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会場入口
(平行法で立体視ができます)
菌類について理解できます。たくさんの食用きのこがみられます。自然環境と人間のやりとりにより食文化がうまれます。
企画展「きのこ・カビ・酒 〜日本の自然と人が育んだ食文化〜」が筑波実験植物園で開催されています(注)。今年は、きのこの展示だけではなく、菌類を利用した日本の食文化に焦点をあて、カビによる食品の多様性(酒、味噌、醤油など)や他国とことなる嗜好などについても解説しています。

ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -



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シイタケ



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ヒラタケ



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アラゲキクラゲ



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ヤナギマツタケ



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タモギダケ



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ニオウシメジ



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きのこ料理(食品サンプル)



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冬虫夏草



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冬虫夏草サプリ



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サクラシメジ



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松露羊羹



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トリュフオイル



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チチタケ



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イワタケ(地衣類)



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ムシゴケ(雪茶)(地衣類)



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キコウジカビ、ショウユコウジカビ、
カツオブシコウジカビ



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キコウジカビ



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もろみと日本酒



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醤油の原材料
(大豆、小麦、醤油こうじ、食塩、水)



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醤油



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味噌(豆味噌、米味噌、麦味噌)






キノコとは菌類の一種であり、繁殖器官である子実体が比較的大型のもの またはその子実体のことをいい、カビなどとおなじく通俗的な用語です。
 
キノコと他の生物とのかかわりかたからみると、つぎのような種類がキノコにはあります。
 
  • 菌根菌:菌根をつくって、いきた樹木(マツ科・ブナ科・カバノキ科など)と共生するキノコです。樹木から糖分をもらうかわりに、土のなかの水分やミネラルを樹木にあたえます。このようなおたがいの利益になる関係を「相利共生」といいます。
  • 腐生菌:落ち葉や腐葉土からはえるキノコです。
  • 木材腐朽菌:木材を分解するキノコです。自然界では、枯れ木や倒木からはえることがおおいですが、公園のベンチやテーブル・ログハウスなどからもはえます。
  • 寄生菌:いきた生物から栄養分をもらうキノコですが、もらうだけで何もあたえません。「冬虫夏草」は代表的な寄生菌であり、いきた昆虫に寄生して昆虫をころしてはえてくるキノコです。

日本人にとって一番なじみぶかいキノコは木材腐朽菌のシイタケでしょう。ほだ木に「タネ駒」をうちこみ栽培する原木栽培の手法は、1940年代に森喜作により確立され、これにより、栽培の成功率が飛躍的にたかまりました。

また日本人にとって永遠のあこがれのキノコといえばマツタケです。マツタケの分布はひろく、日本・中国・ブータン〜スウェーデンでもしられ、北アメリカには、形・色・味はそっくりで、全身が真っ白な近縁種が分布し、日本にも輸入されています。近年、発生量が減少しており、今年、国際自然保護連合日本委員会のレッドリストに絶滅危惧種(VU)として指定されました。

ぬめっとしたキノコも、日本人は大すきであり、ナメコはその代表です。しかしぬめりのつよいキノコは欧米ではきらわれています。

にがいキノコとしては、クロカワ、ウラベニホテイシメジなどがあり、日本では、人気の要因に苦味がなっていることもあります。

高級キノコとしてはトリュフがしられますが、海外では人気なのに、日本では不人気です。日本にも、多様なトリュフが自生していますが、独特な香りが日本食にはなじまなかったのかもしれません。

菌類の仲間としては地衣類もあり、キノコやカビのイメージとはかなりちがいますが、生殖器官である子実体をみると似ていることがわかります。地衣類は、藻類と共生して「地衣体」とよばれる構造体をつくっている「子のう菌」や「担子菌」をさします。菌類のひとつの生き方がここにもみられます。

地衣類にも、食用地衣類と毒のある地衣類があり、一見するとおいしそうにはみえない地衣類ですが、食用とされてきた種類もふるくからあります。イワタケは、もっともよくしられた食用地衣類であり、江戸時代初期には庶民料理としてすでに普及していました。

展示会場では、きのこの仲間(菌類)であるカビをつかった食文化(酒・醤油・味噌など)についても解説しています。カビには、わるい印象をもつ人がいるかもしれませんが、日本には、世界にほこる「カビ食文化」(発酵食文化)があり、とくに、日本人がふるくから利用してきたコウジカビによる発酵が重要です。

発酵にはつぎの特徴があります。

  • 保存する。
  • おいしくする。
  • 栄養価値をたかめる。

発酵食品は、微生物のはたらきを制御することによってつくられ、発酵も腐敗も微生物のしわざですが、どこがちがうのでしょうか?

生物が、ブドウ糖を分解してエネルギーをえる過程が呼吸です。呼吸の後半は、ミトコンドリアのなかでおこなわれ、酸素をつかってエネルギーを効率よくえますが、酸素がなくても、ミトコンドリアのそとで呼吸がおこなわれています。このときにできるピルビン酸が別な代謝経路で消費され、乳酸やアルコールができるのが発酵です。

麹とは、穀物にカビを生育させたものであり、穀物のカビのくみあわせによりいろいろな麹ができます。日本酒でもちいられる麹は、米に、キコウジカビを生育させたものです。麹には、カビから分泌される酵素が蓄積されており、発酵食品の製造には不可欠です。

麹の歴史はふるく、奈良時代には、麹をつかって酒をつくったらしいことをしめす文献があります。室町時代には、麹うりの商売がなりたっていました。

また醤油は、大豆・米・麦などの穀類を蒸煮などの処理をしたものに、「しょうゆ麹」と食塩水を混合して発酵・熟成させた液体状のものです。

味噌は、大豆・米・麦などの穀類を蒸煮したものに、米・麦などの穀類をもとにした麹をくわえ、食塩を混合し発酵・熟成させた半固体状のものであり、麹の原料によって3種類(豆味噌・米味噌・麦味噌)に分類され、これらの混合による調味味噌もあり、産地にも地域性があります。






生物は、よくしられる五界説によれば、原核生物界・原生生物界・菌界・植物界・動物界に分類され、キノコやカビの仲間はこれらのうちの菌界に属します。

菌界とは、真核生物であり、従属栄養で体外消化をおこない、胞子を形成する生物群のことであり、担子菌・子のう菌・接合菌・グロムス菌・ツボカビ類の5種類があります。たとえばコウジカビは子のう菌であり、シイタケやマツタケは担子菌です。担子菌とは、菌糸に隔壁があり、キノコと一般によばれる子実体をつくり、子実体にある担子器で4個の胞子を生じるものです。

またイワタケなどの地衣類は、おもに、子のう菌と緑藻あるいはシアノバクテリアとが相利共生した共生体であり、子のう菌は水分や無機物を提供し、緑藻やシアノバクテリアは光合成をおこなって有機物を提供します。環境に対する抵抗性がつよく、遷移の初期に出現し、高山や極地などにも分布します。

日本人は昔から、キノコやカビ・酵母など、さまざまな菌類を食にとりこんで独特な食文化をつくってきました。したがって菌類(菌界)について理解すれば日本の食文化をもっとふかく理解することができます。あるいは日本の食文化をあらためてみなおすことにより、よくしらなかった菌界についての理解がふかまります。食文化をとらえなおすことは自然環境の理解に通じます。

食文化は、そこでくらす人々とその地域独自の自然環境とのやりとりによってはぐくまれてきたのですから、食文化をとおして、その背後の自然環境と民族についいて再認識することができます(図)。


201104 食文化
図 食文化のモデル 





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▼ 注
企画展「きのこ・カビ・酒 〜日本の自然と人が育んだ食文化〜」
会場:筑波実験植物園
会期:2020年10月24日~ 11月3日


バスでのアクセス
バスの時刻は予告なく変更になることがあります。


▼ 参考文献
大森徹著『大森徹の最強講義117講 生物』文英堂、2015年
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