東京都美術館
東京・上野の東京都美術館で開催されている特別展「新印象派 光と色のドラマ」を見ました(会期:2015年3月29日まで、注1)。20世紀へつながる絵画の革新をおしすすめた「新印象派」の誕生からの約20年間のながれを時間軸にそって紹介していました。
「新印象派」は「点描技法」という技法をつかって絵をえがきました。特別展図録のなかでつぎのように説明しています。
スーラは、パレット上で絵具を混ぜずに、画面に純色の小さな筆触を並べ、鑑賞者の網膜上で色彩が混ざるように制作を行った。(図録41ページ)
つまり「新印象派」の画家たちは、絵の具を画家が直接まぜて色をつくりだすのではなく、絵の具そのままの色を小さな点としてカンバスにひたすらおいていき、絵を見る人(鑑賞者)の視覚のなかで色がまざるようにしました(注2)。
目に見えた世界をカンバス上にそのまま再現したのではないため点描画はそれ自体では完成しておらず、展覧会場で鑑賞者が見たときに生じるイメージとして、鑑賞者の意識のなかで絵が完成することになるともいえます。おもしろいです。
情報処理の観点からこのことを整理すると、まず、鑑賞者が点描画に目をむけると絵に反射した光が目のなかに入ってきます。これはインプットです。そして目の中の網膜から脳へと情報が伝達され処理されて鑑賞者の内部でイメージが生じます。これはプロセシングです(図1)。プロセシングにより色は点ではなくなりイメージとして融合されます。絵のイメージはあくまでもわたしたち鑑賞者の内面に生じていることに注目してください。
図1 色の点々がまざってあらたな色彩が生じる
展覧会場にいけばこのようなことを実体験することができます。絵にちかづいて見ると点描であることがわかり、絵からはなれてみると色がまざって風景画なり人物画として鑑賞できます(注3)。遠近によって見え方はまるでちがいます。今回の特別展は、視覚あるいは眼力に関するみずからの情報処理の様子を実験できる絶好の機会でした。
このように絵は、ちかくで見ているだけだと意味がありませんので、ある程度はなれてじっくり味わうのがよいでしょう。そのためにはなるべくならすいている午前中のはやい時間に会場に行ったほうがよいとおもいます。
▼ 注1
東京都美術館・特別展「新印象派 光と色のドラマ」
▼ 注2
下記サイトでは、茂木健一郎さんらが視覚と脳の仕組みから点描技法に関してわかりやすく解説しています。
▼ 注3
会場には、色のブロックでつくった絵が展示されていました(これのみ撮影可でした)。ちかくで見ると色の点の集合であることがわかります(図2)。はなれて見ると色がまざって絵として認識できます(図3)。
図2
図3
▼ 参考文献
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