英語の音声変化のルールを習得します。インプットとプロセシングをむすびつけます。アウトプット能力もたかまります。
『5つの音声変化がわかれば英語はみるみる聞き取れる』(マイナビ出版) は初心者のための英語リスニング教材です。本書にしたがって練習すれば比較的短時間で英語がききとれるようになります。




英語の「音声変化」のルールをドリル形式で集中的に練習し、ルールを習得・活用しながらリスニング力をアップさせます。インターネットで音声をダウンロードすることができます(追加料金なし)。


英語が自然に話される際に、元々の発音が変化してしまうことを「音声変化」と言います。 (中略)この音声変化には、一定の法則性があります。そのルールを覚えてリスニングで応用することによって、あなたにもたくさんの音が聞こえてくるようになります。

覚えるべき音声変化のルールはたったの5つ!
それが ① 連結 ② 同化  ③ ら行化 ④ 脱落 ⑤ 弱形 です。


① 連結
  • 単語の最後が子音で終わっていて、次の単語の最初の音が母音であるとき、つながって発音される。
② 同化
  • ある音が隣り合う音に影響を受けて、違う音に変化する。
③ ら行化
  • /t/ や /d/ が母音に挟まれると日本語のら行に近い音になる。
  • /t/ や /d/ が母音と /l/ に挟まれると日本語のら行に近い音になる。
④ 脱落
  • 語末の破裂音が脱落する。
  • [子音+子音]で前にくる子音が脱落する。
  • 子音と子音の間にくる /t/, /k/, /d/ が脱落する。
  • /nt/ の連続で /t/ が脱落する。
⑤ 弱形
  • 弱く短く発音される。


たとえば以前ヒットしたディズニー映画『アナと雪の女王』の主題歌(日本語版では「ありのままで」)を英語版できくと「レリゴ〜 レリゴ〜」ときこえます。これは「Let It Go」のことですが「レットイットゴー」とはきこえません。音声変化のルールがはたらき、アルファベットのとおりには発音されません。

あるいは英会話のなかで、「Do you know?」という相手の言葉が「ジュノー?」ときこえることがあります。このような音声は、音声変化のルールをしって練習しておかなければとてもききとれません。くりかえしひたすら英語をきいていればわかるようになるというものではありません。

英語をはなせる人は英語をきくこともできます。英語をはなせる(アウトプットできる)ようになりたければリスニング力(インプット力)もアップさせなければなりません。言語学習では、「大量のインプットと少量のアウトプット」の兼ね合いが重要であるというのが通説です。

リスニングのときに内容の理解があまりできないという日本人には、「何を言っているかは聞き取れないけれども、同じ英語を文字で読めば理解できる」という人がおおいとおもいます。語彙や文法の基本的な知識はすでにあっても、英語の音声の知識がすくないために音そのものがききとれないわけです。本書では、このような人をおもに対象にし、ききとれる音を格段にふやしていきます。


① 連結
「an umbrella」はアナンブレラ、「take on」はテイコン、「far away」はファーラウェイのようにきこえます。

② 同化
「not yet」はナァテェㇳ、「did you」はディヂュー、「kiss you」はキシュー、「these years」はディージャーズのようにきこえます。

③ ら行化
「exciting」はエㇰサイリン、「ladder」ララー、「little」はリロゥ、「middle」はミロゥのようにきこえます。

④ 脱落
「What's up?」はワツアッ、「Very good」はヴェーリグーッ、「good day」はグッデイ、「cut this」カッディス、「perfectly」はパーフェクリー、「investment」はインヴェスメント、「plenty」はプレニーのようにきこえます。 リスニングをしていて、何度きいてもきこえないとおもうとき、じつは、ネイティブはそもそも発音していないのですからきこえなくてあたりまえです。このようなことはあらかじめしっておく必要があります。

⑤ 弱形
「from here」はフㇺヒァ、「call him」はコーリㇺ、「have to do」はハフトゥドゥ、「chocolate」はチョカラㇳ」あるいは「チョクルㇳ」、「beautiful」はビュータフォ、「Why are you here?」ワィアユヒアのようにきこえます。






わたしがかつてかよっていた学校には、このような「ただしい」英語をはなせる教師はほとんどいませんでしたが、ひとりだけ、英語特有の音声をおしえてくれた先生がいました。

たとえば「Hong Kong」と黒板にかいて「どのようによみますか?」とききました。「香港(ホンコン)」です。つぎに「King Kong」とかいてききました。「キングコング」です。日本人は、「キングコング」式の発音をします。しかし香港を、「ホングコング」という人はいません。こうして、ききとりと発音の練習をしていきました。

その先生は、アメリカ大リーグの大ファンであり、大リーグをみるだけのためにアメリカに毎年いっていました。アメリカの話をいつもしていました。ところがほかの英語教師は、「大リーグをみるだけのためにアメリカへいくのはおかしい」とその先生を露骨にバカにしていました。しかし実際には、その「異端教師」の指導のほうがただしかったわけです。






英語のリスニングが重要だとわかってもリスニングをただくりかえしているだけではいつまでたっても英語がききとれません。そんなふうになぜきこえるのかわからいという状態がつづきます。

たとえばレストランにいってランチを注文をしたとき、「スーパーサラダ?」とウェーターがきいてきました。何のことかわかりません。意味のわからない英語をただきいているだけでは英語力はあがりません。このとき、ウェーターは「Soup or salad?」といったのであり、「連結」のルールがここに はたらいています。

人間主体の情報処理の観点からいうと、音が耳にはいってくるのはインプット、その意味を理解するのはプロセシングであり、意味がわからないということはプロセシングがすすんでいないということです。しかしプロセシングがすすめば、「Soup, please」などと即座にこたえられます(アウトプットできます)。つまり、インプットとプロセシングはむすびついていなければならず、「インプット→プロセシング」ができればアウトプットもおのずとできます。

インプットとプロセシングをむすびつけるためには音声教材をつかうのが一番です。本書の特色は、音声変化のルール(法則)を非常にわかりやすく明確にしめしているところにあります。音声変化のルールはたったの5つしかありません。言語の本質を追究し、しぼりこんだ少数のルールをわかりやすくはっきり提示している教材はとても有用です。NHK ラジオ英会話もそうです。

ルールはいったん理解できれば、つかえます。つかって練習できます。アウトプットできます。この方法は学習時間を短縮することにもなります。学校で英語を勉強している生徒は英語以外の科目も勉強しなければならず、一般の学生や社会人は、それぞれの専門分野の訓練や仕事でいそがしく、英語にあまり時間がかけられません。そこでルールをつかった学習法が役だちます。

また教材をえらぶときは、しらない単語や構文知識が5%以内におさまっている教材がのぞましく、その難易度は、「i + 1(アイプラスワン)」といわれます。あなたの現在の英語レベルを「i」とした場合、それよりすこしだけ難易度がたかいけれども理解可能な英語のことを「i + 1」とよび、それくらいの難易度であれば効率よく言語習得ができます。教材には、初心者むけ・中級者むけ・上級者むけなどがあり、たとえば初心者がいきなり中級者むけ教材にとりくもうとすると、つまり「i + 2」「i + 3」だとストレスがたまり、情報処理がすすまず、場合によっては体をこわしてしまいます。言語習得は “根性” でおこなうものではありません。現在の自分の能力よりもわずかにたかいところに目標を設定して努力し、それが達成されたら、また、わずかにたかいところを目標にしていくというのが能力開発のコツです。このような訓練は学習効果をあげ、結果的に、学習時間を短縮します。

ルールによる学習法と「i + 1」学習法は英語以外の言語を習得するときにもつかえます。それどころか数学でも科学でも歴史でもあらゆる分野の学習でつかえる普遍的な方法です。




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▼ 参考文献
StudyHacker ENGLISH COMPANY 著『5つの音声変化がわかれば英語はみるみる聞き取れる』マイナビ出版、2020年
2021-04-06 17.17.25