事実レベルと思考レベルを往復します。仮説法、演繹法、帰納法とすすみます。論理の区切りを自覚します。
エピソード(1)

昨日、ある会社の東京本社に青森支社から箱が1個とどきました。つぎの日、Aさんが出社してみると、デスクのうえにリンゴが1個おいてありました。そういえば青森はリンゴの産地だから、昨日とどいた箱の中にはリンゴがはいっていて、そこからこれはとりだされたのではないだろうかとAさんはおもいました。

その箱は、管理室で管理人が管理していてAさんは中をみることはできません。そこで同僚に、「リンゴをもらったかどうか」たずねました。するとBさんも、Cさんも、Dさんも「もらった」とこたえました。3人とも「もらった」とこたえたので、やはり、箱の中身はリンゴだとおもいました。

このエピソードを整理するとつぎのようになります。

  • 事実:青森から箱がとどいた。デスクのうえにリンゴが1個おいてあった。
  • 前提:青森はリンゴの産地である。
  • 仮説:箱の中にはリンゴがはいっているのではないだろうか。

これは〈事実→前提→仮説〉とすすむ論理であり、仮説法(仮説発想法あるいは発想法)といいます。

仮説をたてたら、つぎに確認します。

  • 前提:青森はリンゴの産地である。
  • 仮説:箱の中にはリンゴがはいっているのではないだろうか。
  • 予見:同僚もリンゴをもらっただろう。

3人の同僚に確認したところ「もらった」とこたえたので仮説の蓋然性がたかまりました。予見は、「3人の同僚もリンゴをもらった」という事実をみちびきました。

これは〈前提→仮説→事実〉とすすむ論理(推論)であり、演繹法です。




エピソード(2)

昨日、ある会社の東京本社に山梨支社から箱が1個とどきました。つぎの日、Aさんが出社してみると、デスクのうえにブドウが1房おいてありました。そういえば山梨はブドウの産地だから、昨日とどいた箱の中にはブドウがはいっていて、そこからこれはとりだされたのではないだろうかとAさんはおもいました。

その箱は、管理室で管理人が管理していてAさんは中をみることはできません。そこで同僚に、「ブドウをもらったかどうか」たずねました。するとBさんもCさんも「もらった」とこたえました。ところがDさんは、「モモをもらった」とこたえました。

「あっ、ブドウだけではないな」
そういえば山梨はモモの産地でもありました。箱の中身はブドウとモモのようです。

そこでAさんは、ほかの同僚にもきいてみました。するとEさんは「ブドウ」、Fさんは「モモ」、Gさんは「ブドウ」、Hさんは「ブドウ」、Iさんは「モモ」、Jさんは「ブドウ」とこたえました。自分の分もふくめて、ブドウが7房、モモが3個という結果でした。やはり、箱の中身はブドウとモモのようです。ききとりの結果からAさんは、箱の中身の70%はブドウで、30%はモモだろうとおもいました。

このエピソードを整理するとつぎのようになります。

  • 事実:山梨から箱がとどいた。デスクのうえにブドウが1房おいてあった。
  • 前提:山梨はブドウの産地である。
  • 仮説:箱の中にはブドウがはいっているのではないだろうか。

これは〈事実→前提→仮説〉とすすむ論理であり、仮説法です。

仮説がたてば、つぎはその確認です。

  • 前提:山梨はブドウの産地である。
  • 仮説:箱の中にはブドウがはいっているのではないだろうか。
  • 予見:同僚もブドウをもらっただろう。

同僚に確認したところ、Bさん・Cさんは「ブドウ」とこたえました。しかしDさんは「モモ」とこたえました。この時点で仮説は否定(反証)されました。仮説をたてなおさなければなりません。予見もかわります。

  • あらたな前提:山梨は、ブドウとモモの産地である。
  • あらたな仮説:箱の中には、ブドウとモモがはいっているのではないだろうか。
  • あらたな予見:同僚は、ブドウあるいはモモをもらっただろう。

そして確認しました。

  • Aさん:ブドウ
  • Bさん:ブドウ
  • Cさん:ブドウ
  • Dさん:モモ
  • Eさん:ブドウ
  • Fさん:モモ
  • Gさん:ブドウ
  • Hさん:ブドウ
  • Iさん:モモ
  • Jさん:ブドウ

のべ10人の情報(データ)により、あらたな仮説の蓋然性がたかまりました。予見は、7人がブドウを、3人がモモをもらったという事実として確認されました。

これは〈前提→仮説→事実〉とすすむ論理(推論)であり、演繹法です。

上記のデータから、7/10がブドウ、3/10がモモ、つまり70%がブドウ、30%がモモであることがわかります。このことから、のべ100個の物が箱の中にはいっているとすると、それらはブドウ70房、モモ30個であると推計できます。

  • 仮説:箱の中には、ブドウとモモがはいっているのではないだろうか。
  • 事実(データ):7人がブドウを、3人がモモをもらった。
  • 一般(推計):箱の中身はブドウ70房、モモ30個だろう。

これは〈仮説→事実→一般〉とすすむ論理であり、帰納法です。

さらにこの箱から1個ずつ中身をとりだした場合、70%の確率でブドウが、30%の確率でモモがでてくるという予測もできます。

いったん、「一般」(一般的傾向、規則、全体)があきらかになると、それを、あらたな前提にしてあらたな予測ができます。

  • 予測:箱から1個ずつ中身をとりだした場合、それは、70%の確率でブドウ、30%の確率でモモである。すなわちブドウがでる確率がたかい、可能性がおおきい。

これが統計と確率です。

以上の仮説法・演繹法・帰納法をそれぞれモデル化(図式化)すると図1のようになります。帰納法における「一般」は、あらたな予測のための前提としてつかえるので「前提」としるしておきます。


200516 仮説法・演繹法・帰納法
図1 A:仮説法、B:演繹法、C:帰納法


このような仮説法・演繹法・帰納法は、事実レベルと思考レベルを往復しながらすすめられます(図2)。


キャンバス 1
図2 事実レベルと思考レベル
A→B→C:仮説法
C→D→E:演繹法
E→F→G:帰納法


仮説法は、事実をとらえることからはじめます(A→B)。そして仮説を発想し(B→C)、仮説を採択します(C)。仮説の採択は思考レベルです。そして演繹法の予見まで(C→D)は思考レベル、事実の確認(E)は事実レベルです。さらに帰納法でつかうデータを収集すること(E→F)は事実レベル、推計結果(G)は思考レベルです。

このようにわたしたち人間は、事実レベルと思考レベルを往復しながら論理をすすめており、このような事実レベルと思考レベルからみても、仮説法・演繹法・帰納法はこの順序でつかうのがもっとも効果的であることがわかります(図3)。これを「3段階モデル」といいます。


200402 3段階モデル(完成形)
図3 3段階モデル


演繹法と帰納法は仮説の検証過程であり、この検証作業を科学者は「実験」といいます。また演繹法の予見までの部分を「思考実験」ということもあります。

仮説法・演繹法・帰納法は、古代ギリシャの学者 アリストテレスが論理の3区分として提唱して以来、人間の基本的な論理としておよそ2300年にわたって脈々とつかわれてきました。現代においては、哲学者 チャールズ=S=パース、哲学者 上山春平、民族地理学者 川喜田二郎らがとらえなおしをおこないました。とくに川喜田二郎は、仮説法を徹底的に研究し、また技術化しました。図2は、上山春平がしめした図であり、川喜田二郎が提唱した「W型問題解決モデル」の原型です。また演繹法と帰納法は数学者がおおいに発展させました。論理については、これら3つをしっておけば必要にして十分です。

仮説法・演繹法・帰納法は実際には誰もがやっていることであり、それほどむずかしいことではありません。ただしアリストテレスがいったように、論理の3つの区分を自覚するとあらゆる場面で物事のわかりが格段によくなります。



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▼ 参考文献
上山春平著『哲学の方法』(上山春平著作集 1)法蔵館、1996年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
川喜田二郎著『続・発想法』(中公新書)中央公論新社、1970
川喜田二郎著『発想法の科学』(川喜田二郎著作集 4)中央公論社、1995年
川喜田二郎著『KJ法 -渾沌をして語らしめる-』(川喜田二郎著作集 5)中央公論社、1996年
竹内均著・上山春平著『第三世代の学問「地球学」の提唱』中公新書、中央公論社、1977年
Newton 編著『統計と確率 改訂版』(Newton別冊)ニュートンプレス、2019年