発想法 - 情報処理と問題解決 -

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タグ:地球

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写真1  21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン・ガーデン)

東京ミッドタウン・ガーデンにある “21_21 DESIGN SIGHT” で開催されている企画展「単位展 - あれくらい それくらい どれくらい?」(会期:2015年5月31日まで、注1)に行きました。単位を「体験」できるとてもめずらしい企画展でした。

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写真2 会場内部

単位とは、そのままではとらえにくい世界に一定の基準をもうけることによって比較や共有を可能にした知恵と思考の道具です。長さをはかるメートル、重さをはかるグラム、時間をはかる秒など、わたしたちの身のまわりにはさまざまな単位があり、生活するうえで欠かせないものとなっています。

設計・製作・流通・販売などの物づくりや経済活動においてさまざまな単位がもちいられています。グローバル化がすすんだ今日、「世界共通語」としての単位の必要性も見のがせません。

本展は、普段は何気なくつかっている単位を見たり触ったりして実体験し、単位から、社会的背景や文化をとらえなおすまたとない機会でした。

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写真3 メートル原器(レプリカ)
メートル原器は1mの基準として1799年に製作され1960年までつかわれていました。
北極点から赤道までの長さの1000万分の1の長さです(注2)。 


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写真4 基準点(測量のための)

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写真5 単位の体験
単位を実際にさわって体験することができます。

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写真6 1GB(コンピュータの単位)
左:1GB のテキスト、中:1GB のカラー静止画、右:1GB のカラー動画、
1GB の情報量を視覚化して比較していました(注3)。

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写真7 ボリュームの比較(注4)
 
 
単位にはつぎの6つのはたらきがあります。

1.はかる
長さや重さ・時間などをはかります。

2.情報を共有する
ある量がわかったら、その数値と単位を記録してつたえることにより、はなれた場所にいる人と情報を簡単に共有することができます。

3.規格化する
ある量の単位を基準にすることにより、それに合わせて物づくりを統一的におこなうことができます。

4.くらべる
目の前に物がなくても、長い短い・速い遅い・重い軽いなどを数値でくらべることができます。

5.計算する
何杯いれるとどのくらいの量になるとか、これとあれをつなぐとこの長さになるとかを計算して予測することができます。

6.変換する
[km] ÷ [h] = [km/h](時速)というように、単位をくみあわせて別の単位をつくることができます。


このように単位は、物事を定量的にとらえることを可能にし、物事に普遍性(グローバル性)をもたせることに成功しました。また単位とは何かを構築するときの単位でもあり、まず単位を明確にし、そしてその小さな単位を構築して大きな物をつくるということになります。

今回の企画展は、こうした単位とその重要性について数字や理屈ではなく視覚的・体験的にまなべる貴重な機会でした。



▼ 注1

▼ 注2:1メートルの定義
メートル原器は、温度変化によってほんのわずかに伸縮する問題がありましたので、1983年、1メートルの定義は、「光が、真空中を 2億9979万2458分の1秒のあいだにすすむ距離」にあらためられました。

▼ 注3:1GB(コンピュータの単位)
テキストをつかった場合は1GB だと膨大な量の情報をとりあつかえます。カラー動画をつかった場合は(解像度によりますが)数秒しかうつしだせません。いいかえると、カラー動画は膨大な量のメモリーが必要ですが、テキストは小さなメモリーですみます。テキストの方がとりあつかいが容易です。情報処理をすすめるうえでのヒントのひとつがここにあります。視覚情報をテキスト化する(テキストに変換する)と情報が軽くなりとりあつかいが容易になります。視覚情報とテキストとをうまくつかいわけ、それらをくみあわせて運用していくのがよいです。

▼ 注4:ボリュームの比較
左手前の豆本を単位とした場合、右奥は最大の構築物になります。これらを著作物(アウトプット)とかんがえた場合、右奥は事典とか著作集ということになります。まず単位を明確にする、単位をつくることが必要です。そして、どの程度の量あるいは大きさのアウトプットをするか構想します。量や大きさを数値や理屈ではなく視覚的・空間的にとらえられるのが本企画展の特色でした。

▼ 参考図書
丸山一彦監修『目でみる単位の図鑑』東京書籍、2014年8月8日

▼ 参考記事
イメージで単位をとらえる -『目でみる単位の図鑑』-


『楽しい自然ウォッチング』は、自然観察(自然ウォッチング)のためのガイドブック(入門書)です。写真が豊富で見ているだけでもたのしめます。身近な自然の見方から、次第にふかく自然に接する方向へすすむ構成になっています。

目次
第1章 街あるきで自然発見
第2章 命あふれる里山へ行こう
第3章 森の木を探検しよう
第4章 海遊び 川遊びを楽しもう
第5章 鳥たちに会いに行こう
第6章 畑で野菜をつくろう
第7章 気象と季節の歳時記


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街のなかにある自然からはじまり、周辺にある里山、もっととおくの森、さらに海や川、動物たちの観察、気象や季節の観察というようにすすんでいきます。巻末には自然観察ができる全国の森のリストがでています。

街のなかでは「マイツリー」を決めて定点観察をすることを提案しています。季節のうつりかわりがつかめます。また里山は、自然体験のためにとくにおすすめです。休日にでかけてみるとよいでしょう。

本書のすべてにとりくむ必要はありませんので、自分の興味がある分野をピックアップして、まずは自然に接して、自然に対する感性をみがくようにするとよいです。


情報処理の観点からみると自然観察とは目をつかって自然から情報をとりいれること、自分の意識のなかに自然の情報をインプットすることです(図1)。感性をみがくとはインプット能力を高めることです。これには理屈ではなく実践的なとりくみが必要です。身近なところから自然観察を是非はじめてみてください。

150417 自然観察
図1 自然観察とは自然から情報をインプットすること



▼ 引用文献 
松本徳子企画・構成『楽しい自然ウォッチング』JTBパブリッシング、2012年4月1日
楽しい自然ウォッチング (るるぶDO)

▼ 関連記事
里山のモデルをつかって大阪の自然誌をとらえる - 大阪市立自然史博物館 -
日本の原風景をみる - 青柳健二『行ってみたい日本人の知恵の風景74選』-


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本多勝一著『極限の民族』は、イニュイ民族(カナダ=エスキモー)、ニューギニア高地人、アラビア遊牧民について報告していて、わたしたち日本人が知らない極限の民族あるいは極端な世界についておしえてくれます。
 
このような極限あるいは極端を知ることは世界や地球の多様性を知り、その全体をとらえるための重要なとっかかりになります
 
たとえば図1のモデルにおいて黒色の3点は極限の(極端な)3点としましょう。このような極端な3点を知ることができれば全体象がとらえやすくなります。

150404 極端をしる
図1 極端な3点は全体像をとらえやすくるす


しかし図2のように中間点だけを見ていたらいつまでたっても全体はわかりません。

150405 極端をしる
図2 中間点だけをみていると全体はわからない


極端な3点だけで全体がわかるわけではもちろんありませんが、すくなくとも重要な手がかりになり、その他の中間的なものは極端と極端とのあいだに位置づけて整理して理解していくことができます。

たとえば外国のある民族の社会について理解しようとおもったら、最上位階層の人々の生活を知り、一方で最下位階層の人々の生活をまず知る必要があります。そうすれば中流階級の人々の生活はそれら両極端のあいだに位置づけて理解することができます。こうすれば比較的短期間でその民族の社会の全体像がつかめます。
 
わたしはネパールでかつてくらしはじめたときにこの方法を実践してみました。しかし中間層の人々だけと、あるいは最上位階層の人々だけとつきあっていた日本人もいました。その人たちはいつまでたっても社会の全体が理解できないでいました。

このように『極限の民族』をとおして極限あるいは極端について知ることには大きな意義があります。本書を、世界あるいは地球の全体をつかむためとっかかりとして活用していきたいものです(注)。


▼ 引用文献
本多勝一著『極限の民族』(本多勝一集 第9巻)1994年2月5日
極限の民族 (本多勝一集)  

▼ 関連図書


▼ 関連記事
3つの民族を比較しながらよむ - 本多勝一著『極限の民族』(1)-
民族と生活様式と自然環境をみる - 本多勝一著『極限の民族』(2)-

▼ 注
極端を知ることは、世界や地球にかぎらず、対象の全体をとらえるために役立ちます。何かを評価するときにも必要なことです。


本多勝一著『極限の民族』は、イニュイ民族(カナダ=エスキモー)ニューギニア高地人アラビア遊牧民と生活をともにして書かれたルポルタージュであり、当時はほとんど知られていなかった「極限の民族」のくらしぶりを生き生きとえがきだしています。近代化がすすんで今ではもう見られなくなった「極限の民族」の姿の貴重な記録でもあります(注)。
 
本書は文化人類学の専門書ではなく、朝日新聞に連載されたルポをまとめたものであり、一般の読者が読んで十分にたのしめる内容になっています。初版は、1967年に、本多勝一著『極限の民族』(朝日新聞社)として刊行されました。
 
目次
第一部 イニュイ民族(カナダ=エスキモー)
 「ウスアクジュ」への道
 極北を生きぬく知恵
 アザラシ狩り
 犬を甘やかしてはならぬ
 カリブー狩り
 雪の家
 太陽の沈まぬ国
 セイウチ狩り
 エスキモーの心
 極北の動物たち
 遊猟の民
 
第二部 ニューギニア高地人
 意外なジャングル
 モニ族の簡素で家庭的な生活
 石器時代も案外不便なものではない
 アヤニ族とナッソウ山脈横断の旅へ
 ニューギニア高地人に襲われた日本軍
 ダニ族の団体生活と奇妙な男たち
 ホモ=ルーデンス
 
第三部 アラビア遊牧民
 アラビア半島内陸の砂漠へ
 親切で慎み深いベドヰンたち
 ラクダに人間が飼育されるような生活
 砂漠の夜の主人公は野生動物である
 「虚無の世界」としての大砂丘地帯
 羊飼いも重労働でなかなか大変だ
 親切で慎み深いベドヰンの実態
 ベドヰンの方が普遍的で、日本人こそ特殊なのだ
 『月の沙漠』の夢と現実
 
朝日文庫版へのあとがき・補記
 
 
第一部「イニュイ民族(カナダ=エスキモー)」では、イニュイ民族が極寒の環境下で生きていけるのは、彼らが普通の人とはちがう特別な体質をもっていたからではなく、極寒の世界に適した衣服や住居や狩猟法を開発、環境に適応した生活様式を生みだしたからだということが読みとれます。
 
第二部「ニューギニア高地人」では、一転して、赤道下のジャングルが舞台になり、そこには基本的に裸でくらす人々がいました。自然環境と一体になったくらしぶりが一層顕著です。
 
ペニス=ケースや指切りなどの変わった風習もありますが彼らは人食い人種ではなく、石の包丁やナイフや斧をつくりだし、また火をおこし石むし料理をつくるなど、自然環境をたくみに利用しながらくらしています。彼らの生活様式は人類の進化をかんがえるうえでもとても参考になります。

非常に原始的な生活をしているようですが、生肉を食べているイニュイ(カナダ=エスキモー)よりも多様性がありゆたかな生活様式をもっているような感じがします。ゆたかな自然環境の恩恵を享受しているということなのでしょう。
 
第三部「アラビア遊牧民」では、これもまた一転して、アラビアの広大な乾燥地帯が舞台となり、極北とも、ジャングルともちが砂漠の異空間が展開していきます。
 
本多勝一さんの言葉を引用しておきます。 
 
これほど大量に飲み、汗を出しても、決して「滝のような汗」ということにはならない。あまりにも乾燥しているから、汗は出る片端から蒸発してしまう。
 
エスキモーと共に生活したとき、私たちは「人間は、未開・文明を問わず、民族を問わず、結局おじものなんだ」という実感を強く覚えた。本当に、心の底から「世界は同胞だ」と思ってもいいような、感傷的気分にさえなって、私たちは北極圏から帰った。この実感は、ニューギニアのモニ族・ダニ族と生活したときも、強められこそすれ弱まりはしなかった。だが、ベドヰンはどうか。ここではエスキモーとは正反対に、「人間は、なんて違うものなんだろう」という実感を強く覚える。民族が違い、歴史が違うと、かくも相互理解が困難なのか。これこそ、本当に「異民族」なのだ。
 
 
以上のように、本書は、イニュイ民族(カナダ=エスキモー)、ニューギニア高地人、アラビア遊牧民のそれぞれを比較することによって、それぞれの民族の特徴が一層鮮明にうかびあがる効果をもっています

本書の中身は朝日文庫の3冊に分冊されて販売もされていますが、それらを別々にゆっくり読むよりも、本書を一気に読んで全体を一望したほうが3の民族のちがいがよくわかり理解がすすみます。わたしたち日本人が知らない「極限の民族」についてすこしでも認識をふかめておくことは世界や地球の多様性を知るためにとても役立ちます。


▼ 引用文献
本多勝一著『極限の民族』(本多勝一集 第9巻)1994年2月5日
極限の民族 (本多勝一集)  

▼ 関連図書


▼ 注:取材時期について
イニュイ民族(カナダ=エスキモー)、ニューギニア高地人、アラビア遊牧民のそれぞれの取材時期は、1963年5月~6月、1964年1月~2月、1965年5月~7月でした。 

▼ 関連記事
民族と生活様式と自然環境をみる - 本多勝一著『極限の民族』(2)-
極端を知って全体をとらえる - 本多勝一著『極限の民族』(3)-

国立科学博物館の特別展「大アマゾン展」(注1)に関連しておもしろい本があります。伊沢紘生著『アマゾン動物記』です。おもにアマゾンのサル(新世界ザル)とその研究にもとづく進化論についてかたっていて、たのしみながら読みすすめることができます(注2)。写真が豊富で、ほかの動物たちについてもある程度紹介しています。

目 次
新世界ザル
密林に生きる

新世界ザルについては、それぞれのサルの特徴をつぎのように形容してわかりやすく紹介しています。

おとなもあそぶウーリーモンキー
クモザルもあいさつをする
ホエザルはアマゾン一の大声の持ち主
道具を使うオマキザル
空々しいリスザルの群れ
夜行性のヨザルの行動
対照的なサキとウアカリ
"きたない森" にティティはすむ
生きた化石ゲルディモンキー
食物を分け与えるセマダラタマリン
高貴な顔だちエンペラータマリン
半日先を考えるピグミーマーモセット

たくさんの写真をつかってわかりやすく紹介していて、新世界ザルさらには生物の多様性について知ることができます。

そして、新世界ザルの調査結果にもとづいてサル類の進化についてつぎのような仮説をたてています。

新世界ザルの系統進化が、競争の原理でなく、すみわけ をとおした共存の論理で説明されうるなら、狭鼻猿類の系統進化や人類の起源もまた、後者にもとづいて説明する試みが必要になってくると思われる。

つまり、ゆたかな多様性をもつアマゾンの生態系は、競争原理と自然淘汰ではなく、すみわけによる共存原理で成立してきたと見なせるということです。狭鼻猿類とは、アフリカやアジアにいるサル類のことです。

本書の後半の「密林に生きる」では、アマゾン川流域でくらす現地住民の狩猟についてかたっていて、アマゾンの猟師が、野生動物たちのそれぞれの習性を知りつくし、それをたくみに利用して狩猟していることを具体的に紹介していて興味ぶかいです。


生態系というものは、多様性を生みだしつつも、みずからのシステムを維持するように進化するという大局に、アマゾンをとおして気がつくことが大切だとおもいます。
 
そのためには、物事の全体像を見る目をやしなう必要があります。その世界の大局を大観できるようになるということです。
 
そのうえで、たとえば昆虫に興味があれば昆虫をくわしくしらべる、魚類に興味があれば魚類をくわしくしらべてみればよいでしょう。最初から特定の局所にとらわれすぎないことが大切です。

課題にとりくむときは、〔1.大局を見る → 2.局所をとらえる〕という順序をふむとよいでしょう。


本書は専門書ではなく、『毎日グラフ』(毎日新聞社)と『アニマ』(平凡社)に寄稿したものが内容の一部になっているそうで、一般の読者が読んでも十分にわかる内容になっています。アマゾンの入門書としておすすめします。



▼ 引用文献
伊沢紘生著『アマゾン動物記』どうぶつ社、1985年3月15日
アマゾン動物記 (自然誌選書)  

▼注1
国立科学博物館・特別展「大アマゾン展」

▼ 注2
アフリカ大陸とユーラシア大陸を旧世界とよぶのに対し、アメリカ大陸を新世界とよんでいます。

▼ 関連記事
アマゾンの多様性を大観する - 国立科学博物館「大アマゾン展」(1) -
アマゾンを歴史的時間的にとらえる - 国立科学博物館「大アマゾン展」(2) -
アマゾンの多様性をメモする - 国立科学博物館「大アマゾン展」(3) -
アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-
自然環境と共生して生きている人々がいる - アマゾン展 -


▼ 関連書籍
上記の『アマゾン動物記』を発展させたのが下記の書籍です。世界的なサル学者によるアマゾン研究の集大成であり、熱帯雨林の壮大な物語、著者渾身の力作です。大部な本ですが専門的な学術書ではなく、一般の人が読んでもたのしめる内容になっています。アマゾンの自然、特にサル類について知りたい人におすすめします。

伊沢紘生著『新世界ザル(上)アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』東京大学出版会、2014年11月25日
序章 絢爛たる樹上の世界
第1章 アマゾンでの調査三〇年
第2章 樹海に轟く咆哮 − ホエザルを追って
 1 本格的な調査に向けて
 2 お前はそれでもサルなのか
 3 アマゾン一の大声の謎
 4 オスの交代と子殺し
 5 ホエザルの別の顔
第3章 ずば抜けた賢さ − フサオマキザルを追って
 1 かたいヤシの実を割って食べる
 2 どれほど賢いか
 3 社会のありようを一五年間追う
 4 フサオマキザルの周辺


伊沢紘生著『新世界ザル(下)アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』東京大学出版会、2014年11月25日
第4章 林冠を風の如くに — クモザルを追って
 1 クモザルの群れの内側と外側
 2 クモザルの食べもの
 3 クモザルの行動と社会
 4 ウーリーモンキーの生態と社会
第5章 きたない森の小さな忍者 — ゲルディモンキーを追って
 1 ピグミーマーモセットの生態と分布
 2 ゲルディモンキーを探しての長い旅
 3 餌づけして調べる
第6章 浸水林に生きる — サキとウアカリを追って
 1 アマゾン一毛深いサル
 2 赤いマントを羽織ったサル
第7章 小鳥の囀りにも似て — セマダラタマリンを追って
 1 小さいサルの調査に挑戦する
 2 セマダラタマリンとほかのタマリンとの関係
第8章 樹林の月夜と闇夜 — ヨザルを追って
第9章 絡みつく蔦の中で
終章 きれいな森ときたない森
 1 新世界ザルの多様性
 2 アマゾン川上流域を舞台に起こったこと


国立科学博物館の特別展「大アマゾン展」ではアマゾン川流域地域の多様性を見ることができます。アマゾンの多様性は、アマゾン川の豊富な水、赤道直下の高温多湿などの環境とそこでくらすさまざまな生物とによって形成されました。アマゾン川流域には、約6万種の植物、100万種以上の昆虫、約1800種の鳥類、約3000種の魚類、約420種の哺乳類が棲息しています。せっかくの機会ですのでアマゾンの多様性について展示室ごとにいくつかメモをしておきます。

第2室 哺乳類
アマゾンで多様化した哺乳類としては霊長類(サル類)と齧歯目(げっしもく/ネズミ類)がいます。
 
霊長類:ゴールデンライオンタマリン、エンペラータマリン、ヨザル、フサオマキザル、シロガオサキ、マンクサキ、ダスキーティティ、クロホエザル、フンボルトウーリーモンキー、ケナガクモザル。

齧歯目:デグー、チンチラ、ビスカーチャ、パカラナ、ローランドパカ、アグーチ、パンパステンジクネズミ、マーラ、カピバラ。

その他の哺乳類:アリクイ、ナマケモノ、アルマジロ、ジャガー、ピューマ、オオカミ、クマ、スカンク、イタチなど。


第3室 鳥類
アマゾンのインコ類はとくに多様化がいちじるしく、30属150種にもなります。そのなかで体がもっとも大きく尾のながいものがコンゴウインコとよばれます。アマゾン川流域が発祥の地とされ、アマゾンを象徴する鳥です。

南米の鳥たちは収斂進化の実例の宝庫になっています。収斂進化とは、祖先はちがっても、生態系のなかでおなじような生活をする生物が似た形態を進化させることです。


第4室 爬虫類・両生類
アマゾンの爬虫類はヘビ・トカゲ・ワニ・カメです。オオアナコンダは、南米パラグアイより北部に分布する超大型のヘビです。

アマゾンの両生類のカエルは小型のものが多いです。ヤドクガエル類は、非常に色彩がゆたかなカエルであり、樹上性あるいは地上性です。皮膚に猛毒をもっているため素手でさわってはいけません。現地人は、矢じりにつける毒をこのカエルからえています。


第5室 昆虫
モルフォチョウは、中南米に特有の華麗なチョウとしてふるくから注目されています。ヘラクレスオオカブトムシは、世界最大の甲虫として有名であり、アマゾン地域にはエクアトリアヌスという亜種が分布しています。タイタンオオウスバカミキリは世界最大のカミキリムシで、体長は16cmに達することもあります。


第7室 アマゾンカワイルカ
イルカは普通は海に棲息しますが、大河に棲息するものもいて「カワイルカ」とよばれます。全身は白色ないしあかるい灰色、ほそくてながいクチバシがあり、相対的に大きくて可動域の大きい胸びれなどの特徴をもっています。


第8室 魚類
ピラクルーは世界最大の淡水魚といわれ、最大4mに達します。1億年前から姿がかわっていないことから「生きた化石」とよばれます。デンキウナギは電気ショックをあたえるおもしろいウナギです。ピラニアとカンディルという危険な魚もいます。ピラニアは肉食性で人間に危害をくわえるものもいます。カンディルには、大きな魚類や哺乳類に穴をあけてその肉をたべる種類と血をすう種類がいます。


第9室 菌類
きのこは生態系における分解者として知られています。スッポンタケ科の一種は世界最小のスッポンタケ類です。ハエをおびきよせるための悪臭をはなちます。


第10室 水草
アマゾンの水草の多くは、アマゾンの特異な水質に適応して生育しています。エイクホルニア・アズレアは、水上にでる葉と水中の葉の形が大きくことなります。水上では空気中から二酸化炭素をとりこみますが、水中では水から直接とりこみます。


第11室 先住民の装飾品
アマゾン流域には多数の先住民が今なおくらしています。文明社会と見接触の民族が今なお67存在するといわれています。彼らは自然とともに生き、自然の恵みを享受しながら自然を利用してきました。


アマゾン川流域は多様性の宝庫であることは間違いありません。是非 保全していきたいものです。


▼ 参考文献
『大アマゾン展』(公式ガイドブック)、発行:TBSテレビ、2015年3月13日

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アンハングエラ(翼竜目アンハングエラ科)
水面すれすれに飛んで魚をとって食べていたらしい(注1)

東京・上野の国立科学博物館の特別展「大アマゾン展」では、第1室で、アマゾンで産出した化石を紹介しながらアマゾン形成の自然史(進化)について展示していました。要約するとつぎのとおりです。

■ 約1億数千万年前(白亜紀初期)
ゴンドワナ大陸とよばれる巨大な大陸が分裂をはじめ、太平洋がひらきはじめた。

■ 約1億年前までに
南米大陸とアフリカ大陸が分離した。

■ 6500万年前〜3500万年前(新生代の始めの暁新世〜始新世)
アマゾンは温暖期であった。多様な生物相からなる熱帯雨林が存在したらしい。

■ 約3000万年前
地球規模の寒冷化がおこり、多くの生物が絶滅したらしい。

■ 約2000万年前までに
ナスカプレートの沈み込みが活発化してアンデス山脈が隆起し、アマゾン西部に湿地や湖があらわれた。

■ 約1000万年前
現在のアマゾン川に相当する東向きの流れが確立、現在いきている多くの生物の系統があらわれた。

■ おそくとも300万年前までに
パナマ陸橋の隆起により、北米大陸と南米大陸がつながった。両大陸のあいだで動物が移動した。さまざまな系統の絶滅もひきおこしたらしい。

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サンタナ層の魚類化石(注3)


会場では、アマゾン南東部のアラリペ高原に見られるアラリペ層群(約1億1千万年前、白亜紀中頃)からえられた化石群を展示していました。アラリベ層群は、大西洋がひらいたときにはじめて侵入してきた海の海際でたまった地層群です。そのなかにある、淡水の湖でたまったクラト層と、その後ラグーン(潟湖)でたまった上位のサンタナ層には化石がふくまれ、「化石鉱脈」として世界的に有名です。


今回の特別展の主題ではありませんでしたが、このような自然史の探究は歴史的・時間的に自然をとらえるということです。自然史は、直接は見ることができないので想像しなければならず、現在の自然を空間的構造的に見ることよりは一歩ふみこんだ認識になるかもしれません。
 
空間的に現在みられる多様性がどのような歴史で生みだされたのかを知ることは、未来を予想するためにも大切なことです。
 
空間的構造的に対象を見たら、つぎには歴史的時間的にもとらえなおしてみるとおもしろいとおもいます。


▼ 注1
アンハングエラは翼竜である。翼竜は、中生代に生息した空を飛ぶ爬虫類であり、サンタナ層はとくに大型の多様な種類をたくさん産出することで知られている。見た目には恐竜とはずいぶんちがうが、系統的にはかなり近縁の仲間である。

▼ 注2
国立科学博物館・特別展「大アマゾン展」

▼ 注3
南米の中生代魚類を代表する多様な化石。主な種類は、硬骨魚類のうち原始的な全骨類と、進化した真骨類のなかでは原始的な仲間、およびシーラカンス類からなっている。海生動物が見つからないことから、生息環境は淡水〜汽水環境で、地中海の前身であるテチス海の西端と浅い海で時々つながっていたとかんがえられている。

▼ 参考文献
『大アマゾン展』(公式ガイドブック)、発行:TBSテレビ、2015年3月13日

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アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-
さまざまな種がすみわけて生態系をつくっている - 伊沢紘生著『新世界ザル アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』-
自然環境と共生して生きている人々がいる - アマゾン展 -


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国立科学博物館「大アマゾン展」

東京・上野の国立科学博物館で開催されている特別展「大アマゾン展」を見ました(会期:2015.6.14まで、注1)。アマゾン川流域の多様性を見ることができました

アマゾン川流域の総面積は約700万k㎡ あるいはそれ以上といわれ、これは日本が約20個もはいるひろさであり、オーストラリアに匹敵する面積です。そのうち60%はブラジル領です。ここに成立している熱帯雨林は世界の熱帯雨林の約半分に相当します。

展示室はつぎの12室にわかれていました(図1)。化石や剥製、骨格標本、生体、映像資料など約400点で紹介していました。

第1室 翼竜・魚類・植物・昆虫の化石
第2室 哺乳類
第3室 鳥類
第4室 爬虫類・両生類
第5室 昆虫
第6室 森林のジオラマ
第7室 アマゾンカワイルカ
第8室 魚類
第9室 菌類
第10室 水草
第11室 先住民の装飾品
第12室 アマゾン体感! 4Kシアター


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図1 会場のフロアーマップ


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カピバラ


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インコ


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爬虫類


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魚類(ピラニアなど)



記憶法や情報処理の観点からは、特別展の会場全体を「多様性の家」、各展示室を家のなかの「部屋」と見なし、空間的構造的に展示をとらえることが重要です。「家」は「部屋」によって構成され、「部屋」は、「家」のなかのそれぞれの部分に位置づけられ、場所をあたえられています。


アマゾンの特色は何といってもその多様性です。アマゾンは多様性にみちあふれています。これだけ大きな多様性に短時間でコンパクトにふれられる機会はめったにありません。今回の特別展は多様性を知るための「入門コース」といってよいでしょう。

そして多様性は大観してこそ理解できます。大観とは分析とはことなる方法であり、局所にとらわれていると多様性は理解できません。全体を一気に一望することによって多様性は見えてきます。そして、それぞれの生物種が、多様な世界のなかで固有のすみかをもっていることを知り、生きるための場所をそれぞれにあたえられていることが認識できればなおよいとおもいます。

多様性を知ることは、地球環境問題に関する問題意識をふかめるためにも必要なことです。


▼ 注1
国立科学博物館・特別展「大アマゾン展」

▼ 関連記事
アマゾンの多様性を大観する - 国立科学博物館「大アマゾン展」(1) -
アマゾンを歴史的時間的にとらえる - 国立科学博物館「大アマゾン展」(2) -
アマゾンの多様性をメモする - 国立科学博物館「大アマゾン展」(3) -
アマゾンのサルの多様性をみる - 国立科学博物館「大アマゾン展」(4) -
生態系の階層構造をとらえる -「大アマゾン展」(5) -
人類の本来の生き方を知る - 伊沢紘生著『アマゾン探検記』-
アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-
さまざまな種がすみわけて生態系をつくっている - 伊沢紘生著『新世界ザル アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』-
自然環境と共生して生きている人々がいる - アマゾン展 -


『はじめて学ぶ世界遺産100』の第6章から第9章では 47 件の世界遺産を解説していまます。以下にリストアップしておきます。第9章では自然遺産をとりあつかっています。

本書は、さまざまな世界遺産を全体として非常にバランスよく選択してとりあげており、人類の歴史と地球の多様性が短時間で効果的にとらえられる仕組みになっています。歴史と多様性を、世界遺産という具体な物と場所でつかめるというのが大きなポイントです

今回は、No.54〜No.100までの世界遺産の場所をおぼえてみたいとおもいます。本書を見おわったら下のリストだけを見てそれぞれの場所をおもいだしてみます。どこまで正確におもいだせるでしょうか。おもいだせない場所があったら本書をすぐにひらいて確認します。

第6章 アメリカ、アフリカ、オセアニアの文明と東アジアの変動
54 マチュ・ピチュ
55 チチェン・イツァの古代都市
56 ナスカとフマーナ平原の地上絵
57 ラパ・ニュイ国立公園
58 北京と瀋陽の故宮
59 フエの歴史的建造物
60 伝説の都市トンブクトゥ
61 大ジンバブエ遺跡
62 ウルル、カタ・ジュタ国立公園

第7章 近代国家の成立と世界の近代化
63 ヴェルサイユ宮殿と庭園
64 マドリードのエル・エスコリアール修道院と王立施設
65 シェーンブルン宮殿と庭園
66 ポツダムとベルリンの宮殿と庭園
67 ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター・アビーとセント・マーガレット協会
68 サンクト・ペテルブルクの歴史地区と関連建造物群
69 自由の女神像
70 フォンテーヌブロー宮殿と庭園
71 ウィーンの歴史地区
72 ニュー・ラナーク
73 アイアンブリッジ峡谷
74 シドニー・オペラハウス
75 ブラジリア

第8章 テーマでみる世界遺産
76 コルディリェーラ山脈の棚田
77 アランフエスの文化的景観
78 ワルシャワの歴史地区
79 ドゥブロヴニクの旧市街
80 バムとその文化的景観
81 アッシジのサン・フランチェスコ聖堂と関連建造物群
82 バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群
83 エルサレムの旧市街とその城壁群
84 ロベン島
85 ゴレ島

第9章 世界の自然遺産
86 カナディアン・ロッキー山脈国立公園群
87 ユングフラウ-アレッチュのスイス・アルプス
88 ピレネー山脈のペルデュ山(複合遺産)
89 ハワイ火山国立公園
90 カムチャッカ火山群
91 ロス・グラシアレス国立公園
92 ノルウェー西部のフィヨルド、ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド
93 ヴィクトリアの滝(モシ・オ・トゥニャ)
94 イグアス国立公園
95 バイカル湖
96 マラウイ湖国立公園
97 グレート・バリア・リーフ
98 エル・ビスカイノ鯨保護区
99 ンゴロンゴロ自然保護区
100 中央アマゾン自然保護区


▼ 文献
世界遺産検定事務局著『はじめて学ぶ世界遺産100』マイナビ、2013年12月21日
はじめて学ぶ世界遺産100 世界遺産検定3級公式テキスト


▼ 関連記事
世界遺産を旅する -『はじめて学ぶ世界遺産100』-
100の地点を地球認識のとっかかりにする(1) -『はじめて学ぶ世界遺産100』-

『はじめて学ぶ世界遺産100』は世界遺産に関する非常にすぐれたガイドブックです。

本書の第2章から第5章まででは 53 件の世界遺産を解説しています。掲載順に通し番号をふって以下にリストアップしておきます。

世界遺産についてよく知りたい方は、まず第一に、本書にでている地図をよく見ながら各遺産の場所(位置)をおぼえるようにします。そして、本書を見おわったら以下のリストを見て(地図は見ないで)その場所(位置)をおもいだしてみます。どこまでおもいだせるでしょうか。おもいだせない場合は地図を見なおして確認します。場所(位置)をおぼえ想起できるようになることは記憶法あるいは学習法の基本といえるでしょう。

世界はとてもひろくて情報があふれかえっています。地球は大きいくてつかみどころがないような感じがします。漠然とながめているだけでは認識はふかまらないでしょう。

そこで「世界遺産100」が利用できます。本書を手がかりにして100ヵ所のポイントがおさえられれば、それらは世界あるいは地球を認識するためのとっかかりになります。そしてそれらが「情報の核」になってさらに情報があつまってきます。

第2章 日本の世界遺産との関連から 
01 セレンゲティ国立公園
02 サガルマータ国立公園
03 ラリベラの岩の聖堂群
04 始皇帝陵と兵馬俑坑
05 ガラパゴス諸島
06 トンガロリ国立公園
07 アルベロベッロのトゥルッリ
08 文化交差路サマルカンド
09 サンディアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路
10 カルカッソンヌの歴史的城塞都市
11 ポトシの市街
12 モン・サン・ミシェルとその湾
13 アウシュビッツ・ビルケナウ - ナチス・ドイツの強制絶滅収容所(1940-1945)-
14 グランド・キャニオン国立公園
15 宗廟(チョンミョ)

第3章 人類の誕生と古代文明 
16 アルタミラ洞窟とスペイン北部の旧石器時代洞窟壁画
17 アワッシュ川下流域
18 ストーンヘンジ、エイヴベリーの巨石遺跡
19 高敞(コチャン)、和順(ファスン)、江華(クアンファ)の支石墓石
20 ペルセポリス
21 フェニキア都市ビブロス
22 ヌビアの遺跡群
23 メンフィスのピラミッド地帯
24 アテネのアクロポリス
25 デロス島
26 ローマの歴史地区
 
第4章 アジア世界の形成と宗教
27 万里の長城
28 曲阜の孔廟、孔林、孔府
29 アンコールの遺跡群
30 ボロブドゥールの仏教寺院群
31 ラサのポタラ宮歴史地区
32 オルホン渓谷の文化的景観
33 高句麗(コグリョ)古墳群
34 敦煌の莫高窟
35 アジャンターの石窟寺院群
36 スコータイと周辺の歴史地区
37 『八幡大蔵経』版木所蔵の海印寺
38 イスタンブルの歴史地区
39 イスファハーンのイマームの広場
40 タージ・マハル
 
第5章 ヨーロッパ中世とルネサンス、大航海時代
41 パリのセーヌ河岸
42 ヴァチカン市国
43 ヴェネチアとその潟
44 ハンザ都市リューベック
45 グラナダのアルハンブラ宮殿、ヘネラリーフェ離宮、アルバイシン地区
46 カステル・デル・モンテ
47 アヴィニョンの歴史地区:教皇庁宮殿、司教の建造物群、アヴィニョンの橋
48 アイスレーベンとヴィッテンベルクのルター記念建造物群
49 フィレンツェの歴史地区
50 プランタン=モレトゥスの家屋・工房・博物館とその関連施設
51 ピサのドゥオーモ広場
52 メカラとジョージ・タウン:マラッカ海峡の歴史都市
53 モスクワのクレムリンと赤の広場


▼ 文献
世界遺産検定事務局著『はじめて学ぶ世界遺産100』マイナビ、2013年12月21日
はじめて学ぶ世界遺産100 世界遺産検定3級公式テキスト


▼ 関連記事
世界遺産を旅する -『はじめて学ぶ世界遺産100』-

『はじめて学ぶ世界遺産100』は世界遺産検定3級に合格するための公式テキストですが、受検をしない人が読んでもおもしろく、世界遺産を旅するための手引きとして役立ちます

検定の教科書だけあって多数の専門家のチェックがはいっており、情報(データ)が非常に正確なのが最大の特色です(注)。通常の旅行ガイドとはレベルがちがいます。

目 次
1章 世界遺産の基礎知識
2章 日本の世界遺産
3章 人類の誕生と古代文明
4章 アジア世界の形成と宗教
5章 ヨーロッパ中世とルネサンス、大航海時代
6章 アメリカ、アフリカ、オセアニアの文明と東アジアの変動
7章 近代国家の成立と世界の近代化
8章 テーマでみる世界遺産(文化的景観、戦争・紛争、地震、危機遺産、負の遺産)
9章 世界の自然遺産


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本書は、日本の世界遺産17件と世界の遺産100件を厳選してとりあげていて、これらは世界遺産のいわば「情報の核」としてつかえます。

本書のページを順にめくっていくと全体として人類の歴史をたどることができます。読みものとしてもおもしろいです。

一方で世界地図もついていますので、自分の興味のある地域の世界遺産を地図から検索してしらべてみるのもよいでしょう。わたしは、チベット・南アジアと環太平洋に興味があるのでそこを中心にしてながめています。


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旅行計画をたてるときの参考書としてもつかえますので世界遺産に関心のある方におすすめします。


▼ 文献
世界遺産検定事務局著『はじめて学ぶ世界遺産100』マイナビ、2013年12月21日
はじめて学ぶ世界遺産100 世界遺産検定3級公式テキスト


▼ 注
世界遺産の最新情報は下記サイトをご覧ください
http://www.sekaken.jp/books/pdf/text_class3_201502.pdf


▼ 関連記事
心のなかにファイルをつくる 〜『きほんを知る世界遺産44』〜
場所に情報をむすびつけて記憶する -世界遺産・記憶法-


▼ 関連書

池上彰・佐藤優両氏が対談し、混迷をふかめる現代の国際情勢を読みといています。

ウクライナの内戦や停戦、「イスラム国」の擡頭など、このところの世界の情勢の急変は、動きを追いかけていくだけでも大変です。しかし、こういうとき、表面的に事実関係を辿っていても、事の本質には迫れません。その地域には、どんな歴史があるのか、民族や宗教の分布はどうなっているのか、背景や深層を知ることで、初めて真相に近づくことができます。

という指摘からはじまり、ウクライナ内戦、欧州の闇、アメリカの失敗、「イスラム国」出現と中東の混乱、チベット問題、尖閣問題、朝鮮問題、従軍慰安婦問題などについて具体的に解説しています。

著者らは、現代は、「過去の栄光よ、もう一度」という「新帝国主義」が台頭してきた時代であり、戦争と極端な民族対立の時代が当面つづいていくと結論しまた予想しています。「過去の栄光よ、もう一度」という「新帝国主義」は、未来を想像することができずに過去の栄光にモデルをもとめてしまった結果としてあらわれてきたものであり、そこには「未来としての過去」の存在があります。

たとえば、ロシアがクリミア半島の権益をまもる。中国が南シナ海からさらにインド洋に進出する。「イスラム国」がインドからスペインまでを取りもどそうとする。過去の栄光をふたたびもとめる動きがむきだしになってきています。一方でグローバル化がいちじるしく進展しつつあるということも相まって、文明の衝突と転換が複雑にからみあい、国際情勢はかつてないほど混迷してきています。

著者らは「嫌な時代」になったとのべ、「嫌な時代」がしばらくつづくと予想しています。このような時代を生きぬくために、「嫌な時代」を認識できる耐性を個人が身につける必要があり、そのためには歴史と国際情勢を知り、知識において「代理経験」をしなければならないと強調しています。

現代を知るために読んでおくべき一冊といえるでしょう。


▼ 文献
池上彰・佐藤優著『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』(文春新書)文藝春秋、2014年12月19日
新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)




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国立科学博物館「「シアター36○」(リーフレットから引用)


東京・上野の国立科学博物館のなかにある「シアター36○」(シアター・サン・ロク・マル)に行きました。360度全方位の映像につつみこまれるおどろきの異空間を体験することができました。

「シアター36○」とは、直径12.8m(実際の地球の100万分の1の大きさ)のドームの内側がすべてスクリーンになっていて、その中のブリッジにたって、360度全方位にうつしだされる動画をたのしむ世界初のシアターです。

国立科学博物館・日本館地下1階にあり、博物館への入場料金(常設展料金:一般620円)のみで追加料金なしで見ることができます。 整理券などの配布はなく先着順です。



今回わたしが見たプログラムはつぎの2本でした。

(1)マントルと地球の変動 –驚異の地球内部–
(2)海の食物連鎖 –太陽からクロマグロをつなぐエネルギーの流れ–

上映時間はのべ約10分とみじかかったですが貴重な体験をしました。とくに、「マントルと地球の変動  –驚異の地球内部–」は印象にのこりました。内容はつぎのようでした。

  • 地球のなかから地球の表面を見ると大陸が移動しています。
  • 海溝では、「プレート」が、地震をおこしながら地球内部にもぐっています。
  • 地球内部のマントルでは「プルーム」とよばれる動きがあります。
  • アジア大陸の下では「コールドプルーム」がおちてきます。
  • 南太平洋やアフリカ大陸の下では「ホットプルーム」が上昇しています。
  • 「ホットプルーム」にのって上昇していくと、地表でマグマになり火山が噴火します。
  • マントルの動きは、大山脈・大断層・海嶺・海溝などのさまざまな地形を生みだします。

宇宙から見た地球や地球の断面図は書籍などでも見ることができますが、地球のなかから地球を見たのは初めてで、まるで自分が地球になったかのような気分になれました。

このシアターの特色は、認識する対象の中に自分が入ってしまうことにあるでしょう。

人間の目は顔の前面についていて前方しか見えないこともあって、わたしたちは何かを認識する場合、自分はこちら側にいて対象はむこう側にあると普通はおもってしまいます。しかし、このシアターではそうではなくて、認識する空間のなかに入りこみ、自分がその空間の一部になってしまいます。

そして、認識する空間が球形にひろがっているということは、自分の意識の場を球形にひろげるきっかけにすることができます。

何かを大観したり観察するとき(情報をインプットするとき)、このような360度全方位の大きな空間を意識することは重要なことです。そうすれば、より多くの情報をまるごとインプットすることができます。「シアター36○」での体験は、みずからの情報処理の仕方を深化させるために応用できるとおもいます。


▼ 関連記事
スカイツリーにのぼって首都を大観する

池内恵著『イスラーム国の衝撃』は、報道が連日つづいていいる「イスラーム国」に関する一般むけ解説書です。

目次はつぎの通りです。

1 イスラーム国の衝撃
2 イスラーム国の来歴
3 甦るイラクのアルカーイダ
4 「アラブの春」で開かれた戦線
5 イラクとシリアに現れた聖域 ──「国家」への道
6 ジハード戦士の結集
7 思想とシンボル ── メディア戦略
8 中東秩序の行方

そもそも中東の混乱の要因には、第一次世界大戦後の英仏による、「委任統治」という名の事実上の植民地支配がありました。これにより中東は分断され、イスラーム原理主義は支持をえました。

「イスラーム国」はアル=カーイダに起源があります。

9・11事件後、米国による「対テロ戦争」によって、アル=カーイダは一度は打撃をうけましたが、ネットワーク型の組織原理でつながる「アル=カーイダ関連組織」となり復活しました。

アル=カーイダが復活した最大の要因は2003年のイラク戦争でした。イラクの混乱により、イラクは、アフガニスタンからおわれたジハード戦士たちの行き場となり、そこで台頭したのが「イラクのアル=カーイダ」です。これが大きくなってイラクとシリアの一部を領域支配するようになり、これが、現在の「イスラーム国」になりました。

一方で、2011年以来の「アラブの春」により独裁政権が次々にたおれたことも、国境をこえてジハード戦士があつまり、「イスラーム国」を大きくする要因になりました。

それにくわえて、「グローバル・ジハード運動」がおこり、民族や国家をこえたテロが世界各地でおこりはじめました。これには、ハイテク化した兵器が世界の市場で流通するようになったことがベースにあります。

さらに、「イスラーム国」は、インターネットをつかったたくみなメディア戦略により、世界の注目をあつめることに成功しました。「イスラーム国」は「電脳空間」にも大きく進出したのです。


本書を要約すると以上のようになります。

このような流れのなかで現在の状況をみていると、世界は、今までとはちがう あらたな歴史的段階に入ったとしかおもえません。

中東の問題を、イスラーム世界の問題あるいは欧米の問題と片付けることはもはやできないことはあきらかです。地理的にも歴史的にも、あるいは宗教上もとおい存在であった日本でさえも、意図せずして、紛争に「参加」してしまうことがあることを、わたしたち日本人も知るべきでしょう。わたしたちは世界とつながっているのです。

なお、本書は、説明が若干こみいっています。池上彰著『池上彰が読む「イスラム」世界』とあわせて読むと理解が一層すすむでしょう。
 


▼ 文献
文化的にひとまとまりのある地域をおさえる - 国立民族学博物館の西アジア展示 -
世界の宗教分布を地図上でとらえる -『池上彰の宗教がわかれば世界が見える』(1)-

『池上彰と考える、仏教って何ですか?』の第三章(最終章)では「仏教で人は救われるのか?」についてのべています。

池上さんは、ご自身についてはつぎのようにのべています。

ダライ・ラマ法王との出会いによって、仏教の説く教えこそ、生きていく上での道しるべ、あるいは灯明として活かしていけそうだと確信できるようになりました。私は結局、仏教徒なのかなと思えるようになったのです。

ダライ・ラマ法王との出会いは大きかったようです。


仏教と科学との関係についてはつぎのようにのべています。

仏教では創造主といった存在を想定していません。すべての現象は原因と結果の連なりである因果で成り立っています。物事には必ず原因があって結果が生じます。実に科学的な態度です。(中略)

ダライ・ラマ法王も高名な科学者との対話を頻繁に行なっています。仏教と最新の科学理論とは矛盾しないため、きちんと議論がかみ合うのです。

この点は、一神教とはかなりちがいます。


仏教をいかに活かすかについてはつぎのようにのべています。

法王がおっしゃるように、仏教が追求してきた人間の心の機能やトレーニングは、信仰の有無にかかわらず教養として役に立ちます。世の中の一人ひとりが社会において経験を積んだ、何らかのプロであるように、仏教の僧侶は人間の心のはたらきと制御法に向き合い続けてきたプロなのです。逆境を乗り越えるために、その技術を活かさない手はありません。

これからの時代は、物質よりも、心の機能を知ることとそのトレーニングの方が重要になるでしょう。


死についてはつぎのようにかたっています。

私はジャーナリストとしてたくさんの死を見てきたからです。NHK記者として、人が大勢亡くなった現場に駆けつけるのが仕事でした。特に警視庁を担当していた時代には、あらゆる亡くなり方をした遺体を見ました。

池上さんは普通の人がもっていない体験をもっています。

ダライ・ラマ法王はつぎのようにのべました。

死とは、ただ衣服を着がえるようなものなのです。つまり、私たちの肉体は古くなっていくので、古い身体を捨てて新しい身体をもらうわけです。

前提になっているのは、輪廻転生のかんがえ方です。


戒名について、つぎのようにのべています。

戒名とは本来、戒律を守る証として、仏門に入った者に授けられる名前です。決して死者に付けられる名前などではありません。(中略)

よく葬式仏教への非難とセットで、一文字 X 十万円などという戒名料が話題にのぼりますが、本来、戒名に値段などはありません。お寺への感謝の気持ちとしてお布施を贈ればよいのでしょうが、気持ちを金額に換算する相場はありません。(中略)

生きているうちに戒名を考えてみるのは、よりよく生き、悔いを残さず、よりよく死ぬためのレッスンと言えるでしょう。

これは、わたしたち読者への提案です。生きているあいだに戒名についてかんがえることをきっかけにして、生き方や死に方についてかんがえてみようということです。

* 

最後につぎのようにのべています。

自分のことをよく知り、自分にとって何が大切なのかを知ってこそ、他人や他国の人々が大切にしているものを理解することができるのではないでしょうか。


本書の特色は、いわゆる宗教者や仏教の専門家ではなく、国際ジャーナリストがグローバルな視点から仏教について書いたというところにあります。

今日、グローバル化がいちじるしく進行し、わたしたち一人一人の生活や人生も、世界の情勢と切っても切れない関係になってきました。一人一人の生き方は世界のうごきと連動しているのです。このような、あたらしいグローバル社会において、あらためて仏教をとらえなおすことはとても重要なことだとおもいます。本書は、そのための入門書として有用です。



▼ 文献
池上彰著『池上彰と考える、仏教って何ですか?』飛鳥新社、2014年10月24日


▼ 関連記事

『池上彰と考える、仏教って何ですか?』の第二章「仏教発祥の地インドへ」では、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ法王と池上さんとの対談をよむことができます。東日本大震災、原発・エネルギー問題、仏教の心理学、チベット問題などについてかたられていて、法王とのこの対談は本書の価値をとても高めています。

チベットは、現在は、インドに亡命政権をおいています。

一九五九年三月、ダライ・ラマ法王は二十四歳のとき、中国の軍事的な圧力にさらされていたチベットを後にし、インドに亡命しました。


法王は、東日本大震災のあと、4月には日本を訪問され、特別慰霊の法要をし、11月には被災地を慰問されました。

多くの困難や苦しみに直面したときに、大きなちがいをもたらすものは、私たちのもののかんがえ方にあることをのべています。

普段から物質的な発展だけを追い求め、外面的な幸せを得ることだけを考えていたとしたら、内面的なことをあまり考えずに過ごしていたとしたら、このような惨事が起きたとき、すべての望みを失ってしまいます。

しかし、日頃からどのようなものの考え方をするべきかについて考え、心を訓練していれば、逆境に立たされた場合でも、心の中では希望や勇気を失わずにいることができるのです。

日本人がこれまで、物質的な価値をおいもとめすぎていたこを指摘し、震災は、精神的な価値に気づくチャンスだと強調しています。
 

原発事故、エネルギー問題、復興については、つぎのようにのべています。

私たちは科学技術を必要としていますし、科学技術を向上させていくことも必要です。 

しかし、同時に、津波の予知などには限界があるということも認識しなければなりません。巨大な自然災害が起きたときは、科学技術に助けを求めても、時には私たち人間の能力をはるかに超えていることもあるのです。

わたしたちは、今日、科学技術にも限界があることを認識しなければならなくなりました。


チベット問題についてはつぎのようにのべています。

私たちチベット人のことについて少しお話ししましょうか。私たちは祖国を失いました。私は十六歳のときに自由を失い、二十五歳のときに祖国を失ったのです。

しかし、希望と決意を失ったことは一度もありません。自由と祖国を失った時からすでに五十年、六十年の月日が経ちましたが、今もなお、私は完全な情熱と自信を持ってこの問題に立ち向かっています。

法王は、「中道のアプローチ」という、チベット人の自治が実現できれば中国からの独立はもとめないという妥協案を提出しています。わたしたちは、アジアにおける国際紛争についてももっと理解しなければなりません。

* 

心の精神世界についてはつぎのようにのべています。

仏教は、私たち人間が持っている様々な感情について、つまり、心という精神世界について、大変深い考察と探究をしています。私たちの心とはどういうものなのか、感情がどのような働きをしているのかを正しく理解することは、問題や困難に直面したとき、自分の破壊的な感情を克服するために大変役に立つのです。

自分の心がどのように機能しているのか、そのシステムを正しく知ることが重要であると強調しています。


対談をおえて、池上さんはつぎのようにまとめています。

ダライ・ラマ法王のような卓越した指導者を持たない私たち日本人には、心のよりどころが希薄です。法王の提案する、よく生きるための一般教養としての仏教をヒントに、不安と恐れを克服する術を日本人なりに考えていく必要があるのでしょう。


法王と池上さんのように、グローバルな視点にたって、地球上のほかの宗教とも比較しながら仏教をとらえなおしていくことは、現代の複雑な世界情勢のなかで、自分なりの人生を展開していく方法を見つけるためにも必要なことだとおもいます。特に、心の機能やシステムについて理解をふかめていくことは重要でしょう。


▼ 文献
池上彰著『池上彰と考える、仏教って何ですか?』飛鳥新社、2014年10月24日


▼ 関連記事
仏教を歴史的にとらえる -『池上彰と考える、仏教って何ですか?』(1)-

『池上彰の宗教がわかれば世界が見える』の第8章(最終章)では、池上彰さんと解剖学者の養老孟司さんとが対談していて、仏教と一神教との違いなどについて解説しています。

池上 キリスト教やイスラム教では、死んだら「最後の審判」があり、天国と地獄に振り分けられる、という死生観ですね。

養老 (中略)生きている時の行いが善だったか悪だったか決められるっていうからには、その人の一生を通した総体としての「自分」みたいなものが前提になっている。それが一神教の文化です。

でも仏教は「無我」というように、「私なんて無い」という立場です。人間は日々変化していき、今ある姿はかりそめのものに過ぎない。されにいえば、「生きている」ということだってかりそめでしょう。

その世界に一神教みたいな自己を入れても、折り合うわけがない。これは、いちばん根本的な違いじゃないかと思います。

(中略)

養老 一神教は、都市の宗教です。自然から切り離され、人間しかいない人工世界ですから、死生観だって人間中心主義になる。日本は世界から見れば「田舎」に属していて、一神教が普及しなかった。

このように、仏教と一神教とは根本的に違うということがのべられています。


また、一神教に関連して、宗教と科学の住み分けについてのべています。

養老 西洋の場合は、宗教と科学は対立するというより、表裏一体でしょうね。(中略)

池上 要するに、それぞれが住み分けをするという形での妥協ですね。(中略)

養老 デカルトが典型ですね。人間についても心身二元論になって、心のほうは宗教の領域、身体のほうは科学の領域と切り分けるようになった。


デカルトについては、池上さんはつぎのように説明しています。

有名なのは、「我思う、ゆえに我あり」という言葉です。知覚される全てを疑っても、その疑っている精神が存在することは疑いようがないということを起点として、デカルトは新しい哲学の方法を述べました。それが理性によって真理を探究するという近代哲学の出発点となり、身体を含めて世界を機械とみなす世界観の確立ともなりました。この世界観、身体観の上で、ヨーロッパの近代科学は展開したのです。


そして、文明の衝突についてのべています。

池上 世界全体をみると、キリスト教とイスラム教の対立といった、「文明の衝突」が言われます。再び宗教の時代に入ってきているのでしょうか。

養老 一神教同士はぶつかるようにできているんですよ。十字軍はまさにそうだし、ヨーロッパの中でもカトリックとプロテスタントの間で三十年戦争が起きています。

今日、グローバル化がすすんできて、出身のことなる人々が世界各地で混在するようになり、あらたな衝突もおこりはじめたと言えるのではないでしょうか。

最近の世界のニュースを理解するためには、世界の宗教、特に一神教に関する基本的な認識がやはり必要でしょう。一神教について知るためには、仏教や神道との相違を知ることがひとつの重要な方法になります。そのために、池上さんらの解説はとても参考になるとおもいます。


▼ 文献 
池上彰著『池上彰の宗教がわかれば世界が見える』(文春新書)文藝春秋、2011年7月20日


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オセアニアの地図(展示ガイドから引用

国立民族学博物館のオセアニア展示は、展示空間が大きく、非常に充実しています。ここでは、地球上のほかの地域とはあきらかにちがう、海洋地域への人類の移動と拡散の歴史を想像することができます。

海がほとんどの面積を占めるオセアニアには、大小数万をこえる島々が点在しています。ここでは、発達した航海術をもち、根栽農耕をいとなむ人々がくらしてきました。

人々の移動と拡散についてはつぎのように説明していました。

今から5万年前は、海面が今よりも低く、多くの地域が陸つづきになっていて、東南アジアからの移動がしやすかった。

ラピタ土器が見つかる島々をたどると、人々がメラネシアを通ってポリネシアへ移動したことがわかる。

高度な航海術(スターナビゲーション)をつかって移動することができた。

つまり、海面低下・土器の分布・航海術の証拠から、東南アジアからこの広大な海洋地域に、人類が移動・拡散したことが想像できるというわけです。


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人々の移動と拡散


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ラピタ土器
 

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チェチェメニ号
(航海や漁撈につかわれるカヌー。3000キロメートルの航海記録をもつ)


オーストラリアやニューギニアでは4〜5万年前から人々が住みはじめ、また、今から3300年前ごろには、根栽農耕文化をもつアジア系の人々がオセアニア全域の島々にひろがり定住したそうです。

このようなことを想像するだけでも、オセアニアが、大陸地域とは基本的にちがう異色な地域であることがよくわかります。地球上の多様性を知るためにも、オセアニアは重要な位置を占めるのではないでしょうか。

なお、オセアニアの人々がどこから来たかについて、東南アジア起源説ではなく、南米起源説をとなえた学者もかつてはいたそうですが、現在では否定されているそうです。

150104 国立民族学博物館 世界地図
国立民族学博物館の世界地図

これは、国立民族学博物館の地域展示のコンセプトにそってつくられた世界地図です。展示ガイド(注)から引用しました。地球上を、文化的なまとまりにもとづいて、9つの地域に分けています。これは、わかりやすい世界の見取り図としてつかえます。

それぞれの地域の文化的特色をつかむためには宗教について知ることが重要です。この地図から、世界の宗教の分布も見えてきます。大局的に見ると、たとえば、つぎのような地域と宗教との対応関係があります。宗教を、空間的なひろがりとしてとらえなおすことができます。

 ヨーロッパ:キリスト教
 中央・北アジア:イスラム教、キリスト教
 西アジア:イスラム教
 南アジア:ヒンドゥー教
 東アジア
  チベット:チベット仏教
  中国:儒教(一部は道教)
  日本:日本仏教
 東南アジア:上座部仏教(一部はイスラム教)
 アメリカ:キリスト教

西アジアに北アフリカがふくまれているところなどに注目してください。


また、いわゆる文明との対応関係もあります。伝統的な文明を空間的にとらえなおすことができます。

 ヨーロッパ:ヨーロッパ文明
 西アジア:イスラム文明
 南アジア:ヒンドゥー文明
 東アジア
  チベット:チベット文明
  中国:中国文明
  日本:日本文明


この世界地図をおぼえておけば、世界のニュースやグローバルな情勢に接したときに理解がすすむとおもいます。


博物館のなかをあるいて見学すると、各展示物とその解説は、博物館のなかの特定の展示室での体験として記憶されます。

そして一通り見おわったら、それぞれの展示室での歩行体験、展示物を見たときの体験を、この地図上でとらえなおしてみるとよいです。すると、それまでの体験が、今度は、地図上の特定の地域にむすびつけられて理解され記憶されることにもなるのです。

こうして、この世界地図の9つの地域は、それぞれが情報のひとまとまり、情報のユニット、つまりファイルになります。すると、この地図は、そのようなファイル(展示物のイメージや解説などの情報)を想起するためのインデックス・マップとしてもつかえるようになります。折にふれてこの世界地図を見なおすことにより、博物館のなかでの体験を、地域ごとにおもいだすことができるのです。

* 

国立民族学博物館には、かならずしもそのことがガイドにしめされているわけではありませんが、理解や記憶や学習のための よくできた仕掛けが随所にあります。情報処理の訓練と世界の理解のために、とてもつかい勝手のある博物館だとおもいます。


▼ 注
『国立民族学博物館展示ガイド』国立民族学博物館、2012年3月30日 


国立民族学博物館 >> 

仏教、神道、キリスト教、イスラム教の要点を説明した、世界の宗教の入門書です。世界のうごきをとらえるために、宗教のことを理解しようと主張しています。どこかの宗教に入ることをすすめる本ではありません。

最初の方にでている「世界の宗教分布マップ」がもっとも役に立ちます。

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世界の宗教分布マップ 

これをよく見て、地球上での各宗教の分布をおさえてから本文を読むとよいでしょう。本文は対談になっていますが、各章のおわりに「インタビューを終えて」と題してまとめがしてありますので、ここをよく読むとわかりやすいです。

上の分布図を見れば、宗教とは元来は地域的なものであることがよくわかります。これは、ひろい意味のすみわけと言ってもよいかもしれません。宗教には分布範囲があり、それぞれの分布範囲のなかにおいて、その宗教にもとづく独自の文化がはぐくまれてきました。

また、宗教から気候風土が見えるそうです。

どの宗教にも、それぞれの土地の気候風土が反映しているのではないでしょうか。

たとえば中東の砂漠地帯では、人間は本当に無力な存在で、ちょっとした砂嵐に巻き込まれただけで、あっという間に死んでしまいます。大自然の恐ろしさを、ひしひしと感じさせる風土です。(中略)

神様によってすべてが創られているとする一神教の厳しさは、あの砂漠の中だからこそ生まれ、育ってきたものでしょう。

それに対して、熱帯についてはつぎのようにのべています。

人間を含めた生き物はあっという間に死ぬけれども、次々に新しい生命が生まれてもきます。(中略)

輪廻転生とは、そのような熱帯の自然の中から生まれた思想なのではないでしょうか。

このように、世界の宗教をとらえるときには、地理的空間的な分布を知り、それを、その地域独自の自然環境とむすびつけて理解するとわかりやすいとおもいます。


▼ 文献
池上彰著『池上彰の宗教がわかれば世界が見える』(文春新書)文藝春秋、2011年7月20日


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第一に空間的に、第二に時間的に整理してとらえる - 池上彰著『宗教がわかれば世界が見える』(2)-
仏教と一神教との違いを知る -『池上彰の宗教がわかれば世界が見える』(3)-
世界の宗教を比較して理解する -『[図解]池上彰の世界の宗教が面白いほどわかる本』-
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