単純さに気がつけばわかりやすい文がすぐに書けます。基本的には、語順、テン、「〜は」、「〜が」だけです。心の整理がすすみます。
日本語の原則(注)にしたがって以下の例文を修正します。


例文81)
漁業関係者らは周辺海域の水産物に対する風評被害を強く懸念しており、政府は安全面の周知をはじめとする対策に全力を挙げる考えだ。(JIJI.COM, 2021.4.9)

例文82)
国はファイルの文書のうち裁判と関係ない個人情報など、一部を黒塗りする処理をしたうえで開示するとしています。(NHK NEWS WEB, 2021.5.6)

例文83)
よく自国でワクチン開発ができなかったために、日本は遅れたという指摘を耳にする。(東洋経済オンライン, 2021.5.29)

例文84)
容疑者などが共犯者や他人の犯罪について捜査に協力すれば見返りに起訴が見送られるなどする「司法取引」。厚生労働省の局長だった村木厚子さんが無罪になったえん罪事件をきっかけに捜査当局が取り調べに過度に頼らず、証拠を集める手段として3年前に導入されました。(NHK事件記者取材note, 2021.6.1)

例文85)
21日、遺族による被告人質問が行われ、被告は「心苦しいとは思うが、私の過失はないものと考えています」などと述べました。(NHK NEWS WEB, 2021.6.21)




例文81)
漁業関係者らは周辺海域の水産物に対する風評被害を強く懸念しており、政府は安全面の周知をはじめとする対策に全力を挙げる考えだ。


構造化します。


81a


語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。


81b


  • 周辺海域の水産物に対する風評被害を漁業関係者らは強く懸念しており、安全面の周知をはじめとする対策に全力を挙げる政府は考えだ。


例文81)の前半の文の題目語は「漁業関係者らは」であり、後半の文の題目語は「政府は」であり、強調するためにこれらは前にもってくることもできます。するとテンの原則「逆順」(語順が逆になったときにテンをうつ)によりテンが必要です。


  • 漁業関係者らは、周辺海域の水産物に対する風評被害を強く懸念しており、政府は、安全面の周知をはじめとする対策に全力を挙げる考えだ。


「〜は」とすることによって何についてのべるのか、題目(話題・課題・主題)をしめすことができます。例文81)のように、「〜は」を文頭におく例は非常におおいですが題目語に気がついている人はすくないです。

また「〜は」のあとにテンをうったのはテンの原則「逆順」によるものであり、「〜は」のあとにテンが必要だということではありません。たとえばつぎのように題目語がながい場合はテンはいりません。


  • 漁業関係者らは → 東日本大震災で大きな被害をうけた福島県の漁業関係者らは
  • 政府は → 放射性物質を含む汚染水の海洋放出計画をすすめる政府は

  • 東日本大震災で大きな被害をうけた福島県の漁業関係者らは周辺海域の水産物に対する風評被害を強く懸念しており、放射性物質を含む汚染水の海洋放出計画をすすめる政府は安全面の周知をはじめとする対策に全力を挙げる考えだ。


ある言葉を特別に強調したい場合はうってもよいですが不要なテンはうってはなりません。




例文82)
国はファイルの文書のうち裁判と関係ない個人情報など、一部を黒塗りする処理をしたうえで開示するとしています。


構造化します。


82a


語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。


82b


  • 裁判と関係ない個人情報などファイルの文書のうち一部を黒塗りする処理をしたうえで開示すると国はしています。


この文は、国についてのべており「国は」が題目語です。これを強調する場合は文頭にもってきて、テンの原則「逆順」によりテンをうちます。


  • 国は、裁判と関係ない個人情報などファイルの文書のうち一部を黒塗りする処理をしたうえで開示するとしています。


例文82)は、テンのうちかたがまちがっていました。

例文82)は、NHK NEWS WEB から引用した文で、一流のアナウンサーであれば、たとえ原稿にテンがうってなくても「国は」のあとで間をとってよみます。しかし二流のアナウンサーでもよみあげやすいように「国は」のあとにテンをうっておくべきです。テンがあれば間をとったり息つぎしたりできます。言葉にリズムがうまれます。きいているほうもききやすいです。いいかえると、へたな文やアナウンスにはリズムがないという特徴があります。おもっている以上にテンは重要です。

NHK は日本を代表する放送局ですが NHK NEWS WEB の記事には悪文の例が意外によくみつかります。映像と音声にたより、しゃべることが中心で書くことは二の次になっているからでしょう。この点、書くことでしかつたえられないために徹底的に書きまくっている新聞社の記者のほうがよく書けています。参考になります。




例文83)
よく自国でワクチン開発ができなかったために、日本は遅れたという指摘を耳にする。


構造化します。


83a


語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。


83b


  • ワクチン開発が自国でできなかったために日本は遅れたという指摘をよく耳にする。


例文83)は、「よくワクチン開発ができなかった」のではなく、「よく耳にする」ということでしょう。実際、ワクチン開発は日本ではできていません。語順がまちがっており誤解をまねきます。またテンは必要ありません。

例文83)は、日本についてのべていて題目語は「日本は」であり、「ながい修飾語ほど先に」という語順の原則にしたがって文中に配置されています。題目語を文頭におくという原則はなく、題目語を前にもってくる必要はありません。また「ワクチン開発が」の「が」は格助詞「が」(主格)であり、いわゆる主語をあらわすのではありません。「〜は」と「〜が」はつかいわけます。




例文84)
容疑者などが共犯者や他人の犯罪について捜査に協力すれば見返りに起訴が見送られるなどする「司法取引」。厚生労働省の局長だった村木厚子さんが無罪になったえん罪事件をきっかけに捜査当局が取り調べに過度に頼らず、証拠を集める手段として3年前に導入されました。


構造化します。


84a


語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。


84b


例文84)は記者の「取材note」であり、「司法取引」のあとにマルがうってあります。つまり、この note は「司法取引」についてのべており、「司法取引」が題目です。したがって例文84)を通常の文にするには、「司法取引」のあとのマルのかわりに「は」をいれればよいです。

また「〜になったえん罪事件」のところは、漢字とカナの原則により「〜になった冤罪事件」としたほうがよみやすいです。必要があればふりがなをふります。


  • 共犯者や他人の犯罪について容疑者などが捜査に協力すれば見返りに起訴が見送られるなどする「司法取引」は厚生労働省の局長だった村木厚子さんが無罪になった冤罪(えんざい)事件をきっかけに取り調べに過度に頼らず捜査当局が証拠を集める手段として3年前に導入されました。


とくにテンは必要ありませんがもしいれるなら、テンの原則「ながい修飾語」にしたがってつぎのようにうつとよいでしょう。


  • 共犯者や他人の犯罪について容疑者などが捜査に協力すれば見返りに起訴が見送られるなどする「司法取引」は、厚生労働省の局長だった村木厚子さんが無罪になった冤罪(えんざい)事件をきっかけに、取り調べに過度に頼らず捜査当局が証拠を集める手段として3年前に導入されました。


例文84)のテンは不適切でした。




例文85)
21日、遺族による被告人質問が行われ、被告は「心苦しいとは思うが、私の過失はないものと考えています」などと述べました。


構造化します。


85a


再構造化します。


85b


  • 「心苦しいとは思うが、私の過失はないものと考えています」などと遺族による被告人質問が行われ被告は21日述べました。


「21日」を強調したければ文頭にもってきます。テンをうちます。


  • 21日、「心苦しいとは思うが、私の過失はないものと考えています」などと遺族による被告人質問が行われ被告は述べました。


「遺族による被告人質問が行われ」も強調したければ前にもってきます。テンをうちます。


  • 21日、遺族による被告人質問が行われ、「心苦しいとは思うが、私の過失はないものと考えています」などと被告は述べました。


「21日」のような時をあらわす名詞は助詞をつけない形でもそのままで動詞にかかります。つぎの例文もみてください。


  • 明日、大阪へいきます。
  • 秋、台風がきます。
  • 気がついたとき病院にいました。
  • 昔、熊本にすんでいました。


これらの時を題目として提示することもできます。


  • 明日大阪へいきます。
  • 、台風がきます。
  • 気がついたとき病院にいました。
  • 、熊本にすんでいました。


たとえば「明日は」といえば、「明日についていうならば・・・」ということをはっきりしめせます。「〜は」は題目語であり主語ではないことに注意してください。

例文85)も同様に、「21日」とすれば、「21日」を題目として提示することができます。これまでずっと裁判をおいかけて報道してきたのでしたら「21日は」とすれば、「21日についてのべますよ」ということをはっきりしめせ、メッセージをより鮮明につたえることができます。その場合は「被告」を題目からはずし、「被告が」としてもよいでしょう。


  • 21日は、遺族による被告人質問が行われ、「心苦しいとは思うが、私の過失はないものと考えています」などと被告が述べました。


このように「〜は」と「〜が」をつかいわけることによってメッセージを正確につたえることができます。










日本語も、非常に少数の単純な原則によってなりたつことがわかりました。むずかしいことはありません。何についてのべるのかをきめて「〜は」とあらわします。ながい修飾語ほど前に配置します。原則の逆に語順がなったときはテンをうちます。基本的にはこれだけです。この単純さに気がつけばわかりやすい文がすぐに書けるようになります。

このような作文(アウトプット)の効能は想像以上におおきく、書けば書くほど心のなかが整理されます。

現代は情報化時代であり、情報があふれかえり、情報整理のためのハウツー本がうれているようですが、現代人が本当にもとめているのは心のなかの整理ではないでしょうか。

情報整理の本によると、特別な場所が必要だったり特殊な道具をつかったり複雑な手順があったり、皆さん、むずかしいことをかんがえすぎています。身のまわりには膨大な情報があふれかえり、けっきょく整理しきれません。

そこで情報整理はほどほどにして、アウトプット(作文)に時間・労力をさいたほうがよいでしょう。アウトプットは、パソコンやスマホ・タブレットなどがあればすぐにできます。あるいは鉛筆と紙があればできます。簡単です。アウトプットをすると、題目がきまり課題がきまり主題がきまり、問題意識がふかまります。アウトプットをすればするほど心のなかの情報の流れがよくなります。ストレスがなくなります。心のなかがおのずとととのいます。生命とは情報の流れだとおもえてきます。




▼ 注
日本語の原則


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梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
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