氷河は気候変動のバロメーターであり、水源です。氷河が縮小し、長期的には水不足になります。
世界の屋根・ヒマラヤの氷河の現状について『日経サイエンス』(2021年6月号)が報告しています(注)。

オランダ・ユトレヒド大学の W.イマージールらのチームはネパールのランタンで2012年から年2回の現地調査をつづけています。


氷河はゆっくりと流れ下り,融けて水となる。その水が河川に流れ込み,下流に行くほど太くなって,高地にある多くの集落や段々畑,水力発電所,森林,谷間の農地,さらに下流にある大都市や産業に水を供給する。


ランタンの集水域は、周辺の山々や氷河から水がながれこんでくる流域であり、トリスリ川に水はながれこんで、複数の水力発電ダムや灌漑畑の重要な水源となり、その後、数百kmはなれたガンジス・デルタにいたり、4億人に水を供給、インド東部のベンガル湾へはいります。このような集水域がヒマラヤ山脈にはたくさんあり、「給水塔」の役割を山々はになっています。



ネパール、ランタンの位置


山々が給水塔の役割をになうのは、標高がたかい場所では周辺の低地よりもおおくの雪や雨がふり、そのおおくが氷河に氷として一時的にたくわえられるからです。こうした氷と雪はゆっくりと定常的にとけ、安定した確実な水源となり、乾季にむけての天然の貯水池として機能します。ヒマラヤでは、6月〜9月にかけて発生するモンスーンによる降雨が年間降水量の70〜80%をしめます。

調査チームは給水塔の水の動態を理解するために、ヤラ氷河付近の雪塊にたくわえられた水の量をくわしくしらべました。この水の量は「積雪水蝕」とよばれ、どれくらい雪が降り、どれくらい融けて再凍結し、どれくらい昇華し、どれくらい風で他の場所にはこばれるかによって変化します。


風が強く露出した場所では,降雪の約21%が大気中に昇華し,川には流れ込まないことがわかった。つまり0°Cよりずっと低い温度でも,雪塊は縮小しうるということだ。

また雪面の2m上の気温が0°Cを下回るときでも,太場からの短波放射(主に可視光で紫外線を含む)と,地表および大気から放出される長波放射(主に赤外線),そして乱流熱フラックス (乱流による熱伝導)によって,雪面を融かすのに十分なエネルギーが供給されることがわかった。


また半年に1回の割合で2019年まで、ドローンをつかって氷河の表層の写真をとり、氷河のうごきを解析しました。


氷河が1年間に約40mの割で後退し,約80cmずつ薄くなっていることがわかった。氷河は徐々に小さくなっており,流れも止まっていた。この氷の塊は遠からず,氷河とは呼べない小さな停滞氷(デッドアイス)となり,少しずつしぼんでいくだろう。


つまり氷河は縮小しつつあり、これは、地球温暖化のためであるとかんがえられます。

地球温暖化の影響は、低地の平野部にくらべて山岳地帯のほうがおおきく、地球全体が1.5℃温暖化すれば、ヒマラヤでは2.1℃の温暖化がおきます。そして気温があがれば大気中の水分量がふえ、山地での降水量がふえ、そのおおくが雪ではなく雨になり、氷河は雨でとけ、かつては氷河でおおわれていた岩があらわになるとすぐさま雨は川にながれこみます。

氷河の融解・縮小がすすめば、短期的には、河川への水の流入量はふえますが、長期的には、氷がうすくなるので減少します。調査チームの計算によると、ランタン集水域からの水の供給は2060年頃にピークに達し、そのご次第にへっていきます。すなわち下流域において短期的には川の増水が加速しますが、長期的(将来的)には水不足になると予測できます。

増水により、モンスーンの時期の豪雨によって洪水や地すべりがふえます。ヒマラヤには氷河湖も多数あるため、氷河湖が一杯になり、湖をせきとめていた岩の堤防がその水圧のために決壊すれば壊滅的な大洪水が発生します。水力発電所も破壊されます。そして何よりも、下流域の村々が洪水におそわれます。実際、この20年間で、雪崩や地すべり・洪水などの自然災害によって数千人の死傷者と数十億ドル相当の経済的損害が生じています。そして今世紀の後半は水不足になります。農業が衰退し、食糧不足になり、飢餓にくるしみます。そのときはもう手おくれです。






このように氷河は、気候変動のバロメーター(指標、目印)としてとてもわかりやすく、また水源として重要です。

ネパールは、雨季(6月頃〜9月頃)と乾季がはっきりわかれており、乾季は、天然の “ダム” である氷河から供給される水にたよります。ヒマラヤの高地は標高がたかいため降水は雪であり、これにより氷河が維持されてきたのであり、夏に雪がふり氷が補充されるという、日本の常識ではかんがえられないしくみがありました。

しかし近年、地球温暖化によりヒマラヤ高地でも、標高がややひくいところでは雪ではなく雨がふるようになり、氷河の融解が急激にすすんでいます。水は、氷として山中に蓄積することなく下流にながれくだるため、短期的には川の水量はふえますが、長期的には、乾季の水不足が予測できます。

ヒマラヤにかぎらず、世界各地の高山地帯にはこうした氷河が多数あり、何十億人もの人々に必要な水を供給していますが、今後、何も手をうたなければ深刻な問題が発生することはあきらかです。

したがって地球温暖化を抑制することが急務であり、また山岳地帯は地球の天然資源であることに気がつき、ネパールをはじめ山岳地帯をもつ国々は対策を講じる必要があります。




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▼ 注
W.イマージール「知らざれる水源 山岳氷河の危機」pp.62-71, 日経サイエンス, 600(2021年6月号)
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