生き物たちはつながっていきています。生態系は均衡をたもとうとします。生態系からヒトははずれました。
特別展「大地のハンター展」が国立科学博物館で開催されています(注)。ワニの巨大な口がまちかまえます。
ステレオ写真は交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -
本展は、動物がいきていくために必要な「捕食(捕らえて食べる)」ことに焦点をあて、陸にあがって4億年で多様化した「ハンター」(捕食者)たちを紹介し解説しています。
彼らは、獲物をとるために感覚を発達させました。外界の情報をえるために五感を駆使します。万学の祖・アリストテレスは、「視覚」「聴覚」「触覚」「嗅覚」「味覚」の5つに感覚を分類して「五感」とよびました。
ライオンとウマでは視野がことなります。ライオンは、頭骨の正面に目が位置していますが、ウマは、頭骨のほぼ側面に位置します。ライオンは、左右の目の視差を処理して立体視をして獲物までの距離をはかります(目測します)が、ウマのような草食獣は、捕食者の存在をつねに確認するため、できるだけひろい範囲をみわたすために都合がよい位置に目があります。
ハンターたちは概して聴覚がよいことがしられており、とくにそれがするどい動物は大きな耳介を一般にもち、砂漠に生息するフェネックはその典型例です。またフクロウは、おおきな耳とはいいがたいですが聴覚をつかって闇夜でも狩りができます。コウモリは、超音波を発しながら飛翔し、獲物や障害物からはねかえってきた音をキャッチします。カマキリも超音波を感じることができます。
クモは、耳や鼻をもたず触覚をつかいます。体表にはえた毛やちいさな穴状構造、とくに、触肢や歩脚先端にある聴毛(感覚毛)や跗節器官が重要です。モグラ類が鼻先にそなえる「アイマー器官」もすぐれた触覚器官です。
イヌは、ヒトの数万倍すぐれた嗅覚をもち、これは、鼻腔にある嗅覚受容体の数が極端におおいためであり、獲物を探索するために有利です。ヘビも匂いを感知し、頻繁に舌をだしいれするのは舌をつかって匂いをしるためです。ホシバナモグラは、水中でも匂いをかげるとかんがえられています。
動物の味覚についてはほとんどまだわかっておらず、今後の研究課題です。
ハンターのなかには、獲物をみつけておいかけてハンティングするものもいますが、一方で、「待ち伏せ型」のものもいます。
南米産のアマゾンツノガエルなどは、体の一部を「疑似餌」としてめだたせて獲物をおびきよせる「ルアーリング」というテクニックを発達させました。北米大陸の淡水域に生息するワニガメは、泥質の川底にひそんで口をおおきくあけてピンク色の舌先をミミズのようにうごかして魚をおびきよせます。イラン西部に分布するクモダマシクサリヘビは、クモにそっくりに変化した尾の先をつかって鳥類をだまします。鳥類のなかには「ルアーフィッシング」をするものがおり、ササゴイなどは、おとりの昆虫を水面にうかべて魚をまちぶせます。
クモは一般に、糸をもちいた網を利用して獲物をとらえますが、糸を、獲物をおそうための武器として積極的に利用する種もいます。また糸を利用せずに純粋な肉弾戦にもちこむものや、地中生活をしながら獲物を探知するアンテナ的な道具として糸をつかう種も存在します。クモは通常は、昆虫などの小型の節足動物を補食する場合がおおいですが、カエルやトカゲなど、大型種の両生類・爬虫類、ときには、ネズミなどの哺乳類をとらえるものもいます。
ハンターたちのなかには、短時間のうちに獲物をよわらせ、ころすために毒をつかうものがいます。毒をつかえば、すくない労力でハンティングすることができます。
ヘビは毒の代名詞でもあり、毒ヘビとしては、マムシやハブの仲間であるクサリヘビ科、キングコブラやウミヘビなどのコブラ科、ヤマカガシやブームスラングなどのナミヘビ科の一部、モールバイパーなどイエヘビ科がしられます。強力な血液凝固作用で獲物の血流をとめて死にいたらしめるもの、神経毒で獲物を麻痺させるものなどがおり、獲物とする特定の種類の動物だけに強力に作用する毒液をもつ種もいます。
毒牙は、毒ヘビのおそろしさを象徴する構造であり、「管牙類」(クサリヘビ科、イエヘビ科)と「前牙類」(コブラ科)は、上顎の前方に管状になった毒牙が発達し、注射針のように毒液を獲物に注入します。
トカゲ類は、毒腺が下顎に発達し、唾液とともに口のなかに毒液が分泌されます。北米大陸に生息するドクトカゲ科の2種だけが毒トカゲとかんがえられてきましたが、近年では、オオトカゲ科をふくむいくつかのグループにも毒トカゲがいることがわかっています。コモドオオトカゲは、血液凝固阻害と血圧低下の効果がある成分が唾液にふくまれ、シカやイノシシなどの大型動物をしとめます。
哺乳類で毒をもつものとしては、原始的な哺乳類である単孔目のカモノハシ、食虫類のブラリナトガリネズミとソレノドンがいます。
タガメは、水生カメムシ類の代表格であり、口吻のなかに口針が格納されていて、獲物につきさして消化液を注入し、溶出したものをすってたべます。
メスだけがハンティングをするハンターとしてはハチがいます。ウマノオバチやシリアゲコバチなどの「寄生バチ」は、「産卵管」とよばれる管をつかって獲物に卵をうみつけます。これは「捕食寄生」とよばれ、うみつけられた卵から孵化した幼虫が寄生した相手をくいころして成長します。チョウやガの幼虫をはじめ、数十万種におよぶ昆虫の幼虫や成虫、卵やサナギが寄生バチの餌食となります。一方、オオツチバチやベッコウクモバチなどの「狩りバチ」は、獲物のうごきをとめる強力な顎と毒針をつかい、ときに、自分の体よりもおおきな獲物を麻痺させてしとめます。毒針は産卵管が変化したものです。狩りバチのおおくは獲物を巣にはこび、巣のなかで卵をうみつけます。毒針でさされた獲物は通常は、体が麻痺しているだけで死んではおらず、孵化した幼虫は新鮮な餌にありつけます。スズメバチやアシナガバチの仲間は集団でくらす社会性を発達させており、しとめた獲物を顎でくだいて肉団子にしてもちかえり、巣のなかで幼虫にあたえます。毒針は、おもに狩りにつかわれ、また外敵から巣をまもるためにもつかわれるため、巣にちかづいたヒトがさされることがよくあります。
おもしろいハンター(?)としては吸血動物がいます。カ(蚊)はその代表であり、産卵の準備をするメスが吸血します。血液がかたまるのをふせぐタンパク質などをふくむ唾液を注入するため、この唾液に対するアレルギー反応でさされるとかゆみを感じます。カには、マラリアやフィラリア症などの寄生虫病や、デング熱や日本脳炎などのウイルス病など、感染症の病原体をはこぶ役割をもつものがいます。2014年の夏に日本でおきたデング熱の流行は、東京の代々木公園でカにさされた海外渡航歴のない人々を発端に160人もの患者がみつかりました。またブヨの仲間は、さされるとその部位ははげしくはれあがり、かゆみにとまらず痛みや発熱をともない、それが1ヵ月にもおよぶことがあります。ブヨの幼虫は水中生活をおくり、清流をこのみます。夏のキャンプ場でブヨにさされるヒトがおおいのはそのためです。吸血動物は、ヒトにとってもっともおそろしいみぢかな動物です。
以上のように、さまざまなハンター(捕食者)が地球上にはおり、捕食の方法はじつに多様であり奇妙です。
動物たちは一見すると食う食われる関係にあり、そこは弱肉強食の世界であり、生存競争に勝ったものだけがいきのこり進化するとかんがえられがちですが、実際にはそうではなく、食われるものは栄養源として必要ですから、食われるものを食うものが絶滅させることはありません。肉食動物は草食動物をたべますがその量は必要な分だけであり、草食動物を絶滅させるほどたくさんはたべません。草食動物が絶滅すれば肉食動物も絶滅します。
このように、さまざまな生物はほかの生物とかかわりあいながらつながっていきているのであり、生態系(エコシステム)が地球上に成立しています。特定の種だけが大繁殖することはなく、さまざまな生物が共存しながら生態系は均衡をたもちます。全球的(グローバル)な観点をもつことがとても重要です。
ところがこの生態系が、近代になってからヒトによって急速に破壊されています。生態系がこわれるとさまざまな問題があらたに発生します。
たとえば日本列島では、ニホンオオカミが害獣として駆除され絶滅したためにニホンジカふえすぎ、農作物や植生などにおおきな被害がでてこまっています。アライグマ(外来種)はペットとしてもちこまれましたが、成獣になると凶暴になるためにすてられて野生化し、農作物や在来種や家屋などにダメージをあたえています。カミツキガメ(外来種)は、ペットとして大量に輸入されましたが、おおきくなると甲長が50cmにもなり、気があらく、かむ力もつよくて危険なためほとんどがすてられ、日本各地に定着、魚類や貝類・甲殻類など、在来種を捕食しています。マングース(外来種)は、ハブやネズミ類を駆除するために沖縄島にもちこまれましたが、固有の小型在来種など、毒ヘビよりも安全な獲物をえらんでしまい、害獣として今では駆除がおこなわれています。そのほか、ウシガエル・オオヒキガエル・アメリカザリガニ・グリーンアノール・セアカゴケグモなど、外来種は枚挙にいとまがなく、生態系の均衡回復がおおきな課題になっています。
かつてはヒトも生態系の “一員” でした。しかし文明の発達とともに生物のつながりからはずれ、生態系を破壊する存在になりました。問題は深刻です。
それでは将来的にはどうなるのかかんがえると、(A)生態系回復説と(B)文明系移行説 という2つの仮説がかんがえられます。(A)生態系回復説は、ヒトが心をいれかえて、自然環境を保全する路線にきりかえ、生態系が回復するという仮説です。あるいは何らかの大規模な現象(気候変動・自然災害・感染症など)によって人口が激減し、結果的に生態系が回復します。(B)文明系移行説は、技術革新をヒトがくりかえし、文明の力によって自然を完全に制御し管理し、文明系が成立するという仮説です。気候変動・自然災害・感染症なども文明の力によって克服します。この場合は、文明の体系に自然がくみこまれ、生態系は文明系に移行します。
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梅棹忠夫『比較文明学研究』をよむ
▼ 注
特別展「大地のハンター展 〜陸の上にも4億年〜」
会場:国立科学博物館
会期:2021年3月9日~ 6月13日
特設サイト
▼ 参考文献
国立科学博物館企画・監修『大地のハンター展 陸の上にも4億年』(図録)、日本経済新聞社・BSテレビ東京発行、2021年
ステレオ写真は交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -
会場マップ
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本展は、動物がいきていくために必要な「捕食(捕らえて食べる)」ことに焦点をあて、陸にあがって4億年で多様化した「ハンター」(捕食者)たちを紹介し解説しています。
彼らは、獲物をとるために感覚を発達させました。外界の情報をえるために五感を駆使します。万学の祖・アリストテレスは、「視覚」「聴覚」「触覚」「嗅覚」「味覚」の5つに感覚を分類して「五感」とよびました。
ライオンとウマでは視野がことなります。ライオンは、頭骨の正面に目が位置していますが、ウマは、頭骨のほぼ側面に位置します。ライオンは、左右の目の視差を処理して立体視をして獲物までの距離をはかります(目測します)が、ウマのような草食獣は、捕食者の存在をつねに確認するため、できるだけひろい範囲をみわたすために都合がよい位置に目があります。
ハンターたちは概して聴覚がよいことがしられており、とくにそれがするどい動物は大きな耳介を一般にもち、砂漠に生息するフェネックはその典型例です。またフクロウは、おおきな耳とはいいがたいですが聴覚をつかって闇夜でも狩りができます。コウモリは、超音波を発しながら飛翔し、獲物や障害物からはねかえってきた音をキャッチします。カマキリも超音波を感じることができます。
クモは、耳や鼻をもたず触覚をつかいます。体表にはえた毛やちいさな穴状構造、とくに、触肢や歩脚先端にある聴毛(感覚毛)や跗節器官が重要です。モグラ類が鼻先にそなえる「アイマー器官」もすぐれた触覚器官です。
イヌは、ヒトの数万倍すぐれた嗅覚をもち、これは、鼻腔にある嗅覚受容体の数が極端におおいためであり、獲物を探索するために有利です。ヘビも匂いを感知し、頻繁に舌をだしいれするのは舌をつかって匂いをしるためです。ホシバナモグラは、水中でも匂いをかげるとかんがえられています。
動物の味覚についてはほとんどまだわかっておらず、今後の研究課題です。
ハンターのなかには、獲物をみつけておいかけてハンティングするものもいますが、一方で、「待ち伏せ型」のものもいます。
南米産のアマゾンツノガエルなどは、体の一部を「疑似餌」としてめだたせて獲物をおびきよせる「ルアーリング」というテクニックを発達させました。北米大陸の淡水域に生息するワニガメは、泥質の川底にひそんで口をおおきくあけてピンク色の舌先をミミズのようにうごかして魚をおびきよせます。イラン西部に分布するクモダマシクサリヘビは、クモにそっくりに変化した尾の先をつかって鳥類をだまします。鳥類のなかには「ルアーフィッシング」をするものがおり、ササゴイなどは、おとりの昆虫を水面にうかべて魚をまちぶせます。
クモは一般に、糸をもちいた網を利用して獲物をとらえますが、糸を、獲物をおそうための武器として積極的に利用する種もいます。また糸を利用せずに純粋な肉弾戦にもちこむものや、地中生活をしながら獲物を探知するアンテナ的な道具として糸をつかう種も存在します。クモは通常は、昆虫などの小型の節足動物を補食する場合がおおいですが、カエルやトカゲなど、大型種の両生類・爬虫類、ときには、ネズミなどの哺乳類をとらえるものもいます。
ハンターたちのなかには、短時間のうちに獲物をよわらせ、ころすために毒をつかうものがいます。毒をつかえば、すくない労力でハンティングすることができます。
ヘビは毒の代名詞でもあり、毒ヘビとしては、マムシやハブの仲間であるクサリヘビ科、キングコブラやウミヘビなどのコブラ科、ヤマカガシやブームスラングなどのナミヘビ科の一部、モールバイパーなどイエヘビ科がしられます。強力な血液凝固作用で獲物の血流をとめて死にいたらしめるもの、神経毒で獲物を麻痺させるものなどがおり、獲物とする特定の種類の動物だけに強力に作用する毒液をもつ種もいます。
毒牙は、毒ヘビのおそろしさを象徴する構造であり、「管牙類」(クサリヘビ科、イエヘビ科)と「前牙類」(コブラ科)は、上顎の前方に管状になった毒牙が発達し、注射針のように毒液を獲物に注入します。
トカゲ類は、毒腺が下顎に発達し、唾液とともに口のなかに毒液が分泌されます。北米大陸に生息するドクトカゲ科の2種だけが毒トカゲとかんがえられてきましたが、近年では、オオトカゲ科をふくむいくつかのグループにも毒トカゲがいることがわかっています。コモドオオトカゲは、血液凝固阻害と血圧低下の効果がある成分が唾液にふくまれ、シカやイノシシなどの大型動物をしとめます。
哺乳類で毒をもつものとしては、原始的な哺乳類である単孔目のカモノハシ、食虫類のブラリナトガリネズミとソレノドンがいます。
タガメは、水生カメムシ類の代表格であり、口吻のなかに口針が格納されていて、獲物につきさして消化液を注入し、溶出したものをすってたべます。
メスだけがハンティングをするハンターとしてはハチがいます。ウマノオバチやシリアゲコバチなどの「寄生バチ」は、「産卵管」とよばれる管をつかって獲物に卵をうみつけます。これは「捕食寄生」とよばれ、うみつけられた卵から孵化した幼虫が寄生した相手をくいころして成長します。チョウやガの幼虫をはじめ、数十万種におよぶ昆虫の幼虫や成虫、卵やサナギが寄生バチの餌食となります。一方、オオツチバチやベッコウクモバチなどの「狩りバチ」は、獲物のうごきをとめる強力な顎と毒針をつかい、ときに、自分の体よりもおおきな獲物を麻痺させてしとめます。毒針は産卵管が変化したものです。狩りバチのおおくは獲物を巣にはこび、巣のなかで卵をうみつけます。毒針でさされた獲物は通常は、体が麻痺しているだけで死んではおらず、孵化した幼虫は新鮮な餌にありつけます。スズメバチやアシナガバチの仲間は集団でくらす社会性を発達させており、しとめた獲物を顎でくだいて肉団子にしてもちかえり、巣のなかで幼虫にあたえます。毒針は、おもに狩りにつかわれ、また外敵から巣をまもるためにもつかわれるため、巣にちかづいたヒトがさされることがよくあります。
おもしろいハンター(?)としては吸血動物がいます。カ(蚊)はその代表であり、産卵の準備をするメスが吸血します。血液がかたまるのをふせぐタンパク質などをふくむ唾液を注入するため、この唾液に対するアレルギー反応でさされるとかゆみを感じます。カには、マラリアやフィラリア症などの寄生虫病や、デング熱や日本脳炎などのウイルス病など、感染症の病原体をはこぶ役割をもつものがいます。2014年の夏に日本でおきたデング熱の流行は、東京の代々木公園でカにさされた海外渡航歴のない人々を発端に160人もの患者がみつかりました。またブヨの仲間は、さされるとその部位ははげしくはれあがり、かゆみにとまらず痛みや発熱をともない、それが1ヵ月にもおよぶことがあります。ブヨの幼虫は水中生活をおくり、清流をこのみます。夏のキャンプ場でブヨにさされるヒトがおおいのはそのためです。吸血動物は、ヒトにとってもっともおそろしいみぢかな動物です。
以上のように、さまざまなハンター(捕食者)が地球上にはおり、捕食の方法はじつに多様であり奇妙です。
動物たちは一見すると食う食われる関係にあり、そこは弱肉強食の世界であり、生存競争に勝ったものだけがいきのこり進化するとかんがえられがちですが、実際にはそうではなく、食われるものは栄養源として必要ですから、食われるものを食うものが絶滅させることはありません。肉食動物は草食動物をたべますがその量は必要な分だけであり、草食動物を絶滅させるほどたくさんはたべません。草食動物が絶滅すれば肉食動物も絶滅します。
このように、さまざまな生物はほかの生物とかかわりあいながらつながっていきているのであり、生態系(エコシステム)が地球上に成立しています。特定の種だけが大繁殖することはなく、さまざまな生物が共存しながら生態系は均衡をたもちます。全球的(グローバル)な観点をもつことがとても重要です。
ところがこの生態系が、近代になってからヒトによって急速に破壊されています。生態系がこわれるとさまざまな問題があらたに発生します。
たとえば日本列島では、ニホンオオカミが害獣として駆除され絶滅したためにニホンジカふえすぎ、農作物や植生などにおおきな被害がでてこまっています。アライグマ(外来種)はペットとしてもちこまれましたが、成獣になると凶暴になるためにすてられて野生化し、農作物や在来種や家屋などにダメージをあたえています。カミツキガメ(外来種)は、ペットとして大量に輸入されましたが、おおきくなると甲長が50cmにもなり、気があらく、かむ力もつよくて危険なためほとんどがすてられ、日本各地に定着、魚類や貝類・甲殻類など、在来種を捕食しています。マングース(外来種)は、ハブやネズミ類を駆除するために沖縄島にもちこまれましたが、固有の小型在来種など、毒ヘビよりも安全な獲物をえらんでしまい、害獣として今では駆除がおこなわれています。そのほか、ウシガエル・オオヒキガエル・アメリカザリガニ・グリーンアノール・セアカゴケグモなど、外来種は枚挙にいとまがなく、生態系の均衡回復がおおきな課題になっています。
かつてはヒトも生態系の “一員” でした。しかし文明の発達とともに生物のつながりからはずれ、生態系を破壊する存在になりました。問題は深刻です。
それでは将来的にはどうなるのかかんがえると、(A)生態系回復説と(B)文明系移行説 という2つの仮説がかんがえられます。(A)生態系回復説は、ヒトが心をいれかえて、自然環境を保全する路線にきりかえ、生態系が回復するという仮説です。あるいは何らかの大規模な現象(気候変動・自然災害・感染症など)によって人口が激減し、結果的に生態系が回復します。(B)文明系移行説は、技術革新をヒトがくりかえし、文明の力によって自然を完全に制御し管理し、文明系が成立するという仮説です。気候変動・自然災害・感染症なども文明の力によって克服します。この場合は、文明の体系に自然がくみこまれ、生態系は文明系に移行します。
▼ 関連記事
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絶滅の「実験」がすすむ -『ナショナルジオグラフィック』(2019.10号)-
大量絶滅がすすむ -「毒殺される野生動物」(ナショナルジオグラフィック 2018.8号)-
先住民からまなぶ -「カンガルーは害獣?」(ナショナルジオグラフィック 2019年2月号)-
「サイを救え!」(ナショナルジオグラフィック 2018.10号)
多様な自然環境を保全する - 日本絶滅危惧植物展(3)(新宿御苑・大温室)-
土木技術の歴史と未来 - 企画展「工事中! - 立ち入り禁止!? 重機の現場 -」(日本科学未来館)-
いのちのシステム - 企画展「いのちの交歓 -残酷なロマンティスム-」(國學院大學博物館)-
梅棹忠夫『比較文明学研究』をよむ
▼ 注
特別展「大地のハンター展 〜陸の上にも4億年〜」
会場:国立科学博物館
会期:2021年3月9日~ 6月13日
特設サイト
▼ 参考文献
国立科学博物館企画・監修『大地のハンター展 陸の上にも4億年』(図録)、日本経済新聞社・BSテレビ東京発行、2021年