ニュージーランド政府が先住民マオリにあやまりました。ワンガヌイ川に法的な人格をみとめました。自然のネットワークにくわえて自然の歴史的みかたも重要です。
法的権利を自然にあたえるこころみについて『ナショナルジオグラフィック』2020年3月号が報告しています。
ワンガヌイ川は、ニュージーランド北島をながれる全長 290km の川であり、流域には、先住民であるマオリの人々がくらし、彼らにとっては、聖なる力をもつ「アワ・トゥプア」(祖先の川)です。
マオリの人々は、ワンガヌイ川についてふかい知識をもっており、18種の淡水魚やイガイ・ザリガニ・エビなどをとる時期や方法・場所を熟知し、川の蛇行部それぞれに、「タニファ」とよばれる守護霊がいることをしっていました。
しかし19世紀半ば、ヨーロッパ人が入植をはじめるとこの川に対するマオリの権限はうばわれ、開拓がすすみ、川はよごされました。水力発電所も建設され、上流域の自然なながれがうばわれました。マオリにとっては、上流域は祖先であるワンガヌイ川の頭にあたり、ながれの改変はマオリ文化に対する最大の侮辱となりました。
ところが2017年の法律で、ニュージーランド政府は、マオリの文化的な繁栄をさまたげたことをみとめ、長年の不正行為をわびました。
この法律は、断片的な物質で自然は構成されているという西欧文明的な認識から、「自然は不可分の生きた存在だ」というマオリの理論にもとづく認識への転換を暗示させます。
マオリの宇宙観の中心には「自然は家族である」という思想があり、自然はつながりあったひとつのネットワークで、そのなかにおいて、人間は、ほかの生き物よりすぐれてもいなければおとってもいないとかんがえます。
マオリは、ニュージーランドのポリネシア系先住民であり、初期の移住は9世紀以前におこなわれたといわれ、現在は、ニュージーランド総人口の約15%をしめます。
今回のような、法的権利を自然にあたえるこころみは非常にめずらしいですが、ほかの国では、インドのガンジス川やヤムナ川などの例があります。人間が、自然に対する姿勢をあらためることはとても重要なことであり、今後、世界各地で環境保全をすすめていくための参考になります。
マオリは、「自然は家族である」といい、自然のネットワークを意識しています。このことを、人間と自然の一体性とか、人間は、地球という「体」の「細胞」にすぎないという人もいます。
さらにマオリは「祖先」といいます。もとひとつのもの、それを「祖先」といってもよいでしょう、そこから分化・生成・発展してきたのが今日みられる多様性のある世界(地球)であり、したがって「家族」です。
このような歴史的(地球史的)なみかたもくわえることによって、「私は川、川は私」というマオリの言葉も理解できるのではないでしょか。マオリは、重要なことを現代文明人におしえてくれます。
▼ 参考文献
『ナショナル ジオグラフィック日本版』(2020年3月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2020年
2017年3月20日、驚くべきことが起きた。ニュージーランド政府は、「川は生きた存在である」という、かねてからのマオリの主張を法律で認めたのだ。この日に議会で可決された法案で、ワンガヌイ川とこの川にまつわるすべての地勢および形而上の要素は、「テ・アワ・トゥプア」という不可分の生きた存在であり、「法人がもつあらゆる権利、力、義務、責任」を有すると宣言された。
ワンガヌイ川は、ニュージーランド北島をながれる全長 290km の川であり、流域には、先住民であるマオリの人々がくらし、彼らにとっては、聖なる力をもつ「アワ・トゥプア」(祖先の川)です。
マオリの人々は、ワンガヌイ川についてふかい知識をもっており、18種の淡水魚やイガイ・ザリガニ・エビなどをとる時期や方法・場所を熟知し、川の蛇行部それぞれに、「タニファ」とよばれる守護霊がいることをしっていました。
しかし19世紀半ば、ヨーロッパ人が入植をはじめるとこの川に対するマオリの権限はうばわれ、開拓がすすみ、川はよごされました。水力発電所も建設され、上流域の自然なながれがうばわれました。マオリにとっては、上流域は祖先であるワンガヌイ川の頭にあたり、ながれの改変はマオリ文化に対する最大の侮辱となりました。
ところが2017年の法律で、ニュージーランド政府は、マオリの文化的な繁栄をさまたげたことをみとめ、長年の不正行為をわびました。
この法律は、断片的な物質で自然は構成されているという西欧文明的な認識から、「自然は不可分の生きた存在だ」というマオリの理論にもとづく認識への転換を暗示させます。
マオリの宇宙観の中心には「自然は家族である」という思想があり、自然はつながりあったひとつのネットワークで、そのなかにおいて、人間は、ほかの生き物よりすぐれてもいなければおとってもいないとかんがえます。
偉大な川は、山々から海へと流れる。私は川、川は私。(マオリ)
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マオリは、ニュージーランドのポリネシア系先住民であり、初期の移住は9世紀以前におこなわれたといわれ、現在は、ニュージーランド総人口の約15%をしめます。
今回のような、法的権利を自然にあたえるこころみは非常にめずらしいですが、ほかの国では、インドのガンジス川やヤムナ川などの例があります。人間が、自然に対する姿勢をあらためることはとても重要なことであり、今後、世界各地で環境保全をすすめていくための参考になります。
マオリは、「自然は家族である」といい、自然のネットワークを意識しています。このことを、人間と自然の一体性とか、人間は、地球という「体」の「細胞」にすぎないという人もいます。
さらにマオリは「祖先」といいます。もとひとつのもの、それを「祖先」といってもよいでしょう、そこから分化・生成・発展してきたのが今日みられる多様性のある世界(地球)であり、したがって「家族」です。
このような歴史的(地球史的)なみかたもくわえることによって、「私は川、川は私」というマオリの言葉も理解できるのではないでしょか。マオリは、重要なことを現代文明人におしえてくれます。
▼ 参考文献
『ナショナル ジオグラフィック日本版』(2020年3月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2020年