IMG_1330_1
実験「光・重力と植物」
(平行法で立体視ができます)
植物も〈インプット→プロセシング→アウトプット〉系です。さまざまな環境に適応します。しくみがわかれば身近に感じられます。
特別展「植物 -地球を支える仲間たち-」が国立科学博物館で開催されています(注)。

ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -



IMG_1358_9
乾燥地への適応



IMG_1375_6
暗下への適応



IMG_1380_1
干潟への適応



IMG_1391_2
渓流沿いへの適応



IMG_1395_6
樹上への適応



IMG_1403_4
南極域への適応



DSCF1047ab
食虫植物






実験「光・重力と植物」
写真の植物はケサヤバナ(シソ科サヤバナ属の多年草)であり、日本では、沖縄県与那国島に自生します。鉢植えをさかさまにしたところ、茎はまがり、上をむいて葉や花をつけました。この実験により植物は、光や重力を感じることがわかります。生息地のひとつである石灰岩の崖などでも上をむいて葉や花をつけます。

乾燥地への適応
乾燥地は、極度の乾燥と強光のために植物にとって過酷な環境です。乾燥にそなえて大量の水を貯蔵するもの、たくわえた水分をにがさないようにワックスや毛で茎葉をおおうもの、気孔をあけずに光合成をおこなうもの、地中にもぐるものなどがいます。また動物にたべられないように自生地の石や土壌に擬態する植物もいます。

暗下への適応
昼でもくらい森のなかでそだつ植物がいます。ひとつは、ベゴニアのように、葉の構造や形あるいは光合成のしくみの進化によってたくみに光を利用するもの、もうひとつは、ヤマランのように、菌類など、ほかの生物に寄生して栄養をもらうものがいます。

干潟への適応
熱帯から亜熱帯の加工の干潟にはマングローブとよばれる森林がよく発達します。潮の干満によって、河川からの淡水と海からの塩水が頻繁にいれかわり、土地は泥深く不安定であり、土中には酸素がすくない環境ですが、マングローブ植物は、奇妙な形の根で空気中から干潮時に酸素を吸収したり、体内のたかい浸透圧で塩水から水を吸収できたり、一部の種では、体内の塩分を排出するしくみもそなえていたりします。

渓流沿いへの適応
渓流沿いは、雨がふるたびに水位が上下するので急流中と大気中の状態がくりかえす環境であり、サツキのように、流線型で小型の葉などによって急流にたえる植物がはえます。雨期には急流にずっと没する岩上には、コケなどに姿が似ているカワゴケソウ科だけがはえます。

樹上への適応
木(植物)の上にくらす植物を「着生植物」といい、熱帯地域におおくみられます。もっともおおいのがラン科であり、パイナップル科などがそれにつづき、シダ植物やコケ植物もおおくみられます。木の上のたかい位置ほどおおくの光をえることができる一方、水や栄養分を豊富にふくむ土壌がほとんどなく、乾燥や栄養不足になりがちです。そこで葉と葉のあいだなどに水や栄養分をあつめるしくみをもつものや、貯水器官を発達させたものがおおくみられます。

南極域への適応
南極域は、低温にくわえ、強風・乾燥・紫外線にさらされ、さらに極夜とよばれる太陽がでない期間もあり、地球上でもっともきびしい環境のひとつです。南極の陸上生態系においてもっとも多様な光合成静物は地衣類であり、約400種以上がしられ、ついでコケ植物が約150種、維管束植物はわずかに2種のみが報告されています。

食虫植物
日当たりがよく、リンや窒素が不足している貧栄養地において、小動物由来のリンや窒素を葉から吸収し、生育に必要な栄養の一部としている植物を「食虫植物」とよびます。ほとんどの食虫植物はつぎの5つの性質をもっています。
  1. 誘因機能をもつことのおおい特殊化した葉で獲物をとらえる。
  2. とらえた獲物をころす。
  3. 獲物を消化する。
  4. 分解した獲物から栄養を吸収する。
  5. 吸収した栄養を成長や発生に役立てる。


 



植物は、光と水と二酸化炭素から酸素と有機物をつくるという光合成をしており、つまり、光と水と二酸化炭素をインプットし、酸素と有機物をアウトプットし、動物そして人間と同様に、〈インプット→プロセシング→アウトプット〉系です。

植物が光を感じていることにうたがいの余地はなく、植物は、光がくる方向を感知し、その方向に身体をむけ、葉をむけることができ、この現象を「光屈折」といいます。また風にふかれたり雨にぬれたりすると身体全体でそのことを感じ、たおれることをふせいだりもし、つまり振動をとらえることもできます。また温度感覚や重力感覚(平衡感覚)ももっています。

このように植物も感覚をもち、環境の情報をインプットし、環境の変化をとらえ、地球上のほとんどの地域に適応してきました。

「植物は生物なのか? 無生物なのか?」と質問されたら「生物だ」と誰もがこたえるでしょう。

しかし大人たちは、そうおしえられ知識としてしっているからそうこたえるのであって、幼児に、生き物について質問した研究によると、「動物は生き物であることがわかっても、植物は生き物であることがわからない」といいます。

歴史的にみても、植物が生き物であることを人間が明確に認識できるようになったのはプラトンやアリストテレスの時代からだといわれます。

あるいは動物をたべない人またはたべることに抵抗を感じる人でも植物は平気でたべたり、虫すらころさない人でも木の枝を平気でおったり花をつんだりすることはよくあります。

しかし植物も、〈インプット→プロセシング→アウトプット〉のしくみでいきており、この点では動物と何らかわらず、植物は動物よりもおとった存在ではありません。植物は、岩石・大気・海水などの物質とはちがいあきらかに生物であり、そのしくみからそれを理解すれば植物が身近に感じられてきます。




▼ 関連記事
3D「植物 - 地球を支える仲間たち -」(国立科学博物館)


▼ 注
特別展「植物 -地球を支える仲間たち-」
特設サイト
会場:国立科学博物館
会期:2021年7月10日〜9月20日


▼ 参考文献
國府方吾郎・三村徹郎監修『植物 地球を支える仲間たち』(特別展図録)、NHK・NHKプロモーション・朝日新聞社発行、2021年
大森徹著『大森徹の最強講義117講 生物』文英堂、2015年
スクリーンショット 2020-11-04 15.28.04