発想法 - 情報処理と問題解決 -

情報処理・学習・旅行・取材・立体視・環境保全・防災減災・問題解決などの方法をとりあげます

タグ:地球

田沼靖一(監修・執筆)『生命科学がわかる100のキーワード』(Newton別冊/ニュートンプレス)は、近年めざましく進歩している生命科学の入門書です。わかりやすい視覚的な図をもちいて以下の100のキーワードを解説しています。

Contents
Part 1 生命を知るためのキーワード
 01 DNA
 02 核酸
 03 染色体
 04 遺伝子
 05 ゲノム
 06 RNA
 07 アミノ酸
 08 タンパク質
 09 糖質
 10 脂質
 11 無性生殖
 12 有性生殖
 13 性の決定
 14 単為生殖
 15 SOD
 16 サーチュイン
 17 老化
 18 寿命
 19 生命系統樹

Part 2 細胞を知るためのキーワード
 20 原核細胞
 21 真核細胞
 22 セントラルドグマ
 23 複製
 24 修復
 25 転写
 26 翻訳
 27 遺伝暗号
 28 細胞小器官
 29 核
 30 クロマチン
 31 ミトコンドリア
 32 ミトコンドリアDNA
 33 小胞体
 34 ゴルジ体
 35 ペルオキシソーム
 36 リソソーム
 37 葉緑体
 38 代謝
 39 分子シャペロン
 40 細胞増殖
 41 細胞分化
 42 アポトーシス

Part 3 病気を知るためのキーワード
 43 病原体
 44 ピロリ菌
 45 O-157
 46 ノロウイルス
 47 新型インフルエンザウイルス
 48 抗生物質
 49 免疫
 50 ワクチン
 51 アレルギー
 52 メタボリックシンドローム
 53 動脈硬化
 54 アルツハイマー病
 55 がん
 56 がん遺伝子
 57 がん抑制遺伝子
 58 がんの治療法
 59 不妊症
 60 卵子の老化
 61 生殖医療
 62 内視鏡検査
 63 MRI
 64 X線CT
 65 PET
 66 テーラーメイド医療
 67 ドラッグデリバリーシステム

Part 4 iPS細胞を知るためのキーワード
 68 杯
 69 発生
 70 細胞運命
 71 再生医療
 72 幹細胞
 73 ES細胞
 74 iPS細胞
 75 iPS細胞の応用例
 76 脳
 77 筋肉
 78 骨
 79 血液
 80 臓器移植
 81 脳死
 82 遺伝子治療

Part 5 バイオテクノロジーを知るためのキーワード
 83 遺伝
 84 伴性遺伝
 85 突然変異
 86 エピジェネティクス
 87 クローン
 88 制限酵素
 89 ベクター
 90 遺伝子組みかえ技術
 91 トランスジェニック動物
 92 ノックアウトマウス
 93 RNA干渉
 94 GFP
 95 PCR法
 96 DNAシークエンサー
 97 次世代シークエンサー
 98 一塩基多型
 99 バイオインフォマティクス
 100 遺伝子診断


地球上に生息している生物はすべて、DNA を遺伝情報としている “DNA生物” です。これらの生物の類縁関係を DNA の塩基配列から決めたのが生命系統樹とよばれるものです。

わたしたちの体はもともと一つの受精卵からはじまります。それが細胞分裂によって増殖していき、各器官や組織をつくる特殊な機能をもった細胞になっていきます。これを細胞分化といいます。一方で細胞には、みずから死ぬという基本機能としてアポトーシス(自死)が生まれつきそなわっています。つまり生命は、細胞の生と死の巧妙なバランスによってなりたっているのです。

生命科学の進歩によりヒトゲノムの解読が完了し、21世紀の医療は大きく変わろうとしています。患者の遺伝子診断の結果をもとにした、個々人の遺伝子体質にあった薬による適正な治療などが期待されています。また再生医療に関する研究開発が加速しています。とくに注目をあつめているのが幹細胞をもちいいた再生医療であり、ES細胞とiPS細胞の研究がすすんでいます。

バイオテクノロジーも進歩し、生命の設計図である遺伝子の解読と操作によって生命をデザインしなおすことが可能になりました。しかし、遺伝子組みかえ植物やクローン人間の問題など、社会的および倫理的問題も発生してきています。


本書は、とてもよくできたイメージ(画像)をつかって説明しているので学生や一般の人のための入門書として最適です。

まずは、キーワードとイメージに注目しながら本書の全体を一気に見てしまう、本書を概観してしまうのがよいでしょう。つぎに、各 Part 冒頭の解説や自分の興味のある項目について重点的に読んでみます。テーマ別に5つの Part にわかれてはいますが、それぞれのキーワードの解説は独立しているのですきなところから順不同で読むことができます。そしてふたたび本書全体を見て生命科学の動向を展望してみます。

151028 生命科学


ニュースなどでよくでてくる用語も本書のキーワードにたくさん含まれています。本書をつかって生命科学の「今」を知っておけばニュースもよく理解できるとおもいますし、自分が治療をうける場面になったときにも役立つでしょう。


▼ 引用文献

田沼靖一(監修・執筆)『生命科学がわかる100のキーワード』(Newton別冊)、ニュートンプレス、2013年7月15日
生命科学がわかる100のキーワード―生命,病気,iPS細胞など,テーマ別でわかりやすい (ニュートンムック Newton別冊)


▼ 関連記事
現代の生命科学を概観する -『生命科学がわかる100のキーワード』(Newton別冊)-
キーワードとイメージとをセットにして記憶する
すすみたい分野の100のキーワードをおぼえて前進する


『NHKサイエンスZERO 東日本大震災を解き明かす』(NHK出版)は、東日本大震災をひきおこした地震と津波についてメカニズムを科学的に解明しています。今後の防災・減災のために役立てることができます。

図が非常によくできていてわかりやすいです。おいそぎの方は図を見るだけでもよいでしょう。

目 次
第1章 地震はなぜ起こるのか
第2章 津波はなぜ起こるのか
第3章 東北地方太平洋沖地震の謎
第4章 謎を解く手がかり
第5章 南海トラフへの視点

3.11の東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.0、死者・行方不明者はあわせて2万3000人あまり、損壊した家屋は50万戸以上(全壊〜一部損壊)という未曾有の被害をもたらしました。

この大地震はプレートの運動によってひきおこされました。プレートとは、海嶺で上昇してきたマグマが冷却されて岩状にかたまってできた「地球の皮」のようなものです。プレートには陸のプレートと海のプレートがあり、陸のプレートの下に海のプレートが海溝でしずみこんでいることが知られています。

3.11の東北地方太平洋沖地震では陸のプレートが海面の方向に大きく一気にはねあがりました。そのとき、その上の海水がもちあげられることにより津波が発生しました。

この津波について気象庁は高さを最初はかなり低く発表してしまいました。これが被害を大きくする一因にもなったのです。

気象庁の津波警報は、データベースに保存されている約10万通りの過去の地震と津波のなかから「最も似たもの」を瞬時にえらびだして、それを津波予測として発表する仕組みです。しかしいくら「最も似たもの」であっても、現実に今おきた地震・津波とはことなっていたためにズレが生じてしまいました。つまり過去に依存しているだけとまちがうということです。


そもそも地震学者は、マグニチュード9.0の巨大地震が東北沖でおこるとは誰も予測していませんでした。「過去はこうだったから、次もこうなるだろう」という概念を地震にあてはめていたのが失敗の原因でした。

3.11により、過去のデータから未来を予測することには限界があることがあきらかになりました。過去のデータに依存しているとまちがうわけです。


今後は、南海トラフについても大地震がおこると懸念されています。「想定東海地震」とよばれ、これについても、予知ができるという地震学者がいる一方で予知は無理という学者もいて、要するに、過去に依存していて当てにならないということです。未来は過去の単なる延長ではありません。

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たとえてみるならば、ペーパーテストのための勉強をする受験生が過去に出題された問題をすべてしらべて、その傾向をつかんで暗記しておいて、それらのなかから解答を出せばいいとおもっているようなことです。過去の枠組みのなかだけで準備をする。過去に依存してしまってあたらしい問題は想定していないし、そんなものが出てきても手におえないというわけです。地震学者たちはいわばペーパーテストの「優等生」だったのです。

時空の座標系において未来の1点を数学的に決定できない以上、予知はできないということを認識できるときがやってきました。確率はいえても予知はできません。そろそろおこりそうだとはいえますが、それは明日なのか1年後なのか30年後なのかわかりません。

したがって地震がきても倒壊しないように自宅を補強する、火災を出さないようにする、海沿いの人は高台に避難するといった基本的なことの方が重要です。


▼ 参考文献
サイエンスZERO取材班+古村孝志・伊藤喜宏・辻健 編著
『NHKサイエンスZERO 東日本大震災を解き明かす』NHK出版、2011年6月25日
NHKサイエンスZERO 東日本大震災を解き明かす (NHKサイエンスZERO)


博物館のガイドブックで予習をしてから博物館を見学し、帰宅してからガイドブックで復習すると体験的に認識が一気にふかまります。

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産業技術総合研究所・地質標本館


産業技術総合研究所の地質標本館(注)は地球科学に特化しためずらしい博物館です。規模はそれほど大きくはありませんが、地球と固体地球科学の成果について展示を通して比較的短時間で理解をふかめることができます。自然科学的な調査・研究の成果をふまえているために情報が正確で学術的に信頼できるのがよいです。

1階の第1展示室では「地球の歴史」を解説しています。日本列島の地質模型や生物の化石が注目されます。

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 写真1 デスモスチルスの化石(平行法で立体視ができます)

デスモスチルスとは、新生代新第三紀(2303万年前から258万年前の時代)に太平洋沿岸地域に生息していた哺乳類です。

 *

2階へ行くと第2展示室があり「生活と鉱物資源」を解説しています。太平洋の海底地形がおもしろいです。

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写真2 日本付近の地形模型(平行法で立体視ができます)

青色の部分は海溝です。海溝はプレートとプレートの境界であり、ユーラシアプレートの下に太平洋プレートとフィリピン海プレートがしずみこんでいます。

第3展示室では「生活と地質現象」と題して地震や火山活動について解説しています。


1階へおりると第4展示室があり、ここでは岩石・鉱物・化石を分類して展示しています。

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写真3 アンモナイト(平行法で立体視ができます)


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写真4 礫岩(堆積岩の一種)(平行法で立体視ができます)


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写真5 片麻岩(変成岩の一種)(平行法で立体視ができます)


地質標本館は、とてもすぐれたガイドブック(図説)の発行もしています。

地球を概観する -『地球 図説アースサイエンス』- >>

地質標本館にいく前にこのガイドブックで予習をし、そしてここに行って展示物を見学し、帰宅してからガイドブックで復習すると理解は一気にふかまります。第2の段階において、行動しながら体験がふかまるというところがポイントです。 単なる知識のつめこみになりません。

151009 予習見学復習


このようなことはあたりまえのことですが、実際には、よくできたガイドブックとすぐれた展示の両者がそろってこそ効果があがります。いいかげんなガイドブックを読んでいても意味がありませんし、また展示を見ても解説が簡略すぎたり、そもそも解説がほとんどなかったりして、せっかく見に行ったけどもよくわからなかったということはよくあります。

おなじ時間と労力をかけるのなら、よくできたガイドブックとすぐれた展示をさがしだしてそれらを利用した方がよいのです。このようなガイドブックと実見とをくみあわせる、あるいは読書と行動とをくみあわせる方法は問題解決の基本ですし、旅行法にも通じます。

地質標本館のガイドブックは非常によくできていて、これほど真面目で立派なガイドブックをだしている博物館はほかにはほとんどありません。編集者の意気込みが感じられます。すぐれたガイドブックを発行すると博物館は利用価値がたかまります。ほかの博物館も見習うべきでしょう。



▼ 平行法(パラレル法)をつかった立体視のやり方は下記サイトをご覧ください。



地球に関するグローバルな認識をふかめることは今後の自然災害や環境変動にそなえるために必要なことです。

『地球 図説アースサイエンス』(誠文堂新光社)は、産業技術総合研究所の地質標本館(注)の展示物を材料にした地球科学の入門書です。やや専門的ですが多数の写真と図表がでていてわかりやすいです。

目 次
第1部 地球の歴史となりたち
 第1章 地球の誕生と進化
 第2章 岩石と鉱物
 第3章 生物の進化を化石にたどる
 第4章 地質と地形

第2部 地球と人間のかかわり
 第1章 生活と地下資源・水資源
 第2章 自然の恵みと災害
 付 録 地質標本館について


第1部・第1章では「地球の誕生と進化」について概観しています。この章では「プレートテクトニクス」に注目するとよいでしょう。プレートテクトニクスとはとはつぎのとおりです。

固体地球の表層部は厚さ100km程度のリソスフェアとよばれる剛体の層になっています。それは一様ではなく十数枚の部分にわかれていて、それらを「プレート」とよびます。プレートは、その下にあるアセノスフェアとよばれる柔らかい層の上を移動しており、各プレートの境界において地震や火山活動、地質構造の形成などのさまざまな地質現象がおこります。このような概念を「プレートテクトニクス」といいます。

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つまり、固体地球をおおっている何枚もの「プレート」が相互に運動して、それらの境界でさまざまな変動現象がおこるということです。この地球科学の基本仮説をおぼえておくと地震や火山噴火、それらにともなう自然災害などを理解しやすくなります。

第2章・第3章では岩石・鉱物・化石について解説しています。岩石・鉱物・化石は地球を構成する要素であり、これらの分析的研究は地球の物質循環の物語を読みとくために役立ちます。

岩石・鉱物・化石は書物でいうと「言葉」(単語)に相当します。言葉がわかると物語が読めるように、岩石・鉱物・化石について知ることにより地球の物語が解読できるようになります。言葉(単語)がわからなければ物語を読みとくことができません。「地球は百万巻の書籍に勝る興奮に満ちた探索の対象である」とのことです。

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第4章では「地質と地形」についてのべています。地形は地質構造の反映ですので地形を見ると地質構造がある程度わかります。

そして、この地形と地質構造がつぎの第2部「地球と人間とのかかわり」を理解するための橋渡しの役割をはたします。地形と地質構造につい理解しておくと、地球の資源や恵み、あるいは自然災害についての認識を容易にします。

第2部「地球と人間とのかかわり」では地下資源(鉱物資源・燃料資源)、地熱、自然災害などについてのべています。

自然災害ではいうまでもなく大地震と火山噴火が重要です。あるいは地すべり・崩壊・土石流などにも注意しなければなりません。本書の最後には、隕石・小惑星の衝突による生物の大量絶滅についてものべられています。このようなおそろしいことが過去にはおこっていたことがわかっています。人類は今後とも生きのこれるのでしょうか? 

現代は、大規模自然災害・地球環境問題・地球温暖化などが顕著になり、地球についてグローバルな認識をふかめることは万人にとって必要なことになってきました。地球科学は科学者や地学少年だけのものではもはやありません。認識をふかめ今からそなえておかなければなりません。


まとめ
  • 地球科学の基本仮説であるプレートテクトニクスについておぼえておく。
  • 地球の「物語」の「言葉」(単語)である鉱物・岩石・化石について理解する。
  • 地形を橋渡しにして地球と人間とのかかわりを理解する。
  • グローバルな認識をふかめて自然災害や環境変動に今からそなえる。


▼ 注

▼ 引用文献
地質標本館編『地球 図説アースサイエンス』誠文堂新光社、2006年8月24日
地球 図説アースサイエンス

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ステレオ写真をつかえば風景写真も立体視をすることができます。

写真 3a は平行法(パラレル法)をつかうと立体視ができます。ステレオグラムのときに2つの図の間に紙をおいて立体視をしたように、2枚の写真の間に紙(あるいは下敷き)をおいて見るとよいです。目印(補助点)として中央奥の山頂をつかって見てもよいです(注)。


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写真 3a 風景のステレオ写真(平行法)


何本もの山並みが幾重にもかさなっている様子が立体的に見えたでしょうか。左右2枚の写真が融合して立体的に見えたと感じてもすぐにはやめないでしばらく見つめているとさらにくっきりと見えてきます。

写真はヒマラヤ山脈(Himalayan Range)、中央奥にそびえる山は世界最高峰エベレスト(Everest, 標高 8848 m)です。タイ国際航空機(カトマンドゥ-バンコク便)から撮影しました。

立体視をすると、ヒマラヤ山脈はたった一本の山脈ではなく、東西にのびる何本もの山並みが平行にはしってできていることがよくわかります。このような地形あるいは構造はどのようにしてできたのでしょうか。地球科学の第一級の研究課題です。

このように普通の平面(2次元)の写真では見えないことがステレオ写真(3D写真)では見ることができます。

わたしたちは、平面の2枚の写真を融合させて立体的に(3次元で)見ることができるのです。立体視ができることは、わたしたち人間の意識のなかで情報処理がおこっていることをしめしています。


▼ 注:平行法(パラレル法)をつかった立体視のやり方は下記サイトをご覧ください。
立体視のやりかた - 3D 写真をたのしもう!-


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わたしたち人間は情報処理をする存在であることに気がつく
立体視をして情報処理の次元をたかめる
情報処理の場の次元を高めて最短距離を見つける
情報処理の次元を高める 〜『次元とは何か 0次元の世界から高次元宇宙まで』(Newton別冊)〜


世界自然遺産を理解するためには、『世界自然遺産 鳥瞰イラスト 一度は訪れてみたい37の絶景』(ニュートンプレス)の鳥瞰イラストをよくみて意識のなかにまずインプットし、そして個々の要素をとらえていくようにします。

世界自然遺産には4つの登録基準があります。

  • 優れた景観をもっている
  • 地球の歴史を代表している
  • 生態学的・生物学的な過程を代表している
  • 生物多様性の保全に重要である

世界遺産は、ひとつひとつの情報が非常に正確であるのがとてもよいです。

目 次
1 北米・中南米
 グランドキャニオン国立公園
 カナディアン・ロッキー山脈公園群
 イエローストーン
 ヨセミテ国立公園
 エル・ビスカイノのクジラ保護区
 ハワイ火山国立公園
 ベリーズのバリア・リーフ保護区
 ガラパゴス諸島
 イグアス国立公園
 バルデス半島
 ロス・グラシアレス

2 ヨーロッパ
 バイカル個
 ジャイアンツ・コーズウェー
 ドニャーナ国立公園
 西ノルウェーのフィヨルド
 ドナウ・デルタ
 西コーカサス山脈
 カムチャッカ火山群

3 アジア
 屋久島
 ケオラデオ国立公園
 サガルマータ国立公園
 ウブス・ヌール盆地
 黄龍風景区
 白神山地
 済州火山島と溶岩洞窟群
 中国南カルスト
 キナバル公演

4 アフリカ・オセアニア
 モシ・オ・トゥニャ(ビクトリアの滝)
 トゥルカナ湖公園群
 セレンゲティ国立公園
 キリマンジャロ山国立公園
 ンゴロンゴロ自然保護区
 シャーク湾
 パーヌルル国立公園
 ウルル・カタジュタ国立公園
 ロード・ハウ島
 テ・ワヒポウナム - 南西ニュージーランド

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他の類書とはちがう本書の最大の特色はそれぞれの世界自然遺産をタイトルのとおり鳥瞰できることです。鳥瞰とは大観といってもよいです。世界遺産についてまなぶときには鳥瞰することがまずは大切です。地質・地形・植物・動物・陸水・海洋・気象などの個々の要素には最初はとらわれずに、それぞれの世界遺産の鳥瞰図を1枚のイメージとして自分の意識の内面にまるごとインプットするようにします。

そして大局と構造がとらえられたら、個々の要素をひとつひとつ見ていってもよいですし、興味のある要素(たとえば動物がすきなら動物)をくわしくしらべてもよいです。

1枚のイメージのなかに個々の要素はうめこまれているという見方をすることが大事です。鳥瞰し大局と構造をつかんでから詳細に入るとよいでしょう。

1. 鳥瞰 → 2. 詳細に入る


▼ 引用文献
『世界自然遺産 鳥瞰イラスト 一度は訪れてみたい37の絶景』(ニュートン別冊)ニュートンプレス、2012年11月27日
世界自然遺産 鳥瞰イラスト―一度は訪れてみたい37の絶景 (ニュートン別冊)


伊沢紘生著『新世界ザル アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』は、さまざまな種がすみわけることによって、多様性にみちあふれる生態系が維持されまた発達していくことをおしえてくれる本です。

著者の伊沢紘生さんはアマゾン川流域で以下のようなたくさんの種類のサルをしらべ、それぞれの種の固有な「生きざま」をあきらかにしました。

ホエザル
フサオマキザル
クモザル
ウーリーモンキー
ピグミーマーモセット
ゲルディモンキー
サキ
ウアカリ
セマダラタマリン
ヨザル
ダスキーティティ 


■ 種の多様性が増大する
アマゾンのこれらのサルたちは、それぞれの種に固有な生きざまをどのようにして獲得するにいたったのでしょうか?

アマゾンのサルたちは、その生きざまにおいて多様性をもっているという事実が観察されました。

ながい時間幅でみれば、動物のどの系統をとってみても、種の数が増加して、種の多様性が増大していったというのが生物進化の実態であり、アマゾンのサルたちもこのような進化の過程で多様化していったとかんがえられます。


■ 多様なサルたちがすみわけて共存している
それでは、なぜ、アマゾンというひとつの地域のなかで、これだけ多様なサルたちが共存できているのでしょうか?

現地調査によって、それぞれの種ごとに生きざまを異にして共存していることが観察されました。つまり、さまざまなサルたちは見事に「すみわけ」ていたのです。たとえば森の上部層と下部層とですみわけていました。果実をおもに食べるサルと葉をおもに食べるサルと昆虫をたべるサルといった「食いわけ」によるすみわけも観察されました。

このようにすみわけによってさまざまな種が共存し、一方で、すみわけを通してあたらしい種が誕生するというのが生態系の維持と発達の仕組みでした。このようにして多様性にみちあふれたアマゾンの生態系がなりたっていたのです。


■ 生態系は共存原理でなりたっている
生きざまを変更し、生活空間やもとめる生活資源を分割してすみわけをおこなうところには共存原理がみとめられます。サル類にかぎらず熱帯雨林に生息するいかなる動物もこのようにして生きているそうです。

これは、一方が勝利して生きのこり、一方は負けて滅びるという競争原理ではありません。熱帯雨林の生態系には競争原理は存在しません。


■ 局所と大局とをくみあわせて体系を認識する
このようなことは、アマゾンに生息するさまざまな種類のサルたちをすべてしらべて、その生きざまとともに空間的な分布やひろがりを研究し、そしてそれらを相互に比較したからこそ認識できたことです。

これがもし、一つの種だけを専門的に調査していたらこのようなことはわからなかったでしょう。たとえばホエザルだけを専門的に研究する、ワニだけを集中的に研究する、カブトムシだけを局所的に研究する、動物の細胞だけを実験的に研究するといった分析的研究では、生態系という大局の認識はできないわけです。

つまり個々の種をとらえる部分的な見方と生態系という全体的な見方の両者が必要です。

これからのグローバルな時代は、局所と大局とをくみあわせることによって、全体の体系(システム)を認識する方法が重要になってくるとおもいます。そのような意味でも伊沢さんの研究方法は非常に参考になります。



▼ 引用文献
伊沢紘生著『新世界ザル(上)アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』東京大学出版会、2014年11月25日
新世界ザル 上: アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う

伊沢紘生著『新世界ザル(下)アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』東京大学出版会、2014年11月25日
新世界ザル 下: アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う 
※「新世界ザルのすみわけと進化」については下巻の最終章でくわしくのべられています。


▼ 関連記事
アマゾンの多様性を大観する - 国立科学博物館「大アマゾン展」(1) -
アマゾンを歴史的時間的にとらえる - 国立科学博物館「大アマゾン展」(2) -
アマゾンの多様性をメモする - 国立科学博物館「大アマゾン展」(3) -
アマゾンのサルの多様性をみる - 国立科学博物館「大アマゾン展」(4) -
生態系の階層構造をとらえる -「大アマゾン展」(5) -
人類の本来の生き方を知る - 伊沢紘生著『アマゾン探検記』-
アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-
自然環境と共生して生きている人々がいる - アマゾン展 -


 

ニール=マクレガー著『100のモノが語る世界の歴史』は「大英博物館展 ― 100のモノが語る世界の歴史」(注1)の関連解説書です。その第3巻は「近代への道」をテーマにしています。

ついに帝国は、膨張をつづけて外洋にのりだしました。文明の衝突と悲劇が世界各地でくりかえされるようになりました。奴隷貿易や世界の再分割がのこした傷跡はさまざまなモノが今も鮮明にしめしています。

そして産業革命をへて、世界は、グローバルな物と人の移動を基盤とした近代への道をあゆみはじめました。わたしたち人類がたどりついた近代とは何なのか。大英博物館とBBCによる世界史プロジェクトが完結します。

目 次
第14部 神々に出会う(1200~1500年)
 ホーリー・ソーン聖遺物箱
 「正教勝利」のイコン
 シヴァとパールヴァティー彫像
 ワステカの女神像
 イースター島のホア・ハカナナイア像

第15部 近代世界の黎明(1375~1550年)
 スレイマン大帝のトゥグラ
 明の紙幣
 インカ黄金のリャマ像
 ヒスイの龍の杯
 デューラーの「犀」

第16部 最初の世界経済(1450~1650年)
 ガレオン船からくり模型
 ベニン・プラーク - オバとヨーロッパ商人
 双頭の蛇
 柿右衛門の象
 ピース・オブ・エイト

第17部 寛容と不寛容(1550~1700年)
 シーア派の儀仗
 ムガルの王子の細密画
 ビーマの影絵人形
 メキシコの古地図
 宗教改革100周年記念パンフレット

第18部 探検、開拓、啓蒙(1680~1820年)
 アカンの太鼓
 ハワイの羽根の兜
 北米の鹿革製地図
 オーストラリアの樹皮製の楯
 ヒスイの壺

第19部 大量生産と大衆運動(1780~1914年)
 ビーグル号のクロノメーター
 初期ヴィクトリア朝ティーセット
 北斎「神奈川沖浪裏」
 スーダンの木鼓
 女性参政権を求めるペニー硬貨
 
第20部 現代がつくりだす物の世界(1914~2010年)
 ロシア革命の絵皿
 ホックニーの「退屈な村で」
 武器でつくられた王座
 クレジットカード
 ソーラーランプと充電器


第14部では、宗教が発達したことにより生みだされた、人間と神々との対話につかわれたさまざまなモノをみます。

第15部では、近代化がはじまる前の最後の時代の帝国成熟期のモノをみます。

第16部は、ヨーロッパ人が、とおくはなれた場所にのりだした時代についてのべています。海軍技術の発達によって海の帝国が実現し、最初のグローバル経済がもたらされました。

第17部では、宗教の改革と対立あるいは寛容がしめされ、あらたな宗教が従来の儀式とのおりあいをつけようと模索したことがわかります。

第18部は、ヨーロッパが帝国主義的な拡大をとげた時代であり、奴隷貿易が最盛期をむかえました。一方で、科学と哲学がさかんになった時代でもありました。

第19部では、産業革命がおこり、農業社会から工業社会へと大変貌をとげます。技術革新は物の大量生産へとつながり、国際貿易が発達しました。一方で、多くの国々で大衆運動がおこり、普通選挙権など政治・社会の改革をうったえるようになりました。

最後の第20部は、前例のない紛争と変化の時代です。技術革新によって、歴史上のどの時代よりも多くの物が生産されるようになり、物質社会がもたらされました。同時に資源問題や環境問題が生じてきました。


このように第3巻では、帝国の発達と巨大化、産業革命をへて近代化がはじまる様子をみることができます。帝国は、都市国家にくらべて非常に強大なものでしたが、現代の近代化でおこっていることはそれをはるかにうわまる規模の巨大化です。

このようなわたしたちの歴史は文明が発生し発達し巨大化していく過程でもありました。その将来の到達点はグローバル文明であることはあきらかでしょう。近代化とは結局はグローバル化であり、大局的にみて現代はそれが進行しつつある段階ととらえることができます。わたしたち人類は、今後、健全なグローバル文明を生みだすことができるのでしょうか。


▼ 引用文献
ニール=マクレガー著(東郷えりか訳)『100のモノが語る世界の歴史 3 近代への道』筑摩選書、2012年6月15日
100のモノが語る世界の歴史〈3〉近代への道 (筑摩選書)
※ この解説書は、別途発売されている図録(注2)とは別の本ですので混同しないように注意してください。

▼ 注1
「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」特設サイト
九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)

▼ 注2
図録『大英博物館展 - 100のモノが語る世界の歴史』筑摩書房、2015年3月25日
大英博物館展: 100のモノが語る世界の歴史 (単行本) 
図録は展覧会場でも買えますが一般書店でも販売しています。「100のモノが語る世界の歴史」をより簡潔に知るためにはこちらの図録をおすすめします。あるいは、この図録をまず見てから全3巻の解説書をよむとわかりやすいです。

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人類史を概観する - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(3)-
建物の階層構造との類比により世界史をとらえなおす - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(4)-
文明のはじまりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第1巻〉文明の誕生』/ 大英博物館展(5)-
前近代文明の発達をみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第2巻〉帝国の興亡』/ 大英博物館展(6)-
近代化への道のりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第3巻〉近代への道』/ 大英博物館展(7)-
モノを通して世界史をとらえる - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(8)-
世界史を概観 → 特定の時期に注目 → 考察  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(9)-
文明と高等宗教について知る  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(10)-


『ビジュアル世界大地図』は、 自然・生物・人間・科学・歴史・文化の6つのジャンルから注目すべきテーマをとりあげて解説した世界地図集です。地球の全体象と現状をビジュアルにつかむことができます。

80をこえる地図を掲載、見開きで1テーマを解説し、地球の姿がひと目でわかる仕組みになっています。

目次
世界の自然
 はじめに
 地殻
 地震
 山
 火山
 海底
 海流
 川と湖
 クレーターと隕石
 暑さと寒さ
 雨と雪
 ハリケーン
 バイオーム
 森林
 砂漠
 氷
 時間帯

世界の生きもの
 はじめに
 恐竜の化石
 捕食者たち
 危険な生きものたち
 外来種の侵略
 鳥の渡り
 クジラ
 サメ
 川の怪物たち
 昆虫
 植物の世界
 生物多様性
 固有の生きもの
 絶滅のおそれがある動物
 絶滅した動物

人間と地球
 はじめに
 人間の住む場所
 遊動民
 世界の年齢分布
 健康
 パンデミック
 貧困
 世界の金
 億万長者
 食料生産
 世界の摂取カロリー
 読み書きの能力
 環境汚染
 ごみと廃棄物
 きれいな水
 化石燃料
 代替エネルギー
 気候変動
 原生地域

工学と科学技術
 はじめに
 航空交通
 海上輸送
 鉄道
 道路
 高層建築物
 インターネット接続
 人工衛星と宇宙ごみ
 軍事力

世界の歴史
 はじめに
 人類の化石
 先史時代の文化
 古代の帝国
 驚異の古代建造物
 ミイラ
 中世の偉大な建造物
 中世の帝国
 城
 戦場
 最後の帝国
 革命
 難破船
 近代技術の賜物

世界の文化
 はじめに
 言語
 聖地
 旅行
 美術
 彫像
 祭り
 テレビ
 スタジアム
 自動車レース
 ジェットコースター
 世界の国旗

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本書は、イギリスの Dorling Kindersley 社が2013年に制作し、刊行後まもなく重版がかかり、発売から半年たらずで世界で12万部をこえるヒットタイトルになりました。子どもから大人まで幅広い読者の好奇心をおおいに刺激しています。

本書の特色は、グローバルな視点を読者にあたえる点にあります。本書の世界地図をみていけば地球の全体象を自然につかむことができます。

地球の全体像を本書でまずみて、そして次に、興味・関心のある特定の分野あるいは地域にはいりこむようにするとよいです。大局をみて局所にはいるのは問題解決の基本です。これは旅行法にも通じます。

問題解決のポイントは局所の攻め方にあります。そのためには問題をめぐる大局があらかじめつかめていなければなりません。大局をつかむためには本書のようなよくできたビジュアルな参考書が役立ちます。本書をつかえば、あまり時間をかけずに地球の大局を視覚的に一気につかむことができます。そもそも大局は一気につかむものです。



▼ 引用文献
左巻健男監修『ビジュアル世界大地図』日東書院本社、2014年11月10日
ビジュアル世界大地図


Amazon:恐竜3D図鑑
『恐竜3D図鑑』は、さまざまな恐竜を3D(立体)イラストでみられる図鑑です。立体画像をつかうと通常の平面画像よりもたくさんの情報を一度にインプットすることができます。

目 次
ティラノサウルス
ステゴサウルス
ハドロサウルス
パキケファロサウルス
ブラキオサウルス
プテラノドン
ステノニコサウルス
ディノニクス
アンキロサウルス
ほか

本書の内側にたたまれているレンズをおこし、レンズと平行になるように本をおこしてレンズをのぞくと恐竜が立体的にとびだしてみえます。平面(2D)画像ではよくわからない奥行きが立体(3D)画像でははっきりわかるので、恐竜がせまってくる感じが味わえます。

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レンズをつかって立体視する


立体視は2枚の画像の視差をつかっています。左の画像は左目でみて、右側の画像は右目でみます。これは平行法(パラレル法)とよばれる方法です。

一般の画像や写真は2D(平面)ですが、3D画像は、みればあきらかなように奥行きの情報がくわわりますので2Dにくらべて情報量が圧倒的にふえます。3D画像をつかえるようになるとみえる世界がかわります。

本書では、レンズ(眼鏡)をつかって立体視をするように説明していますが、実は、レンズ(眼鏡)をつかわなくても(裸眼でも)立体視ができます。

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ハドロサウルスの画像、平行法で立体視ができる(59ページ)
 
ボーッととおくをみるようにして、左の絵は左目で、右の絵は右目でみるようにします。上の絵では、立体視をしてみると子供の恐竜もいることがはっきりとわかります。

裸眼で立体視ができるようになるにはいくらかの訓練が必要ですが、一旦できるようになるとあとは簡単です。立体写真集も売っていますし、自分で立体写真をとってたのしむこともできます。

情報のインプットや処理をするときには1次元よりも2次元、2次元よりも3次元の方が効率があがります。おなじ時間おなじ労力をかけるならなるべく次元をあげておこなったほうがよいのです。

また、1次元(前後関係あるいは時系列)にとらわれていると、どこかでいきづまると先にすすめなくなります。1次元的な生き方よりも2次元さらに3次元的な生き方の方がスムーズに情報処理をすすめることができます。



▼ 引用文献
泊明 原画・インフォマックス CG制作『恐竜3D図鑑』雷鳥社、2002年9月
恐竜3D図鑑


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自然の写真を立体視して眼力を高める - 栗田昌裕著『眼力を高めるパワード・アイ』-
立体視訓練で眼力を高める -『視力回復トレーニング ミラクル・アイ』-
立体視をして目をよくする 〜 栗田昌裕著『3D写真で目がどんどん良くなる本【動物編】』〜 
立体視の訓練をする - 明治時代からあった3D写真 -


『信じられない現実の大図鑑』は、宇宙・地球・生命・最先端技術に関する全 90 分野の物のスケールをわかりやすくビジュアル化しています。それぞれの分野の最大の物を知ることはその分野の全体像を知ったり、評価するために役立ちます。

もくじ
地球から飛びだす
驚くべき地球
人類とあらゆる生物
ここまできている先端技術

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たとえば「木星の大きさは?」「光の速度は?」「世界の人口はどれだけふえているか?」「最大の生物は?」「最大の卵を生むのはどの鳥?」(注)など、今までぼんやりと概念的にしかとらえられていなかった物が、それぞれの大きさをビジュアル的にみることにより、また比較することによって鮮明に認知できるようになります

現代では定量的な計測がすすんでいて、それぞれの分野の最大値を知ることが可能ですが、数値をしめされてもぴんときません。やはり、イメージでみるとわかったという気がします。

また最大(極端)を知ることは物事を評価するときにも役立ちます。評価とは相対的なものです。

本書をくりかえしみてそれぞれの分野の最大を知り、その分野のスケールをイメージできるようにしておくとよいでしょう。



▼ 引用文献
ドーリング=キンダースリー (著・編集)、増田まもる (監修・翻訳) 『信じられない現実の大図鑑』東京書籍、2014年7月12日
信じられない現実の大図鑑

▼ 注
世界最大の卵は全長30cm、17世紀ごろまでマダガスカル島にすんでいたエピオルニス(エレファント・バード)のものであった。それはニワトリの卵の200個分、ダチョウの卵の11個分にあたる。エピオルニスは17世紀に絶滅したが、かけらではあるが卵のかけらが現存している。むかしの調理場近辺でみつかっていることから、当時の人々はエピオルニスの卵を食べていたようだ。

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単位を体験する - 21_21 DESIGN SIGHT 企画展「単位展」-
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絶景に接し、絶景を心のなかにとりこむ 〜 詩歩著『死ぬまでに行きたい!世界の絶景 日本編』〜
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情報技術の最先端を知って全体像をとらえる - Apple Watch 予約受付開始 -


地球を事前に大観しておくと現地調査がより有意義になります。

近年は、人工衛星をつかった地球観測がさかんにおこなわれるようになり、地球を大観し、地球の全体象をつかむことが容易になりました。自然災害(防災)や環境保全などの分野ではこのような地球観測は欠かせないものになっています。

ここでいう大観とは言語や理屈で概要をとらえたり、ポイントをピックアップしたり全体を要約して理解するのでもなく、対象を、視覚的にまるごとみることです。情報処理の観点からはまるごとインプットといってもよいでしょう。

一方、このような大観に対して、特定の地域の現地調査もさかんにおこなわれています。地球観測データには限界があり、その解像度がいくら高くなったといっても、現地の詳細は実際にそこに行ってみないとわかりません。このような現地調査は、大観に対して局所をみること、「局観」だといってもよいでしょう。

そして、大観と現地調査をふまえて考察をすすめていくのです。

大観 → 局観 → 考察

この方法は現代では一般的に誰でもつかうことができます。たとえば、Google Earth で地球を大観し、つぎに気に入った場所を旅行してみる。そして旅行記などを書いてみるといったことです。

Google Earth を利用すれば、グローバルに視覚的に地球をみることができます。このとき、あまり時間をかけずに地球全体(全球)を一気にみることがポイントです。断片的な多数の情報を集積・総合して全体像をあきらかにするというやり方ではありません。

このような大観により、地球の空間がすっぽりと自分の意識のなかにはいっていると旅行や現地調査が一層充実したものになるでしょう。しかし大観が事前になく、最初から局所にはいりこんでいくと迷路にはまってしまうかもしれません。

大観は、一見すると簡単な方法のようですがとても意義のある方法だとおもいます。


東京都美術館
東京都美術館の企画棟(出典:Google Earth)

東京・上野の東京都美術館で「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」(注1)が開催されています。今回は、会場となっている東京都美術館の企画棟(建物)の階層構造をつかって世界史を概観してみたいとおもいます。


■ 企画棟(展覧会場)の階層構造をとらえる
今回の展覧会場には100個の作品モノ)が展示されていて、これらのモノのいくつかがあつまって1つの展示室をつくっていました。展示室はのべ8部屋ありました。

そしていくつかの展示室があつまって1つのフロアができていました。フロアは地下1階・地上1階・地上2階の3フロアとなっていました。

さらに、これらの3つのフロアがあつまって東京都美術館の企画棟(写真)が形成されていました。

展覧会場の東京都美術館の企画棟はこのような階層構造になっていました。


■ 展示内容を階層構造でとらえる
つぎに展示内容をみていきます。

展示室はつぎの8つの部屋から構成されていました。これらは世界史を8つの段階に区分したもので、歴史のなかのそれぞれの時代をあらわしていました。各展示室(部屋の空間)を意識することによりそれぞれの時代を体験できる仕組みになっていました。

第1展示室「創造の芽生え」
第2展示室「都市の誕生」
第3展示室「古代帝国の出現」
第4展示室「儀式と信仰」
第5展示室「広がる世界」
第6展示室「技術と芸術の革新」
第7展示室「大航海時代と新たな出会い」
第8展示室「工業化と大量生産が変えた世界」

つぎにフロアに注目してみると、第1〜3展示室は地下1階にありました。第4〜6展示室は地上1階、第7〜8展示室は地上2階にありました。

第1〜3展示室:地下1階
第4〜6展示室:地上1階
第7〜8展示室:地上2階

フロアの内容はそれぞれつぎのようにとらえられ、文明というより大きな概念が感じられました。フロアの空間を意識すると文明を体験できる仕組みです。

地下1階:文明のはじまり
地上1階:前近代文明
地上2階:もっと大きな文明の形成(グローバル化あるいは近代化)

そしてこれらのフロアがあつまって東京都美術館の企画棟(建物全体)が形成されており、この企画棟は、人類史の舞台あるいは空間であり、つまり地球に相当すると類比することができます。

企画棟:地球


■ 階層構造の類比をつかって理解をふかめる
階層構造とは、あるモノ(要素)が複数あつまってひとつのユニット(集合体)をつくり、そしてそれらのユニットが複数あつまって中ユニットをつくり、さらにそれらの中ユニットがあつまってもっと大きなユニットを形成していく構造のことです。

今回は、建物の階層構造と人類史の階層構造とを類比して理解をすすめてみました(図)。今回の展覧会は、階層構造の類比が特によくみとめられたすぐれた例でした。

150615 会場の階層構造と人類史の階層構造の類比

図 建物の階層構造との類比により世界史をとらえなおす。
 

階層構造に注目すると、個々のモノだけを見ていたときには見えなかったこと(時代とか文明といったこと)がつかみやすくなります。時代はモノを超え、文明は時代を超えていることもわかります。

具体的には、会場に行ったらモノに意識をくばるだけではなく、展示室に意識をくばり、フロアに意識をくばり、企画棟全体にも意識をくばることが大切です(注2)。

この方法は、言葉や理屈で対象をとらえる従来の学習法とはちがい、視覚的・空間的・体験的に物事を認知する方法です。記憶法としてもつかえます。


▼ 注1
東京都美術館「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」
東京都美術館の会期は2015年6月28日まで。その後、九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)に巡回します。

▼ 注2
ここでいう意識をくばるとは、意識してその空間をよくみて感じることです。普通よりも時間をかけるということではありません。時間をかけるよりも視覚をつかうことです。こうすることにより比較的短時間で飛躍的に理解をふかめることができます。

▼ 関連記事
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人類史を概観する - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(3)-
建物の階層構造との類比により世界史をとらえなおす - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(4)-
文明のはじまりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第1巻〉文明の誕生』/ 大英博物館展(5)-
前近代文明の発達をみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第2巻〉帝国の興亡』/ 大英博物館展(6)-
近代化への道のりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第3巻〉近代への道』/ 大英博物館展(7)-
モノを通して世界史をとらえる - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(8)-
世界史を概観 → 特定の時期に注目 → 考察  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(9)-
文明と高等宗教について知る  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(10)-



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国立科学博物館

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大アマゾン展


国立科学博物館の「大アマゾン展」は生態系あるいは自然には多様性があることをおしえてくれるよい機会でした(注1)。生態系について理解するためにはその階層構造に注目するとよいです。

アマゾンは地球上でとくに多様性のある地域なのではないでしょうか。動物・植物・原住民そして気象・地形・地質・河川などがつくりだす物理環境、もしかしたら、こんなにも多様な生態系をのこしている地域は地球上にはほかにはもうないかもしれません。アマゾンは自然の多様性をまなぶために大変貴重な地域となりました。

アマゾンでは実にさまざまな動植物が共存しています。共存できているからこそ多様性があるわけです。共存できなかったら多様性はうしなわれます。

生態系のなかでは食べたり食べられたりということはありますが、これは生きるために生物が食料を補給しているのであって、戦って決着をつけようとしているのではありません。多様性のある世界は、淘汰によって勝者が生きのこり敗者がほろんでいく世界ではありません。

動植物が共存ができるのは彼らがうまく「すみわけ」をしているからです(注2)。たとえば、一般の哺乳類は地上でくらしていますが、サル類は樹上ですごし地上にはおりてきません。菌類、水草、魚類、昆虫類、爬虫類、両生類、哺乳類、サル類、鳥類など、それぞれに生きる世界をもってすみわけています。さまざまな生物がうまくすみわけつつ共生し、全体の系(システム)を統合・維持しているのが生態系といえるでしょう。

このような生態系は、個体あるいは局所にとらわれていると全体像は決してみえてきません。

生態系は複雑な階層構造になっていて、生物はただ単に共存しているのではなく、階層的にすみわけて共存しています。階層構造があるからこそこれだけ高密度な共存ができるのです。

このような階層構造がみえないと生態系は非常に複雑にみえて理解がむずかしくなります。あるいは個体や局所だけをみていると生態系の要素あるいは下部構造しか認識できません。

階層構造に着目することは生態系のみならず、世の中の構造を理解するためにも役立つとおもいます。



▼ 注1
国立科学博物館・特別展「大アマゾン展」

▼注2:参考文献
生態系について理解するためには伊沢紘生さんの本をよく読むとよいです。わたしはかねてから伊沢さんの研究に注目し、伊沢さんの本はほとんどすべて読んできました。

▼ 関連記事
アマゾンの多様性を大観する - 国立科学博物館「大アマゾン展」(1) -
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アマゾンのサルの多様性をみる - 国立科学博物館「大アマゾン展」(4) -
生態系の階層構造をとらえる -「大アマゾン展」(5) -
人類の本来の生き方を知る - 伊沢紘生著『アマゾン探検記』-
アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-
さまざまな種がすみわけて生態系をつくっている - 伊沢紘生著『新世界ザル アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』-
自然環境と共生して生きている人々がいる - アマゾン展 -


国立科学博物館で「大アマゾン展」が開催されています(会期:2015年6月14日まで)。アマゾンあるいは自然の多様性を知ることができる貴重な機会になっています(注1)。

これに関連しておもしろい本があります。伊沢紘生著『アマゾン探検記』です。密林がどこまでもつづく秘境アマゾン。その人跡未踏の奥深くに著者の伊沢さんが入っていったときの最初期の体験がつづられています。

目 次
案内人ホボ
“人食い魚” ピラニアの話
老学者の心配
ある男の人生観
アマゾンに生きる
少年

猟師

ジャングル生活
娘の心
息子と父
ナマケモノはなぜなまけ者か
威風堂々空を飛ぶ
チョウを捕る

裸族訪問
南で、北で
密林の道
ひからびたジャガイモ
緑の魔境の楽しみ方

巨大なジャングルでくらしながら、そこで出会った原住民との交流、さまざまな鳥獣虫魚の観察、釣りのたのしみなどを新鮮な目でとらえています。このようなゆたかな自然をとおしてアマゾン生態系の全体観を感じとることができます。

そしてアマゾンのジャングルには、この大自然のなかで環境と一体になって生活している人々がいました。

今なお西洋文明の影響をうけず、あるいはうけるのを拒絶して、裸で生活する原住民インディオと接触する機会は、長いアマゾン滞在中でもわずかしかなかった。

私の心に強烈な印象を残したものがあった。彼らが、自らの裸身にほどこした鮮やかなペインティングである。

あるときは、闊歩するジャガーのごとく、あるときは、舞うモルフォのように、いずれかの色のいずれかの線や円が、豊かな筋肉の動きに同調し、人を環境に埋没させ、また環境から引きたてた。

環境のなかにとけこみ、一方で環境に対して主体性を発揮する。これが人類の本来の生き方だったのではないでしょうか。

本書が出版されたのは1983年でした。今ではもうこのような人々は地球上にはいなくなったかもしれません。人類の本来の姿がここにはのこっていたのであり、今となっては大変貴重な記録です。

▼ 引用文献
伊沢紘生著『アマゾン探検記』どうぶつ社、1983年12月22日
アマゾン探検記

▼ 注2
伊沢紘生著『アマゾン動物記』とあわせて読んでみると理解がふかまります。
アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-

▼ 追記
著者の伊沢紘生さんは、本書に記載されているような過程をへて、このあと、サル類の研究をふかめていったことがよくわかりました。

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生態系の階層構造をとらえる -「大アマゾン展」(5) -
人類の本来の生き方を知る - 伊沢紘生著『アマゾン探検記』-
アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-
さまざまな種がすみわけて生態系をつくっている - 伊沢紘生著『新世界ザル アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』-
自然環境と共生して生きている人々がいる - アマゾン展 -


東京・上野の国立科学博物館で開催されている特別展「大アマゾン展」を再度みました(会期:2015.6.14まで、注1)。今回はサルの多様性に注目してみました(写真)。アマゾンにはおもしろいサルがたくさんいます。

IMG_2183 ピグミーマーモセット
ピグミーマーモセット

IMG_2284アカテタマリン
 アカテタマリン

IMG_2193ゴールデンライオンタマリン
 ゴールデンライオンタマリン

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 エンペラータマリン

IMG_2289フキオマキザル
 フキオマキザル

IMG_2208ヨザル
 ヨザル

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 アカウアカリ

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 ヒゲサキ

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 クロホエザル

IMG_2234カオグロクモザル
カオグロクモザル 

IMG_2237フンボルトウーリーモンキー
 フンボルトウーリーモンキー

IMG_2329ケナガクモザル
 ケナガクモザル


アマゾンは、生態系の全体をみても多様性に富んでいますが、サル類だけをみても大きな多様性があることがわかります。多様性は、対象を全体的にとらえて大観してこそみえてくるものです。局所を分析しているだけだと決してみえてきません。多様性を知ることは、地球環境を保全するためにあるいは環境変動に適応するために役立ちます。


▼ 注1
国立科学博物館・特別展「大アマゾン展」

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アマゾンの多様性をメモする - 国立科学博物館「大アマゾン展」(3) -
アマゾンのサルの多様性をみる - 国立科学博物館「大アマゾン展」(4) -
生態系の階層構造をとらえる -「大アマゾン展」(5) -
人類の本来の生き方を知る - 伊沢紘生著『アマゾン探検記』-
アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-
さまざまな種がすみわけて生態系をつくっている - 伊沢紘生著『新世界ザル アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』-
自然環境と共生して生きている人々がいる - アマゾン展 -

 

金森博雄著『巨大地震の科学と防災』第六章「アスペリティ」では地震をひきおこす断層の不均質性と自然現象の“ゆらぎ”について解説しています。

地震は地下の断層がずれうごく現象です。その断層において、地震の際に周囲よりも大きくすべって強い揺れをひきおこす場所を「アスペリティ」とよびます。そこは、ひずみをためながら長いあいだ頑張ってくっついていた「強い場所」です。しかし、あるときに耐えきれなくなり一気にすべって地震をひきおこします。

「アスペリティ」とはそもそもはでこぼこという意味です。断層はひとつながりになめらかなにずれるのではなく、断層面のなかでも大きくすべる場所と小さくすべるだけの場所があるわけです。つまり断層面と断層のひずみのたまり方は不均質であり、地震のおこりかたは複雑で毎回おなじように地震がおこるわけではありません。

著者の金森さんはこれを自然現象の「ゆらぎ」として説明しています。

自然現象にはいつもゆらぎがあります。東日本大震災を起こした地震を通じて、日本でもそのことが強く認識されました。

こうして同じ場所ではほぼ同じ大きさの大地震が一定間隔で繰り返すという「固有地震説」(注)は通用しなくなりました。

このように自然のゆらぎについてはこれまであまり意識されていませんでした。学校の理科教育でも自然の法則(自然の規則性)については強調していますが、ゆらぎについてはおしえていないのではないでしょうか。

たとえば地球や月の自転や公転は運動の法則にもとづいて規則的におこっていますが、実際にはゆらぎがあることが知られています。地表で観測される自然現象(地学現象)にもゆらぎがあり、それは天体の運行などにくらべてとても大きいことはあきらかです。

このように地震のおこりかたにゆらぎがあるために地震発生の厳密な予測はできないのです。いつ大地震がおこるかわからないわけですから、いつおこってもよいようにそなえておかなければなりません。



▼ 注
1995年の阪神・淡路大震災のあとにできた日本の地震調査研究推進本部(地震本部)は、長期予測の前提として「固有地震説」をつかっていました。「固有地震説」とは、おなじ場所ではほぼおなじ大きさの大地震が一定間隔でくりかえすというかんがえ方です。しかし東日本大震災をふまえ見なおすことになりました。

アスペリティも固有地震説も概念的な考えであるので地震の全体像(全体的な傾向)をつかむためには有効ですが、自然現象の複雑さをふまえると災害の予測につかうのには問題があるとのことです。


▼ 引用文献
金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(朝日選書)朝日新聞社、2013年12月25日
巨大地震の科学と防災 (朝日選書)

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自然には「飛躍」があることを知ってそなえる
日本列島ではくりかえし巨大地震がおこる - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(1)-
余震と兄弟地震にもそなえる - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(2)-
津波警報がでたらすぐに高台に避難する - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(3)-
自然現象には“ゆらぎ”があることを知る - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(4)-
地震発生の確率にかかわらず備えておく - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(5)-
地震を、点的にではなく面的にとらえる - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(6)-
「仮に落ちても安全」という設計思想に転換した - 日本未来館の膜天井 -
建築物に震災対策を講じる -『新しい防災設計』-


たとえば旅行や現地調査や現地活動など何らかの行動をしようとおもったとき、地球上のどこかの地域、自分が問題意識をもっている地域に具体的に入っていくことになります。地球全体から見るとその地域とは地球上のある部分ということになります(図1)。
150509 地球と地域
図1 地球と地域のモデル


今では、"Google Earth" をつかえば地球も地域も具体的に画像で見ることができます。便利な時代になりました。

ここで地球と地域は大局と局所の関係になっています(図2)。

150509b 地球と地域
図2 大局と局所


大局を見ようとおもったら、以前でしたら、標高の高い場所にいったり飛行機にのったりして眼下をみわたすことをしましたが、現代では、"Google Earth" やその他のウェブサイトをつかって大局を見ることがでできます。

つまり局所(ある場所)に入る前に大局を見ることが簡単にできるようになり、あらかじめ大局をみてから行動するということが誰にでもでき、そうした方が道にまようこともなく効果が大きくなるのです。行動するということは局所に入りこんでいくということです。

このように行動とは、大局を見て局所にきりこんでいくことであるととらえなおすことができ、現代では、「"Google Earth" → 行動」というやり方でそれを具体的に実践することができます。


▼ 関連記事
Google Earth をつかって空からまなぶ -『Google Earth で地理学習』-
 
問題解決は3段階ですすめる - 大観 → 現地活動 → 考察 -
現場のニーズにもとづいて現地活動をすすめる
大局をみて局所にきりこむ - "Google Earth" → 行動 -
行動により局所をせめて問題を解決する - 1. 大観 →2. 行動 → 3. 考察 -
問題解決の各段階の内部で情報処理をくりかえす


『Google Earth で地理学習』はバーチャル地球儀「Google Earth」をたのしむための本です。

Google Earth をつかえば地球上のあらゆる場所の衛星写真を見ることができます。マウスをドラッグすれば、地球上のどんな地点へでもあっというまに移動できます。自分が行ったことのある場所、行ったことがない場所も鳥になったような気持ちでながめることができます。山や谷に行けばその起伏を立体的に見ることもできます。

今では、ダウンロードをしなくても Google Map からワンクリックで Google Earth に入ることができ、だれでも簡単に操作することができます。

目 次
第1章 Google Earth をつかってみよう
第2章 町をながめる
第3章 日本を知る
第4章 世界を旅する
第5章 地球を考える
第6章 資料編

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Google Earth をつかえば世界中の衛星写真をまるで地球儀をまわしているかのように閲覧することができます。リアルな 3D の建物や航空写真、起伏のある地形もぜひ見てください。ヘリコプターがなくてもヘリコプタービューを体験することができます。都市や名所・各地のお店やサービスを検索することもできます。

まずは、自分の家をさがしてみる、その周辺をながめてみる、そして日本列島をながめてみます。

仏教の歴史をたどる」(80ページ)では、歴史的な出来事を地理的空間的にとらえなおすことができます。歴史的な出来事を言葉ではなく場所と衛星画像で整理しおぼえることができます。やってみると実におもしろいです。これは、「空からまなぶ歴史」とでもよべるあたらしい学習法をきりひらきます。

空からまなべるのは歴史だけではありません。地域の国のこと世界のこと、どれもが「空からまなべる」時代になったのです。

日本の世界遺産」(84ページ)や「いってみたい世界遺産」(114ページ)、「世界一周にでかけよう」(124ページ)を利用して世界一周の仮想旅行を体験してみてください。横浜を出港して世界の各都市をまわる豪華客船のルートがでています。

Google Earth は地球や地域の大局をつかむための手段であり大観の技術を提供します。そしてつぎには気に入った場所、ここぞという地点に実際に行ってみます。全体をみて部分に入る、大局をつかんで局所に切りこむことをおすすめします。



▼ 引用文献
塩飽晴海著『Google Earth で地理学習 ぼくらの町を衛星写真でのぞいてみよう』理論社、2007年3月
Google Earthで地理学習―ぼくらの町を衛星写真でのぞいてみよう

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スカイツリーにのぼって首都を大観する
日本の原風景をみる - 青柳健二『行ってみたい日本人の知恵の風景74選』-
Googleマップを活用して情報をファイルし検索する


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写真1 月から見た 地球の出

東京・水道橋駅前、東京ドームシティにある 宇宙ミュージアム TeNQ(注1, 2)に行ってきました。宇宙を疑似体験し宇宙を身近に感じることができました。

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図1 フロアーマップ


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写真2 入り口

「シアター宙(そら)」では超高解像度の巨大な動画が足下にひろがり、月着陸船にのって月面を離陸していく疑似体験をすることができました。(残念ながら写真撮影は禁止でした(注3)。)


サイエンスの部屋では太陽系に関する展示・解説がとくに充実していました(写真3,4,5)。小惑星探査機「 はやぶさ」による小惑星「イトカワ」探査の成果も展示してありました。東京大学総合研究博物館の分室がおかれていて「太陽系博物学」の研究最前線を知ることができました。

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写真3 サイエンスの部屋

IMG_1489 のコピー
写真4 火星の地表にたったような気分になれる

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写真5 火星の隕石


イマジネーションの部屋では、巨大スクリーンにうつしだされた「地球の出」(動画)が印象的でした(写真1)。


企画展示室では、火星ほどの大きさの天体ティアが原始地球に衝突して月ができる様子を動画で見ることができました。これは「ジャイアントインパクト説」(衝突起源説)といい、地球の衛星である月がどのように形成されたかを説明するもっとも有力な仮説です。

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写真6 ジャイアントインパクト


以上のように、この宇宙ミュージアムは気軽に宇宙をたのしめる博物館でした。宇宙から地球を見る、宇宙の視点で地球をとらえなおすことには非常に大きな意義があります。わたしたち人類は現代になって地球を大観できるようになったのです。大観とは、部分(局所)を集積して全体に到達することでもなければ、対象を要約して理解することでもありません。地球全体をまるごと一気に見る(まるごと情報をインプットする)ことです。

このような宇宙からの視点を人類がもったことは人類史上にのこる非常に大きな転換点であったといえます。一般の人々が宇宙に行けるようになるのはもうしばらく先になるそうですので、この宇宙ミュージアムをまずは利用してみるのがよいでしょう。


▼ 注1
宇宙ミュージアム TeNQ
入場は日時指定制です。休日などは混雑しますのでインターネットでチケットを事前に購入してでかけた方がよいです。

▼ 注2:TeNQ とは
TeN とは「天」「展」「点」をあらわし、Q は、「Quest(探究・冒険の旅)」「Question(問い)」「心がキューッ」「キュリオシティ(Curiosity/好奇心)」「究める」「球」をあらわしています。

▼ 注3
サイエンス・イマジネーション・企画展示室・つながる場所の各部屋はフラッシュをつかわなければ写真撮影ができます。

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▼ 追記
大観という方法は、人がおこなう情報処理でいうインプットの重要な方法であり、また問題解決の第一段階目の方法でもあります。



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