「ワクチン接種群」と「プラセボ群」の2つのグループにわけて臨床試験がおこなわれます。安全性の検証が必要です。みずから主体的に判断します。
『Newton』2021年2月号の FOCUS Plus で、新型コロナウイルスのワクチン開発について解説しています。




ワクチンの臨床試験では、参加者は、「ワクチン接種群」と「プラセボ群」の2つのグループに分けられる。プラセボとは「偽薬」という意味だ。ワクチン接種群にはワクチンが投与され、プラセボ群には、ワクチンと同じ見た目やにおいをしているが、薬の有効成分が入っていない偽薬が投与される。

2021-01-19 0.38.34


2020年11月、アメリカのファイザー社とドイツのビオンテック社が共同開発したワクチンなどの臨床試験の結果が発表され、12月には、一部の国で接種がはじまりました。

ワクチンの臨床試験は、「ワクチン接種群」と「プラセボ群」に対しておこなわれ、一定期間後、2つのグループの健康状態を比較して、ワクチンの安全性や有効性などが評価されます。参加者と医師には、それぞれの参加者がどちらのグループに属しているかはしらされず、このような評価方法は「二重盲検法」といいます。これにより、「私はワクチンを打ったから感染しないはずだ」というおもいこみによる治療効果や、「この人はプラセボ群だから発症しやすいだろう」という医師の先入観によるあやまった診断を排除することができます。

日本でも接種が検討されている、アメリカのファイザー社とドイツのビオンテック社が共同開発したワクチンの臨床試験の結果は「有効率95%」と報道されました。

「有効率」とは、ワクチンと偽薬の投与から一定期間後、プラセボ群の発症率に対してワクチン接種群の発症率が何%ひくいかを計算したものです。「有効率95%」ということは、「何もしないと100人が発症してしまう病気に対して、全員にワクチンを投与すると95人の発症がふせげる」ということを意味します。

しかしこのワクチンに関しては、開発期間がみじかいことにより、安全性の検証が不十分なのではないかという指摘があります。

ワクチン開発は通常は、「非臨床試験」からはじまり、「臨床試験」「承認前検査」「国家検定」へとすすみ、8〜14年かかりますが、アメリカで、非臨床試験は数ヵ月、臨床試験は半年程度、承認前検査は簡素化、国家検定は書類審査のみで接種開始にいたりました。






ワクチンを接種するかどうかは最終的な判断は国民ひとりひとりにゆだねられます。判断のためにはその根拠をおさえておく必要があります。

報道をきいていると、専門用語がでてきてよくわからなかったり、わかったような気になったりしますが、基本的な用語と方法をただしく理解しておかないと主体的な判断ができません。

新型コロナウイルスのワクチンの開発に関してはサンプル数がまだすくないため、今後、サンプルがふえれば 有効性や副反応など、短期間の試験・検査ではわからなかったことがあきらかになります。長期的な追跡調査にも注目します。



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▼ 参考文献
『Newton』(2021年2月号)ニュートンプレス、2021年