酸素は生物がつくりだしました。地球は〈生物-環境〉系です。物質・エネルギー・情報の循環・変化により「生命の星」が進化します。
生命の星・地球博物館は、地球史・自然史を展示・解説する神奈川県立の博物館です(注1)。「地球を考える」「生命を考える」「神奈川の自然を考える」「自然との共生を考える」の4つの総合展示室、「ジャンボブック展示室」、図書室などがあり、たいへん充実した内容をもつ非常にすぐれた博物館です。
ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます(注2)。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -
「マンドラビラいん石」は、オーストラリア西部でみつかった「大型鉄いん石」であり、およそ2.5トンもあります。表面にみられるちいさな穴は鉱物が とけだしたあとです。いん石は、太陽系や地球の誕生の謎をときあかすカギをひめた宇宙からの「贈り物」です。約46億年前には、「原始太陽」のまわりに、高温の気体がうずをつくりながらまわっていました。やがて、高温の気体が冷えてちいさな粒になり、粒がまとまって「微惑星」ができました。微惑星は、原始太陽の周囲をまわりながら、ぶつかりあいをくりかえして「原始惑星」へ成長し、原始惑星のひとつとして「原始地球」が誕生しました。原始地球の表面は、やがて、ドロドロにとけたマグマの海「マグマオーシャン」におおわれました。
「トーナル岩質片麻岩(アカスタ片麻岩)」と「片麻岩(アミツオーク片麻岩)」は地球でもっともふるい岩石に属します。最近では、カナダ・南アフリカ・南極などで約42年前の岩石も発見されています。いずれも、地球の表面にできていたマグマオーシャンが冷えて、かたい岩石の層(地殻)ができはじめたころの岩石です。
「最古の堆積岩(れき岩)」は、約38億年前の地層からみつかりました。堆積岩は、陸地の岩石が水によってけずられてはこばれ、水の底にたまってできる岩石であり、最古の堆積岩は、ふかい水底でできたことがその組織からわかったため、約38億年前の地球にはすでに海があったという仮説がたてられます。原始地球は、微惑星の衝突がおさまると冷えはじめ、300℃ほどに地表がなったころに雨がふりだしたと推定されています。
「トラバーチン」は、熱水のふきだすところにできる石灰質の岩石であり、東アフリカ・ジブチ共和国に多数あります。ジブチ共和国は、大陸がわれはじめるところ(大地溝帯)に位置し、火山や熱水の活動がさかんです。地球の内部には熱エネルギーがたくわえられており、火山や熱水の「もと」になっています。
「柱状節理」は、岩石にできる規則ただしい柱状の割れ目であり、火山活動によってできる代表的な景観です。マグマが冷えてかたまるとき、体積がちいさくなるために六角柱状の割れ目ができます。
「枕状溶岩」は、マグマが、水のなかで冷えてかたまった枕の形をした岩石であり、これが陸上でみつかる場合はかつてはそこが海の底だったことをしめします。
「リップルマーク」は、地層にのこった波のような模様であり、かつてはそこが海底の砂地であったことをしめします。
「褶曲した地層」は地殻変動の痕跡であり、インド・プレートとユーラシア・プレートが衝突してできたヒマラヤ山脈では非常に大規模な褶曲がみつかります。
「ストロマトライト」は、シアノバクテリアが、砂粒などをとりこんでつくった岩石であり、約27億年前のものから現世のものまでが発見されています。シアノバクテリアは光合成をおこない、大量の酸素をうみだしました。原始地球の大気は、二酸化炭素やチッ素・水蒸気などが主成分であり、酸素はふくみませんでしたが、生物は、大気に酸素をもつ惑星に地球をかえました。酸素は、その後の生物の進化におおきな影響をあたえました。
「縞状鉄鉱層」は、シアノバクテリアの活動によってふえた酸素が、海水中にふくまれていた鉄分とむすびついて酸化鉄となり、海底に堆積してできたものです。25億年前ごろから大量にできはじめ、18億年前ごろには堆積がおわりました。
「石灰岩」は、有孔虫やサンゴ虫など、海にすむ生物が大気中の二酸化炭素を体内にとりこんでできたもので、雨や流水の侵食をうけやすく、特徴的な景観をつくります。
「珪化木」は、地層中に木がうもれているあいだに、二酸化珪素(SiO2)でその組織がおきかえられた木の化石です。
「ウインタクリヌス・ソキアリス(ウミユリの仲間)」は棘皮動物(ウニ、ヒトデ、クモヒトデ、ナマコなど)の仲間であり、「アンモナイト」は螺旋型の貝類であり、軟体動物門頭足綱に属します。海のなかで生物が大繁栄したことがわかります。「恐竜の足跡化石」は、生物は陸上でも繁栄したことをしめします。
地球は、約46億年前に、原始惑星のひとつとしてうまれました。原始地球の表面は、マグマオーシャンでおおわれていましたが、約42億年前の岩石が発見されたことから、そのころには、マグマオーシャンがひえて地殻ができはじめたとかんがえられます。また約38億年前の堆積岩が発見されたことから、そのころには海ができていたとかんがえられます。
その後、地球内部の熱エネルギーの放出によって火山活動や熱水活動・地殻変動などがおこり、地表の水のはたらきによって侵食や堆積などがおこり、大気や水のはたらきによって風化作用などがおこり、さまざまな景観がつくりだされます。柱状節理・枕状溶岩・リップルマーク・褶曲した地層などは地球の活動の証拠です。
一方、もっともふるい生物の化石は、いくつも細胞がつながった原始的なバクテリアの仲間であり、オーストラリアの約35億年前の地層からみつかりました。これは、すでにやや複雑になっていたので、生物の誕生は、35億年よりもふるい時代におこったとかんがえられます。
原始地球の大気は、二酸化炭素やチッ素・水蒸気などが主成分であり、酸素はふくみませんでしたが、生物が誕生したことにより酸素がくわわりました。ストロマトライトや縞状鉄鉱層はその証拠です。生物がつくりだした酸素は、その後、生物それ自体の進化におおきな影響をあたえ、二酸化炭素がへって酸素がふえたことにより酸素呼吸をする生物が増加し、地球はやがて、生物大繁栄の時代をむかえます。
大気中の酸素がふえたことはオゾン層の形成ももたらし、有害な紫外線がこれに吸収されることで陸上も生物進化の舞台になります。植物は、水中から水辺へ、そして陸上へと生活の場所をひろげ、さらに酸素がふえます。やがて、殻や骨格をもった生物が登場し、生物はさらに多様になります。上陸した動物は、よりおおくの酸素をとりこめるようになり、恐竜のような巨大な生物もあらわれます。その歴史を化石が物語っています。
酸素は、生物がうみだしたということはとても重要なポイントです。生物は、環境から一方的に影響をうけ支配されるのではなく、環境の改変、それも大規模な改変をおこなってきました。生物のいない星は、物理的ないとなみだけで形成されますが、地球には生物がおり、環境の形成におおきな役割を生物がはたしたことが、ほかの星と地球を決定的に区別する特徴です。生物に作用する環境だけでなく、環境に作用する生物という視点ももたなければなりません。
このように、生物と環境は相互に作用し、生物は環境を必要とし、環境は生物を必要とし、生物と環境は相即であり、生物と環境は一体になって進化し、一つの体系をつくっています。生物と環境は、もと一つの原始地球が分化した結果であり、環境が先で生物が後でもなく、生物が先で環境が後でもなく、生物がうまれたときに同時に環境もうまれました。「生命の星」はこのような体系であり、〈生物-環境〉系といえます(図)。
環境から生物への作用は「インプット」、生物から環境への作用は「アウトプット」といってもよいでしょう。生物は、体系の主体として機能し、インプットとアウトプットを通して、物質・エネルギー・情報は循環し変化し、このような過程により生命の星は進化します。
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▼ 注1
生命の星・地球博物館
▼ 注2
撮影日:2020年10月28日
▼ 参考文献
『神奈川県 生命の星・地球博物館 展示解説書(改訂新版)』神奈川県 生命の星・地球博物館発行、2018年
▼ 関連書籍
ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます(注2)。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -
エントランスホール
大気中の酸素量の変化
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「マンドラビラいん石」は、オーストラリア西部でみつかった「大型鉄いん石」であり、およそ2.5トンもあります。表面にみられるちいさな穴は鉱物が とけだしたあとです。いん石は、太陽系や地球の誕生の謎をときあかすカギをひめた宇宙からの「贈り物」です。約46億年前には、「原始太陽」のまわりに、高温の気体がうずをつくりながらまわっていました。やがて、高温の気体が冷えてちいさな粒になり、粒がまとまって「微惑星」ができました。微惑星は、原始太陽の周囲をまわりながら、ぶつかりあいをくりかえして「原始惑星」へ成長し、原始惑星のひとつとして「原始地球」が誕生しました。原始地球の表面は、やがて、ドロドロにとけたマグマの海「マグマオーシャン」におおわれました。
「トーナル岩質片麻岩(アカスタ片麻岩)」と「片麻岩(アミツオーク片麻岩)」は地球でもっともふるい岩石に属します。最近では、カナダ・南アフリカ・南極などで約42年前の岩石も発見されています。いずれも、地球の表面にできていたマグマオーシャンが冷えて、かたい岩石の層(地殻)ができはじめたころの岩石です。
「最古の堆積岩(れき岩)」は、約38億年前の地層からみつかりました。堆積岩は、陸地の岩石が水によってけずられてはこばれ、水の底にたまってできる岩石であり、最古の堆積岩は、ふかい水底でできたことがその組織からわかったため、約38億年前の地球にはすでに海があったという仮説がたてられます。原始地球は、微惑星の衝突がおさまると冷えはじめ、300℃ほどに地表がなったころに雨がふりだしたと推定されています。
「トラバーチン」は、熱水のふきだすところにできる石灰質の岩石であり、東アフリカ・ジブチ共和国に多数あります。ジブチ共和国は、大陸がわれはじめるところ(大地溝帯)に位置し、火山や熱水の活動がさかんです。地球の内部には熱エネルギーがたくわえられており、火山や熱水の「もと」になっています。
「柱状節理」は、岩石にできる規則ただしい柱状の割れ目であり、火山活動によってできる代表的な景観です。マグマが冷えてかたまるとき、体積がちいさくなるために六角柱状の割れ目ができます。
「枕状溶岩」は、マグマが、水のなかで冷えてかたまった枕の形をした岩石であり、これが陸上でみつかる場合はかつてはそこが海の底だったことをしめします。
「リップルマーク」は、地層にのこった波のような模様であり、かつてはそこが海底の砂地であったことをしめします。
「褶曲した地層」は地殻変動の痕跡であり、インド・プレートとユーラシア・プレートが衝突してできたヒマラヤ山脈では非常に大規模な褶曲がみつかります。
「ストロマトライト」は、シアノバクテリアが、砂粒などをとりこんでつくった岩石であり、約27億年前のものから現世のものまでが発見されています。シアノバクテリアは光合成をおこない、大量の酸素をうみだしました。原始地球の大気は、二酸化炭素やチッ素・水蒸気などが主成分であり、酸素はふくみませんでしたが、生物は、大気に酸素をもつ惑星に地球をかえました。酸素は、その後の生物の進化におおきな影響をあたえました。
「縞状鉄鉱層」は、シアノバクテリアの活動によってふえた酸素が、海水中にふくまれていた鉄分とむすびついて酸化鉄となり、海底に堆積してできたものです。25億年前ごろから大量にできはじめ、18億年前ごろには堆積がおわりました。
「石灰岩」は、有孔虫やサンゴ虫など、海にすむ生物が大気中の二酸化炭素を体内にとりこんでできたもので、雨や流水の侵食をうけやすく、特徴的な景観をつくります。
「珪化木」は、地層中に木がうもれているあいだに、二酸化珪素(SiO2)でその組織がおきかえられた木の化石です。
「ウインタクリヌス・ソキアリス(ウミユリの仲間)」は棘皮動物(ウニ、ヒトデ、クモヒトデ、ナマコなど)の仲間であり、「アンモナイト」は螺旋型の貝類であり、軟体動物門頭足綱に属します。海のなかで生物が大繁栄したことがわかります。「恐竜の足跡化石」は、生物は陸上でも繁栄したことをしめします。
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地球は、約46億年前に、原始惑星のひとつとしてうまれました。原始地球の表面は、マグマオーシャンでおおわれていましたが、約42億年前の岩石が発見されたことから、そのころには、マグマオーシャンがひえて地殻ができはじめたとかんがえられます。また約38億年前の堆積岩が発見されたことから、そのころには海ができていたとかんがえられます。
その後、地球内部の熱エネルギーの放出によって火山活動や熱水活動・地殻変動などがおこり、地表の水のはたらきによって侵食や堆積などがおこり、大気や水のはたらきによって風化作用などがおこり、さまざまな景観がつくりだされます。柱状節理・枕状溶岩・リップルマーク・褶曲した地層などは地球の活動の証拠です。
一方、もっともふるい生物の化石は、いくつも細胞がつながった原始的なバクテリアの仲間であり、オーストラリアの約35億年前の地層からみつかりました。これは、すでにやや複雑になっていたので、生物の誕生は、35億年よりもふるい時代におこったとかんがえられます。
原始地球の大気は、二酸化炭素やチッ素・水蒸気などが主成分であり、酸素はふくみませんでしたが、生物が誕生したことにより酸素がくわわりました。ストロマトライトや縞状鉄鉱層はその証拠です。生物がつくりだした酸素は、その後、生物それ自体の進化におおきな影響をあたえ、二酸化炭素がへって酸素がふえたことにより酸素呼吸をする生物が増加し、地球はやがて、生物大繁栄の時代をむかえます。
大気中の酸素がふえたことはオゾン層の形成ももたらし、有害な紫外線がこれに吸収されることで陸上も生物進化の舞台になります。植物は、水中から水辺へ、そして陸上へと生活の場所をひろげ、さらに酸素がふえます。やがて、殻や骨格をもった生物が登場し、生物はさらに多様になります。上陸した動物は、よりおおくの酸素をとりこめるようになり、恐竜のような巨大な生物もあらわれます。その歴史を化石が物語っています。
酸素は、生物がうみだしたということはとても重要なポイントです。生物は、環境から一方的に影響をうけ支配されるのではなく、環境の改変、それも大規模な改変をおこなってきました。生物のいない星は、物理的ないとなみだけで形成されますが、地球には生物がおり、環境の形成におおきな役割を生物がはたしたことが、ほかの星と地球を決定的に区別する特徴です。生物に作用する環境だけでなく、環境に作用する生物という視点ももたなければなりません。
このように、生物と環境は相互に作用し、生物は環境を必要とし、環境は生物を必要とし、生物と環境は相即であり、生物と環境は一体になって進化し、一つの体系をつくっています。生物と環境は、もと一つの原始地球が分化した結果であり、環境が先で生物が後でもなく、生物が先で環境が後でもなく、生物がうまれたときに同時に環境もうまれました。「生命の星」はこのような体系であり、〈生物-環境〉系といえます(図)。
図 「生命の星」のモデル
環境から生物への作用は「インプット」、生物から環境への作用は「アウトプット」といってもよいでしょう。生物は、体系の主体として機能し、インプットとアウトプットを通して、物質・エネルギー・情報は循環し変化し、このような過程により生命の星は進化します。
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鳥瞰映像と実体験をくみあわせて理解をふかめる 〜後藤和久著『Google Earth でみる地球の歴史』〜
進化における生命の大躍進をみる - 特別展「生命大躍進」(1)-
地球史を旅する -『地球全史 写真が語る46億年の奇跡』岩波書店(1)-
地球全史のなかでそれぞれの出来事をとらえる -『地球全史 写真が語る46億年の奇跡』岩波書店(2)-
地球史をさかのぼる -『Newton 2015年7月号』-
歴史的時間的な視点と構造的空間的な視点 - 荒舩良孝『地球の謎』-
地球環境の変動と生物の進化をみる - 国立科学博物館・地球館 地下2階 -
3D 地質標本館 - 安定と変動 -
今西錦司『生物の世界』をよむ
▼ 注1
生命の星・地球博物館
▼ 注2
撮影日:2020年10月28日
▼ 参考文献
『神奈川県 生命の星・地球博物館 展示解説書(改訂新版)』神奈川県 生命の星・地球博物館発行、2018年
▼ 関連書籍