地球温暖化にともない海の温暖化もすすみます。毎年、豪雨がおそってきます。これまでの常識は通用しません。
海面の水温が数℃あがるだけで上空の大気のながれがおおきくかわります。海は、大気に対してどのような影響をもたらしているのでしょうか?




海からの蒸発量は年間42.5万立方キロメートルにおよぶ。これは1年で1.2メートル(1日で3ミリメートル)も海面が下がってしまうほどの量だ。


海は、圧倒的な水量をほこり、大量の水蒸気を蒸発させ、それを大気に供給します。水蒸気をふくんだ大気は陸地へ移動し雨をふらせます。

海から蒸発した水蒸気とほぼおなじ量が、雨や雪として海と陸地にふり、陸地にふった水のおおくは河川などから海に流入します。このような水の循環があるため、実際には海面がさがることはありません。


風は海に “でこぼこ” を生むことで、海流をつくっているのです。


海水面は水平ではなく、 “丘” と “くぼみ” ができており、たとえば太平洋のもっともたかい場所とひくい場所では1メートル以上の高低差があります。

海流は、海面にできた丘やくぼみの周囲をまわるようにながれます。

海流とは、ある方向に移動するまとまった海水のながれであり、たとえば日本の太平洋沿岸をながれる「黒潮」は、幅は、海面では100キロメートル、ふかさは3000メートルにおよび、流速は最大で秒速2メートルにもなり、世界有数のつよい海流としてしられます。

海流は、地球規模の熱の「運び屋」であり、世界各地の気候をきめるのに重要な役割をはたしています。たとえば北海道よりも500キロメートル以上も北に位置するイギリス・ロンドンの年平均気温は10℃であり、月平均気温が氷点下になることもないのは、アメリカのフロリダ半島あたりからヨーロッパにむかってながれる海流があたたかい海水をはこんでくるからです。


大量の水蒸気が上昇気流に乗って上空に運ばれ、雲になると熱が放出される。この熱が空気を温めると空気が膨張して軽くなり、上昇気流はさらに強くなる。このようにして1万メートルをもこえる背の高い雲になったものが「積乱雲(入道雲ともいう)」だ。


大量の積乱雲があつまる場所では空気があたためられて膨張して気圧がさがり、周囲から空気がふきこみ、地球の自転の影響(コリオリ力の効果)で徐々にうずをまきはじめます。うずをまく方向は、北半球では反時計まわりです。うずをまきなながらふきこむ風は水蒸気を周囲からあつめることになり、ますます積乱雲を成長させ、こうして台風が発生します。台風の発生と成長のサイクルが維持されるためには大量の水蒸気が必要であり、それを供給できるのは海水面がおそそ27℃以上ある熱帯や亜熱帯の海です。台風が南方でうまれるのはこのためです。


5月から7月にかけて、日本は「梅雨」の時期に入る。


アジアは、「モンスーン(季節風)」がふく地域として有名であり、梅雨という気象現象は、おおきな視野でみれば、海から陸へむかってふくモンスーンによってひきおこされます。

夏になると大陸の温度があがり低気圧ができ、陸地にくらべて温度のひくい海には高気圧ができ、すると海から大陸にむかって風がふき、その風向きは、地球の自転の影響をうけ、夏のインドでは、南西からモンスーンがふきます。冬は、低気圧と高気圧の位置関係が大陸と海で逆になり、北東のモンスーンがふきます。


海面水温と陸地の気温について、1900年から2000年の100年間における年平均温度の変動を示した。海面水温と気温の両方とも、1971〜2000年の30年間の平均値を「平年値」とし、そこからのずれ(平年差)を示している。えがいた線は、その年をふくむ過去5年間の平均値である。

2020-07-13 18.06.26


陸地の気温(黄色い線)は、100年あたり約0.8℃の割合で上昇し、海面水温(赤い線)は、100年当たり約0.5℃の割合で上昇しています。

海の温暖化がすすむと、エルニーニョ現象など、海と空が一体となって気候変動をひきおこす現象の発生頻度やつよさに“変調”をきたす可能性が指摘されています。実際に、変化のきざしがみえています。エルニーニョ現象とは、熱帯太平洋の中央から東部にかけて水温がたかくなる現象です。

海におきる異変は、ながい時間をかけておきるものがおおく、徐々に着実に地球全体に影響をおよぼします。いままで「異常」といわれていた現象が通常になるあたらしい地球環境がうまれつつあります。






「令和2年7月豪雨」と命名された今回の豪雨の遠因は、地球温暖化にともなう、インド洋の海水温の上昇にあるとかんがえられます。

気象庁が最大級の警戒をよびかける「大雨特別警報」がここ1週間のあいだに3回も発表されました。

大雨特別警報は「数十年に一度の大雨」に相当するとされるレベルですが、実際には、運用開始からわずか7年でのべ16回もでています。これまでの防災の常識は通用しなくなりました。


大雨特別警報がでた事例
2020-07-13 18.33.00
(出典:西日本新聞, 2020.7.13)


今回は、積乱雲が帯状にかたまって局地的豪雨がふる「線状降水帯」が次々と発生したことによって大雨特別警報の頻発になりました。

気象庁によると、インド洋の海水温は、6〜7月が平均よりも0.5度たかく、積乱雲の発生とともに上昇気流が発達し、上昇した大気がフィリピン海ちかくで下降、結果として、例年は北側にふくらんで梅雨前線をおしあげる太平洋高気圧が南西側にはりだしてしまい、梅雨前線が日本列島付近に停滞しています。

また偏西風の蛇行によって黄海付近の気圧がひくくなり、あたたかくしめった空気が、太平洋高気圧にそって梅雨前線にむかって南から大量にながれこみ、大雨をもたらしています。

日本の平均気温は、100年あたり1.24度のペースで上昇しつづけており、気温が1度あがると大気中の水蒸気量は7%ふえ、積乱雲が発生しやすくなります。

全国の観測所で、1時間雨量50ミリ以上を記録した回数は、1976〜85年の年間平均226回から、2010〜19年は327回にふえました。

スーパーコンピューターをつかった気象研究所の分析では、約40年間にわっって気温が上昇した影響により総雨量が6%ほどふえたという結果がはじきだされました。

東京大学の研究によると、東シナ海など、日本近海の温暖化のペースは、地球の全海洋の平均にくらべて2倍ちかいこともわかりました。

雨のふりかたが過去にないほどはげしくなりつつあります。毎年のように豪雨がおそってきます。これまでの常識にしたがっていると命をおとしかねません。避難訓練のやり方も抜本的に改革しなければなりません。



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▼ 参考文献
Newton『よくわかる海と気象』(Kindle版)ニュートンプレス、2015年
2020-07-13 19.11.23