氷河が縮小・後退しています。「氷の仏塔」をつくり水不足にそなえます。地球温暖化に警鐘をならしています。
今月の『ナショナルジオグラフィック』は「世界の屋根 ヒマラヤ」を総力特集しています。その第3部は「氷の仏塔」です。




2013年の夏の盛り、標高がそれほど高くない場所でも、橋の影には氷が解けないで残っているのに彼は気づいた。そこでアイデアがひらめいた。冬の間に氷を凍らせておいて、春になって解ければ、その水を村々で使うことができるのではないか。




ヒマラヤとカラコルムの2つの山脈にはさまれたインド最北部の高原、ラダック地方では、過去40年間で冬の平均気温が1℃ほど上昇したため、生活に欠かせない水のサイクルに断絶が生じました。この地方では元来、1年間でわずか110ミリほどしか雨がふらず、冬につもる雪と山脈の氷河が命をささえる水源です。しかし近年、積雪量は激減し、氷河は後退し、深刻な水不足におそわれています。春になっても水がなく、農耕ができません。

そこでかんがえだされたのが「氷の仏塔」です。ラダック地方・レー町のちかくをながれる川から水をひき、パイプをとおして山の斜面をながれくだらせ、垂直にたてたパイプの先端にあるノズルまでおくります。夜になって氷点下まで気温がさがったらノズルをあけ、ふきだされる霧状の水はこおらせて、円錐形の塔がすこしずつ成長させます。

試験的につくった最初の「氷の仏塔」はたかさが6メートルで、15万リットルの水をたくわえ、5月までとけませんでした。そして2018年から翌年にかけてのべ12基の「氷の仏塔」をつくり、19年から今年にかけては26基を作りました。これらの「氷の仏塔」からつくられる水がかわいた山の斜面をうるおします

そして「氷の仏塔」にはもうひとつの意味があります。大量の二酸化炭素を排出する都市型のライフスタイルをかえさせる警鐘です。

地球温暖化の影響は、このようなところにもあらわれています。氷河が縮小・後退していることに世界の人々が気がつかなければなりません。「氷の仏塔」は、気づかせるためのシンボルでもあります。



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▼ 参考文献
『ナショナル ジオグラフィック日本版』(2020年7月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2020年
2020-07-18 20.22.51