いのである。

分析的・定量的・法則追求的というアプローチも、科学的ということの一面ではある。しかし、総合的・定性的・個性把握的というアプローチも、もうひとつの、れっきとした科学的アプローチなのだ。そうして、この両アプローチを総合ないし併用する中にこそ、本当の「科学的」という道があるのである。

140709

図 文化発展の3段階2コース説

現存するアジアの前近代的文明のパターンには、中国文明・ヒンズー文明・イスラム文明・チベット文明、この四つしかない。ヨーロッパを含めても、西欧文明・南欧文明・東欧文明(ギリシア正教文明)が加わるだけであり、この三つは一括してヨーロッパ文明もしくはキリスト教文明として扱う立場も成立するかもしれない。

人間社会とその文化とを、さらにその環境をまで含めた、「生態系」として捉えることを重視したい。

創造というダイナミックな営為と相俟って、はじめてひとつの生態史的パターンは誕生してゆくのである。

素朴文化もしくは中間段階の文化から文明へと推移するには、〔技術革命→産業革命→社会革命→人間革命〕という大まかな変革を順次累積的に経験したということになる。


著者がいう「生態史的アプローチ」とは、そこでくらす人々と、彼らをとりまく自然環境とが相互にやりとりをしながら発展し歴史をつくってきた様子を解明する手法のことです。これは、環境決定論ではありません。

ややむずかしいですが、このアプローチはフィールドワークの方法としてとても重要です。

そこでくらす人々を主体、とりまく自然環境を単に環境とよぶことにすると、この方法は、主体と環境がつくる〔主体-環境系〕の発展・成長のダイナミズムをとらえる方法であるといえます。

また、著者がいう「亜文明」の段階とは、わかりやすくいえば都市国家の時代のことであり、「前近代的文明」とは領土国家の時代のことです。

素朴文化 → 都市国家の時代 → 領土国家の時代 → 近代化

ととらえるとわかりやすいです。

このように、文明あるいは人類の歴史のようなきわめて複雑な事象は、仮説をたて、それを図にあらわすことによって視覚的に理解することができます。このような模式図はモデルといってもよいです。これは、情報の要約・圧縮によってその本質をつかむという方法です


文献:川喜田二郎著『素朴と文明』(講談社学術文庫)講談社、1989年4月10日

 

本書は、ヒマラヤ山村でおこなった国際技術協力の経緯や方法についてのべています。

目次はつぎのとおりです。

序章 資源と人口の均衡
I章 開発の哲学
Ⅱ章 土地と人との対話的発展
Ⅲ章 ヒマラヤ・プロジェクトの実践
終章 海外協力はいかにあるべきか

方法論の観点から見て重要であるとかんがえられるポイントをピックアップしてみます。

「自然の一体性」を認識する。ここでいう自然は、その地域の人間をも含んだ自然である。自然の中から人間を抜き去った部分を「自然」と考えるのではない。人文科学と区別して自然科学という場合の「自然」ではない。

総合的把握と分析的把握、個性認識的方法と法則追求的方法を併用する。

1963年の夏から翌年の3月にかけ、私はネパールへ三度目の旅に出た。その時は、アンナプルナ山群の南斜面にあるシーカ村に7ヵ月滞在した。

まずシーカ谷の自然環境と農牧を中心に、村のいわゆるエコロジカルな調査をした。それを基盤にしつつ、次に社会組織や風習その他の文化面に調査の重点をうつした。こして生活の基盤と構造を踏まえた中から、小さな開発ヒントをいくつか抱いたのである。それから炉端談義式に村人たちの世論調査をやり、開発ヒントへの反応を調査したのだった。

技術協力の話題で村人たちにとってハッとする関心がもえあがると、今まで伝統的な人類学者のやり方では目立たぬオブザーバーでいたときにはとうてい気づかなかったような、村々の文化の、ある断面がわかってきたのである

夢こそ人々を動かしている重大要因であった。その夢がどんな夢であるかによってこの現実の姿は維持もされ変化もとげていく。まさに、夢こそ現実なのだ。

その地域のいっさいの個性的なポテンシャルを、ある開発テーマのもとに、創造的な営みへと統合し、活用すること。そのためには矛盾葛藤をも創意工夫で逆用すること。

いちばんむずかしいのは、真のニーズを掴むことです。技術的問題はどうにでもなりますよ

本書は、国際技術協力においては、現場のニーズがつかむことがもっとも重要であると説いており、このことは、現場での問題解決一般にも通じることです。

真のニーズをつかむためには、フィールドワーク(取材活動)と、おのれを空しくして現場を見る目がもとめられます。

そして、取材(情報収集)には2種類の方法があることを解説しています。

第一の方法は、 外からの目で静観的に対象を観察するやり方です。一般に、取材とかフィールドワークとかいう場合はこの方法をさします。

第二の方法は、仕事や事業をすすめながら、あるいは行動をしながら同時に取材もし調査もする方法です。特別な時間をとって取材や調査をおこなうのではなく、仕事と取材、行動と調査を一体的にとりおこなうやり方です。

この方法を「アクション・リサーチ」とよびます

これは、静観的な調査でなく、現場にはたらきかけることによっておこなう調査であり、仕事をしながら、あるいは仕事そのものからさまざまな情報を取得していく方法です。

ここでは、対象に心をくばり、対象と一体になる、あるいは対象になりきるといった姿勢が大切です。

第一の方法にくらべると、第二の「アクション・リサーチ」は系統性や幅の広さには欠けるかもしれませんが、みずからの体験に根差した情報がえられ、ふかみのある情報を蓄積していくことができます

この「アクション・リサーチ」は実践家や実務家にむいた方法であり、日々いそがしくはたらいている人がとりくむべき重要な方法です。


文献:川喜田二郎著『海外協力の哲学』(中公新書)中央公論社、1974年3月25日

本書で著者は、文明の発展史をふまえ、「無の哲学」にもとづく「野外科学」の方法によって現代社会の問題を解決する道をしめし、危機にたつ人類の可能性について探究しています。

目次はつぎのとおりです。

第一部
1 激増期人口をどうするか
2 移民制限こそ最大の壁
3 真の文化大革命

第二部
1 宗教はどうなるか
2 技術革命と人間革命
3 組織と人間
4 いかにして人をつくるか
5 野外科学の方法
6 世界文化への道
7 おわりに - 全人類の前途はその創造性に -

著者は、人類の文明史について大局的に、素朴社会から都市国家に移行し、都市国家が崩壊して領土国家が生まれたととらえています。つまり、素朴社会の時代から都市国家の時代をへて領土国家の時代へと移行したと見ています。

素朴社会 → 都市国家 → 領土国家

このなかで、都市国家が崩壊して領土国家へ移行したときには、まず「技術革命」がおこり、つぎに「社会革命」がおこり、最後に「人間革命」がおこったとかんがえています。つまり、ハードからソフトへむかって変革がおきたと見ています。そして、ここでの「人間革命」にともなっていわゆる高等宗教が生まれてきたと指摘しています。

技術革命 → 社会革命 → 人間革命

さらに、人類の前途は、人類が創造性を発揮できるかどうかにかかっていると予想し、そのためには、「無の哲学」にもとづいた「野外科学」の方法が必要だと主張しています。「野外科学」(フィールドサイエンス/場の科学)とは、希望的観測や固定観念にとらわれずに、おのれを空しくして現場の情報を処理する科学のことです。

このように、文明の発展史のなかに位置づけて方法論を提示していのが本書の特色です。

本書を、現代の(今日の)高度情報化の観点からとらえなおして考察してみると、現代は、領土国家の時代からグローバル社会の時代への移行期であるとかんがえられます。つまり、つぎのような歴史になります。

素朴社会 → 都市国家 → 領土国家 → グローバル社会

そして、人類の大きな移行期には、「技術革命→社会革命→人間革命」(ハードからソフトへ)という順序で変革がおこるという仮説を採用すると、領土国家の時代からグローバル社会の時代への移行期である現代は、まだ、「技術革命」がおこっている段階であり、インフラ整備や情報技術開発をおこなっている段階ということになります。

したがって、社会制度の本格的な改革などの「社会革命」はこれからであり「人間革命」はさらに先になることが予想されます。上記の仮説がもしただしいとするならば、現代の移行期における「人間革命」は、既存の宗教では対応しきれないということになり、あらたな精神的バックボーンがもとめられてくるということになります。

たとえば、現代の高度情報化社会では、人を、情報処理をする存在であるととらえなおし、人生は情報の流れであるとする あたらしい考え方が出現してきています。これが「野外科学」とむすびついてきます。そして、人間の主体的な情報処理力を強化し、人類と地球の能力を開発しようする行為は上記の方向を示唆しているとおもわれます。

本書は47年も前の論考ですが、副題が「地球学の構想」となっているのは、グローバル化へむかう未来予測を反映したものであり、人類と地球の未来を予想するために、川喜田がのこしたメッセージは大いに参考になるとおもいます


川喜田二郎著『可能性の探検 -地球学の構想-』(講談社現代新書)講談社、1967年4月16日

ラベル法は、情報処理のもっとも基礎的な方法です。これは「発想をうながすKJ法」から派生した方法であり、単独でも実践することができる簡単な方法です。

ここでたとえ話をだしたいとおもいます。

たとえば、机に引き出しがいくつかあって、そのひとつに、ボールペン・サインペン・定規・ハサミ・カッター・のり・ホチキス・修正液などが入っているとします。

そこで、引き出しに「文房具」という「ラベル」(標識)をつければ、いちいち引き出しをあけて見なくても、中に何が入っているかを瞬時におもいだしイメージすることができます。

「ラベル」は、記憶の想起とイメージングをもたらし、 仕事をしやすくしその効率をあげます

これを、もうすこしくわしくとらえなおしてみると、まず、ボールペンやサインペンやホチキスなどを引き出しに入れる行為が最初にありました。

次に、引き出しに「ラベル」をつけました。ここで、 ラベルは引き出しの表面構造であり、内部構造(下部構造あるいは中身)として、ボールペンやサインペンやホチキスなどがあります。さらに、引き出しにそれらを入れたという体験記憶も「ラベル」の下部構造として存在します。行為や体験もあったということは重要なことです。そして、これらすべてを「ラベル」に圧縮、言語化し、標識としてアウトプットしたわけです。

そして、今度は「ラベル」だけを見て、内部構造(下部構造)全体を瞬時に想起、イメージし、中身を活用していくわけです。

140515 ラベル

図 ラベルは表面構造、情報は内部構造(下部構造)
 

これは、きわめて簡単なたとえ話ですが、「ラベル」の役割を知り、記憶法や心象法、言語的アウトプットの基本を理解するために役立ちます。

たくさんの情報を見たり聞いたりしたときにも、似ている情報をあつめてひとまとまりにし、それぞれのひとまとまりごとに「ラベル」(標識=言葉)をあたえていけば、情報の「引き出し」を心のなかにつくることになり、多種多量の情報があっても、それらを整理し活用できるようになるということです

▼関連ブログ
取材→情報を選択→単文につづる -「ラベルづくり」の方法(ラベル法)の解説- 


本書のねらいは、当時(1960年代)の時代の根本問題に挑戦することにあると著者はのべています。

その根本問題とは、「人はいかにして、生きがいを感じ得るか」「人と人の心はいかにすれば通じあうか」「人の創造性はいかにすれば開発できるか」という三問であります。

これは、いいかえれば、人々は生きがいが見いだせず、人と人との心が断絶し、人間らしさがうしなわれているということであり、このような状況が、 大きな組織の成長とともにすすんだ管理社会化のもとで当時すでにあったということをしめしています。

本書は次の7つの章から構成され、上記の問いにこたえてます。

第一章 人間革命
第二章 創造愛
第三章 発想法
第四章 グループ・イメージの発想
第五章 ヴィジョンづくり
第六章 くみたて民主主義
第七章 チームワーク

これらの論考は、のちに、川喜田の「文明学」「創造論」「移動大学」「参画社会論」などに発展していきました。

そして、 自身の思想と技術を「KJ法」として体系化し、「文化成長の三段階」と「伝統体」の仮説を発表、最終的には「没我の文明」を提唱するにいたりました。

50年前の論考を今こうしてふりかえってみると、1964年の時点で、重要な仮説はすべて立てられていたことがわかります。川喜田のその後の人生は、その仮説を検証し証明する過程であったわけです。

なお、1990年代にわたしが川喜田研究所に在職していたときに川喜田から聞いた話では、上記の三問のなかでは「生きがい」がもっとも多くの人々の関心をひいたということでした。「生きがい」をいかにして見いだすかは、今日の人々にとっても大きな課題になっているのではないでしょうか。


文献:川喜田二郎著『パーティー学 -人の創造性を開発する法-』(現代教養文庫)社会思想社、1964年11月30日



「発想をうながすKJ法」から文章化の方法(作文法)について再度解説します。

▼「発想をうながすKJ法」に関する解説はこちらです

▼ 文章化に関する基本的な解説はこちらです
文章化の方法 -「発想をうながすKJ法」の解説(その3)-


「図解法」における「図解をつくる」もアウトプットのひとつですが、図解だけを他人に見せても何を意味しているのかわかってもらえないことが多いです。やはり、メッセージを相手につたえるためには言語をつかうのがもっとも基本的なやり方です。

文章化の方法(作文法)の手順は次の通りです。

〔図解をみる〕→〔構想をねる〕→〔文章をかく〕


■ 課題(テーマ)を確認する
まず、課題(テーマ)を再確認します。課題(テーマ)がしっかりしていると、統一的なトーンを文章に生みだすことができます。


1.図解をみる
図解にあらわれた構造を見なおします。 樹木でいえば樹形がわかるように 、ぱっと見て全体像をすみやかにつかむようにします。

図解がつくりだす全体的な構造(場)と、個々のラベルがつくる要素との両者を見ることが大切です。


2.構想をねる
どの「島」から書きおこし、どの「島」を結論にするか、全体の流れを構想します。出発点と到達点(目標)を決めます。


3.文章をかく
図解を視覚的に見て、それを言語に変換していきます。 図解から文章をひきだすわけです。

図解上の「表札」や「ラベル」にあらわれた単文は、「音韻言語」とはちがい、いわば「視覚言語」としてとらえることができます。「視覚言語」能力を身につけることにより情報処理の効率はあがります。

「表札」の下には「元ラベル」があり、「元ラベル」の下には体験(情報の本体)があります。体験は下部構造として潜在しています。体験を想起して書きくわえてもよいです。

図解は空間的構造的な存在ですが、それに流れをみいだし文章化します。文章化は時間的な行為です。

たとえてみれば、図解は「ダム湖」のような存在です。堰を切って水が流れでるように言語をアウトプットできるとよいです。

そういう意味では、図解の「元ラベル」の枚数が多いほど(情報量が多いほど)、「ダム湖」の水量は多くなるのでポテンシャルが高くなり(水圧がつよくなり)、とうとうと川が流れるように文章が流れでやすくなります。したがって図解には、質よりも量といった側面があるのです。

書いている途中で、ひらめきやアイデアがしばしば得られます。これらも文章化します。

文章化をくりかえしていると、情報を統合する能力がどんどん高まります。アウトプットの本質は情報を統合することにります。

どうしても文章がでにくい場合は、図解をながめてから、一旦ねるとよいです。潜在意識のはたらきにより、おきてみると書きやすくなっています。


文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論社、1967年6月26日

第I部では「チームワークの原理」として、仕事、チーム、チームワークについて論じ、第Ⅱ部では「チームワークの実践」として、チームワークをすすめるときの注意点について論じています。

ポイントをピックアップします。

つぎの三カ条をできるだけ高度に満たしているほど、創造的だ。
(一)自発的であればあるほど、その行為は創造的である。
(二)モデルとかきまった道筋の示されてないほど、その行為は創造的である。
(三)自分にとって切実な意味を持つ行為。

作業ではなく仕事を。仕事とは、一連の作業の組みあわせから成る、ひとまとまりの物ごとである。そして作業は、仕事のなかのひとこまの手続きにすぎない。

仕事というものを首尾一貫してなしとげる体験が非常に重要だと思う

仮説をたてる発想法の段階と、仮説検証の段階とをはっきり区別する。

「考える」過程は、発想・演繹・機能を、おびただしくくり返して行うものだ。

「組織か個人か」という問題のたて方は、「組織とチームと個人」という視点に切り替えた方がよいであろう。

チームは、組織レベルの問題にも、逆に個人レベルの問題にも、いずれにも属しきらない、第三の問題の焦点である。組織の中に「顔と顔」の関係を生かせるチームの利点を、いかに採りいれるかの問題である

仕事がチームを育てる。

チームは仕事の目標を明確化せよ。

チームワークでは、議会的機能と内閣的機能との区別を、はっきり使い分けよ。

決断力のない隊長は、誤った決断をする隊長よりも劣る。

チームの中で、自分はいったいどういう点で協力しているのか。これが的確に理解されるためには、チームワークの仕事の構造がわかっていなければならない。また、どういう手順でそれを解きほぐしたらよいのか。その手順をおたがいに知っている必要がある

チームの教師は仕事である。

よい因縁を創れ

本書は、チームワークのノウハウや具体的な技法について解説するというよりも、かんがえかたや思想について論じています。

本書で論じた「チームワークの原理」については、その後、「W型問題解決モデル」、「KJ法」へと発展し、その「KJ法」は、個人でおこなう「KJ法個人作業」と、チームワークとしておこなう「KJ法グループ作業」へと展開しました。

「チームワークの実践」については、その後、「パルス討論」とよばれる会議討論法が技術化され、「衆議一決と独断専行」についてモデル化されました。

これらのノウハウ(技術)のすべては「累積KJ法」として統合され、これは、「移動大学」とよばれる野外セッションやKJ法研修会においてくりかえし実践されました。

これらをつらぬく重要な注意点としては、仮説を発想する場面において、データがまず先にあって、仮説をたてるという点があります。これは、仮説が先にあって、それにデータをあわせるのではない点に注意してください。順序が逆です。ここに発想法の極意があり、上記のすべてをつらぬく要になっています。


川喜田二郎著『チームワーク 組織の中で自己を実現する』光文社、1966年3月30日

「発想をうながすKJ法」から図解法(図解化)について再度解説します。

図解とは、情報を形(イメージ)にしてアウトプットしたものです。図解法は次のとおりです。

図解法:〔表札をよむ〕→〔空間配置する〕→〔図解をつくる〕


図解法の前段階として「ラベル法」(ラベルづくり)→「編成法」(グループ編成)があります。

ラベル法:〔取材する〕→〔情報を選択する〕→〔単文につづる〕
編成法:〔ラベルをよむ〕→〔ラベルをあつめる〕→〔表札をつける〕


図解法では、まず、「大表札」(最終表札)をA3用紙上に空間配置し、 検索図解(全体図解)をつくります。

次に、細部図解用のA3用紙を用意します。たとえば「大表札」が7枚ある場合は、7枚の用紙を準備します。そして、それぞれの用紙に、各「大表札」の中身を展開して配置し、「島どり」をします。これが細部図解になります。

このように図解法では、検索図解(全体図解)と細部図解の2種類の図解をつくっるところに決定的なポイントがあります。検索図解は上部構造、細部図解は下部構造をつくり、全体として3次元の体系になっていることをイメージしてください。

つまり、3次元空間(立体空間)をつかってアウトプットをすすめます。情報処理は、1次元よりも2次元、2次元よりも3次元の方が効率がよく、加速されます。次元を高めると、今までできなかったことができるようにもなります。

なお、「図解法」の前段階の「編成法」を省略して、

〔ラベル法〕→〔図解法〕

とする方法もあります。

この場合は、検索図解(全体図解)と細部図解の区別はなく、2次元(平面上)の図解となります(注)。


▼「発想をうながすKJ法」に関する解説はこちらです

▼「編成法」(グループ編成)と「図解法」(図解化)に関する基本的な解説はこちらです
グループ編成→図解化(イメージ化)の方法 -「発想をうながすKJ法」の解説(その2)- 

▼ 次元についてはこちらです
情報処理の次元を高める 〜『次元とは何か 0次元の世界から高次元宇宙まで』(Newton別冊)〜


文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論社、1967年6月26日

注:KJ法関係者が、「探検ネット」とか「花火」とよんでいるのはこの2次元図解です。

今回は、「発想をうながすKJ法」のなかの第2場面(その1)「グループ編成」から「表札をつける」について解説します。

「グループ編成」の方法(編成法)の手順は次の通りです。

〔ラベルをよむ〕→〔ラベルをあつめる〕→〔表札をつける〕


▼「発想をうながすKJ法」に関する解説はこちらです
発想をうながすKJ法(まとめ) 

▼「グループ編成」(編成法)に関する基本的な解説はこちらです
グループ編成→図解化(イメージ化)の方法 -「発想をうながすKJ法」の解説(その2)-


■ 情報を要約・統合する
たとえば、「ラベルをあつめる」で3枚のラベルがあつまったとします。それら3枚に記されている文をすべて読んで、エッセンスを要約し、あたらしい「ラベル」に単文として書きだします。

そして、3枚の「元ラベル」のセットの一番上にかさねます。あたらしいこの「ラベル」が「表札」です。一番の表の「ラベル」(札)という意味です。
 

■ キーワードをまず書きだす
要約がつくりにくいときは次のようにします。

メモ用紙を用意します。「元ラベル」がたとえば3枚の場合、それぞれの「ラベル」について、1語ずつ、キーワードを書きだします。つまり、3語のキーワードをだします。文中の単語をつかってもよいし、あらたな単語をかんがえてもよいです。

次に、キーワードだけを見て(「元ラベル」は見ないで)、それらを統合したらどういう単文になるかかんがえ、みじかい1文を書きだします。なるべく、キーワードの足し算にならないようにします。やや抽象的な言葉をおもいうかべます。

そして、「元ラベル」を見なおして、いま書きだした単文を補足・修正し、あたらしい「ラベル」に書きなおします。

要点を整理し無駄をすて本質を把握することが大切です。 重要な事柄は高めて、どうでもよいことがらはしずめます。的確に簡潔に見通しよく記述します。まわりくどい冗長な記述はさけます。
 

■課題(テーマ)を明確にする
要約を書くにあたっては、課題(テーマ)を再確認し、課題(テーマ)を前提にして要約をつくることが重要です。前提を決めないで要約をしようとしてもうまくいきません。
 

■「表札」(要約)はあたらしい上部構造となる
「ラベル」は情報のひとかたまりの「標識」であり、情報の上部構造です。情報の本体は下部構造として常に潜在しています。

「表札」も、情報のひとかたまりの上部構造であり、情報の本体が下部構造として常に潜在しています。


■「ラベルをあつめる」は情報の並列処理である
「編成法」の「ラベルをあつめる」では、「ラベル」を空間的に縦横に配置して「ラベル」の並列操作をおこないました。つまり、前から後ろへ直列的に(一次元で)情報をとらえるのではなく、全体を一気に見て空間的に(二次元で)処理したのです。ラベルがよくできていると並列処理が可能になり、並列処理は情報処理を加速させます。

「ラベル」がきちんとできていると、情報が無意識のうちに連携をはじめ、情報同士が自然につながってきます。そして情報の合併が生まれ、情報の再編成がおこります。まるで情報自体が生き物であるかのようです。情報が自動的に再編成する現象をとらえることが大事です。

ここでは、言葉と言葉がつながるのではなく、情報と情報がつながるということに注意してください。 内面では情報はすべてつながっています。


■要約は、統合的アウトプットである
「表札」つくること、要約を書くことは情報を統合してアウトプットすることです。「編成法」(グループ編成の方法)では、「表札」として要約文がアウトプットされます。要約は、アウトプットの基本的な方法です。

要約すると情報は圧縮されます。圧縮すると、ファイルのメモリーが小さくなるように情報はかるくなり、情報処理を加速することができます。「表札」は、ある一群のファイルを圧縮したものであり、これによりファイルの連携が綿密になります。そして、要約の集合は体系を形成し、全体を単純化します。

このように「グループ編成」は、情報の群れを再構築する作業であり、要約により、背後にある情報をむすびつけることです。情報を断片のまま放置せず、「圧縮ファイル」をどんどんつくっていくことが大切です。


■要約にもレベルがある
「編成法」では、グループごとにくりかえし要約をつくっていきます。「グループ編成」の段階に応じて要約にもレベルがあります。

小グループ(小チーム)の要約は下層レベルの要約であり、こまかい要約です。大グループ(大チーム)の要約は上層レベルの要約であり、おおまかな要約となり大観的になります。

大グループ(上層レベル)の要約ほど、元情報からずれやすくなるので注意が必要です。下層からまっすぐつみあがっていく構造をイメージしてください。

こうして、多段階の要約をしながら情報を洗練していきます。


■要約はビジョンを生みだす
要約は知性をみがく知的な作業であり、 体験のなかに価値を見いだし、仮説や見識を生みだします。

よくできた要約は大観をとらえ本質をあらわします。要約はあらたな価値をうみだし、ビジョンをもたらします。ビジョンは未来をひらき、行動を生みだします。


文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論社、1967年6月26日

今日は、「発想をうながすKJ法」第2場面のその1である「グループ編成」についての解説を再度します。「グループ編成」の方法は簡単に「編成法」とよぶこともあります。「編成法」とは次のとおりです。

〔ラベルをよむ〕→〔ラベルをあつめる〕→〔表札をつける〕


▼「発想をうながすKJ法」に関する解説はこちらです
発想をうながすKJ法(まとめ)

▼「グループ編成」(編成法)に関する基本的な解説はこちらです
グループ編成→図解化(イメージ化)の方法 -「発想をうながすKJ法」の解説(その2)-


今回は、上記の「編成法」のなかの「ラベルをあつめる」について解説します。

まず、「ラベル」とは、情報のひとかたまりの「標識」であり、「ラベル」の下部には情報の本体が潜在していることを再確認してください。したがって「ラベルをあつめる」では、「ラベル」を見てうごかしていても、実際には、情報の本体をうごかしてあつめているということに注意してください。

「ラベルをあつめる」では、この「ラベル」(情報)とこの「ラベル」(情報)とは内容が近いと親近感を感じたら、それらをあつめます。つまり、内容やメッセージが似ているものあつめてセットにします。

このとき、近いか遠いか、似ているか似ていないかは絶対的なものではなく、あくまでも相対的な距離感できまることに気がつくことが大事です。

この相対的な距離感について以下の模式図をつかって説明します。

 140519

図1に、A、B,Cの3つの玉があります。これらの距離をよく見てください。AとBは、AとCよりも近いです。AとBは、BとCよりも近いです。

したがって図2のように、AとBとがあつまりセットになります。

次に図3を見ると、A、B、C、Dの4つの玉があります。図1とは全体状況がことなることに注意してください。これら4つを見ると、あきらかに A、B、Cが近いです。

したがって図4のように、AとBとCがあつまりセットになり、Dは「はなれザル」(一匹オオカミ)になります。

このように、近いか遠いかは相対的な距離で決まるのであって、絶対的なものではありません。全体状況(全体の場)をしっかり踏まえて、そのなかで各要素をとらえなければなりません。

似ている情報をあつめる方法は文章化のときに役立ちます。似ている情報があつまって一つの段落になります。上の模式図を参考にして、相対的な見方を身につけて、似ている情報をあつめる訓練をするとよいでしょう。
 

文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論社、1967年6月26日


今回は、「発想をうながすKJ法」の第1場面である「ラベルづくり」についての解説を再度します。「ラベルづくり」の方法は簡単に「ラベル法」ともよぶこともあります。

「ラベルづくり」(ラベル法)とは次のとおりです。〔インプット→プロセシング→アウトプット〕の過程になっています。

〔取材する〕→〔情報を選択する〕→〔単文につづる〕


▼「発想をうながすKJ法」に関する解説はこちらです

▼「ラベルづくり」(ラベル法)に関する基本的な解説はこちらです


1.取材をする
見たり聞いたり感じたりして、情報処理のための素材を心の中にインプットします。

2.情報を選択する
自分のテーマ・課題のもとで、記録すべき重要な情報を選択します。

3.単文につづる
選択した情報のひとかたまりを単文にして書きだします。これは、情報の要点を言葉にしてアウトプットすることです。この「単文につづる」作業は、アウトプットのもっとも基本的な行為であり、アウトプットの第一歩といってもよいです。見たり聞いたりしたこと以外の体験や自分のおもいもアウトプットしてよいです。



■ 情報を単位化し、標識をつける
「ラベルづくり」では、見たり聞いたり感じたりした体験をどこかで区切り、情報のひとかたまりとして単位化することが必要です

その単位化された情報の要点のみを言葉にするのが「ラベルづくり」です。言葉(言語)には、体験や情報を要約・統合する作用があります。こうしてできた「ラベル」は、ひとかたまりの情報の「標識」の役割をはたします。「ラベルづくり」における「ラベル」には、単なる紙片ということだけではなく「標識」という意味もこめられていて、情報のひとかたまりに対して、いわば「ラベル」をつけたというわけです。

140515 ラベル


■ 情報のひとかたまりには下部構造と上部構造がある
このような「ラベル」がつけられた情報のひとかたまりは、情報の本体(下部構造)とその「ラベル」(上部構造)という二重構造になっています。上図(モデル)を参照してください。

下部構造(情報の本体)は非言語の領域ですが、上部構造(ラベル)は言語化された部分であり、上部構造(ラベル)は下部構造の標識になっています。下部構造は体験のすべてですが、上部構造は抽象的です。表面構造(ラベル)が適切に構築できると、下部構造もしっかりとしてきます。 ラベル(要約文)はあくまでも標識であり、上部構造そのものが情報の本体ではないことに注目してください。

この二重構造は、「ラベル」だけを見ることにより、下部領域がすぐにおもいだせる仕組みになっており、これは記憶法にも通じています


■ 情報を心のなかにファイルする
わたしたちは、日々、見たり聞いたり感じたりすることにより、自分の内面にあらたな情報を自然にインプットしています。よくできた情報処理をするためには、これをきちんと整備されたものにしていくことがのぞまれます。

「ラベルづくり」によってよくできた「ラベル」をつくるということは、体験を適切に圧縮するということです。

こうして、ひとつの体験がひとつの情報のかたまり(単位)となり、それらをひとつひとつ心のなかに「ファイル」していくと、心のなかの見通しはよくなり、心のなかがあかるくなります。

すると無駄がなくなり、情報処理の効率がよくなり、情報処理が加速されます。

心のなかに情報をファイルし、そのファイルを整備していくことをイメージしてください


■ イメージデータのあつかいにたとえることができる
たとえば、デジタルカメラでたくさん写真をとったとしましょう。パソコンのハードディスクにそれらのデータを保存し、それぞれの写真にファイル名をつけます。このファイル名は「ラベル」に相当します

ファイルに適切に名前をつけることができれば、ファイル名だけを見て写真(イメージ)をすぐにおもいだすことができます。すると、写真本体をいちいち見なくても、ファイル名だけをつかって情報処理ができるようになります

つまり、たくさんの写真を画面上にならべて一覧するのは困難ですが、それらのファイル名(ラベル)だけでしたら、せまいスペースであってもすべてをならべて一覧することができます。100枚、200枚の写真があってもどうってことありません。ひとつひとつファイル名をみながらその写真を想起(心のなかでイメージ)していけばよいのです。

また、イメージデータはメモリーが大きくて重いですが、ファイル名は言葉(テキスト)でできているためメモリーは小さくて軽いです。大きなイメージデータをそのままあつかい操作することは困難ですが、言葉(テキスト)をつかえば操作が軽く簡単になります。

このように、大量のイメージデータがあっても、それぞれにファイル名(ラベル)をつけて一覧表示させれば情報はコンパクトに処理できるようになり、全体像をつかむことも容易になります。似ている写真をフォルダーにまとめたりすることもできるようになります。こうして、つかえるファイルが構築されていきます。

心のなかにファイルをつくるときにもこのことがとても参考になります。


■ ツイッターに「ラベル」をあらわす
情報はインプットしているだけでなく、どんどん「ラベル」化し(アウトプットし)、よいファイルをつくっていくことが大事です。

たとえば、ツイッターにツイートする(一文をつづる)こともアウトプットにほかならず、この場合も、情報のひとかたまりを意識するとよいです。ツイッター上にあらわれるのは「ラベル」(上部構造)のみであり、その下部に情報の本体が潜在していることを常にイメージします

そして、ツイッター上の「ラベル」を見なおすことにより、これまでに蓄積してきた体験(情報の本体)を次々におもいおこす(想起する)練習をします。この行為は、記憶の強化と情報の活用につながります


以上の「ラベルづくり」(ラベル法)は、大げさな訓練などを特にしなくても、ちょっと意識すれば誰でもできることなので、是非実践していただきたいとおもいます。


文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)1967年 

181112 KJ法マトリックス



今回は、『発想法』(中公新書)のなかの中核部分である第 III 章「発想をうながすKJ法」(65〜114ページ)についてまとめをしたいとおもいます。わたしは、「発想をうながすKJ法」をつぎの3つの場面にわけました。
 

第1場面:ラベルづくり(ラベル法)
 (1-1)取材をする
 (1-2)情報を選択する
 (1-3)単文につづる

・紙きれや紙片や付箋などを総称して「ラベル」とよびます。
・インプット&プロセシングとして、内部探検(ブレーンストーミング)をおこなってもよいです。内部探検ではすでに(過去に)インプットされた情報をつかいます。

第2場面
(その1):グループ編成(編成法)
 (2-1-1)ラベルをよむ
 (2-1-2)ラベルをあつめる
 (2-1-3)表札をつくる

(その2):図解化(図解法)
 (2-2-1)表札をよむ
 (2-2-2)空間配置をする
 (2-2-3)図解をつくる

第3場面:文章化(作文法)
 (3-1)図解をみる
 (3-2)構想をねる
 (3-3)文章をかく


これは、文章を書くための過程・方法になっています。

基本的に人間は、情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)をする存在であり、仕事をするということは情報処理をするということです。「発想をうながすKJ法」をつかうとつかわないとにかかわらず、情報処理は誰もがごく普通におこなっていることです。「KJ法」にかぎらず、速読法も記憶法も心象法も作文法もすべて情報処理をしていることにほかなりません。

情報処理を意識しておこない、よくできたアウトプットをだす(文章を書く)ように日々こころがけているとあらたな発想も生まれやすくなります。そのために「KJ法」も有用であるというわけです。

情報処理は、 インプットだけでは意味がなく、 アウトプット(文章化)をしてこそ意味があります。アウトプットまでかならずやらなければなりません。現代では、ツイッターやフェイスブックやブログといった便利なツールがありますので、これらを積極的につかっていくのもよいでしょう。

ツイッターに要点を「単文につづる」ことは、「発想をうながすKJ法」でいう第1場面「ラベルづくり」の実践にほかなりません。どんどん書きだしていくのがよいでしょう。
 

▼ 関連ブログ
・ラベル法
 文章化の方法 -「発想をうながすKJ法」の解説(その3)-

・累積法
 情報処理の1サイクルを累積する -「発想をうながすKJ法」の解説(その4)-


文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)1967年

今回は、川喜田二郎著『発想法』の第 III 章「発想をうながすKJ法」から、第4場面「累積的KJ法」(111〜114ページ)について解説します。

要点は次のとおりです。

紙きれづくり→グループ編成→A型図解→B型文章化までを1サイクルとすると、そのサイクルを累積的にいくつも重ねる。

文章化の途中で自分が生みおとした大小おびただしい数のヒントを、もう一度見つけることができる。これらのヒントとか仮説をもう一回紙きれを用いて採集するのである。

時として副産物から、すばらしいものも生まれる。

「発想をうながすKJ法」について、情報処理の観点から、本ブログではこれまでに以下のように整理してきました。ここでは、紙きれ・紙片・付箋などを総称して「ラベル」とよびます。


 第1場面: ラベルづくり〔探検(取材)する→情報を選択する→一文につづる〕

 第2場面
 (その1): グループ編成〔ラベルをよむ→ラベルをあつめる→表札をつける〕
 (その2): 図解化〔表札をよむ→空間配置する→図解をつくる〕

 第3場面: 文章化〔図解をみる→構想をねる→文章をかく〕
  
これら第1場面から第3場面までを1サイクルとします。そして、その過程であらたにえられたヒントやアイデア・仮説などを、あたらしいラベルに一文につづります。つまり、ふたたびラベルづくりをおこないます。そして、第2場面、第3場面と、あらたな情報処理のサイクルを展開します

こうして、情報処理のサイクルが確立し、もっと大きな仕事や問題解決へと発展していきます。仕事や問題解決とは情報処理の累積にほかなりません

今回は、川喜田二郎著『発想法』の第 III 章「発想をうながすKJ法」から、第3場面「KJ法AB型による文章化」「 叙述と解釈をハッキリ区別せよ 」「 ヒントの干渉作用 」(94-111ページ)について解説します。

まず、要点をピックアップします。

KJ法AB型による文章化
図解から文章化に移るには、書き初めは、熟慮した図解上の位置から始めるのがよい。

叙述と解釈をハッキリ区別せよ
文章化するときの根本的な注意は、「叙述と解釈とを区別すること」である。

ヒントの干渉作用
些細なヒントをバカにしてはいけない。むしろそれを、支えになったデータとともに、しっかり定着させなければならない。

今回とりあげる「発想をうながすKJ法」の第3場面は、第2場面でつくった図解の内容を文章化する場面です。

この過程を、情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からとらえなおすと次のようになります。

 インプット:図解を見る
 プロセシング:文章化の構想をねる
 アウトプット:文章を書く

ここでも、おこなっていることは情報処理であり、情報処理をつよく意識することが大切です。

次に、これらについて詳説します。

1. インプット:図解を見る
  • 文章化のために、つくった図解を見なおして味わいます。

2. プロセッシング:文章化の構想をねる
  • 書きはじめる箇所()をきめます。
  • ひとつのは、ひとつの節あるいは段落になります。
  • 2番目、3番目と、書いていく順序をきめます。

3. アウトプット:文章を書く
  • 要旨を書く場合は、大チームの表札すべてがうまくつながるように文章化すればそれが要旨になります。
  • 細部まで文章化する場合は以下のようにします。
  • 最初のの内容を文章として書きあらわします。
  • 大チームの表札が、その節あるいは段落の結論になります。
  • ひとつのについて書きおわったら、隣接するちかくのへうつります。
  • そのについても書きおわったら、隣接する次のへと順々に書いていきます。
  • たとえ話や実例を挿入してもかまいません。人々は、たとえによってコミュニケーションをしています。表現は、類似なパターンであらわすと効果的です。
  • 文章化は、図解のもっている弱点を修正する力をもっていて、図解化と文章化はたがいに他方を補強する役割をはたします。
  • 図解のときはわかったようにおもえていたことが、文章化すると話がうまくつながらないことがありますが、このようにこまったときこそあたらしいアイデアが飛び出すときです。アイデアはメモしておきます。
  • 叙述(事実)と解釈(仮説)とを区別して書きます
  • その解釈の根拠が、データに正直に根差した発想であることが重要です。
  • 文章化のためにひろいだされたデータ群をよくを見ていると、「データがかたりかけてくる」ことに気がつきます。
  • アイディアを促すような基本的な1小チームのデータ群のことを「基本的発想データ群」とよびます。
  • 些細なヒントをバカにせず、その支えになったデータとともにしっかり定着させます。
  • 図解から文章化へとただしく移行していくと、干渉作用の累積効果によって、出るべき仮説があたかも自然に成長するかのように生まれ出ることになります。これが文章化のもつ力です。
  • 小データ群に対しては、鮮明な分析を加えます。
  • 発想法の過程は全体としては総合化の方法ではありますが、その中で分析過程を拒否しているのではなく、「どの方向に分析を進めるべきか」に暗示をあたえるのが発想法です。

文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論社、1967年6月26日
 
▼関連ブログ
ラベルづくり(取材→情報選択→記録)の方法 - 「発想をうながすKJ法」の解説(その1)-
グループ編成→図解化(イメージ化)の方法 -「発想をうながすKJ法」の解説(その2)-

今回は、『発想法』(中公新書)第 III 章「発想をうながすKJ法」から、第2場面:「グループ編成」と「KJ法A型図解法」(73-94ページ)をとりあげて解説します。

本書から要点をピックアップします。
 
1.. グループ編成
1-1. 紙片を読む
 紙片をすべて拡げ、読む。
1-2. 紙片を集める
 親近感を覚える紙片を一カ所に集め、小チームをつくる。
1-3. 表札をつける
 あたらしい紙片に、各小チームの内容を圧縮して表現、記入し、それを小チームの上にのせる。
1-4. チーム編成を繰り返す
 小チーム編成から中チーム、大チーム編成へとチーム編成を繰り返す。どのチームにも入らない「離れザル」を無理にどれかのグループにくっつけない。
 
2. KJ法A型図解法
2-1. 紙きれの束を拡げて、納得がゆくように配置する。
2-2. 大チームから小チームに展開し、図解化する。

上記の「グループ編成」を情報処理の観点からとらえなおすと次のようになります。なお、紙片や付箋などを総称して「ラベル」とよぶことにします。

「紙片(ラベル)を読む」ことは、情報を心のなかにインプットする作業です。「紙片(ラベル)を集める」はプロセシングに相当します。「表札をつける」は、情報を圧縮して表現することでありアウトプットです。そして「チーム編成を繰り返す」は、これらの情報処理をくりかえしておこなうことです。


1. グループ編成 
*ラベルをよむ
  • 「探検(取材)→情報選択→記録」によってえられた約50枚のラベルを、たがいにかさならないようにゆとりをもたせて目の前に四角くならべます。
  • それらのラベルをあわてないで端から読んでいきます。読むというよりもながめていけばよいです。
  • 3回ぐらいくりかえしてながめます。
  • 目の前の情報をしっかり心のなかにインプットします。

*ラベルをあつめる
  • 「このラベルとあのラベルの内容は非常に近いな」と、内容のうえでおたがいに親近感をおぼえるラベルが目にとまったら、それらをどちらかの一カ所にあつめます。
  • あつめる枚数は2〜3枚を目安とし、多くても5枚とします。
  • このようにしていくと、ラベルの小チームがあちこちにできてきます。
  • 一方で、どのチームにも入らない「離れザル」が若干でてきます。その「離れザル」をどれかのチームに無理にくっつけてはいけません
  • 最初の段階では「離れザル」は全体の1/3ぐらいあってもかまいません。

*表札をつける(圧縮表現)
 
  •  たとえば5枚あつまったら、 あつまったラベルをよく読み、「この5枚の内容を、一行見出しに圧縮して表現するとすれば、どういうことになるか」と自分に問うてみます。
  • 5枚の内容をつつみつつ圧縮化して表現できる一文を、あたらしいラベル1枚に書いて、その5枚一組のチームのラベルの上にのせます。
  • 一組のチームは1個のクリップでとめます。
  • 一番うえのラベルは一組のラベルの「表札」とよばれます。チームの一番うえの表の札(ラベル)ということです。
  • 小チームのすべてに「表札」をつけます。
  • 本書『発想法』には「一行見出し」と記載されていますが、これは一文につづるという意味であり、ラベルのなかで厳密に1行にしなければならないということではありません。通常は2〜3行になります。重要なことは述語までしっかり記述し一文につづるということです。
  • 小チームの「表札」の色は赤色とします。本書『発想法』には青色と記述されていますが、青色は中チームの表札、緑色は大チームの表札とするのが今では一般的になっています。
  • 「表札」は、元のラベルよりも1段高いところに位置づけられ、このような圧縮表現により、情報処理の次元が2次元から3次元に高まり、情報処理の効率が一気によくなります。元ラベルがならんでいた平面に縦軸が生じるような感じです。
  • 小チーム編成の段階でどこにも入らなかった「離れザル」については、目印として付箋の右下隅に赤点をつけておきます

*上記の情報処理をくりかえして、中チームを編成する
  • 赤色「表札」がついた小チームと「離れザル」(右下隅赤点)を目の前にひろげ、すべてをよく読みます。
  • 前の段階と同様にして、小チーム同士のなかでおたがいに親近感があるチームを編成して、いくつもの中チームをつくります。
  • このとき、小チームと「離れザル」があわさって中チームをつくることもあります。
  • 場合によっては、「離れザル」と「離れザル」とがあわさって中チームをつくることもあります。
  • それぞれの中チームには、チームの次元が識別するために青色の「表札」をつけます
  • この段階でも「離れザル」がまだのこっていてもかまいません。それらの「離れザル」目印のために付箋の右下隅に青点をつけます
  • この段階で、赤色「表札」が「離れザル」になる場合もあります。その赤色「表札」の右下隅にも青点をつけます。

*大チームを編成する
  • 同様にして、中チーム(青色「表札」)と右下隅青点の「離れザル」をひろげ、大チームをつくっていきます。
  • 大チームには緑色の「表札」をつけます
  • この段階でも「離れザル」がのこってもかまいません。それには右下隅に緑点をつけます
  • 大チームの個数(「離れザル」がある場合は、大チームに「離れザル」をくわえた個数)は、5〜10になります。
  • 10をこえる場合は、もう一段チーム編成をくりかえします。


2. 図解法 

その1:検索図解をつくる
*表札をよむ

  • 検索図解のための準備として、あたらしいラベルを用意し、最終の「表札」(大チームの「表札」)をすべて転記します。
  • それら最終の「表札」を再度よくよみ味わいます。

*表札を空間配置する
  • A3用紙を用意し、テーマを左上にやや大きく記入します。
  • 転記した最終「表札」すべてをそのA3用紙上におきます。
  • 論理的にもっとも納得がいく位置、おちつきのよい位置に最終「表札」すべてを空間的に配置します

*図解化

  • その空間配置が意味する内容をつぶやいてみて、その空間配置が適切であるかどうかたしかめます。内容がつながってすらすらと説明できればよいです。
  • A3用紙に「表札」を固定します。
  • 「表札」と「表札」とのあいだに関係記号を記入します。関係記号の例は次です。
  •  A ー B:AとBとは関係がつよい
  •  A >-< B:AとBとは対立する
  •  A → B:AからBへながれる、あるいはAが原因でBが結果
  •  A ⇄ B:AとBとは相互関係がつよい


その2:細部図解をつくる

*ラベルをよむ
  • 大チームの束どれか1つをとりだし、再度よく読みます。

*ラベルを空間配置する

  • あたらしいA3用紙を用意します。
  • 1枚のA3用紙に、1つの大チームの束をおき、中身を展開し、空間配置します。
  • 「表札」を奥におき、中身を手前におきます。
  • 中チーム→小チームへと中身を順次展開していきます。

*図解化
  • すべてを展開しおわったら、大チーム、中チーム、小チームのそれぞれを「島どり」(輪)でかこみます。
  • あらたにA3用紙を用意し、別の大チームも同様に展開します。
  • すべてての大チームを展開し、各チームごとに「島どり」をします。


このようにして図解ができあがると、最初にあった約50件の情報がグラフィックに整理され、全体像は「検索図解」に、こまかいところ(元データ)は「細部図解」を見ればわかるようになります

この段階では、 矛盾をあらわす「AとBとは対立する」といった内容があってもかまいません。心の内面に矛盾があるとそれが図解にもあらわれてきます。矛盾は、ことなる価値観をかかえこむことで生じることが多いです。

KJ法図解をつくると矛盾も図式化でき、矛盾を客観的に見ることができます。 矛盾が可視化できると心の整理ができ、矛盾が目に見えてくると克服のためのアイデアがでやすくなり、それを解決するチャンスが生まれてきます。 


文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論社、1967年6月26日


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