ながい修飾語ほど先に書きます。語順が、原則の逆になったときにテンをうちます。「は」と「が」をつかいわけます。
日本語の原則(注)にしたがって以下の例文を修正してみます。


例文47)
壁はその日のうちに撤去されましたが、一部メディアは6日も5日ほどではないものの揺れが起きていたと伝えています。(NHK NEWS WEB, 2020.5.7)

例文48)
日本のやり方は症状が軽い感染者を特定し、追跡することを困難にしている。(朝日新聞デジタル, 2020.5.7)

例文49)
今月末まで延長された緊急事態宣言をめぐり、菅官房長官は、午前の記者会見で、今月14日の時点で、専門家が判断すれば、東京や大阪などの「特定警戒都道府県」であっても解除することは可能だという考えを示しました。(NHK NEWS WEB, 2020.5.7)

例文50)
東京地検が逃亡を手助けした容疑で逮捕状を取った協力者の父子が20日、米当局に逮捕され、米検察当局が裁判所に提出した日本の捜査に基づく記録で、綿密に計画された逃亡劇の詳細が新たに判明した。(JIJI.COM, 2020.5.22)

例文51)
講師らは会社の指示で社員と変わらない働き方をしながら労働者の権利を持たない「個人事業主」とされたため、組合を結成し、会社と交渉した。(朝日新聞デジタル, 2020.6.4)

例文52)
シンフォニエッタ静岡は9月27日に実験した焼津文化会館大ホールでコンサートを予定している。(朝日新聞デジタル, 2020.7.22)

例文53)
玉木氏率いる国民民主党が、小沢氏や支持団体の連合の力を借りつつ、単独での党勢拡大を目指す立憲民主党を突き上げる展開だったことは、記憶に新しい。(47NEWS, 2020.8.12)




例文47)
壁はその日のうちに撤去されましたが、一部メディアは6日も5日ほどではないものの揺れが起きていたと伝えています。


この文を構造的にあらわすとつぎのようになります。

例文47


語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがって書きなおすとつぎのようになります。

  • その日のうちに壁は撤去されましたが5日ほどではないものの6日も揺れが起きていたと一部メディアは伝えています。

テンはなくても文がなりたちますが、「が」のあとにテンをうってもよいです。また「壁」についてのべていることを強調したいのであれば「壁は」を冒頭にもってきて、テンの原則「逆順」によってテンをうちます。

  • 壁は、その日のうちに撤去されましたが、5日ほどではないものの6日も揺れが起きていたと一部メディアは伝えています。

「一部メディア」も強調したいのであれば、

  • 壁は、その日のうちに撤去されましたが、一部メディアは、5日ほどではないものの6日も揺れが起きていたと伝えています。

このように、語順の原則にしたがって文を書き、原則の逆順にするときにはテンをうちます。





例文48)
日本のやり方は症状が軽い感染者を特定し、追跡することを困難にしている。


一瞬、「日本のやり方は症状が軽い感染者を特定している」のかとおもってしまいます。わかりにくい文です。構造的にあらわすとつぎのようになります。

例文48


語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがって書きなおします。

  • 症状が軽い感染者を特定し、追跡することを日本のやり方は困難にしている。

文中のテンがつよすぎると感じられるときにはつぎのようにします。

  • 症状が軽い感染者を特定して追跡することを日本のやり方は困難にしている。
あるいは
  • 症状が軽い感染者を特定・追跡することを日本のやり方は困難にしている。

「日本のやり方」を題目としてはっきりしめすのであれば、

  • 日本のやり方は、症状が軽い感染者を特定・追跡することを困難にしている。
あるいは
  • 日本のやり方は、症状が軽い感染者を特定し、追跡することを困難にしている。

「日本のやり方は」のあとの「逆順」のテンは絶対に必要です。





例文49)
今月末まで延長された緊急事態宣言をめぐり、菅官房長官は、午前の記者会見で、今月14日の時点で、専門家が判断すれば、東京や大阪などの「特定警戒都道府県」であっても解除することは可能だという考えを示しました。


テンがおおすぎてわかりにくい例です。たとえば強調したい語句をゴシック体でしめすとき、ゴシック体の部分が文中におおすぎると何を強調したいのかがかえってわかりにくくなります。これと似ていて、テンがおおすぎると何をいいたいのかがわかりにくくなります。

例文を、構造的にあらわすとつぎのようになります。


例文49


語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがってなおすとつぎのようになります。

  • 東京や大阪などの「特定警戒都道府県」であっても専門家が判断すれば今月14日の時点で解除することは可能だという考えを今月末まで延長された緊急事態宣言をめぐり午前の記者会見で菅官房長官は示しました。

テンがなくても文が書けます。

もし、「今月末まで延長された緊急事態宣言」についてのべていることをはっきりしめしたいのであれば冒頭にもってきて、テンの原則「逆順」によりテンをうちます。

  • 今月末まで延長された緊急事態宣言をめぐり、東京や大阪などの「特定警戒都道府県」であっても専門家が判断すれば今月14日の時点で解除することは可能だという考えを午前の記者会見で菅官房長官は示しました。

「今月末まで延長された緊急事態宣言」についてのべることをもっとはっきりしめすのであれば(題目としてしめすのであれば)、助詞の原則にしたがって、「をめぐり」を「は」にし、「菅官房長官は」の「は」は「が」にします。ここで、係助詞「は」は格助詞「を」を兼務します。

  • 今月末まで延長された緊急事態宣言は、東京や大阪などの「特定警戒都道府県」であっても専門家が判断すれば今月14日の時点で解除することは可能だという考えを午前の記者会見で菅官房長官が示しました。

何についてのべるのか、何を強調したいのか、メッセージをあらかじめはっきりさせておくとよいでしょう。





例文50)
東京地検が逃亡を手助けした容疑で逮捕状を取った協力者の父子が20日、米当局に逮捕され、米検察当局が裁判所に提出した日本の捜査に基づく記録で、綿密に計画された逃亡劇の詳細が新たに判明した。


一瞬、「東京地検が逃亡を手助けした」とよんでしまい、またそのあともわかりにくいです。構造はつぎのとおりです。


例文50


語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがってなおします。

  • 逃亡を手助けした容疑で東京地検が逮捕状を取った協力者の父子が米当局に20日逮捕され、米検察当局が裁判所に提出した日本の捜査に基づく記録で綿密に計画された逃亡劇の詳細が新たに判明した。

語順の原則にしたがえばわかりやすい文になります。テンはうちすぎないほうがよいでしょう。





例文51)
講師らは会社の指示で社員と変わらない働き方をしながら労働者の権利を持たない「個人事業主」とされたため、組合を結成し、会社と交渉した。


構造はつぎのとおりです。


例文51


語順の原則にしたがってなおします。

  • 社員と変わらない働き方を会社の指示でしながら労働者の権利を持たない「個人事業主」とされたため組合を結成し講師らは会社と交渉した。

題目語「講師らは」の位置は語順の原則にあくまでもしたがいます。もし、「講師らは」を強調したければ冒頭にもってきて、テンの原則「逆順」によりテンをうちます。

  • 講師らは、社員と変わらない働き方を会社の指示でしながら労働者の権利を持たない「個人事業主」とされたため組合を結成し会社と交渉した。


テンは、題目語のあとにうてばよいということではなく、テンの原則にしたがってうちます。





例文52)
シンフォニエッタ静岡は9月27日に実験した焼津文化会館大ホールでコンサートを予定している。


「シンフォニエッタ静岡」は「9月27日」に実験したのか、コンサートを予定しているのか? コンサートのようです。構造化してみます。


例文52


語順の原則にしたがってなおします。

  • 実験した焼津文化会館大ホールでシンフォニエッタ静岡はコンサートを9月27日に予定している。

題目語「シンフォニエッタ静岡は」の位置は語順の原則にしたがいます。題目語には、○○○についてのべるという心もちがあらわれ、もし、これを強調したければ冒頭にもってきて、テンの原則「逆順」によりテンをうちます。

  • シンフォニエッタ静岡は、実験した焼津文化会館大ホールでコンサートを9月27日に予定している。

しかしチケットを販売するために、コンサート予定日を強調したければつぎのようにします。

  • 9月27日に、実験した焼津文化会館大ホールでシンフォニエッタ静岡はコンサートを予定している。

題目と日付をともに強調したければつぎのようにします。

  • シンフォニエッタ静岡は9月27日に、実験した焼津文化会館大ホールでコンサートを予定している。

例文52は、テンをうつだけでもわかりやすくなりました。





例文53)
玉木氏率いる国民民主党が、小沢氏や支持団体の連合の力を借りつつ、単独での党勢拡大を目指す立憲民主党を突き上げる展開だったことは、記憶に新しい。


構造化してみます。


例文53


語順の原則にしたがってなおします。

  • 単独での党勢拡大を目指す立憲民主党を小沢氏や支持団体の連合の力を借りつつ玉木氏率いる国民民主党が突き上げる展開だったことは記憶に新しい。

テンがなくても文がなりたちます。「○○○は」のあとにテンをうてばよいということではありません。

この文において、「単独での党勢拡大を目指す立憲民主党を小沢氏や支持団体の連合の力を借りつつ玉木氏率いる国民民主党が突き上げる展開だったことは」は題目であり、とてもながいため語順の原則により前にきており、逆順ではないのでテンは必要ありません。例文53はテンをうちすぎています。

しかし強調したい語句がある場合は語順をかえ、テンをうちます。

  • 玉木氏率いる国民民主党が、単独での党勢拡大を目指す立憲民主党を小沢氏や支持団体の連合の力を借りつつ突き上げる展開だったことは記憶に新しい。

「玉木氏率いる国民民主党が」の「が」は格助詞(主格)であり、「・・・展開だったことは」の「は」は係助詞で題目をあらわします。「が」と「は」のつかいわけにも注意してください。










日本語の作文技法はそれほどむずかしいことではなく、原則にしたがって練習すればわかりやすい文が比較的短期間で誰でも書けるようになります。ただし日本文法と英文法の相違に気がつき、「主語-述語」の構造を日本語にはあてはめず、「題目-述部」が日本語の基本構造であることを理解することが必要です。

日々の生活のなかでわたしたちは、あることについてもっとしりたいとおもうことがよくあります。この気持ちが、あらたなインプットにつながります。そしてさまざまな情報を内面にインプットしていると、友人にあるいは家族に、それらをつたえたいという気持ちが生じます。こうして、情報のアウトプットへすすみます。

このアウトプットのためのもっとも容易な手段が言葉です。アウトプットは声にだして相手につたえるのもいいですが、書きあらわすことも大事です。文字としてのこすことによってあとで点検ができます。そもそも、何をしりたかったのか、何をつたえたかったのか、あらためてとらえなおすことができます。そのためにも、わかりやすい日本語が役立ちます。




▼ 注
日本語の作文法 − 日本語の原則 −


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