インプット、プロセシングときたらアウトプットです。情報処理を完結させます。あらたなインプットがはじまります。
アウトプットの手段として日本語はとても重要です。日本語の原則(注)にしたがって以下の例文を今回は修正します。


例文71)
新型コロナの感染拡大を止められず、菅義偉首相は7日、緊急事態を宣言した。だが、首相はこの日開かれた国会での説明には出席せず、その後の記者会見でも政府見解を繰り返すのに終始した。(朝日新聞デジタル, 2021.1.7)

例文72)
NHKが管理職を約3割削減し、職種別の採用を一本化するなどの人事制度改革を行うことが29日、関係者への取材で分かった。(KYODO, 2021.1.29)

例文73)
組織委は8日に3日の森会長の発言以降の5日間で大会ボランティア8万人のうち0・5%にあたる約390人が辞退したと発表した。(デイリー, 2021.2.9)

例文74)
11日に報道陣に対応した川淵氏の説明によると、川淵氏は森氏と会談した場で会長就任を要請され、受諾したとしている。(毎日新聞, 2021.2.12)

例文75)
川淵氏が森会長の話として政権が森会長に対し「もっと若い人か女性はいないのか」と伝えたことを明らかにするなど、後任人事について菅政権の関与が表面化しています。(日テレNEWS24, 2021.2.12)




例文71)
新型コロナの感染拡大を止められず、菅義偉首相は7日、緊急事態を宣言した。だが、首相はこの日開かれた国会での説明には出席せず、その後の記者会見でも政府見解を繰り返すのに終始した。


例文71を構造化します。

例文71a


語順の原則にしたがって再構造化します。

例文71b

  • 新型コロナの感染拡大を止められず菅義偉首相は緊急事態を7日宣言した。だがこの日開かれた国会での説明には出席せず政府見解を繰り返すのにその後の記者会見でも首相は終始した。

テンは、たくさんうてばよいというわけではありません。「だが」は接続詞であり、かならずしもそのあとにテンは必要ありません。

「菅義偉首相」と「7日」をやや強調したいのであればつぎのようにします。

  • 新型コロナの感染拡大を止められず、菅義偉首相は7日、緊急事態を宣言した。だがこの日開かれた国会での説明には出席せず政府見解を繰り返すのにその後の記者会見でも首相は終始した。

例文71の第1文は、「菅義偉首相」についていうならばという心もちで「菅義偉首相は」と題目語をしめしています。題目語は、テンもマルもとびこえてあとの文にも作用するため第2文の題目語「首相は」は必要ありません。

  • 新型コロナの感染拡大を止められず、菅義偉首相は7日、緊急事態を宣言した。だがこの日開かれた国会での説明には出席せず政府見解を繰り返すのにその後の記者会見でも終始した。




例文72)
NHKが管理職を約3割削減し、職種別の採用を一本化するなどの人事制度改革を行うことが29日、関係者への取材で分かった。


構造化します。

例文72a


語順の原則にしたがって再構造化します。

例文72b

  • 職種別の採用を一本化するなどの人事制度改革を管理職を約3割削減しNHKが行うことが関係者への取材で29日分かった。

テンがなくても文は書けますが、強調したいところがあれば前においてテンをうちます。また「29日分かった」のように、漢字が連続してよみにくい場合は漢字とカナの原則にしたがって「29日わかった」とします。「29日、分かった」のようにテンをうつのはよくありません。

  • 管理職を約3割削減し、職種別の採用を一本化するなどの人事制度改革をNHKが行うことが関係者への取材で29日わかった。




例文73)
組織委は8日に3日の森会長の発言以降の5日間で大会ボランティア8万人のうち0・5%にあたる約390人が辞退したと発表した。


構造化します。

例文73a


語順の原則にしたがって再構造化します。

例文73b

再構造化してみると例文73の構造とは逆であり、例文73は、語順の原則にまったくさからって書いているためにわかりにくい文になっていることがわかります。語順をなおすだけでわかりやすい文になります。とても簡単なことです。

  • 大会ボランティア8万人のうち0・5%にあたる約390人が森会長の3日の発言以降の5日間で辞退したと組織委は8日に発表した。




例文74)
11日に報道陣に対応した川淵氏の説明によると、川淵氏は森氏と会談した場で会長就任を要請され、受諾したとしている。


構造化します。

例文74a


語順の原則にしたがって再構造化します。

例文74b

  • 報道陣に11日に対応した川淵氏の説明によると森氏と会談した場で会長就任を要請され川淵氏は受諾したとしている。

いわゆる主語であると誤解して「川淵氏は」を英語式に前にもってくるような例がおおいですが、日本語と英語は語順がことなり、日本語には「○○は」を前におく原則はなく、「ながい修飾語ほど先に」などの原則にしたがいます。「○○は」は題目語であり “主語” ではありません。例文74は、テンの原則もできていません。




例文75)
川淵氏が森会長の話として政権が森会長に対し「もっと若い人か女性はいないのか」と伝えたことを明らかにするなど、後任人事について菅政権の関与が表面化しています。


構造化します。

例文75a


語順の原則にしたがって再構造化します。

例文75b


  • 「もっと若い人か女性はいないのか」と森会長に対し政権が伝えたことを森会長の話として川淵氏が明らかにするなど後任人事について菅政権の関与が表面化しています。

語順をなおすだけでわかりやすい文になりました。








日本語の原則のうち語順の原則はとても簡単な原則であり、1〜2日練習すれば誰でも習得できます。しかしこの原則をしらなければわかりにくい文をいつまでも書きつづけることになります。このような簡単なことははやめに身につけ、「は」と「が」のつかいわけの練習にさっさとすすんだほうがよいでしょう。

人間主体の情報処理(人間がおこなう情報処理)において、インプット、アウトプットとくればアウトプットです。アウトプットをしてこそ情報処理は完結するのであり、アウトプットまでかならずおこなわなければなりません。日本語が重要です。

情報処理は川とダムにたとえることができます。ダム湖に川から水がはいってくるのはインプット、ダム湖に水がたまるのはプロセシング、ダム湖から水を放流することはアウトプットです(たとえば記憶は、心のなかに情報を保持し蓄積することであり、ダム湖に水をためることにたとえられます)。ダムは、いつまでも水をためておくのではなく一定量たまったら放流するように、情報処理も、いつまでも情報を保持しているのではなくアウトプットをさっさとしたほうがよいです。そうすれば、空になったダム湖にあらたに水がはいってくるように、あらたなインプットがおのずとすすみます。




▼ 注
日本語の作文法 − 日本語の原則 −

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