発想法 - 情報処理と問題解決 -

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タグ:環境保全

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バクタプル

ネパールのカトマンドゥ盆地内にはかつての都市国家の面影をのこす3都市があります。都市国家の構造は環境保全のモデルとしてつかえます。

世界各地の都市国家はほとんどが遺跡になり往時の姿をうしなっているのに対し、ネパール・カトマンドゥ盆地内にあるカトマンドゥ・パタン・バクタプル(とくにバクタプル)の3都市は当時の様子をとてもよくのこしていて、世界遺産に登録されています。

これらは中心に都市があり、その周囲に耕作地(農地)がひろがり、さらにその周辺に山・川・森などの自然環境がひろがっています。これは下図のようにモデル化することできます。都市と自然環境とがつくりだす「主体-環境系」になっています。
150620 都市国家の構造
図 都市国家と自然環境がつくりだす「主体-環境系」のモデル


都市は自然環境から恩恵をうけ、一方で都市は自然環境にはたらきかけ環境を改良していきます。このような都市と自然環境との相互作用によって耕作地が生まれました。都市国家の時代にはこのような相互作用がとてもうまくいっていて環境が保全され、全体のシステムが維持されていました。

都市国家の機能は今日ではうしなわれていますが、この都市国家のモデルは環境保全のモデルとして現代に役立ちます。都市と自然環境とにあいだに、かつての耕作地のような緩衝帯をもうけることがポイントです。

2015年4月のネパール大地震でカトマンドゥ・パタン・バクタプルの旧都市国家(世界遺産)も大きな被害をうけましたが、今後、再建のために努力していきたいとおもっています。




国立科学博物館で「大アマゾン展」が開催されています(会期:2015年6月14日まで)。アマゾンあるいは自然の多様性を知ることができる貴重な機会になっています(注1)。

これに関連しておもしろい本があります。伊沢紘生著『アマゾン探検記』です。密林がどこまでもつづく秘境アマゾン。その人跡未踏の奥深くに著者の伊沢さんが入っていったときの最初期の体験がつづられています。

目 次
案内人ホボ
“人食い魚” ピラニアの話
老学者の心配
ある男の人生観
アマゾンに生きる
少年

猟師

ジャングル生活
娘の心
息子と父
ナマケモノはなぜなまけ者か
威風堂々空を飛ぶ
チョウを捕る

裸族訪問
南で、北で
密林の道
ひからびたジャガイモ
緑の魔境の楽しみ方

巨大なジャングルでくらしながら、そこで出会った原住民との交流、さまざまな鳥獣虫魚の観察、釣りのたのしみなどを新鮮な目でとらえています。このようなゆたかな自然をとおしてアマゾン生態系の全体観を感じとることができます。

そしてアマゾンのジャングルには、この大自然のなかで環境と一体になって生活している人々がいました。

今なお西洋文明の影響をうけず、あるいはうけるのを拒絶して、裸で生活する原住民インディオと接触する機会は、長いアマゾン滞在中でもわずかしかなかった。

私の心に強烈な印象を残したものがあった。彼らが、自らの裸身にほどこした鮮やかなペインティングである。

あるときは、闊歩するジャガーのごとく、あるときは、舞うモルフォのように、いずれかの色のいずれかの線や円が、豊かな筋肉の動きに同調し、人を環境に埋没させ、また環境から引きたてた。

環境のなかにとけこみ、一方で環境に対して主体性を発揮する。これが人類の本来の生き方だったのではないでしょうか。

本書が出版されたのは1983年でした。今ではもうこのような人々は地球上にはいなくなったかもしれません。人類の本来の姿がここにはのこっていたのであり、今となっては大変貴重な記録です。

▼ 引用文献
伊沢紘生著『アマゾン探検記』どうぶつ社、1983年12月22日
アマゾン探検記

▼ 注2
伊沢紘生著『アマゾン動物記』とあわせて読んでみると理解がふかまります。
アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-

▼ 追記
著者の伊沢紘生さんは、本書に記載されているような過程をへて、このあと、サル類の研究をふかめていったことがよくわかりました。

▼ 関連記事
アマゾンの多様性を大観する - 国立科学博物館「大アマゾン展」(1) -
アマゾンを歴史的時間的にとらえる - 国立科学博物館「大アマゾン展」(2) -
アマゾンの多様性をメモする - 国立科学博物館「大アマゾン展」(3) -
アマゾンのサルの多様性をみる - 国立科学博物館「大アマゾン展」(4) -
生態系の階層構造をとらえる -「大アマゾン展」(5) -
人類の本来の生き方を知る - 伊沢紘生著『アマゾン探検記』-
アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-
さまざまな種がすみわけて生態系をつくっている - 伊沢紘生著『新世界ザル アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』-
自然環境と共生して生きている人々がいる - アマゾン展 -


『はじめての野外活動』は、野山あるき・野外泊・火起こし・ナイフの使い方・ロープワークなど野外活動の基本をイラストと写真をたくさんつかってわかりやすく紹介した野外活動ガイドブックです。野外活動をたのしむだけでなく危険への対処法など災害時にも役立つノウハウも満載されていてとてもためになります。

目 次
1章 野外を歩く
2章 野外で泊まる
3章 野外で火を起こす
4章 ナイフを使う
5章 野外で食べる
6章 野生の恵みを活用する
7章 ロープワークの基本を覚えよう
8章 とっさに身を守る
9章 野外の基本技を身につける

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類書の『楽しい自然ウォッチング』が自然観察に重点をおいているのに対して、本書は、野外活動やキャンプに重点をおいています。観察と行動は表裏一体の関係にありますので、両書をあわせて読んでみるとよいでしょう。 

なお、山で道に迷ったときにはどうするか。とくに引用しておきます。

特に下り道での道迷いに注意しよう
道に迷ったのでは?と感じたら地図とにらめっこして、必ず来た道を一旦戻ること。間違っても沢沿いに下ろうとしてはいけない。標高100m以下の低山でも必ず滝が出現して進退きわまってしまう。(28ページ)

道にまよったら元来た道をひきかえす。これが鉄則です。



▼ 引用文献
松本徳子企画・構成『はじめての野外活動 生きる知恵を身につける』
JTBパブリッシング、2012年3月15日
はじめての野外活動 (るるぶDO)

▼ 関連記事
身近なところから自然観察をはじめる -『楽しい自然ウォッチング』-
 

『楽しい自然ウォッチング』は、自然観察(自然ウォッチング)のためのガイドブック(入門書)です。写真が豊富で見ているだけでもたのしめます。身近な自然の見方から、次第にふかく自然に接する方向へすすむ構成になっています。

目次
第1章 街あるきで自然発見
第2章 命あふれる里山へ行こう
第3章 森の木を探検しよう
第4章 海遊び 川遊びを楽しもう
第5章 鳥たちに会いに行こう
第6章 畑で野菜をつくろう
第7章 気象と季節の歳時記


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街のなかにある自然からはじまり、周辺にある里山、もっととおくの森、さらに海や川、動物たちの観察、気象や季節の観察というようにすすんでいきます。巻末には自然観察ができる全国の森のリストがでています。

街のなかでは「マイツリー」を決めて定点観察をすることを提案しています。季節のうつりかわりがつかめます。また里山は、自然体験のためにとくにおすすめです。休日にでかけてみるとよいでしょう。

本書のすべてにとりくむ必要はありませんので、自分の興味がある分野をピックアップして、まずは自然に接して、自然に対する感性をみがくようにするとよいです。


情報処理の観点からみると自然観察とは目をつかって自然から情報をとりいれること、自分の意識のなかに自然の情報をインプットすることです(図1)。感性をみがくとはインプット能力を高めることです。これには理屈ではなく実践的なとりくみが必要です。身近なところから自然観察を是非はじめてみてください。

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図1 自然観察とは自然から情報をインプットすること



▼ 引用文献 
松本徳子企画・構成『楽しい自然ウォッチング』JTBパブリッシング、2012年4月1日
楽しい自然ウォッチング (るるぶDO)

▼ 関連記事
里山のモデルをつかって大阪の自然誌をとらえる - 大阪市立自然史博物館 -
日本の原風景をみる - 青柳健二『行ってみたい日本人の知恵の風景74選』-


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本多勝一著『極限の民族』をよむと、イニュイ民族(カナダ=エスキモー)、ニューギニア高地人、アラビア遊牧民のそれぞれの民族について知ることができます。それは同時に、彼らの生活様式と彼らをとりまく自然環境を理解することでもあります。

それぞれの民族はそれぞれに知恵をはたらかせて、衣服や道具や家をつくりだし、狩猟や牧畜の方法を開発して、その地域独自の自然環境に適応して生活していました

民族(人間)と自然環境とのあいだには相互作用があり、その相互作用のなかから衣服や道具や家や方法などの生活様式が生まれてきたということを読みとることができます(図1)。

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図1 民族と自然環境との相互作用により独自の生活様式が生まれた。


このように民族と生活様式と自然環境とをセットにしてひとつの体系(システム)としてとらえるとわかりやすいです。
 
そしてこの体系においておこっている相互作用は、自然環境から民族への作用と、民族から自然環境への作用という方向のちがう2種類の作用がみとめられます。自然環境から民族への作用は「インプット」民族から自然環境への作用は「アウトプット」とよぶこともできます(図2)。

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図2 民族と自然環境とのあいだでインプットとアウトプットがおこっている。


これらの作用をとおして情報の流れがおこり、それぞれの民族は無意識のうちに「プロセシング」をおこなって知恵をはたらかせて生活様式を開発してきたといえるでしょう。つまり、知恵をはたらかせるとは情報処理をおこなうことだといいかえることができます。

このように「民族-生活様式-自然環境」をひとつの体系(システム)とみなして本書を読みなおしてみると、一見複雑でわかりにくい「異民族」の世界がよく整理されて理解しやすくなるとおもいます。


▼ 引用文献
本多勝一著『極限の民族』(本多勝一集 第9巻)1994年2月5日
極限の民族 (本多勝一集)  

▼ 関連図書


▼ 注
人がおこなうアウトプットとはプロセシングの結果を顕在化させることであり、書いたり話したりすることだけでなく、表現したり、つくったり、生みだしたり、成果をあげたり、行動したりすることもアウトプットであるととらえることができます。

▼ 関連記事
3つの民族を比較しながらよむ - 本多勝一著『極限の民族』(1)-
極端を知って全体をとらえる - 本多勝一著『極限の民族』(3)-


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写真1 大阪市立自然史博物館の入り口

大阪市立自然史博物館では、自然の歴史、地球の歴史についてまなぶことができます。特に、第2展示室では、化石を見ながら、地球と生命の歴史についてくわしく理解することができます。

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写真2 第2展示室の化石展示

地球は、約46億年前に誕生しました。

約35億年前になると、最初の生命が誕生しました。

地球の歴史は、動物の進化にもとづいて時代区分されています。それは、古生代、中生代、新生代となっています。

古生代の初めには、海にすむ生物の数や種類が飛躍的に増え、ほとんどの脊椎動物があらわれました。

中生代は、「恐竜とアンモナイト」の時代です。植物界では裸子植物の時代になりますが、中生代後半に入ると被子植物があらわれました。

新生代第三紀は「哺乳類の時代」とよばれ、哺乳類が大発展しました。

そして、新生代第四紀(約200万年前)になってからは、人類が大発展しました。

このような自然史については、博物館で化石などを実際に見ることによって、とてもリアルに具体的に理解することができます。


ところで、大阪市立自然史博物館の別館ネイチャースクエアには、「自然史」ではなくて「自然誌」の展示がありました。これらは似ているようで異なります。「自然史」が、時間的歴史的な見方をするのに対して、「自然誌」は、どちらかというと空間的な見方を重視します。つまり、つぎのような対応関係があります。

自然史:時間
自然誌:空間


そこで、大阪市立自然史博物館の別館ネイチャースクエアの「自然誌」の展示では、空間的な見方を意識し、本館第2展示室の「地球と生命の歴史」展示では、時間的歴史的な見方を意識することによって、一見、非常に複雑に見える自然の現象あるいは地学の知識をすっきりと整理することができます。このあたりがごちゃごちゃになっていると混乱が増してしまいます。

このように、空間的な見方と時間的な見方をよく整理して、そしてそれらを組みあわせることは、複雑なことを見通しよく理解することに役立ちます。


大阪市立自然史博物館 >> 


▼ 関連記事
里山のモデルをつかって大阪の自然誌をとらえる - 大阪市立自然史博物館 - 

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写真1 大阪市立自然史博物館のネイチャースクエアの入り口

大阪市立自然史博物館を先日みました。別館のネイチャースクエア「大阪の自然誌」の展示がとても充実していました。この部屋の展示は「自然史」ではなくて「自然誌」でした。特に、里山に注目することにより、大阪の人々と自然環境とのかかわりについて理解することができました。

このネイチャースクエアは、大阪にのこっている自然と人間とのかかわりをまなぶための部屋であり、大阪の海・川・水辺・平野・丘陵・山地などについて、そこで見られる生き物や地層を、また自然観察コースなどを具体的にしめしながら解説していました。

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写真2 展示室の内部


大阪も都市化がすすみ、特に、1960年代以降、丘陵地帯の開発いちじるしかったそうですが、それでも、いくらかの自然が細切れになりつつものこっています。

大阪府下の林は、クヌギ・コナラ・リョウブなどの落葉広葉樹に赤松がまじった林が多く、そこは、さまざまな植物や獣や昆虫が生息していて、里山になっていました。丘陵地帯には、薪をとる山・草地・ため池・田んぼ・社寺林などがくみあわさってできた里山が発達しました。

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写真3 里山の展示


かつて人々は、原生林をきりひらいて田畑や居住地として利用し、さらに、集落の周囲の林を、燃料や用材・肥料・山菜などをえるために利用してきました。自然のいとなみと人間のはたらきの調和によって里山は維持されていました。

近年では、こうした里山は利用されなくなりましたが、この博物館は、里山の意義をとらえなおして、のこされた里山を大切な林として保護し、後世にのこしていこうと活動をすすめているそうです。環境保全のために、里山があらためて注目されています。


このような里山をモデル(模式図)で簡略にあらわすとつぎのようになります(図1)。

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図1 人々と自然環境との相互作用により里山が生まれた

人々は、自然環境から恩恵をうけつつ、それをうまく改良・利用して生活をいとなんでいました。そのような、人々と自然環境との相互作用により里山が生まれました。里山とは、本来の自然ではなく、人々が改良した二次的な自然のことです。

これを、さらに単純化するとつぎのようなモデルになります(図2)。

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図2 主体-環境系のモデル

人々とは、その地域の主体であり、自然環境は簡略に環境とよぶことができます。主体が、環境からさまざまな事物をとりいれることはインプット、一方、環境に対してさまざまな働きかけをし、環境を改良していく行動はアウトプットととらえることができます。主体は、その過程で情報を消化し、情報処理をしているわけです。

インプットやアウトプットをより効果的におこなうために、人々は、さまざまな技術を発達させました。技術は成長するとその地域の文化となります。上記の里山は、このような過程でつくられてきたとモデル化できるのではないでしょうか。したがって、里山は、その地域独自の技術や文化をつくりだすものととらえなおすこともできます。

図2の主体-環境系のモデルは、〔インプット→プロセシング→アウトプット〕という、ひろい意味の情報処理系であると見ることができます。


このようなモデルをもって、「大阪の自然誌」を見てみたところ、人間から自然環境までを総合的にとらえなおすことができました。

大阪平野は大阪の中心部になっていて、それを、千里・京阪奈・泉北・羽曳野などの丘陵がかこんでいます。丘陵の背後には山地が、手前には大阪湾があり、中央には、大阪湾にむかって淀川がながれています。「大阪の自然誌」の各展示物の空間配置が、このような自然誌をモデル化した構造になっていました(図3)。


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図3 ネイチャースクエア「大阪の自然誌」展示室の案内図
(空間配置が、大阪の自然誌をモデル化した構造になっていた)


博物館の自然誌展示は、一見、複雑でわかりにくいと感じますが、このように、モデルをつかうことによって見通しが非常によくなり、見おわったあと、すっきりした気持になって帰宅することができます。


大阪市立自然史博物館 >>

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国立科学博物館 


東京・上野、国立科学博物館で開催中の企画展「ヨシモトコレクションの世界」を先日みました(会期:2015年 1月18日まで)。多数の剥製標本を通して生物の多様性を実感することができました。


国立科学博物館ヨシモトコレクションとは、日系二世の実業家ヨシモトさんが、1957年から1995年にかけて世界中から狩猟によって得た標本群のことです。1997年から1998年にかけて、ハワイ・オアフ島のW.T.ヨシモト財団より国立科学博物館へ寄贈されました。

哺乳類・鳥類・爬虫類の標本約400点からなり、種数は全173種(鳥類13種、爬虫類2種)をふくみます。その多くは全身が剥製としてのこされており、内訳は全身剥製267点、頭部剥製98点、半身剥製7点、なめし皮7点、頭骨1点、角8点、牙10点です。

剥製の製作を手がけたのは、アメリカ合衆国ワシントン州シアトル市のクラインバーガー社で、その優秀な技術は、動物の細部を見事に再生しているといえます。特に頭部に浮き出した血管の様子や、肛門周辺の造形は見事で、またいくつかの標本では生きていたときの行動を再現して作製されています。すべての個体について捕獲した時期と場所が記録されており、また各ハンティングの記録は付帯資料としてキャビネットにおさめられています。

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ヨシモトコレクションは今回の企画展示のほか、国立科学博物館・地球館3階や1階に常設展示されていて見る者を圧倒しています。もしこのコレクションがなかったなら、国立科学博物館の動物展示はかなり貧弱なものになったでしょう。

このコレクションをきずいたヨシモトさんとは、日系二世の実業家としてハワイで大成功をおさめたのち、世界各地で狩猟をおこない、動物の剥製の製作をすすめました。そして晩年には自然保護を推進するようになりました。

剥製標本は立体でリアリティがあったため体験的に動物について理解をふかめることができました。動物写真を図鑑で見ているのとちがい迫力がありました。また、せまいスペースのなかで多数の標本をみることができたので、動物の多様性を短時間・高密度で実感することができました。

動物の多様性をとらえる場合、つぎのような段階を踏むとよいでしょう。

 (1)図鑑で見る
 (2)博物館で見る
 (3)動物園で見る
 (4)フィールドワークをおこなう

(1)図鑑で見れば、地球上で知られているほとんどの動物を写真や絵で体系的に見ることができます。
(2)写真や絵は平面的(2次元)ですが、展示標本は3次元であり、いろいろな角度から動物を立体的にとらえることができます。
(3)博物館の標本は死んだ動物ですが、動物園では実際に生きている動物を見ることができます。より現実にちかづきます。
(4)フィールドワークをおこなえば、野性の動物を生態系のなかに位置づけて見ることができます。しかし、フィールドワークでは動物に出会える機会は少なくなり、ガイドや専門的なやり方が必要になります。

(1)から(4)にいくにしたがって動物に出会える頻度は低くなりますが、より現実の状態を知ることができます。

このような認識の段階の全体像を踏まえて博物館の動物展示を利用すれば、動物に関する理解がすすむとともに、ヨシモトさんの功績が後世まで生かされるとおもいます。

つぎのデータベースも有用です。


▼ 関連ブログ
哺乳類の進化と絶滅をまなぶ -太古の哺乳類展- 
具体例を蓄積して理解をふかめる -ダーウィンフィンチのクチバシ- 

東京・池袋、サンシャインシティ文化会館7階にある古代オリエント博物館で開催中の「アマゾン展 森に生きる人々と暮らし」を先日みました(会期:2014年11月24日まで)。


自然環境と人間の共生が本展のテーマです

アマゾン川は世界最大のひろさをもち、ふかい森にはぐくまれたゆたかな自然にめぐまれています。この自然環境のなかで先住民インディオは、野性の植物や動物とかかわり、精霊との交流など独自の世界観をもちながらくらしています。

狩りや漁、採集にかかせない道具、祭りにつかう色彩ゆたかな羽根飾りや仮面の数々、これらはアマゾンでの生活の知恵の結晶です。独自のデザインのなかに自然のなかからうまれてきた美意識を見ることができました。

本展の展示品は、旧アマゾン館館長だった山口吉彦さんの収集品です。2万点ものコレクションのなかから、今回は、民俗資料を中心に厳選し、インディオがはぐくんだゆたかな文化を紹介していました。

これらの展示から、主体であるインディオと彼らをとりまく自然環境とが相互浸透的に作用しあって、独自の文化(生活様式)がそだったことを読みとることができました。

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図 インディオと自然環境とが相互浸透的に作用しあって独自な文化がそだった。


旧アマゾン館は山形県鶴岡市にあった展示館であり、わたしは17年前に鶴岡市に出張したとき見学し感銘をうけたことがありました。今回、東京で再会することができ、とてもなつかしかったです。アマゾン館は今年3月をもっておしまれつつも閉館したそうです。

自然環境と人間との共生は人類の根本的なテーマですから、このような収集品は一時的な展示におわらせずに、人類の遺産として今後とも保存し、展示・研究をすすめていくべきだとおもいます。

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日本科学未来館

日本科学未来館の企画展「トイレ? 行っトイレ! ボクらのうんちと地球のみらい」を先日みました(会期:2014年7月2日〜10月5日)。


本展は、トイレをとりあげた非常にめずらしい企画展でした。トイレは、身近な存在でありながら、あまりふかくかんがえずにつかっている道具です。

トイレは、わたしたちの日常生活でなくてはならないものであるだけでなく、地球環境問題にも大きくかかわっています。

世界で25億人もの人々がトイレをつかえない状況です。2100年には、人類の人口が100億人を突破すると予測されていて、健康と衛生、環境をどのようにまもっていくか大きな問題です。

今後、トイレのない地域にトイレを普及し、排泄物を農業などに有効に利用することが必要で、そのための簡易トイレの製造、技術開発がすすんでいます。

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今回は、トイレという、普通とは異なる視点から地球環境をとらえなおすことができおもしろかったです。

DVD『赤ちゃんの不思議』では、赤ちゃんの誕生から、最初の一歩をふみだすまでの成長過程を科学的に解明し紹介しています。

チャプターリストはつぎのとおりです。

1.イントロダクション
2.人生初めての呼吸
3.誕生当初の危機
4.将来備わる本能
5.ニューロンの発達
6.学習で得られる能力
7.驚くべき脳の柔軟性
8.失われる能力
9.顔と表情の識別
10. 最初の一歩への準備
11. 言語の獲得
12. クレジット


要点はつぎのとおりです。

新生児の脳は、環境に適応することによりつくりあげられる驚異の学習装置です。

鍵をにぎるのは神経細胞ニューロンです。各ニューロンはシナプスとよばれる接合部で電気的に情報を伝達します。生後1年で脳の大きさは2倍以上に生長します。脳の成長はニューロンの活発な結合によるものです。

体をうごかすごとに、ある結合はつよめられ、そのほかは退化していくのです。

未成熟な状態こそ、周囲の世界から学習する能力を人間にもたらしているのです。

人間の場合、一定の本能はそなわっているものの、行動の大半は学習によって身につけます。

周囲の環境が脳の配線を決定するのです。

新生児の脳には並はずれた柔軟性があり、周囲の環境に適応すべくみずから神経を配線しなおす能力をもちます。 

さまざまな能力を獲得する発達過程で、赤ちゃんがうしなってしまう特性もあるのです。 

母国語に接する機会が増えるにつれ、赤ちゃんの脳はその言語に適応し、ほかの言語を聞きわける感性は消えていくのです。

重要なのは、赤ちゃんがことなる環境に適応していくことです。


■ 獲得する能力と退化させる能力がある
注目点は、赤ちゃんには、獲得する能力がある一方で、退化させる能力もあるということです。

これは環境に適応するためです。環境とは、赤ちゃんをとりまく周囲の状況すべてのことです。赤ちゃんは、生まれた家庭や地域あるいは国などに適応するように成長していくのです。

赤ちゃんは大きくなるにつれて、環境に適応するために必要な能力は身につけ、適応に必要ない、あるいは適応のために有害な能力は退化させます。つまり、赤ちゃんの成長とは適応することであり、もって生まれた潜在能力のすべてを開発するということではないのです。いいかえれば能力開発よりも適応の方が優先されているということです。

これは、適応こそが、生きていくための本質的な営みになっていることをしめしています。生きることの基本は、環境に適応することであり、そのことが赤ちゃんの成長から読みとれるのです。


■ 赤ちゃんと環境はひとつのシステムになっている
赤ちゃんと環境はひとつのシステム(系)をつくっていて、そのなかで赤ちゃんは情報処理をおこないながら成長します(図)。赤ちゃんが、刺激をうけたり見たり聞いたり体験したりするのは情報のインプットです。 情報を処理し脳が成長するのはプロセシングです。泣いたり笑ったりうごいたり、成長して言葉をしゃべるのはアウトプットです。


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図 赤ちゃんと環境は一体になって情報処理をおこなっている


環境とのやりとりにあわせて、開発する能力と退化させる能力が選択されま
す。情報処理は適応のために環境ににあわせて発展します。

つまり、成長とか能力とかは、赤ちゃんだけで決まることではなく、環境と一体になって決まります。おなじ赤ちゃんであっても環境がことなれば能力はちがってくるわけです。

このように、赤ちゃんだけをとりだして成長とか能力とかを論じることはできず、成長や能力は、〔赤ちゃん-環境〕系の全体の働きとしてとらえた方がよいのです。赤ちゃんと環境と情報処理をセットにして体系的に理解することが重要です。


DVD:『赤ちゃんの不思議』日経ナショナルジオグラフィック社、2009年

人の生活の場は、主体である人と、それをとりまく環境とからなりたっています。

主体と環境との境界領域には生活様式や文化が発達します。文化をとらえるには物(人がつくった物)に注目するとよいです。物は、人工物のみならず農作物や料理などもふくみます。また環境を見るときには、地・水・火・風・空に注目するとよいです。
 
主体と文化と環境の全体を見て構造をつかむとその仕組みがわかってきます。さらに、マクロで見てミクロでとらえると本質がわかってきます。問題意識をもって固定観念をすて、問題意識をとぎすますと本質が見えてきます。固定観念や思い込み・先入観をもっていると何も見えてきません。

DVD『ヒマラヤ動物紀行』(飯島正広)を見ました。

ネパール南部・亜熱帯のチトワン国立公園から、ソルクーンブ・エベレストの近く、そしてツルのヒマラヤ越え(アンナプルナ越え)と多様な動物をみていきます。それぞれの動物は環境に適応して生きています。環境がことなれば動物もことなるので、それぞれの動物は環境の指標にもなっています。動物を見れば環境がわかり、環境がわかると動物が見えてきます。

動物と環境とはセットにしてとらえなければなりません。動物-環境系が一つのシステム(体系)です。それがわかれば生命を高い次元でとらえなおすことができます。

人間は、基本的に情報処理をする存在です。つまり、環境から情報を取り入れ、情報を処理し、その結果を環境にアウトプットしています。

よくできた情報処理ができると、人間と環境との適切な相互作用をうみだすことができます。すると人間と環境とは調和し、人は環境に適応できるようになります。人間は、環境から一方的に影響をうけるのではなく、環境をうまく利用するという観点も重要です。

このようにかんがえると、環境は、単なる生活の枠組みということでなく、ひろい意味で人間の延長であり、大きな意味での自分の部分にもなってきます。
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