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これからの日本の電力をかんがえる場合、原子力発電に反対しているだけでは未来はひらけず、再生可能エネルギーの割合を増やす努力を具体的にしていかなければなりません。


日本科学未来館(注1)の「Lesson#3.11:5年前、そして5年間に起きたこと」(注2)ではこれからの電力についても展示解説しています。

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3月12日〜31日における被曝量の推定(パネル展示より)
大気中に拡散した放射性物質のうちの主なものとして、ヨウ素131、セシウム137、セシウム134 からの被曝量を推定したもの。1日のうち屋外に7時間、それ以外の時間帯は木造家屋にいたと仮定。(データ提供:国立研究開発法人海洋研究開発機構)


放射線被害から身をまもるためには放射線を定量的に計測して判断しなければなりません。


日本科学未来館(注1)の「Lesson#3.11:5年前、そして5年間に起きたこと」(注2)では、さまざまな物質の放射線量を線量計をつかって実際に計測するワークショップもありました。市販の線量計をつかえば誰でも簡単に放射線量を計測することができます。

国際放射線防護委員会(ICRP)勧告では、一般の人の年間積算線量の指標として、平常時は年間1ミリシーベルト以下としています。

ただしこれは、一般の人が受ける放射線の量をなるべく低くおさえようとするための指標であり、健康に影響をおよぼすか否かをしめす基準ではありません。

またこの指標値には以下はふくみません。
  • 自然界から受けるといわれている年間 2.4 ミリシーベルト(世界平均)の放射線量(注3)。
  • 医療行為によって受ける放射線量(レントゲンやCTスキャンなどによる診断やがんの治療など医療現場で使われる放射線)。

年間1ミリシーベルトを1時間あたりに単純に換算すると毎時 0.114 マイクロシーベルトとなります。

また国際放射線防護委員会(ICRP)は年間積算線量の指標として次もしめしています
  • 原子力事故などの緊急時:20~100ミリシーベルト
  • 事故後の復旧期:1~20ミリシーベルト



放射線被害から身をまもるためにはこのような数値と単位につよくならなければなりません。そうでないとみずから主体的に判断をすることができません。定性的な説明をただ鵜呑みにすることはよくないことです。

したがって線量計をつかってみずから計測することは重要なことです。

放射能物質で汚染された地域は一様に汚染されているのではなく、ホットスポットとよばれる高い濃度で汚染された地点がところどころに存在します。放射性物質をふくんだ空気と雨とがぶつかったとき、雨粒は放射性物質をとりこんで地面に降りそそぐため原子炉からの距離とは関係なくいくつものホットスポットが生じてしまいました。 

ホットスポットを見つけるためにも現場での計測が必要です。

なお全国各地の放射線量については、原子力規制委員会・放射線モニタリング情報のサイトを見るとよいとワークショップでおそわりました。全国各地の定点計測値がわかります。

原子力規制委員会・放射線モニタリング情報 >>

被災地からはなれてくらしている場合は線量計を購入してまで計測しないかもしれません。そのような場合はこのサイトをみて確認するとよいでしょう。


▼ 注1
日本科学未来館 


▼ 注2
Lesson#3.11 パネル展示「5年前、そして5年間に起きたこと」

▼ 注3
自然界からうける放射線は大地からの放射線、宇宙からの放射線(宇宙線)、空気中からの放射線、摂取した食物からの放射線があります。

福島第一原発事故について理解するためには、周辺地域のコミュニティの崩壊や被災者の心の危機の問題についても知らなけれなりません。


たくきよしみつ著『3・11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ』(岩波書店)は、原発事故によってコミュニティが崩壊したり人の心に危機が生じていることものべています。

2011年3月26日、著者のたくきよしみつさんが福島県川内村に避難先から帰宅したのは、川内村が立入禁止区域に指定されてしまうかもしれないという恐れもあったからです。

福島第一原発の周辺では、どこが放射線量が高くて危険で、どこが比較的安全かということが次第にわかってきました。しかし国によってコンパスで単純に円をえがいただけの、実態とはかけはなれた罰則つきの規制をかけられて家からおいだされる住民が多数生じ、混乱がはじまりました。

その後、東京電力からの損害補償金の支給がはじまりました。しかし物理的な線引きでもらえる人、もらえない人、「精神的損害補償」というあいまいな補償もあり、人々のあいだに深刻な対立や分裂がひきおこされまた。補償金をもらうために避難生活をつづける人、自宅にもどって仕事を再開しようとする人、援助漬けになる人、様々です。

放射能問題をめぐっても隣人同士が対立する構図が生じました。汚染された地域では、そこに暮らすことをあきらめて別の場所にいく人たちと、なんとかそこにとどまって故郷をまもろうとする人たちのあいだに気持ちのいきちがいが生じます。


出ていく人を「裏切り者」とののしったり、残る人を「じぶんの子どもも守れない愚か者」と攻撃したりといった対立が、あちこちでおきました。

福島産の食べものを食べる・食べない、つくる・つくらないでも対立が生まれました。

なんとかがんばって農業をつづけようと努力する人と、汚染されたとちで農作物をつくって出荷するなどもってのほかで、犯罪行為だと攻撃する人。

どちらも自分の考え方に対して自信をもっているだけに、一歩も引きません。


あるいは移転するにしてもあらたな土地で生きがいがもてるでしょうか。親の商売を誇りにおもって仕事をつぎたいとおもっていた若者たちがいました。親子の絆を断ち切られ、生き方を変えなければなりません。


生きがいがもてなければ、精神的健康が保てず、肉体にも影響がおよびます。幸せを感じられない日々を過ごすなかで命を縮めていく・・・そのほうがどれだけ「危険」なことか。


たくきよしみつさんもつもついに、2012年をむかえる直前、生活拠点を阿武隈山中から栃木県の田園地帯にうつしました。


理不尽な形で阿武隈を追われたという悔しさもさることながら、やはり、阿武隈山系の自然が汚されたこと、これからさらに破壊されようとしていることを見ていなければならないのが、耐えられません。


今後、原発とその周縁地域は、核のゴミ捨て場、廃炉と除染ビジネスの現場として前例のない特殊な歴史をきざんでいかなければならないでしょう。



原発事故について理解しようととするとき、その政治的側面や科学技術的側面をみているだけでは不十分です。本書にあるように、コミュニティの崩壊と人の心の危機についても知らなけれなりません。

問題は、原発事故以前にすでに潜在していました。「原発にぶらさがっていた町」しかし「周囲にはすばらしい自然」。「原発はひきうける。しかしその一方で・・・」というコミュニティと人心の状態。これは日本全国各地にある問題ではないでしょうか。福島では顕在化してしまいました。

このようにコミュニティと人の心の問題にも注目しなければなりません。



▼ 引用文献
たくきよしみつ著『3・11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2012年4月20日
3.11後を生きるきみたちへ-福島からのメッセージ (岩波ジュニア新書)

▼ 関連記事
大津波の記録から教訓をまなぶ - 伊藤和明著『日本の津波災害』-
原子力災害から身をまもる -『原子力災害からいのちを守る科学』-
定量的にとらえる - 山口幸夫著『ハンドブック 原発事故と放射能』-
福島の人々の声をきく(1) - たくきよしみつ著『3・11後を生きるきみたちへ』-



原発問題をかんがえるとき、被災をした福島の人々の声(メッセージ)をきくことはとても重要なことです。


たくきよしみつ著『3・11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ』(岩波書店)は、福島県川内村で被災した著者が被曝の恐ろしさやこれからの困難についてかたっています。


目 次
第1章 あの日、何がおきたのか
第2章 日本は放射能汚染国家になった
第3章 壊されたコミュニティ
第4章 原子力の正体
第5章 放射能よりも怖いもの
第6章 エネルギー問題の嘘と真実
第7章 3・11後の日本を生きる


著者のたくきよしみつさんは、2011年3月11日、福島県川内村の自宅で大震災をむかえました。そこは福島第一原発からは約25kmのところでした。


いよいよ避難しなければならないと思っていると、突然、テレビに衝撃的な映像が映し出されました。
福島第一原発一号機が爆発するという映像です。
背筋が凍るというのは、こういうことを言うのでしょう。


その後、第一原発から半径30km圏は立入禁止区域になったため救助も救援物資もきませんでした。津波で生き埋めになったり動けなくなった人たちは救助されないまま見殺しにされました。住民は見捨てられたのです。

15日早朝になると、2号機の格納容器が破損して、大量の放射性物質がもれだしました。ほぼ同時に4号機でも爆発・火災がおきました。

この時期にいちばん危険だったのはヨウ素という放射性物質でした。これを体内にいれてしまうと甲状腺にたまり、何年かすると甲状腺癌をひきおこす原因になることが知られています。放射性物質を体内にとりこんでしまい、体の内部で被曝しつづけることを「内部被曝」といいます。「外部被曝」とはちがう恐ろしさがあります。

たくきよしみつさんは、一旦、神奈川県川崎市に避難します。しかし3月26日、必要なものをとりに、また救援物資を届けるために川内村へ帰宅しました。




福島県からはなれてくらしている人にとってはこのような状況はなかなか理解しにくいかもしれません。そのようなときは出来事を自分の地域におきかえて想像してみるのがひとつの方法です。


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たとえばもし、東京湾に面した埋め立て地に原発があったとしたらどうなったでしょうか。都内23区はすっぽり 20km 圏内に入ります。30km 圏内でしたら、木更津市・千葉市・柏市・さいたま市・所沢市・相模原市をむすんだ円内になります。20km あるいは 30km 圏内はかなり広いことがわかります。



▼ 引用文献
たくきよしみつ著『3・11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2012年4月20日
3.11後を生きるきみたちへ-福島からのメッセージ (岩波ジュニア新書)

▼ 関連記事
大津波の記録から教訓をまなぶ - 伊藤和明著『日本の津波災害』-
原子力災害から身をまもる -『原子力災害からいのちを守る科学』-
定量的にとらえる - 山口幸夫著『ハンドブック 原発事故と放射能』-


原発事故と放射能被害について理解するためには、さまざまな事象を定量的にとらえるように努力しなければなりません。


山口幸夫著『ハンドブック 原発事故と放射能』(岩波書店)は原発事故と放射能被害に関する入門書です。福島原発事故を中心にして順序立てて論理的に解説しています。


目 次
第1章 事故はどういうものだったのか
 地震、津波、そして、すべての電源を失った
 情報が混乱し、対応ができなくなった ほか
第2章 放射能とはどんなものか
 X線の発見ー放射能の背景
 放射能の発見 ほか
第3章 被曝とはどういうものか
 ヒロシマ・ナガサキの被爆
 スリーマイル島、チェルノブイリJCO事故 ほか
第4章 エネルギーについて知っておきたいこと
 電気という便利なエネルギー
 エネルギーのフローチャート ほか


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福島第一原発の原子炉は、アメリカから輸入された沸騰水型原発の原子炉「マーク I 型」という初期のタイプのものであり、危険だという批判が当初からありました。アメリカ合衆国議会原子力合同委員会での証言ものこっています。これとおなじ型の原子炉は日本各地にあり、大きな危険性をすでに はらんでいます。

日本の国会事故調査委員会の報告書は、「福島第一原発事故は人災であった」と結論しています。対策を立てる必要を知っていながら立てなかったということです。

国際原子力・放射能事象尺度におて、福島第一原発事故はもっとも危険な「レベル7」(深刻な事故)と認定されています。尺度はレベル0からレベル7まであります。チェルノブイリ事故もレベル7、スリーマイル島事故はレベル5です。

したがってチェルノブイリが参考になります。チェルノブイリ原発事故は子供・成人をとわず、放射線被曝による深刻な障害を広範にもたらしました。事故処理・除染などの事後の対応に従事した人たちも被曝しました。とりわけ内部被曝の影響が深刻です。食べ物や飲み物、呼吸によって体の中に放射性物質が入ってしまい、体内の臓器にとどまって放射線を出しつづけたいへん危険な状態です。

福島県のある小学校の先生は、2011年5月19日から2012年8月27日までに積算して 1.94 ミリシーベルトをあびました。これに、測定しはじめる前の2ヶ月間の大量被曝量をくわえれば6〜7ミリシーベルトを超えているのではないかと心配されます。この数値は、原発での労災認定がされていい値です。実際には、この先生よりも被曝量の多い人はたくさんいるのではないか。子供たちもふくめて数十万人がそうではないかとかんがえられています。

福島原発事故で緊急避難した人たちが除染後にもとの居住地にかえれるかどうか。避難指示解除準備区域は、年間 20 ミリシーベルト以下とされました。しかしこれはずいぶん高い線量値です。




原発事故や放射能について理解するためには数値につよくなり、定量的な理解ができるようになければなりません。

そうでないと、役所や専門家が言っていることがよくわかりません。「放射線量は少ないです」「安全が確保される量です」「人体への影響は確認されません」といった定性的な表現(言葉による表現)にごまかされてしまいます。具体的にしめすとは定量的に表現するということです。たとえばミリシーベルトといわれたとき、数値とともに、それが1日あたりなのか1ヶ月あたりなのか1年あたりなのか、しっかりおさえなければなりません。

原発に関しては定量的にとらえる努力をおこたることはできません。


▼ 注
通常の人が1年間に受ける放射線量は1〜2 mSv(ミリシーベルト)といわれています。

▼ 引用文献
山口幸夫著『ハンドブック 原発事故と放射能』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2012年11月20日
ハンドブック 原発事故と放射能 (岩波ジュニア新書)

▼ 関連記事
原子力災害から身をまもる -『原子力災害からいのちを守る科学』-
イメージで単位をとらえる -『目でみる単位の図鑑』-


福島原発事故は悲惨な結果を生みだしました。原子力災害から身をまもるために、原子力エネルギーについて理解し、原発廃止・新エネルギーへの転換を目指してすすんでいかなければなりません。


小谷ほか著『原子力災害からいのちを守る科学』(岩波書店)は、原子核反応、放射能、放射性物質の挙動、放射線の生命への影響など非常に基本的なことをわかりやすく解説しています。中学理科がわかれば理解できるように記述されています。


目 次
序章 東日本大震災のもたらしたもの
第1章 「原子力」とはどういうエネルギーか
 原子力のエネルギーとは何だろう?
 放射性物質と放射線の発見
 ウランの原子核からエネルギーを取り出す
 半減期とは?
 単位の話 ー ベクレル(bq)とシーベルト(Sv)

第2章 放射性物質とはどんなものか
 元素の周期表で元素の位置を確認する
 放射性物質と元素の周期表
 原子爆弾と原子力発電と元素
 元素の周期表と化学結合

第3章 放射線は生物にどのように影響するか
 遺伝子の本体DNAへの影響
 今おきていること、子孫に受け継がれること
 原爆および原発事故からの教訓
 医療・農業・研究での利用
 
第4章 どうしたら科学で身を守ることができるか
 放射性物質はどのように飛散し濃縮するか
 ゴミを減らす方法と放射性物質を減らす方法の違いは何か
 毒も薬になる、薬も毒になる
 身を守るために物質の性質をもっと知ろう 
 
終章 科学は何ができるか


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福島原発事故以後、最近では、1kg 当たり 100 Bq(ベクレル)をこえる放射生セシウムが検出された野菜は出荷しないという規制がおこなわれています。このようなことを理解するためには放射線の強さをあらわす単位について知っておかなければなりません。

たとえば牛乳1kg の中で原子核壊変が毎秒20回おこって放射線が放出されるとき、「この牛乳にふくまれている放射性物質の量は1kg 当たり 20 Bq(ベクレル)だ」といいます。Bq(ベクレル)は、発生する放射線の強さに注目してあらわした「放射性同位体の量」です

一方、Sv(シーベルト)という単位があります。これは、「生体が放射線から受けたダメージの程度」(専門的には線量当量といいます)をあらわす単位です

福島原発事故のあと次のような報道がありました。「通常、人が1年間に受ける放射線量は1〜2 mSv(ミリシーベルト)であるが、きちんと管理された状態で職業として放射線作業に従事する人が受けてもよい限度は1年間に 50 mSv までと定められている。しかし今回、緊急事態ということで、この限度を 250 mSv まで引き上げることになった」。

このような単位と限度値を知っていればニュースもよく理解でき、身をまもるために役立ちます。




現在の日本政府は原発を再稼動させようとしていますが実際には危険が非常に大きいです。

  • 濃度の高い放射性同位体をかぎられたせまい場所で使用しています。
  • 炉が損傷した場合には放射性同位体がはげしく放出されます。
  • 放出された放射性同位体が化学反応によって多種類の放射性物質を生成します。
  • 放射性廃棄物はどのように処理するのでしょうか?
  • 事故がおこった場合の処理のときにも放射性物質と常に接しながら作業をしなけらばなりません。

実際に事故が起こってから「想定外」と言っても何の解決にもなりません。

わたしたちは、原発廃止、新エネルギーへの転換へむかってすすんでいかなければなりません。そのためには原子力とそのエネルギーに関する正しい科学的知識を国民一人一人がまずは身につけなければなりません。本書が役立ちます。


▼ 引用文献
小谷正博・小林秀明・山岸悦子・渡辺範夫著『原子力災害からいのちを守る科学』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2013年2月20日
原子力災害からいのちを守る科学 (岩波ジュニア新書)


大津波は日本列島をくりかえしおそってきます。大津波の歴史記録から教訓をまなび、未来の防災にいかしていかなければなりません。
伊藤和明著『日本の津波災害』(岩波書店)は、『日本書紀』に記された最古の津波から2011年の東日本大震災まで印象的なエピソードをまじえながら津波災害をたどっています。いわば「津波の日本史」がここにあります。

日本列島の沿岸はどこでも大津波が襲来する可能性があります。過去の記録から教訓をまなびとることはとても重要なことです。


目 次
第1部 歴史に見る日本の津波災害
 第1章 古代の津波災害
 第2章 三陸沿岸を襲った大津波
 第3章 南関東沿岸の津波災害
 第4章 南海トラフ巨大地震と津波災害
 第5章 日本本海沿岸を襲った大津波
 第6章 沖縄・八重山列島を襲った大津波
 第7章 山体崩壊が起こした大津波
 第8章 太平洋を渡ってきた大津波

第2部 災害の記憶を後世に
 第9章 「稲むらの火」と防災教育
 第10章 3・11超巨大地震と大津波災害
 第11章 三連動地震に備えて


日本最古の津波の記録は『日本書記』にのっています。それによると、天武天皇13年(西暦684年)に起きた大地震のあと、四国の沿岸に大津波がおそいかかってきたことがわかります。これは、南海トラフ巨大地震の最古の記録であり、のちに「白鳳(はくほう)大地震」と命名されました。

東北地方の大津波の最古の記録は平安時代の歴史書『日本三代実録』に乗っている「貞観(じょうがん)地震」です。貞観11年5月26日(869年7月13日)に東北地方で大地震がおきました。そして仙台平野が大海原になるほどの大津波が襲来しました。

近年、東北地方沿岸の地層中の砂の層を調査した地質学者がいました。砂の層は、大津波によって海岸の砂が内陸部まではこばれてきて堆積したものです。その結果、貞観の大津波は、2011年の東日本大震災のときの大津波と大変よく似ていたことがあきらかになりました。

さらに調査をすすめたところ、過去3000年ほどのあいだに貞観津波に匹敵する大津波が3回おしよせていて、その発生間隔は800年から1000年ぐらいだったことがわかりました。

実は、おどろくべきことに、このような地質学的研究成果は東日本大震災よりも前に得られていました。 そしてそろそろ大津波がやってくるのではないかと警告を発していた地質学者もいました。

しかしその警告は広報されることはなく、予想は現実になってしまいました。 過去の教訓がいかされないまま大災害に見舞われてしまったのは大変残念なこととです。




その他、南関東沿岸、南海トラフ巨大地震、日本本海沿岸、沖縄・八重山列島、山体崩壊がおこした大津波、太平洋をわたってきた大津波について過去の記録が具体的に紹介されています。自分が暮らしている地域について本書の記述を読んで教訓を防災にいかすようにしなければなりません。




津波に関する注意点として次の2点があります。
  • 地震の揺れが大きくなくても大津波が襲来することがあります(このような地震を「津波地震」といいます)。
  • 津波が襲来する前に、海水が引くのではなく、いきなり押してくることもあります。「津波の前にはかならず海水が引く」わけでなないので注意が必要です。「引き」ではじまるか、「押し」ではじまるかは地震の発生の仕組みや海底地形などによって左右されます。




1983年5月26日におきた日本海中部地震の際、男鹿半島の加茂青砂海岸へ遠足にきていた小学生13人が、津波にながされて死亡するというかなしい出来事がありました。あとで、「海岸で地震を感じたらなら、津波が来ると予想しなければいけなかった」という批判がでました。学校教育のなかで大津波についてはとりあつかうことはなく、教師に認識がなかったということです。

しかし戦時中から戦後にかけてつかわれていた尋常小学校の国定教科書には「稲むらの火」という大津波に関する教材がのっていました。海辺の村の老人が、村人全員を高台にあつめ、津波から命をすくったという物語です。




今後の大津波対策として、大津波の教訓をあらためて教科書にのせる必要があります。これは、地震や津波のメカニズムを解明したりそれらを予知しようすることとは別の話です。人命をまもるために、具体的・実際的にどうすればよいのか、どう行動すればよいのかということであり、理屈は後回しでよいのです。

地震や津波というといわゆる地震学者がすぐにでてきて理屈を言ったり、決っしてできないのに予知ができるみたいなことを言って政府と国民を大いに混乱させます。地震学者の言動は間違っていることが多く役に立たないので、それらにはとらわれずに具体的な行動計画を立てることが必要です。

本書の冒頭に、津波の砂の堆積層を研究した地質学者の話がでていました。このような地質学者の研究に注目すれば、過去の大津波がどこまで遡上していたのかがわかります。避難場所はそこよりも高いところにしなければなりません。

巨額な予算をふりまわしている地震学者にくらべて地質学者は地味で脚光をあびることはなく、警告を発しても無視されるのが普通ですが、地震学者よりも地質学者の方が確かなことを言っています。この点にも注意するとよいでしょう。


▼ 引用文献
伊藤和明著『日本の津波災害』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2011年12月20日
日本の津波災害 (岩波ジュニア新書)


富士山とその周辺をしらべると、富士山は活火山であり、大きな噴火を繰り返していることがわかります。


『富士山』(ニュートンプレス)は、富士山の噴火史を知るツアーガイドを掲載しています。富士山の噴火の仕組みと歴史について理解がふかまります。普通の観光とはちがう旅をたのしむことができます。アクセス方法も記載されています


1. 西湖コウモリ穴
最大規模の溶岩洞窟が見られます。

2. 本栖湖の溶岩
富士山の山麓には巨大な湖がもともとありましたが、噴火にともなう溶岩流により、本栖湖・精進湖・西湖に現在はわかれています。

3. 白糸の滝
古富士火山時代の泥流と新富士火山による溶岩流の境目からわきでる水による滝です。

4. 御中道
富士山中腹の森林限界線にそった小道です。

5. 水ヶ塚公園
富士山中腹で噴火した宝永山と宝永火口がよく見えます。

6. 宝永火口の岩脈
マグマが、岩の割れ目にそって地下でかたまった岩脈を見ることができます。

7. 山頂火口の虎岩
富士山の山頂火口の中にある奇岩です。平安時代からあります。

8. 御庭・奥庭
昔の火口を見ることができます。

9. 夏狩湧水群
「平成の水百選」にもえらばれた湧水による滝です。

10. 河口湖の溶岩
およそ1万年前に起きた噴火によるふるい溶岩を見ることができます。


でかけるときには気象庁の噴火警戒・予報を事前にチェックしてください。
気象庁 噴火警戒・予報 >>



富士山は、ここ10万年で現在の大きさまでに成長しました。体積にして約500立方キロメートルの溶岩を放出してきました。これは琵琶湖の貯水量のおよそ20個分です。
 
富士山は、つぎの3枚のプレートがかさなりあっている世界でも非常にめずらしい大きな変動地域に位置しています。
  • 北アメリカプレート
  • ユーラシアプレート
  • フィリピン海プレート

富士山の下にしずみこんでいるフィリピン海プレートは、富士山の下では東西に裂けたような状態になっていて、そこからマグマが大量に上昇してくると想像されています。

富士山の地域は、地球のエネルギーが極端に集中している場所です。世界最大級の "パワースポット" とよんでもよいでしょう。このような場所に存在する大きなエネルギーは、うつくしい絶景をうみだすと同時に大きな災害も発生させます。うつくしさと脅威とは表裏一体になっています。そもそも "パワー" にはそのような二面性があるのでしょう。


▼ 引用文献
『富士山』ニュートンプレス、2015年10月20日
Newton 富士山: 10万年の噴火史が刻まれた奇跡の独立峰

▼ 関連記事
富士山の大噴火にそなえる(1) -『富士山大噴火』(ニュートンプレス)-
富士山の大噴火にそなえる(2) -『富士山』(ニュートンプレス)-
噴火は繰り返すことを知る -『富士山』(ニュートンプレス)-


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火山が噴火したときの備えとして火山灰に対する対策(降灰対策)も必要です。火山噴火による降灰は地震や津波にはない別種の災害をもたらします。

『富士山』(ニュートンプレス)は、富士山の噴火の仕組みと歴史、噴火への備えについてイラストをつかって解説しています。

火山噴火に関しては、気象庁の「噴火警戒・予報」をたえずチェックし、避難の必要があるときにはすみやかに避難するようにします。火砕流などが発生した場合、逃げる以外に道はありません。

気象庁 噴火警戒・予報 >>


火山噴火では火山灰も噴出します。火山灰もさまざまな災害をもたらします。特に人体への悪影響をふせがなければなりません。防塵マスクと防護メガネ(ゴールグ)が必要です。

本書には、「火山噴火前に準備しておく物品リスト」がしめされていましたので紹介しておきます。


火山噴火前に準備しておく物品リスト
  • 防塵マスク
  • 防護メガネ(ゴーグル)(降灰時には、コンタクトレンズはつかわないようにする)
  • 最低3日分の飲料水
  • 最低3にち分の保存食
  • ラップ(家電製品に火山灰が入らないようにするため)
  • ラジオ
  • 懐中電灯
  • 毛布
  • 衣類
  • 医薬品
  • 清掃用具


今なぜ、警戒すべきなのか? それは、富士山がいつ噴火してもおかしくない状況だからです。したがって噴火に対する十分な備えが必要です。

『富士山大噴火』(ニュートンプレス)は、富士山大噴火についてイラストをつかってわかりやすく解説しています。


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富士山が噴火した場合、時速約100キロで移動する灼熱の火砕流が山麓さらに東海道にまでおよぶ可能性があります。大規模な山体崩壊がおこるかもしれません。噴火したら逃げるしかありません。

火山灰もふりつもります。火山灰は首都圏にまでとんできます。1707年の「宝永大噴火」では、噴煙柱を約20キロメートルまで噴きあげ、100キロメートル以上はなれた江戸にまで大量の火山灰を2週間にわたってふりつもらせました。そのような場合、交通が麻痺したり、有毒ガスの成分がライフラインや精密機器を破壊します。火山灰は、先端が鋭利なガラス質のものを多くふくんでいるので、吸いこんだり目に入れないように注意しなければなりません。防塵マスクとゴーグルをいまから用意しておくとよいでしょう。

噴火予知を期待している人もいますが、噴火の日時を予知することはできません。しかし気象庁が「噴火警戒レベル」(注)を公表しているので、気象庁の発表につねに注意をはらうようにします。そしていつでも避難できるように準備をしておきます。避難生活は長引く可能性があります。



 
火山噴火は地震と同様、地下ふかくにあるプレートのはたらきによってひきおこされます。火山噴火は巨大地震と連動しています。2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震がおこってから、日本の火山の代表・富士山に注目があつまっています。

富士山はれっきとした活火山です。

たとえば869年には東北地方で大地震が発生しました。「貞観大地震」(マグニチュード8.5程度)です。この5年前の864年には富士山が噴火しています。「貞観大噴火」とよばれます。

また1703年には「元禄関東地震」(マグニチュード8.2程度)が発生しました。その後、1707年10月28日には「宝永地震」がおこりました。そしてその49日後、1707年12月16日に「宝永大噴火」がおこりました。196年ぶりの噴火でした

そしてそれから約300年間、富士山はまったく噴火していません。そのため、富士山の地下では大量のマグマが蓄積されていて、噴火のポテンシャルは十分に高まっている状況です。そこに東北地方太平洋沖地震が発生しました。富士山はつぎの噴火の瞬間をまっています。

大地震がおきて地下の岩盤の歪みが解消されると地盤の圧力がさがり、マグマ中のガスが発砲するなどして噴火につながります。富士山はちかい将来に噴火することはまちがいありません。




火山活動には、地下でマグマをためる期間と、一気に噴火するという2つの現象があります。

  • マグマをためる期間:ながい時間をかけてエネルギーをたくわえる。ポテンシャルを高める。
  • 噴火:突然おこる。エネルギーを短時間で一気に解放する。大災害になる。

自然現象には、このような2つの種類がそもそもあることに気がつくことが重要です。自然とは、普段は静かでうつしいものですが、ある瞬間に激変して大きな脅威となります。

ある瞬間に激変する。本当の変化とは徐々に徐々に少しずつおこるのではなく、あるときに一気におこります。自然には飛躍があるのです。それが大災害になるわけです。



▼ 引用文献
『富士山大噴火』ニュートンプレス、2015年11月25日


▼ 注:気象庁
噴火警戒・予報
噴火警戒レベルの説明
富士山の噴火警戒レベル


▼ 関連記事
富士山の大噴火にそなえる(1) -『富士山大噴火』(ニュートンプレス)-
富士山の大噴火にそなえる(2) -『富士山』(ニュートンプレス)-
噴火は繰り返すことを知る -『富士山』(ニュートンプレス)- 






〈インプット→プロセシング→アウトプット〉のモデルをつかうと地球環境問題と自然災害とを統一的に理解することができます。
 

松原彰子著『自然地理学(第4版)』(慶應義塾大学出版会)は、地球環境問題と自然災害に力点をおいた自然地理学の入門書です。多様な情報が整然と整理されていてとてもわかりやすく、自然地理学の入門書として最適です。自然地理学といっても文科系の学生用教科書として企画されたようなので、数式などはつかわずに図表や写真をつかって誰が見てもよくわかる内容になっています。


目 次
1章 地球環境の変遷とその原因
2章 古気候・古環境の復元
3章 旧海水準および海岸線の復元
4章 年代測定の方法
5章 地球環境の諸問題(1)
6章 地球環境の諸問題(2)
7章 地震活動
8章 プレート境界で発生する地震(プレート境界型地震)
9章 活断層の活動によって発生する地震(活断層型地震)
10章 地震災害の実態と将来予測
11章 火山活動と火山災害
12章 水害・土砂災害
13章 人為的要因による災害
14章 身近な地形と人間活動


本書は、地球環境問題と自然災害の両者を概観できるのが最大の特色です。

地球環境問題では、地球温暖化・ヒートアイランド現象・オゾン層破壊・エルニーニョ現象/ラニーニャ現象・地球砂漠化・水資源問題・エレルギー資源問題について解説しています。

自然災害では、地震・津波・液状化現象・火山災害・水害・土砂災害・地盤沈下現象・海岸侵食について解説しています。




わたしはこれらの現象を整理するために下のモデルをえがいてみました。

160120 技術
図 自然災害はインプット、環境破壊はアウトプット



自然災害は、自然環境から人間社会にはたらく作用つまりインプットです。これはは不利益なインプットです。
 
環境破壊は、人間社会が自然環境にあたえる作用つまりアウトプットです。アウトプットが巨大化しすぎたために環境が破壊されています。

このモデルが本書にでているわけではありませんが、本書中の膨大な情報をこのモデルをつかって整理すれば、自然災害と地球環境問題とについて統一的・端的に理解することができます。

そして今日、自然災害を軽減するための技術と環境破壊をくいとめるための技術の開発がすすんでいます。これらの技術は、インプットとアウトプットを適切な状態に改善したりおさえたりするためのものであり、こうした技術は、人間社会と自然環境とのあいだに介在するものとして位置づけることができます。 

わたしたち人間は、このような技術を介して自然環境と今後かかわっていくことになります。こらからのあたしい時代の技術(テクノロジー)はこのように位置づけられるとかんがえられます。


▼ 参考文献
松原彰子著『自然地理学(第4版)』慶應義塾大学出版会、2014年5月8日
自然地理学(第4版)



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東日本大震災後にはじまった「森の長城」をつくる活動は防災と環境保全とを両立させるプロジェクトとして注目に値します。

「森の長城」プロジェクトの2015年次報告書がとどきました(注)。


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「森の長城」とは「災害からいのちを守る森の防潮堤」であり、植物生態学者の宮脇昭さん(横浜国立大学名誉教授)が提唱したものです。現在、東日本大震災の被災地沿岸部において「森の長城」をきずくプロジェクトがすすんでいてわたしも参加しています。

平成27年の活動は次の通りでした。
  • 植えた本数:81,600本
  • 参加した人数:10,257人

森の長城プロジェクトには年間を通して次ような活動の流れがあります。
  • 秋:採種
  • 冬:育苗
  • 春〜秋:植樹
  • 夏〜秋:育樹

今年の植樹祭の予定は次の通りです。
  • 3月27日:福島県南相馬市
  • 5月28日:宮城県岩沼市
  • 8月上旬:岩手県山田町
  • 9月ごろ:福島県相馬市


東日本大震災では、青森県から千葉県までの海岸線が地震と津波によって壊滅的な被害をうけ、防波堤もクロマツ防潮林もダメになってしまいました。

しかし被災したクロマツ海岸林ではトベラやマサキといった広葉樹が生きのこりました。東北地方の海岸では、タブノキやシロダモといった常緑広葉樹を中心とした森がのこりました。このような教訓から、津波をのりこえて生きる広葉樹が混生する森こそが地域にもっとも適した防潮林だとかんがえられています。

森の長城プロジェクト設立から4年目をむかえ、これまでに2万5千人以上の人々が20万本以上の苗木を植樹してきました。

森の長城プロジェクト >>


▼ 注
『公益財団法人 瓦礫を活かす森の長城プロジェクト 2015年次報告書』2015年12月発行

▼ 参考文献


プレートテクトニクスはこれからも継続的に機能するため、大地震や火山噴火はわたしたちをくりかえしくりかえしおそってきます。

是永淳著『絵でわかるプレートテクトニクス 地球進化の謎に挑む』(講談社)は大地震や火山噴火をひきおこすプレートテクトニクスについて解説しています。本書の副題にもあるように、プレートテクトニクスを地球進化の観点からとらえている点が興味ぶかいです。

目 次
第1章 地球はどんな構造をしているのか
第2章 プレートテクトニクスの発見
第3章 プレートテクトニクスはどのような現象か
第4章 プレートテクトニクスはいつはじまったのか
第5章 地球以外の惑星にもプレートテクトニクスはあるのか
第6章 プレートテクトニクスと生命環境
第7章 プレートテクトニクスはいつか終わるのか
第8章 プレートテクトニクス理論のこれから

プレートテクトニクスが地球史においていつはじまったのかということはまだよくわかっていませんが、「冥王代とよばれる今から46億から40億年前にすでにはじまっていた」という説があります。

一方、プレートテクトニクスはいつ終わるのかという疑問に対しては10億年後と説明しています。

プレート運動がおこるためには、地下数十 km の深さまで海水がしみこんで地表近くのマントルがやわらかくなる必要があります。水がしみこむことによりマントルとプレートの粘性が十分に低くなり地球内部で対流がおこりプレートテクトニクスが成立するということです。

ところで星の進化により太陽は輝き(光度)を次第に増していきます。太陽の光度が上がると地球の気温は上昇して、海水は蒸発していずれなくなってしまいます。それが計算によると10億年後ということになります。

したがって10億年後にはプレートテクトニクスは機能しなくなり、大地震もなくなります。

しかしこれは、人類にとってはとてつもなく非常に長い時間です。人類にとっては、プレートテクトニクスはなくなることはなく今後とも機能しつづけ、大地震や大津波や火山噴火はくりかえしくりかえしこれからもおそってきます。

地震活動や火山噴火は継続して今後ともなくならない以上、わたしたちは後世の人々のことまでかんがえて対策をたてなければなりません。自分が生きているあいだは何とかなるだろうということではいけません。原子力発電所などはできるだけはやく廃止する必要があります。


本書の記述はやや専門的でむずかしいです。木村学・大木勇人著『図解 プレートテクトニクス入門』(講談社)を読んでみて、プレートテクトニクスについてくわしくさらにまなびたいとおもったら読んでみるとよいでしょう。


▼ 引用文献
是永淳著『絵でわかるプレートテクトニクス 地球進化の謎に挑む』講談社、2014年5月30日
絵でわかるプレートテクトニクス 地球進化の謎に挑む (KS絵でわかるシリーズ)

▼ 参考文献
木村学・大木勇人著『図解 プレートテクトニクス入門』(ブルーバックス)講談社、2013年9月20日
図解 プレートテクトニクス入門 なぜ動くのか? 原理から学ぶ地球のからくり (ブルーバックス)

▼ 関連記事
モデルをつかって理解する -『図解 プレートテクトニクス入門』-
グローバルな観点をもって課題にとりくむ
日本列島とその周辺域を俯瞰する -『海の底にも山がある! 日本列島、水をとったら?』-


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日本列島とその周辺域を俯瞰(大観)すると自分がくらしている地域をそのなかでとらえなおすことができます。

加藤茂・伊藤等 監修『海の底にも山がある! 日本列島、水をとったら?』(徳間書店)は、日本列島およびその周辺域のさまざまな視点からえがいた非常にすぐれた俯瞰図を多数掲載しています。本書にでている俯瞰図により日本列島とその周辺を簡単に一望することができます。

もくじ
第1章 海の中を探る
 地球のでこぼこはどうしてできる?
 長さ3850 km の深い溝
 (千島・カムチャッカ海溝〜日本海溝〜伊豆・小笠原海溝)
 巨大な海底山脈(伊豆・小笠原弧)
 深く平らな海底の盆地(北大西洋海盆)
 海溝に飲み込まれていく山(鹿島海山・襟裳海山)
 引きさかれた山脈
 (伊豆・小笠原弧/九州・パラオ海嶺/四国海盆)
 でこぼこだらけの高いがけ(南海トラフ)
 日本海は大昔は湖だった
 浅い海の細長いくぼみ(東シナ海)
 海水がこおる浅い海(オホーツク海)
 入り組んだ浅い海(瀬戸内海)
 浅くて入り口のせまい湾(東京湾)
 日本一深い湾(駿河湾・相模湾)
 たくさんの谷がきざまれた深い湾(富山湾)
 火山が爆発して広がった湾(鹿児島湾)

第2章 海のひみつ
 海の広さと深さ
 海には陸上の10倍以上の生き物がいる!?
 波と潮(目に見える海の動き)
 海の水は流れている
 海流と日本の気候
 日本に地震が多いのはなぜ?
 地震がおこす津波
 海を調べる技術
 海の水がふえないわけ(地球をめぐる水)

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本書をみると、日本列島周辺の海底地形から連続的に日本列島を俯瞰することができ、地球の変動帯に日本が位置していることがよくわかり、巨大地震や火山噴火からわたしたちは決してのがれることはできないことがよく理解できます。

またこのような俯瞰図をみると、自分の居住地域が変動帯のなかのどこに位置しているかを確認することができます。変動帯でおこる自然災害は巨大地震以外にも、火山噴火・津波・洪水・土砂災害などそれぞれの地域ごとにおこりやすいものがあります。つまり自然災害には地域性があります。地域性をつかむためにも俯瞰図(鳥瞰図)をまずは見ることがもとめられます。

日本とその周辺域を俯瞰し、自分がすんでいる地域をとらえなおし、そして防災・減災のための対策をたて準備をするとよいでしょう(下図)。


15112 俯瞰

図 俯瞰し、地域をとらえなおして対策をたて準備をすすめる


▼ 引用文献
加藤茂・伊藤等 監修『海の底にも山がある! 日本列島、水をとったら?』(ビジュアル地形案内1 海底地形)徳間書店、2015年2月28日
海の底にも山がある!: 日本列島、水をとったら? ビジュアル地形案内 海底地形 (日本列島、水をとったら?―ビジュアル地形案内)


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プレートテクトニクスのモデルをつかうと地球の様々な自然現象を短時間で統一的に理解することができます。

木村学・大木勇人著『プレートテクトニクス入門』(講談社)は、地球科学の基本モデルであるプレートテクトニクスについて一般の人むけに解説した入門書です。地球科学が発展してきた歴史を順をおって説明しているので読み物としてもおもしろいです。
 

目 次
1章 大陸移動説の成り立ち
2章 海洋底拡大説からプレートテクトニクスへ
3章 地球をつくる岩石のひみつ
4章 海嶺と海洋プレートのしくみ
5章 なぜ動くのか? マントル対流とスラブ
6章 沈み込み帯で陸ができるしくみ
7章 衝突する島弧と大陸のしくみ
8章 プレートテクトニクスと地震


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最近は、巨大地震や火山噴火の仕組みがテレビや新聞などで解説されるときに「プレート」という用語がかならずでてきます。

地球の表層は、硬い岩石の板がジグソーパズルのピースのように分かれて覆っており、その一つ一つをプレートとよぶ。

「テクトニクス」とは一般には構造を意味し、地球科学では地質構造や地殻変動のことをあらわします。

プレートテクトニクスは、大陸の移動、海洋底の拡大、岩石の形成、海溝や陸や高い山ができる仕組み、巨大地震、火山噴火などの実にさまざまな自然現象を統一的に説明することを可能にします。

またプレートはなぜうごくのかという疑問に対しては「プレートとマントルが全体として対流する」からであるとかんがえられています。

地球は内部に熱源をもち、表面にプレートという冷却システムをもつ一種のエンジンのように見立てることができる。

地球の内部から表層までを全体的にダイナミックにとらえることが重要です。

プレートテクトニクスは方法論的にいうと基本仮説でありモデルです。モデルは多種多量な情報を統合し、複雑な現象の本質を体系的に理解することを可能にします

体系的・直観的に物事を理解したり、ある分野を高速で学習するためにモデルが役立ちます。地球科学にかぎらずどの分野でもよくできたモデルがあるとおもいます。何かをまなぼうとおもったらよくできたモデルをさがしだして活用するとよいです。


▼ 引用文献
木村学・大木勇人著『図解 プレートテクトニクス入門』(ブルーバックス)講談社、2013年9月20日
図解 プレートテクトニクス入門 なぜ動くのか? 原理から学ぶ地球のからくり (ブルーバックス)


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「釜石の奇跡」と「大川の悲劇」のコントラストは、わたしたち日本人ひとりひとりに主体性が必要なことをおしえています。主体性が必要な時代への転換がはじまりました。
NHKスペシャル取材班著『釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち”を救えるのか?』(イースト・プレス)は、「自分の命は自分で守る」ことをおしえていますが、一方で「第二第三の大川小学校」がでてくる可能性も指摘しています。

大局的にみると日本人はつねに集団で行動する、みんなが同じようにふるまうといった傾向をもっています。ここには、「みんなとおんなじ」で安心できる安定志向の社会があります。

「みずから率先してやるのではなく、(先生や親あるいは上司から)言われたことをきちんとやろう!」という指導があり、こうした上の者の期待にこたえようと頑張る子供たちは今でもたくさんいます。みずから判断して主体的に行動すると「誰に言われてやったんだ?」と詰問されてしまいます。

このような様式が悪い方向にむかうと「大川の悲劇」つまり死ぬときもみんな一緒となり大災害となります。

「山に逃げよう!」と先生にむかってさけんだが・・・。大川小学校の生徒の声がわたしたちの心に永遠にひびきます。


しかし、東日本大震災が歴史的な大きな転換点になることはまちがいありません。「釜石の奇跡」と「大川の悲劇」はわたしたちひとりひとりに主体性が必要なことをおしえています。

防災教育は、生きかた教育に結局はなってゆきます。「大川」式から「釜石」式への転換は、日本人にとっては時間がかかるとおもいますが(あと20年ぐらい)、着実にすすんでいきます。日本人の行動様式が大きく変わる変革期にさしかかりました。主体性の時代への転換がはじまったといえるでしょう(注)。


▼ 参考文献
NHKスペシャル取材班著『釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち”を救えるのか?』イースト・プレス、2015年1月20日
釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち"を救えるのか? 


▼ 注:主体性とは
主体性とは主体から環境へむかう作用のことであり、主体性のある人とはみずから情報処理ができる人のことです。

主体は、環境とセットにしてとらえるとわかりやすいです(下図)。ある生活の場にある人がいるとすると、その人はその場の主体であり、その人の周囲には環境がひろがっています。その人(主体)は、環境から入ってきた(インプットされた)情報にもとずいてみずから判断し、能動的に行動するとき、その人には主体性があるといいます。つまりその人は適切な情報処理ができる人であり、このときの主体から環境へむっていく作用は主体性とよべます。

151022 主体性
図 主体性のある人とはみずから情報処理ができる人

これに対して、指示や命令にただしたがっているだけの人はインプットに支配されているだけで情報処理をおこなっていないので主体性がありません。


▼ 関連記事
自分の命は自分でまもる -『3.11が教えてくれた防災の本(1)地震』-
危ないと感じたら自分の判断ですぐに逃げる - 山村武彦著『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』-
想定やマニュアルにとられず、より安全な場所にすぐに避難する -『釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち”を救えるのか?』(1)-
「津波てんでんこ」と 避難三原則を実践する -『釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち”を救えるのか?』(2)-
東日本大震災の教訓をいかして自分の命は自分でまもる -『釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち”を救えるのか?』(3)-
津波の危険を感じたら「率先避難者」にみずからなる -『3.11が教えてくれた防災の本(2) 津波』-
二次災害について知る -『3.11が教えてくれた防災の本(3) 二次災害』-
自然災害はかならずやってくるという立場にたって避難訓練をする -『3.11が教えてくれた防災の本(4) 避難生活』-


自然災害はかならずやってくるという立場にたって定期的に避難訓練をし、防災・減災にとりくんでいかなければなりません。

『3.11が教えてくれた防災の本(4) 避難生活』(かもがわ出版)は『3.11が教えてくれた防災の本』シリーズ全4巻の最終巻です。教材としてとても有用です。

わたしたちは、大災害に遭遇したら避難生活をしいられます。本書をじっくりよんで避難とはどのようなことかしっかり想像し、そして避難訓練をすすめる必要があります。

目 次
避難生活のはじまり
 避難所とは?
 避難所の管理運営はだれがするのか?
 避難所に入りきれないときは?

避難所での生活で直面する問題
 食事はどうなるか?
 避難所のトイレや風呂の利用はどうなるのか?
 気になる健康管理は?
 避難所で、少しでも気持ちよく、くらすには?

避難生活はいつまでつづく
 避難所生活はいつまでつづくのか?
 いつ、学校は再開されるのか?
 いつ、もとの生活にもどれるのか?


■ 食料や水はわけあう
本格的な支援がはじまるまでは、備蓄してある食料や水などをみんなでわけあっていかなければなりません。また避難所の管理運営は基本的は、自治体職員と地域住民とで「避難運営委員会」を組織してあたります。


■ かぜなどをひかないようにする
マスクがあればマスクをしてかぜをひかないようにします。万が一かぜをひいてしまったときには、いちはやく医療担当者に報告することで感染をひろげないようにしなければなりません。つかえる水があれば、手洗いとうがいをこまめにします。


■ 避難所から仮設住宅へ
住む家をうしなった人は仮設住宅ができたらそこに入居することになります。仮設住宅が利用できるのは原則として2年間です。


■ 災害につよいまちをつくる
避難生活がおわった後のために、災害の教訓をふまえて災害につよいまちを再建しなければなりません。


本書を読んで、被災者の人々のことをすこしでも理解するとともに、自分が被災者になったときはどうするか、準備しておくようにします。

自然災害には、地震・津波・火山噴火・洪水・土石流・地滑り・崖崩れ・竜巻などのさまざまな形態がありますが、いずれもわたしたち人間をとりまく自然環境の突発的な異変あるいは大変動であるわけです。大災害は地域に深刻な影響をおよぼし、被災者の生活と人生を変えてしまいます。それはふせぐことはできず受けいれざるをえません。

このような自然災害は環境から人への大きな作用とみなすことができます。この作用におそわれた場合は、正しい情報をまずは収集し、主体的に判断をしなければなりません。

そしてその判断にもとづいてすみやかに行動しなければなりません。大災害だった場合には避難生活がつづくことになります。そしてつぎに、教訓をいかして災害につよいまちづくりをすすめることになります。土地改良・堤防建設・高台への移転などの難事業がつづきます。このような居住環境の改善は人から環境への作用ということになります。

これらのことをモデル化すると下図のようになります。


151021 自然災害

図 環境から人への作用と人から環境への作用



環境から人への作用は「インプット」、その逆の人から環境への作用は「アウトプット」とよんでもよいでしょう。判断とはプロセシングをすすめるということです。

自然災害は突然むこうからやってきます。わたしたち日本人は、日本列島という変動的な環境のなかで今後とも生きていかなければならない以上、来るものは来るという立場にたって常日頃からそなえ訓練をしておかなければなりません。



▼ 引用文献
片田敏孝監修『3.11が教えてくれた防災の本(4) 避難生活』かもがわ出版、2012年3月31日
3.11が教えてくれた防災の本〈4〉避難生活

▼ 関連記事
自分の命は自分でまもる -『3.11が教えてくれた防災の本(1)地震』-
津波の危険を感じたら「率先避難者」にみずからなる -『3.11が教えてくれた防災の本(2) 津波』-
二次災害について知る -『3.11が教えてくれた防災の本(3) 二次災害』-





大地震にひきつづいておこる二次災害にそなえて非常用持ち出しセットをあらかじめ用意しておきます。

片田敏孝監修『3.11が教えてくれた防災の本(3) 二次災害』(かもがわ出版)は、災害発生後の二次災害にいかにそなえればよいか、東日本大震災の教訓をふまえて解説しています。子供用の本ですが大人も読む必要があります。二次防災のための教材としてとても有用です。

目 次
地震発生直後の二次災害にそなえよう
 避難のときに注意が必要な二次災害は?
 避難するとき、最低限必要なものは?
 屋外で過ごす場合に注意することは?
 身の回りのもので、避難のときに役立つものは?

二次災害を生きぬく知恵をもとう
 地域に原子力発電所や石油コンビナートがあったら?
 避難したあとにおきる、ガスと電気の二次災害とは?
 地震による火災で注意することは?
 帰宅困難者になったら…?

こんなことも二次災害?
 なぜ計画停電がおこなわれたのか?
 風評被害ってなんだろう?


■ 放射線をできるだけあびないようにする
ちかくに原子力発電所があって放射能もれがおこった場合には、放射線をあびないよう(被爆しないよう)にしなければなりません。それには外出しないことが一番です。

しかしいつまでもそうは言ってはいられません。外出が必要なときにはつぎのようにします。
  • マスクをして放射性物質をとりこまないようにする。
  • 外から家にはいるときには服をぬいでからはいる。
  • そしてシャワーをあびる。

ただしこれで体内被曝がふせげるわけではありません

福島第一原子力発電所の事故によって放出された放射性物質は周辺地域を汚染し、大変な二次災害をもたらしました。放射性物質は200kmから300kmもはなれた地域にもひろがり、農作物の出荷は停止され、学校の校庭もつかえなくなりました。
 
17の原子力発電所が日本には現在あります。原発事故がおこった場合は二次被害はふせげません


■ ひとりひとりが正しい情報を入手し風評被害をふせぐ
災害のあとに事実ではないことがうわさとしてながれ、人から人へとつたわるうちに、いつの間にか事実のようになってひろまってしまうことがあります。こうしておこる被害は風評被害とよばれます。

福島第一原子力発電所の事故による風評被害は、被災者のうけいれ拒否によって被災者の心を傷つけたり、農業や漁業や観光業などに大打撃をあたえました。

風評被害をふせぐためにはひとりひとりが正しい情報を常に入手し、情報の確からしさをチェックするようにします。


■ 水と非常食をあらかじめそなえておく
家族全員が3日間いきぬく量の水と非常食を用意しておきます。賞味期限がちかづいたものは食べ、その分あたらしいものを買って補充するというサイクルを実行します。


■ 非常用持ち出しセットをそなえておく
水、非常食、懐中電灯、携帯ラジオ、医薬品、軍手、マスクなどを入れたリュックサックをそなえておきます。

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■ エコノミークラス症候群をふせぐ
自動車のなかに避難する場合には、エコノミークラス症候群をふせぐために定期的に体をうごかして水分を補給します。


■ 地震後にはガス栓をしめ、電気のブレーカーをきる
電気が復旧したときに、ガスもれ爆発や火災の発生をふせぐために、地震後にはガス栓をしめ、電気のブレーカーをきっておきます。


二次災害のなかでもっともおそろしいのはいうまでもなく原発事故です。これについては本項で書ききれるわけもないですが、日本列島はどこでも大地震がおこる以上、二次災害としての原発事故もおこりえます。実は、活断層があるとかないとかといったレベルの話ではないのです。原発廃止にむかってすみやかにすすんでいくしかないでしょう。
 

▼ 引用文献
片田敏孝監修『3.11が教えてくれた防災の本(3) 二次災害』 かもがわ出版、2012年3月12日
3.11が教えてくれた防災の本〈3〉二次災害


 

津波の危険を感じたら、想定にはとらわれないで、すこしでもはやく、すこしでもより安全なところへみずから率先して避難しなければなりません。
片田敏孝監修『3.11が教えてくれた防災の本(2)津波』(かもがわ出版)は、大津波からいかに避難すればよいか、東日本大震災の教訓をふまえて解説しています。子供用の本ですが大人も読む必要があります。津波防災のための教材としてとても有用です。

目 次
津波のメカニズムを知ろう
 津波がおきるときはどういうときか?
 津波はどのようにしてやってくるのか?
 上陸後、津波の高さや速度が上がる?

津波の巨大なエネルギーを知ろう
 津波はどれくらいの高さになるのか?
 津波の力はどれくらいあるのか?
 津波は外国からもおし寄せる?

津波警報が出されたら
 津波警報を聞いたらどうするのか?
 津波警報が出された時間は?
 どこへ避難するのか?
 「つなみてんでんこ」とは?

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■ 最初に「引き波」があるとはかぎらない
 津波の第一波は、いきなり高い波が押しよせる「押し波」の場合もあれば、いったん海水が沖に引く「引き波」の場合もあります。
 第一波が「押し波」であることもあるので、「引き波」があるかどうかを海岸に確認しに行ってはいけません。すぐに高台に避難しなければなりません。
 

■ 第二波・第三波のほうが高い場合がある
 津波は時間をあけて第二波、第三波とやってきます。第二波、第三波のほうが第一波よりも高いことがあるので、第一波がおわってから自宅にもどったりすることはせずに高台に避難しなければなりません。


■ 湾や入り江では速度をはやめ、高くもりあがる
 津波は、湾や入り江にはいると速度をはやめ高くなります。湾や入り江は奥にいくほどせまくなっているからです。湾や入り江付近に住んでいる人は、すみやかに高台に避難しなければなりません。


■ 津波は川をさかのぼる
 津波は河口から川をさかのぼります。川幅がせまいところにさしかかると高さを増し、速度をはやめます。内陸の奥地にまで到達することがあるので川の近くは危険です。川の近くに住んでいる人もすみやかに高台に避難しなければなりません。
 

■ チリから津波がやってくることもある
 1960年5月、南アメリカのチリで大地震がおき津波が発生、約23時間かけて太平洋を横断して日本に到達、大きな被害をもたらしました。外国でおこる津波にも警戒しなければなりません。

 
■ ゆれが小さくても大津波がおきることがある
 1896年の明治三陸地震では陸地の震度は2から3でしたが、三陸海岸に 10m の津波がおしよせ、2万2千人の死者・行方不明者をだしました。ゆれが小さくても大津波が襲来することがあります。油断してはいけません。
 

■ 過去の記録は参考にならない
 東日本大震災では、過去に記録した津波の高さを基準にしてつくられた防潮堤がことごとく破壊されてしまいました。過去の記録は参考にせずに最悪の事態にそなえてすこしでも高い所に避難しなければなりません。


■ 津波の高さは予測できない
 東北地方太平洋沖地震のとき、気象庁から発表された津波警報(岩手県の例)はつぎのとおりでした。

2011年3月11日 岩手県 
14:49 3 m
15:14 6 m
15:30 10 m 以上
16:08 10 m 以上
18:47 10 m 以上
21:35 10 m 以上
22:53 10 m 以上

最初の予測は「3m」、つぎの予測は「6m」でした。つまり気象庁は、かなり低いまちがった数値を発表してしまいました。このため多くの人々が油断をして命をおとしました。

そして「3m」から「10m 以上」へと修正するまでに実に41分もかかってしまいました。しかも「10m 以上」というのは 10m なのか 15m なのか 20m なのかわかりません。まったくわかりにくく無責任な発表でした。

つまり東日本大震災は津波の高さは予測できないことを証明しました。したがって津波の危険を感じたら予測・予知はできないという前提にたってすみやかに高台に避難しなければなりません。

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■ 「つなみてんでんこ」
 「つなみてんでんこ」とは、「津波がきたら、てんでんばらばらに、家族のことさえ気にせず、ひとりで避難せよ」という三陸地方の言い伝えです。
 大地震がおこったら、てんでんばらばらでよいので、家族の様子を見に行くことなく、ひとりひとりが主体的にすこしでも高い所に避難します。自分の命は自分自信で責任をもってまもります。


■ 率先避難者になれ!
 想定やハザードマップにはとらわれずに、行政や専門家がさだめた避難場所よりもさらに高い所へむかって、最善をつくしてみずから率先して避難しなければなりません。

「津波がくる」といって真っ先に避難する中学生を見て、小学生がその後を追って学校の外に避難し、その避難する子供たちを見て、近所の大人たちもつられて避難した。その結果、多くの命が救われた。

これはあとで「釜石の奇跡」とよばれた事例です。

行政や専門家の避難指示をまっていたり、行政や専門家がさだめた指定避難場所で安心するのではなく、すこしでもはやく、すこしでもより安全な所へみずから率先して避難しなければなりません。必要なのはひとりひとりの主体性であり、行政や専門家や集団に依存することなく、自分の命は自分でまもります。これは津波にかぎらず土砂災害や水害などのあらゆる災害に対していえることです。


▼ 引用文献
片田敏孝監修『3.11が教えてくれた防災の本(2) 津波』かもがわ出版、2012年2月12日
3.11が教えてくれた防災の本〈2〉津波


想定や行政や教師や教授がどうのこうのということではなくて、東日本大震災の教訓をいかして自分の命は自分でまもる道を選択しなければなりません。
『釜石の奇跡』(イースト・プレス)には「小学校の防災対策が地域に呼んだ波紋」(215ページ)という事例も掲載されています。

伊勢湾に面する三重県明和町では、南海トラフ巨大地震がおきた場合、理論上、最大 6.92 メートルの津波がおしよせると想定された。

町が示した避難場所を目指すのではなく、「学校の屋上にあがる」という、独自の津波避難の方針を決めた大淀小学校。13.5 メートルほどの高さがある。

津波の後、孤立する可能性はあるが、その対応は可能なため、いのちを守ることはできるという判断だった。

この明和町立大淀小学校(兒島敏昭校長)は、愛知県立大学の清水宣明教授の助言によって、学校の屋上を「一時避難場所」としました。屋上は13.5メートルの高さがあるとのことです。

しかしながら、想定をこえた 15 メートルあるいはそれ以上の高さの津波がきたらどうするのでしょうか。

万が一、屋上まで水が押し寄せた場合に備え、子供たちが流されないようにと、フェンスの三〇ヵ所に体をむすびつけるロープを設置した。

まったく馬鹿げた話です。東日本大震災の教訓がいかされていません。「釜石」式を採用すべきであり、「大川」式は選択してはいけません。死ぬときも みんな一緒ではなくて、一人でも多くの人が生きのこる道をえらばなければなりません。そのときがやってきました。

けっきょく、想定や行政や教師や教授がどうのこうのということではなくて、自分の命は自分でまもらなければなりません。


▼ 引用文献
NHKスペシャル取材班著『釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち”を救えるのか?』イースト・プレス、2015年1月20日
釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち"を救えるのか? 


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