具体的にかんがえ、一般的に表現します。仮説法・演繹法・帰納法が実践できます。ルールがわかると予測ができます。
『Newton』2021年3月号は、「中高の数学」と題して、もっとも基礎的な数学について特集・解説しています。






マイナス × マイナスはなぜプラスなのか?

右方向を正の方向とすると、速度が秒速3メートルの車は、1秒後には3メートル右に進んでいます。これを「速度×時間=距離」に当てはめると「3×1=3」(正×正=正)となります。

今度は左に秒速3メートルで進んでいる車を考えましょう。この車は右に「秒速−3メートル」の速度で動いている、といえます。(中略)「(−3)×1=−3」(負×正=負)となります。

また、この車は、1秒前(−1秒後)には3メートル右にいたはずです。これを「速度×時間=距離」に当てはめると、「(−3)×(−1)=3」となります。ここから「負×負=正」だとわかります。


このように、具体的な事例をかんがえると負の掛け算が理解でき、「正×正=正」「負×正=負」「負×負=正」などが数学のルールとして確立できます。以後は、このルールをおぼえておけばすみやかに計算ができます。




関数

ボールを真上に投げたとき、x を投げた瞬間からの経過時間(秒)、y を投げ上げた位置からのボールの高さ(メートル)として、y=4.9x2+10x とあらわせた場合、x に好きな値を入れれば、その時刻でのボールの高さを求めることができます。


y=4.9x2+10x」はボールを真上になげたときの現象をあらわすものであり、たとえば x=1 のときは y=14.9、x=5 のときは y=172.5 です。

y=4.9x2+10x」のような形であらわされるものが関数であり、x に入力すると、計算され、y が出力されます。物理学の最大の目的のひとつは現象をあらわす関数をみつけることだといっても過言ではなく、また統計学や経済学でも頻繁に関数がつかわれます。

関数は、「未来を予測する装置」としてもつかえます。ボールをなげたら、その高さは1秒後には14.9メートル、5秒後には172.5メートルになるだろうと予測できます。ボールを実際になげてみて、ボールの高さが1秒後には14.9メートル、5秒後には172.5メートルになれば関数のただしさが証明されます。関数で予測したことを検証する作業は実験とよばれます。

現在、新型コロナウイルス感染症が世界を混乱させています。感染症のおそろしいのは、感染者が「指数関数的」に増加していくところにあるといわれ、指数関数的な増加とは、ある期間ごとに定数倍(倍)されていくような増加のことであり、y=ax の関数であらわせます。a は、1以外の正の実数であり、指数関数の「底」とよばれます。この関数から、指数関数的な増加は常識をこえた驚異となることが予測できます。




統計と確率

データは、平均値だけを見ただけではその特徴を十分にとらえることができません。(中略)データのばらつきを見ることも、データを正しく理解するうえで非常に重要なのです。

2021-02-24 16.53.56


学校のテストが80点だから「良い成績」、50点だから「悪い成績」などと点数だけからは成績の良し悪しを一概に判断できません。

たとえば数学のテストであなたが70点をとったとして、70点よりも高得点をとった人がとてもすくなければそれはよい成績ですが、70点よりも高得点をとった人が非常におおければあまりよい成績とはいえません。

平均値と個々のデータの差を「偏差」といい、偏差を2乗してすべて足し、データの総数で割ると、ばらつきのおおきさをあらわすよい指標となり、これを「分散」といいます。分散の正の平方根を「標準偏差」といい、データのばらつきぐあいをこれもあらわします。分散や標準偏差がおおきければなだらかな山型にグラフはなり、それらがちいさければとがった山型になります。



コイン2枚を放り投げて、落ちたコインの表裏を当てるゲームを考えましょう。片方のコインは表であるとわかりました。さて、もう一方のコインも表である確率はいくつでしょうか。(中略)正解は3分の1です。


何も情報がない段階でかんがえられる表裏のパターンはつぎのとおりです。

[裏, 裏][表, 裏][裏, 表][裏, 裏]

それぞれ等確率でおきます。

片方が表とわかったので[裏, 裏]の可能性はなくなりました。のこった3パターンのうち、もう1枚も表であるのは[裏, 裏]の1パターンのみです。したがって確率は3分の1です。

直観的には、正解は「2分の1」とかんがえた人がおおかったのではないでしょうか。

このように「ある事象Xが起きたとき、別の事象Yが起きる確率」を「条件付き確率」といい、P (Y|X)のようにかきます。この例のように条件付き確率は直観に反することがあります。






数学の学習は、数をつかいこなすところからはじまり、とくに、「負(マイナス)の数」の理解が最初のポイントです。歴史的にみると、負の数は「偽の数」などといわれ、ながいあいだみとめらていませんでしたが、ゼロや負の数が発見・認知されたことにより数学が進歩しました。たとえば右方向を正の方向とすると、秒速3メートルでうごく車は右方向にすすみますが、秒速−3メートルでうごく車は左方向へすすみます。負の数をみとめることによりあらゆる方向の計算ができます。

このように具体的にかんがえれば、「正×正=正」「負×正=負」「負×負=正」などのルールが容易に理解でき、一般的にそれを表現・記載しておけば、ほかの課題にもそのルールが縦横無尽につかえます。かんがえは具体的に、表現は一般的にというのが数学の学習の基本です。そうではなく、最初から一般的にかんがえようとしたり、よくわからないのに公式を暗記したりしても意味がありません。時間がかかっても具体的にまずはかんがえるのがよいでしょう。ここには、個別から一般へというボトムアップの情報のながれがあり、帰納法の初歩があります。

そして関数や公式があきらかになれば、現象を表現・記載するだけでなく未来の予測もできます。

たとえばボールを真上になげたときのボールのうごきを、「ボールがかなり高くあがって、しばらくしたら落ちてきます」と定性的に記載するのと「y=4.9x2+10x」と関数で記載するのとでは学問的・情報処理的レベルがちがうことはあきらかであり、関数がわかればボールの高さを定量的に正確に予測できます。ここには、一般から個別へすすむというトップダウンの情報のながれがあり、演繹法とこれはいってもよいです。

このように数学の過程では、情報のボトムアップとトップダウン、帰納法と演繹法があり、これらが相まって認識がすすみます。

そして統計は情報のボトムアップの本格的な方法(帰納法)であるといえます。帰納法により、膨大なデータが処理されて一般的な傾向や全体像があきらかになります。実験結果の処理にも統計がつかわれます。

そして確率はもうひとつの未来予測の方法です。直観的にとらえたことを確率でとらえなおすことによって慎重に着実に行動していくことができます。

直観とは、おもいつきやひらめきのことであり、こうではあるまいかとうちだすことであり、仮説をたてることだといってもよいでしょう。仮説をたてることは数学にかぎらずあらゆる分野でできることですが、仮説をたてたらそのままにせず検証しなければなりません。そのために演繹法と帰納法がつかえ、数学は、それらの手順を具体的におしえてくれます。

仮説の蓋然性が検証によって十分にたかまればルールとしてそれは採用され、社会一般で活用されるようになります。




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▼ 参考文献
『Newton』(2021年3月号)ニュートンプレス、2021年