直列処理よりも並列処理のほうが情報処理がすすみます。全体のバランスと調和をかんがえます。複数の課題を設定します。
『日経サイエンス』2021年2月号の「サイエンス考古学」で50年前(1971年)のコンピューター開発に関する記事を紹介しています(注1)。


最新の半導体技術を用いたイリアックIVは実のところ64の “スレーブ” コンピューターの集合で、1秒あたり1億〜2億の指令を実行する能力がある。逐次ステップで問題を解いていたこれまでのマシンとは異なり、最大で64の計算を同時に実行する設計になっている。


「イリアックIV」とはイリノイ大学で開発された高性能コンピューターの第4世代であり、「“スレーブ” コンピューター」とは1台のコンピューターで複数のコンピューターを制御するシステムで、制御する側のコンピューターを「マスター」、制御される側のコンピューターを「スレーブ(スレイブ)」とよびます。イリアックIVは、逐次ステップ(直列)で情報を処理していたそれまでのコンピューターとはことなり、最大で64の計算を同時並行に実行できる、つまり情報処理が並列でできるコンピューター「並列処理マシン」でした。

情報処理における、直列処理から並列処理への進歩は歴史的なおおきな技術革新であり、並列処理技術の開発が、情報産業がそのご急速に発展するきっかけになりました。

日本の理化学研究所が昨年開発した性能ランキング世界第1位のスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」も並列処理マシンです(注2)。スーパーコンピューターといってもスマートフォンやパソコンと原理はおなじであり、プログラムを実行する「プロセッサ」(CPU:中央処理装置、プログラム実行をおこなう中核部分を「コア」という)と、プログラムやデータを収納する「メモリ」とからできています。約763万のコアのコンピューターが並列につなげられ、たくさんのコンピューターを同時につかって計算を分担させることで膨大な量の計算をおこなえます。一般的なパソコンが「デュアルコア」というときはコアが2つはいっているということであり、「富岳」では、そのパソコン約382万台が一斉に計算することに相当します。

このような、コンピューターの情報処理から、人間がおこなう情報処理(人間主体の情報処理)のやり方についても類推することができ、人間がおこなうプロセシングも並列方式でおこなったほうがよいといえます。

直列方式では、1ヵ所ずつ順番に(時系列で)作業をすすめ、1つのことを完成させてからつぎの段階にすすみますが、並列方式では、複数の作業を同時並行ですすめるので、仕事の効率や情報処理能力が飛躍的にたかまります。

並列方式は、全体のバランスと調和を考慮しながらものごとを進行させる方式でもあり、たとえば画家が絵をかくとき、キャンバスの左上をまず完成させて、つぎにその右側を完成させて、つぎにその下を完成させて、というような直列方式はもちいないでしょう。まず全体像をイメージし、下絵をかき、全体のバランスと調和をかんがえながら絵筆をいれていきます。

わたしたちが、プロセシングをすすめるときもこのような方法をつかったほうがよく、具体的には、課題をめぐる全体像をイメージするようにし、一方で、複数の課題を心のなかに同時にもつようにすればおのずと並列処理がはたらくでしょう。たとえば大テーマを3つ設定し、それぞれについてサブテーマをいくつか設定しておきます。

あるいは記憶法にとりくむときに地図(マップ)をつかいます。たとえば動物について勉強したいとおもったら動物園の園内マップをつかいます。それぞれの動物(とそれに関する知識)をマップ上の位置(場所)でおぼえておけば、そのマップを想起するだけでさまざまな動物とその知識を同時におもいだすことができます。これは並列方式です。

プロセシングの本質は並列処理にあり、並列原理がそこには はたらきます(図)。


210303 並列原理
図 プロセシングと並列原理




▼ 注1
『日経サイエンス』(2021年2月号)日経サイエンス社, 2021年2月
2021-03-03 1.31.40



▼ 注2
「富岳が拓く計算科学の未来」milsil(自然と科学の情報誌), 78, 国立科学博物館, 2020年11月