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変異の例:ノコリギクワガタ属のオスの大あご
変異・選択・遺伝などの現象があります。それぞれの地域に生態系が形成されます。もと一つのものから分化しつつ、階層構造化するという仮説が検証できます。
生命の星・地球博物館(注1)の第2展示室「生命を考える」には、「多様性をもたらしたもの」と題して生物をはぐくむ仕組みをさぐるコーナーがあります。ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます(注2)。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -



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自然選択の例:スズメガ



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分化の例:カラスヤンマのメス



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生き物どうしの関わりの例:どんぐりと動物たち




バクテリアから人間まで、すべての生物は「DNA」という共通の物質をもっています。DNA は、親から子へと代々うけつがれていく遺伝物質であり、「アデニン」「グアニン」「シトシン」「チミン」という4種類の「塩基」が列をつくってならんでいて、生物の体をつくるさまざまなタンパク質はこれら塩基のならび順をもとにつくられます。このように、すべての生物が DNA をもっているということは、すべての生物は共通の祖先から進化した、もと一つのものから分化したということをしめます。

DNA の重要なはたらきは、自分とそっくりおなじものをつくること(複製)と、タンパク質を細胞でつくるための設計図となること(たんぱく質合成)の2つです。これらが、生命をたもち、子孫をつくる生物の生活をささえます。

DNA は、ただしく複製される仕組みによって親から子へつたわりますが、まれに、ちがった DNA ができることがあり、みた目や性質が親とはややちがった子がうまれることがあります。これを、「突然変異」といいます。

たとえば「ノコリギクワガタ属」(クワガタムシ科)のオスはおおきな顎をもっており、その形やおおきさが個体ごとにちがいます。このような、生物の個体のあいだにみられるちがいを「変異」とよび、変異は、DNA を介して親から子へつたわるものであれば「遺伝的変異」といい、進化のきっかけとなる可能性を秘めます。

さらに、生物と生物、生物と環境とのかかわりあいによって、見た目や性質の変化が世代をへるうちに加速されることがあります。

繁殖のために行き来のあるおなじ生物のまとまりを「集団」といい、ある集団において、特定の遺伝的変異をもつものがより多くの子孫をのこせる場合は、その遺伝的変異をもつものの割合が世代をへるうちにおおくなります。この現象を「自然選択」といいます。

ダーウィンは、マダガスカルのランである「アングレクム・セスキペダレ」の「距」(蜜をためる花の構造)がとてもながいのをみて、ながい口をもつ「蛾」がこの花にくるにちがいないと進化論にもとづいて予想しました。約40年後、ストローのようなとてもながい口をもつ「キサントパンスズメガ」(スズメガ科)がみつかり、ダーウィンの予想が確認されました。マダガスカル島のキサントパンスズメガは、コモロ諸島のそれよりもながい口をもち、これは、アングレクム・セスキペダレがはえているマダガスカル島では、ながい口をもつ個体が生存に有利だったという自然選択の結果だとかんがえられます。

また気候や地形の変化、あるいは生物の見た目や性質が急激に変化することによって、おなじ生物どうしの交流がへだてられることがあり、へだてられた生物が別々に子孫をのこすようになり、やがて、ことなる生物に分化することがあります。

たとえば「カラスヤンマ」のメスは、地域あるいは島ごとに翅の色味や斑紋にちがいがあり、これは、ことなる地域や島のあいだで、カラスヤンマの行き来がなくなったことによる「集団分化」の例であるとかんがえられます。

生物は、熱帯雨林から極地のまでさまざまな環境に生息していますが、一方で、おなじ場所にすむいろいろな生物の間に関係がみられます。

たとえば「どんぐり」はブナ科の樹木の果実であり、ブナ科の樹木は約1000種が世界でしられ、そのほとんどが どんぐり型の果実をつけ、おおくの動物にとっての大切な食べ物となります。

ツキノワグマは、どんぐりのみのり具合にあわせて、標高のたかい場所からひくい場所まで柔軟に行動し、さまざまな種類のどんぐりを冬眠の準備のためにたべます。

シギゾウムシの仲間は、どんぐりが樹上にまだあるときにながい「口吻(こうふん)」でどんぐりに孔をあけて卵をうみつけ、なかでうまれた幼虫がが成長するころには、どんぐりはかたくなって外敵から幼虫をまもり、どんぐりをたべた幼虫はどんぐりとともに落下し、外にでて土のなかでさなぎになります。

アカネズミや日本リスやカケスなどは、秋になるとどんぐりをあつめてあちこちにかくします。ためたどんぐりは、食べ物のすくない冬から春にかけての大切な食料となります。

動物によってどんぐりがはこばれることは、親木からはなれた場所でどんぐりが芽をだすチャンスにもなります。

どんぐりはかたい殻をもち、ひどくしぶかったり、イガのようなトゲをもったり、動物にたべられにくくする仕組みももっています。またよく実のなる年と実のならない年とを数年おきにくりかえす「豊凶現象(マスティング)」もみられ、これも、よりおおくの子孫をのこすための「どんぐりの作戦」とかんがえられます。






生物は、細胞の構造によって、「原核生物」と「真核生物」に大別されます。原核生物とは大腸菌や乳酸菌などです。「真核生物」は、「動物」「植物」「菌類」「その他」の4つにわけられ、動物はヒト・イモリ・ウニなど、植物はサクラ・シダ・コケなど、菌類は酵母菌・アカパンカビなど、これらのいずれにも属さないものは「その他」であり、アメーバ・ゾウリムシ・ミドリムシなどです。

  • 原核生物:大腸菌・乳酸菌など
  • 真核生物:動物、植物、菌類、その他


真核生物を構成する細胞を「真核細胞」といい、真核細胞には「核」が存在し、核以外の部分は「細胞質」といいます。核は、二重になった「核膜」につつまれた球状の構造をしており、「染色体」や「核小体」が内部にあります。

染色体は、「ヒストン」というタンパク質と「DNA」からなる糸状の構造であり、DNA は、遺伝子(注3)の本体としてはたらく物質であり、その細胞の設計図のようなものです。染色体は、酢酸カーミンや酢酸オルセインなどの塩基性色素によくそまります。

核小体は、「RNA」とタンパク質からなる粒状の構造であり、1〜数個が核内にあり、「リボソーム」を構成する物質(rRNA)の合成がおこなわれます。リボソームは、タンパク質を合成する場としてはたらく非常にちいさな顆粒状の構造です。


  • 核膜につつまれる。
  • 染色体:DNA とタンパク質(ヒストン)からなる。
  • 核小体:RNA とタンパク質からなる。


核膜のある核をもたない細胞は「原核細胞」といい、原核細胞からなる生物は原核生物といいます。原核生物には、「細菌」(バクテリアともいう)と「古細菌」(アーキアともいう)の2種類が属し、細菌は大腸菌や乳酸菌・シアノバクテリアなどであり、古細菌はメタン菌や超好熱菌などです。

真核生物がもつ DNA は、ヒストンというタンパク質と結合していますが、原核生物がもつ DNA はヒストンと結合せず、核膜にもかこまれていないので裸のままです。また二重らせん構造をしているのは真核生物の場合とおなじですが、原核生物では、両端がつながった環状になっています。

原核細胞
  • 核膜にかこまれた核をもたない。
  • DNA は環状で、ヒストンと結合せず、裸のまま。


生体には、種々の物質がふくまれ、もっともおおいのは水であり、つぎはタンパク質であり、それ以外に、「核酸」「脂質」「炭水化物」「無機塩類」がふくまれます。

「糖」と「塩基」と「リン酸」が1分子ずつ結合したものを「ヌクレオチド」といい、それが多数結合した物質を「核酸」といい、核酸には、DNA と RNA の2種類があります。

DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)は「デオキシリボ核酸」の略で、遺伝子の本体としてはたらく物質であり、糖として「デオキシリボース」,塩基として、「アデニン(A)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」「チミン(T)」をふくみ、「二重らせん構造」をしています。

RNA(Ribo Nucleic Acid)は「リボ核酸」の略であり、「mRNA」(伝令RNA、メッセンジャーRNA)、tRNA(転移RNA、トランスファーRNA)、rRNA(リボソームRNA)の3種類があり、タンパク質合成にいずれも関与します。RNAは、糖として「リボース」、塩基として、「アデニン」「グアニン」「シトシン」「ウラシル」をふくみ、構造は、1本の「ヌクレオチド鎖」から基本的にはなります。

核酸
  • DNA(デオキシリボ核酸)
  • RNA(リボ核酸)


地球で最初の生命体は、おそらく、遺伝子の本体として RNA をもち、RNA の触媒作用によって RNA を複製していたのだとかんがえられます。やがて、RNA から、より多様な触媒作用をもつタンパク質が形成されるようになり、RNA よりも安定な DNA を遺伝子の本体とするようになりました。生物の基本的な活動が RNA だけによっておこなわれていた時代は「RNA ワールド」といい、現在のように DNA が支配する時代は「DNA ワールド」といいます。現在、遺伝子の本体として RNA を使用しているのは一部のウイルス(「レトロウイルス」)だけです(注4)。

RNAワールドDNAワールド


すべての生物が遺伝情報として DNA をもちいているということは、すべての生物が共通の祖先から進化したことの証拠です。また近縁な種であるほど、タンパク質のアミノ酸配列や DNA の塩基配列が非常に似ていますが、ふるい時代に分岐したとかんがえられる生物間ではそれらにおおきなちがいがみられることも、進化の過程で塩基配列が変化してきたとかんがえるとうまく説明できます。

生物のあいだの類縁関係を木の枝のようにしめした図を「系統樹」といい、塩基配列やアミノ酸配列を比較することで正確な系統樹をえがくことができます。

なお同種の個体どうしのあいだでみられるちがいを「変異」といい、遺伝子のちがいではなく、生育したときの環境のちがいなどで生じた遺伝しない変異は「環境変異」といい、遺伝する変異は「遺伝的変異」といいます。遺伝的変異は「突然変異」によって生じ、突然変異には、染色体の構造や数が変化する「染色体突然変異」と DNA の塩基配列が変化する「遺伝子突然変異」があります。

以上のように、生命の星・地球博物館の第1展示室〜第2展示室をあるいて、地質・化石のデータにもとづいてたてた、もと一つのものから分化したという仮説は、DNA の観点からも証明されました。地質学・古生物学的に発想された仮説が分子生物学的にも検討され、実証されたといってもよいでしょう。

さらに、第2展示室では、「生き物どうしの関わり」についても解説しており、たとえば森林では、どんぐり(ブナ科の樹木の果実)と動物たちのあいだに関わりがみられ、動物たちはどんぐりをたべ、一方でブナは、どんぐりが動物にはこばれることによって親木からはなれた場所で芽をだすことができます。ブナと動物は、もちつもたれつの関係にあり、共存しており、ブナは、余裕をもって動物に栄養をあたえているのであり、ブナと動物が生存競争をしているのではありません。植物と動物が平衡(バランス)をたもち、森林には生態系が成立しています。

地球では、熱帯には熱帯の生態系が、温帯には温帯の生態系が、寒帯には寒帯の生態系が成立し、それらがあつまって地球全体の生態系が成立しています。地球は構造化されており、しかもその構造は階層構造になっています。

こうして、生命の星は分化しつつ階層構造化するという仮説は生態学的にも証明されます。

分化しつつ階層構造化される生命の星において、分化とは生命の星の時間的側面、構造とはその空間的側面であり、宇宙における時間的な作用と空間的な作用がここにもはたらいているとかんがえられます。そもそも宇宙は、時間と空間によってなりたっています。

  • 時間:分化
  • 空間:階層構造


人間界でも、物事はすべて最初は渾然一体となった未分化な状態であり、そこから分化がはじまります。そして分業が成立し、組織化がすすみます。個は、空間的に配置され、それぞれの居場所におさまります。分業と組織は表裏一体の関係にあり、同一のもののことなる側面とかんがえてもよいでしょう。




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▼ 注1
生命の星・地球博物館



2021-01-10 12.02.34


▼ 注2
撮影日:2020年10月28日


▼ 注3
遺伝とは、親のさまざまな特徴が子につたわる現象です。この現象に法則をみいだしたのがメンデルであり、彼は、1つ1つの形質(生物がもつさまざまな特徴)について分析し、それぞれの特徴をつたえるのは粒子状の因子(遺伝要素)だとかんがえ、この因子が「遺伝子」とのちによばれるようになりました。


▼ 注4
ウイルスは、代謝などの生命活動を単独ではおこなわないので生物ではありません。ところが生物体に感染すると自己増殖します。自己増殖がおこなえるというのは生物の重要な特徴であり、つまり、ウイルスは生物と無生物の中間的な存在であるといえます。


▼ 参考文献
『神奈川県 生命の星・地球博物館 展示解説書(改訂新版)』神奈川県 生命の星・地球博物館発行、2018年
大森徹著『大森徹の最強講義117講 生物』文英堂、2015年
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