PCR 検査と抗体検査の相違を理解します。データを蓄積して一般的傾向をつかみます。定量的に予測します。
『Newton』2020年8月号の FOCUS Plus では「新型コロナウイルスの抗体検査」について解説しています(注)。


抗体とは、外部から侵入した病原体などの異物に結合するタンパク質だ。抗体はウイルスのスパイクなどに結合し、その活動をおさえこむ。ウイルスの細胞への侵入を阻止する能力をもつ抗体はとくに「中和抗体」とよばれる。


新型コロナウイルスの表面には「スパイク」とよばれるタンパク質が存在し、スパイクが、気道などの細胞の表面にある受容体に結合するとウイルスは細胞内に侵入し、感染がおきます。

ウイルスが細胞内に進入すると「B細胞」という免疫にかかわる細胞が「抗体」をつくりはじめます。

B細胞は、ウイルスの特徴を記憶することができ、おなじウイルスがふたたび侵入したときにすみやかに抗体をつくります。このはたらきによっておなじ病原体には感染しにくくなり、これが「免疫」ができた状態です。

この性質を利用し、弱毒化したウイルスなどの「ワクチン」をあらかじめ体内に投与することで、自然な感染をへずに人工的に免疫をつくることもできます。

ウイルスに感染すると、発症の数日後から抗体がつくられはじめ、2週間後以降は、8割以上の人の血液中に抗体が存在します。この抗体の有無をしらべるのが「抗体検査」です。

これに対して「PCR 検査」とは、ウイルスの遺伝子(RNA)が体内に存在するかどうかをしらべる方法であり、感染してから、病気が治癒して体内からウイルスがなくなるまでのあいだだけ、ウイルスを検出できます。したがってこの検査では、過去に感染していても、現在は完治している場合は感染していたことがわかりません。

抗体検査の注意点として、陰性と判定されても、感染していないことの証明にはならないことがあります。ウイルスに感染しても、抗体がつくられる前に検査をすれば陰性と判定されるからです。

また新型コロナウイルスに一度感染して抗体をもっていても、その人はもう感染しないとはかならずしもいえません。これまでに、免疫がながくつづかない病原体の例が報告されているからです。たとえばインフルエンザウイルスの場合は、ウイルスが変異するのでふたたび感染してしまい、そのため、インフルエンザウイルスのワクチンは毎年うたなければなりません。コロナウイルスも変異するとかんがえられ、抗体をもっているから安心できるというわけではありません。






現在、日本で、新型コロナウイルスに過去に感染した人は人口の0.5〜1%だと推定されています。つまりほとんどの人が非感染者です。

わたしたち一般の国民も、PCR 検査と抗体検査に関するただしい知識をもち、両者の相違を認識し、積極的に検査をうけるとともに、上記の推定値のたしからしさを検証しつつ、今後の検査結果の推移をみることが大事でしょう。

データが今後ふえれば一般的傾向をつかむことができ、ウイルスの感染拡大を予測できます。データをふまえなければただしい判断はできません。すくない情報で主観的にかんがえると判断をあやまります。



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▼ 注:参考文献
『Newton』(2020年8月号)ニュートンプレス、2020年