ドイツ・台湾・韓国の例が参考になります。高齢者の命をかろんじる国、大混乱におちいっている国があります。両極端をしると対策がたてやすくなります。
『日経サイエンス』2020年9号の特集では、「COVID-19 終わらないパンデミック」と題して、世界各国の感染症対策の現状について解説しています。今後の対策をかんがえるためのヒントがえられます。




同じ欧州でも累積感染者や死者の数は国によって大きく異なる。人口100万人あたりの死者数はイタリアで573.8人だが、ドイツは107.4人だ。


国ごとの医療体制や感染症に対する準備のちがいが死者数の差にあらわれます。イタリアは、財源不足のため医療費をけずっていました。

一方、ドイツは、そのようなことはせず、SARS と類似のウイルスが流行した場合のシナリオをあらかじめ検討しており、集中治療室や感染症病棟を整備し、医療感染者の感染をふせぐ防護具を備蓄するなどしていました。


6月8日の Nature 誌に掲載された論文では、欧州11カ国で対策が行われる前の実効再生産数の平均は3.8だったが,対策の実施後には0.66まで低下したと結論づけた。実効再生産数は対策によって82%減少していた。


欧州では、スウェーデンなど一部の国をのぞいて、イベントの中止や店舗の休業など、経済活動をとめて人と人の接触をへらすロックダウンが実施されました。ロックダウンによる実効再生産数の減少の割合は約8割に達しましたが、イベントの中止や学校閉鎖、自己隔離、人と人の距離をあけるソーシャルディスタンシングのよびかけを、それぞれ単体で実施した場合は5%にみたないことがわかりました。

スウェーデンは、ロックダウンをおこなわなかったため、6月末時点で、人口100万人あたりの死者数は米国やフランスよりもおおく、近隣の北欧諸国とくらべると10倍ちかくもおおく、死者の半数以上を高齢者がしめます。

ブラジルも、ロックダウンをおこなわず、感染者が激増し、国内は大混乱におちいっています。

英国は、当初は、ロックダウンをおこないませんでしたが、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームが「ロックダウンなしでは約26万人が死亡する可能性がある」と指摘してから方針を転換し、結果的に、ロックダウンの実施は欧州内で最後となりました。

このように、感染症対策は、事前の準備と、どれだけはやく手をうつかが効果を左右します。

米国では、6月下旬から、南部の州を中心に新規感染者がふたたび増加しはじめ、「第2波」の到来となりました。たとえばフロリダ州では、1日あたりの新規感染者がロックダウン中には1000人前後でしたが、7月2日には1万人にまで増加しました。フロリダ州とテキサス州は、飲食店の営業規制をふたたび強化することを決定しました。

イランでも、第2波が到来しています。6月5日には、第1波をこえる3600人の新規感染者が報告されました。

南アフリカ共和国は、新規感染者数の減少をまたないで5月1日から段階的な緩和にふみきり、6月末時点で、感染者数は増加の一途をたどっています。

このように、ロックダウンをしなかったり、解除をいそいだりすると感染がひろがります。自国や地域内で流行がたとえおさまっても、流行がつづく他地域からウイルスが流入し、また自国内・地域内にも感染者がのこっていて、外出規制を解除した途端に感染者数は増加に転じます。第2波の流行は、過去の SARS やスペイン風邪でもみられました。

一方、アジアのおおくの国では、欧州にくらべて、感染者と死者数が1桁ちいさく、欧米よりも被害がおさえられています。

台湾は、SARS の経験をいかして感染者がでるまえから準備をすすめていたため、ロックダウンや学校閉鎖をおこなわずに感染者数をひくくおさえられました。

韓国は、MERS の経験をいかして、検査体制の強化、症状のおもさによって入院先をわけるなどの対策をとり、感染者数を比較的すくなくおさえこみました。

ただしアジア諸国で感染者数・死者数がすくないのは、民族の体質のちがいやウイルスの変異などが影響しているためであるという仮説もあります。






COVID-19の世界の感染者数は7月10日時点で1200万人以上となり、死者数も55万人をこえました。

これは、2009年に流行した新型インフルエンザの死者数が1万8449人、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)のそれが約800人だったこととくらべて、桁ちがいの深刻さをしめしています。

アジア諸国では、感染者数・死者数が比較的すくないですが、全世界をみわたせば状況はかなりわるいことがわかります。普通の人々が国境をこえて移動できるようになるにはすくなくともあと1〜2年はかかると予測されます。東京オリンピックも、日本国内の状況と都合だけで実施できるはずがありません。

今回の日経サイエンスの記事をよめば、世界各国が、どのような対策をとっているか、あるはとっていないかがよくわかります。感染症対策と経済活動の両立、あるいは感染症対策よりも経済優先といった方策がありますが、スウェーデンなどのように高齢者の命をかるくみる方策は人の道をはずれているといってよいでしょう。「スウェーデンは、平時からの福祉と医療の体制に問題がある」と指摘されています。

現在(2020年8月)の日本は、残念ながら、第1波よりもおおきな第2波のまっただなかにあります。第2波への対策はできませんでしたが、第3波は、もっと小規模におさえられるように今から対策をたてなければなりません。

そのためにも、世界各国の動向をしっておくとよく、ドイツや台湾・韓国の例が参考になります。一方で、大混乱がおこっているブラジル、高齢者の命をかろんじるスウェーデン、あわてて方針転換をした英国などの例もみておくとよいでしょう。



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▼ 参考文献
『日経サイエンス』(2020年9月号)日経サイエンス社、2020年
2020-08-14 18.27.15