新型コロナウイルスの変異種があらわれました。短期的と長期的の2つの視点が必要です。ウイルスと宿主のしくみを理解して対策をたてます。
『Newton』2021年3月号の FOCUS Plus で新型コロナウイルスの変異種について説明しています(注)。

2020年12月、イギリス南東部で、従来よりも感染力のつよい新型コロナウイルスの変異種が急速にひろまりました。


新型コロナウイルスの内部には「RNA(リボ核酸)」という物質が入っている。RNA は4種類の「塩基」がつらなった構造をしており、塩基の並び方(塩基配列)によって、ウイルスを構成する部品の設計図(遺伝情報)が記録されている。ウイルスが細胞に感染すると、RNA は細胞内で複製(コピー)される。このとき、複製のミスにより塩基配列が変化することがある。これが「変異」だ。


新型コロナウイルスの表面には、細胞へ侵入する際に重要な役割をはたす「スパイク」という突起があり、その設計図(スパイクの遺伝子)の塩基配列に変異が生じてスパイクの性質が変化するとウイルスの感染力も変化することがあります。

イギリスの変異種では23ヵ所に変異がおき、スパイクの遺伝子の変異はそのうち9ヵ所ありました。


新型コロナウイルスのワクチンを接種すると、体内の免疫細胞が「中和抗体」というタンパク質をつくる。この中和抗体はスパイクに結合し、ウイルスの増殖をおさえる。


免疫細胞は、一度つくった中和抗体を記憶するので、ウイルスが体内に侵入したときに中和抗体をふたたびつくって感染をふせぐことができます。これがワクチンのしくみです。

しかしウイルスのスパイクに変異がおき、中和抗体とスパイクの結合がよわまった場合(結合をよわめる変異がいくつも同時に生じた場合)はワクチンの効果がよわまります。

したがって感染対策のために、変異種に対するワクチンの影響を継続的にしらべていく必要があります。イギリスの変異種は、感染力をつよめるとかんがえられる一方、ワクチンの効果は低下しないという研究報告もあります。






一般的に、ウイルスは、毒性がつよすぎた場合は、感染する相手の生物(宿主)をころしてしまうので、そのウイルス自身もいきのこれません。しかし毒性がよわいウイルスは、宿主をころさないので宿主と共存していきます。

このしくみにより、強毒性のウイルスはなくなり、弱毒性のウイルスだけがのこっていきます。ウイルスは、宿主と共存していくために弱毒化していくといってもよいでしょう。これは、細菌や寄生虫など、ほかの例でもみられる重要なしくみです。共存原理がここにははたらいています。

しかしウイルスが弱毒化していくのは数十年〜数百年という長期的な現象だといわれます。短期的にみた場合は毒性がつよまる場合があり、警戒が必要です。

したがって短期的視点と長期的視点を区別して対策をたて対処していく必要があります。




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▼注:参考文献
『Newton』(2021年3月号)ニュートンプレス、2021年
2021-02-18 15.17.07