わたしたちが現実だとおもっている世界は実は、脳がつくりだしたものであることをおしえてくれるDVDです。脳がだまされて錯覚してしまう数々の実験を見て、また みずから体験して たのしむことができます。
チャプターリスト・脳がだまされる?・手がかりは「影」と「色」・三次元の世界を認識・動きを捉える仕組み・ミラー・ニューロン・ラバーハンド錯覚・効果音のテクニック・音の意味を読み取る・音でものを見る?・脳が描き出す世界
わたしたちの脳は何をしているのでしょうか? 錯覚を体験できるつぎのような実験に挑戦し、 脳が認識する仕組みを理解できます。
・影や背景が変わると色が変わる?・つくりものの手をたたかれるといたい?・視覚と聴覚はどちらがつよい?・音だけでも周囲が見える?
写真 二つの四角形は灰色と白色に見えますが、二つの境界を指でかくして見てください。
わたしたちは世界をありのままに見ているわけではありません。自分にとって役立つ形で世界を認識しているんです。そして、その認識は現実の世界とはかならずしも一致しません。脳は、これまでの経験から物事を認識しようとします。光は、この世の中に物理的に存在し、わたしたちは光によって物を見て認識しています。一方、色彩は物理的には存在していません。わたしたちは色彩を脳のなかでつくりだしているんです。色彩は、見えても実際には存在しない。色彩とはそういう物なのです。わたしたちの脳は、知らず知らずのうちに色彩をつかって世界を識別しています。実際には、その物の色そのものではなく、周囲との関連性で色を解釈しているのです。脳は過去の経験にもとづいて物体の位置を把握します。目で見たことは、視覚野を通じて脳へとおくられ、なじみのあるパターンとして空間を把握する際に利用されるのです。脳には、うごいている物のうごきを読みとろうとするつよい傾向があるのです。脳は、視覚や聴覚などの感覚器から情報を得ています。なかでも視覚が占める領域はおよそ3割、そのため、目と、ほかの感覚器からつたえられる情報がちがった場合、脳は視覚を信じてしまいます。効果音とは、見た物を信じさせる、言ってみれば手品のようなものだとおもいます。スクリーン上で見られる認識は、効果音におって変化させることができるんです。脳には瞬時に音の意味を見いだす機能があります。脳は、蓄積した経験にもとづいてたえず音源をわりだしています。それをもとに、注意をはらうべきかどうか判断しているのです。空気をつたわってくる音の振動は、内耳の神経末端で電気信号に変換されます。その信号が脳の側頭葉に位置する聴覚野とよばれる部分におくられるのです。聴覚野は周辺の脳の領域と協力しながら、電気信号のパターンがすでに記憶してあるパターンと似ていないかどうかチェックします。耳の機能のなかでも特に発達しているのが言葉の解読です。音を言葉に関連づけようとする脳の言語中枢が、加工された音を聞くたびに活性化されるのです。あいまな情報に接したとき、脳は、ほかの情報を参考にしてもっとも妥当な答えをひきだします。根気づよく訓練すれば視覚も聴覚も触覚も変化するのです。わたしたちの脳は、感覚器からえた手がかりをもとに現実をつくりあげているのです。さまざまな感覚器を駆使して、わたしたちは周囲の世界を把握しています。脳は、つねに推測をはたらかせ、統制のできた信頼できる世界を生みだそうとしています。さまざまな錯覚をうまく利用すれば、わたしたちの認識する世界が、みずからつくりだした幻のようなものであるということをあきらかにできるでしょう。錯覚を通して、脳の仕組みが垣間みえたのではないでしょうか。
以上のように、目や耳から入ってきた光波や音波は電気信号に変換されて脳へ伝達され、脳は、それらの電気信号を処理し(編集・加工し)、わたしたちの認識の世界をつくりだしいます。つまり、わたしたちは、目ではなく脳で世界を見ているのであり、情報処理の結果として世界を認識しているのです。そしてその認識にもとづいて行動しているのです(図)。
■ パターンを記憶する
DVDのなかでも解説されているように、脳は、あるパターンを一度記憶すると、そのパターンと似ている情報はすぐに認識でき、記憶を増やすことができます。
このことを学習法に応用するならば、学習の初期段階(入門段階)において、よくできたパターンをいくつか記憶しておけば、その後の学習はどんどん発展するということになります。最初のパターン記憶は、自分がもっともすきな分野、心底興味がある分野でしっかりおこなうのがよいです。
また従来とはちがうあたらしいパターンに遭遇した場合は、おじけづいたり拒絶したりするのではなく、脳の情報処理の仕組みをおもいだして、そのパターンをしっかり記憶すればよいわけです。そのとき、そのあたらしいパターンをできるだけ単純な図式(モデル)にしておくと効果的です。
ここに、保守・維持にとどまるかあるいは発想や創造の段階へすすんであらたな認識の世界へはばたけるかどうかという分かれ道とその仕組みを垣間みることができます。
学習をしたり判断をしたりアイデアをだしたりするために、わたしたち人間の情報処理の仕組みを知ることはとても有益なことであり、その仕組みを理解するためにこのDVDはとても参考になります。
▼ 関連記事
視覚効果と先入観とがくみあわさって錯覚が生まれる - 特別企画「だまし絵 II」-
平面なのに絵が飛び出す - 目の錯覚を利用した3Dアート -
錯視や錯覚を実験する -『錯視と錯覚の科学』-
錯覚の実験を通して知覚を自覚する - 一川誠著『錯覚学 知覚の謎を解く』–
遠近のひろがりのなかで対象を見る - だまし絵からまなぶ -
次元を変えると見えてくる - ケイガン作「トカゲ」-
錯視を通して情報処理を自覚する - 杉原厚吉著『錯視図鑑』-
錯覚に気がつく - フィービ=マクノートン著『錯視芸術 遠近法と視覚の科学』-
服部正志作「スーパートリック3Dアート展」(まとめ)
残像をみて錯覚を体験する - エンメトルの法則 -
錯視を体験する - 数理の国の錯視研究所(日本科学未来館)-
錯覚(錯視)に気がつく - トリックアート -
インプットとプロセシングを自覚する -『Newton 明るさと色の錯視』-
空間にも心をくばる -『Newton 形と空間の錯視』-
時間的変化にも心をくばる -『Newton 残像と消える錯視』-
錯覚をいかす? -『Newton 錯視と錯覚の科学 からだの錯視』-
常識をゆさぶる -「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」(森美術館)-
▼ 関連DVD