仮説法・演繹法・帰納法をつかうと予測ができます。あらたな前提としてカオス(渾沌)があきらかになりました。たえず現状を確認し、災害にそなえます。
『天気予報の科学』(Kindle版、ニュートンプレス)は天気を予測するしくみについてわかりやすく解説しています。天気つまり気象現象は、大気のなかでおきる現象であり、太陽光の影響により変化し、気温・気圧・湿度が重要です。
観測機器がとぼしかった時代は、上空の大気の様子は、雲の変化や地上の気圧変化などから間接的に推測するしかありませんでしたが、現代では、さまざまな観測機器が、気温・気圧・水蒸気量・風向風速など、大気の状態を観測しています。なかでも気象衛星は、とりわけ重要な役割をはたしています。
観測によってえられたデータは、「全球通信網」をつかって国際的に短時間で交換され、蓄積されています。
現代の天気予報は「数値予報」を基本にしており、これまでのデータや経験にもとづき、熱力学の法則・運動の法則・質量保存の法則などの物理法則をふまえて、まず、予報のためのモデルをつくります。
地球全体の予測のためには「全球モデル」がつかわれますが、局所的な予測のためには「局所モデル」が、両者の中間として「メソモデル」がつかわれ、用途に応じてモデルはつかいわけます。
このようなモデルをつかって、どのように気象が変化するかを計算し、予報をだします。
具体的には、適切なモデルを選択し、まず、過去の観測データから現在の大気の状況を計算します。つぎにそれを、最新の観測データ(事実)とてらしあわせ、最新データを反映させて補正します。これが予報計算の「初期値」となります。そして地形など、地域ごとの特性をみて、それにあわせて初期値を補正します。最後に、雨・曇り・降水確率・最高気温・最低気温など、一般の人にわかりやすい表現にして予報をだします。
今日の天気予報は、明後日までの予報でしたらかなり正確にできるようになっていますが、それより先の長期予報はいまだにむずかしい状況です。これは、大気のふるまいにカオス性があらわれるからであり、カオスは大気がもつ性質であり、観測や予報の技術を改良しても完全に解決することはできないことがわかりました。
長期予報はむずかしいといっても、さまざまな産業がそれをもとめています。たとえば今年は厳冬になることが事前にわかったら、冬物商品をおおく仕入れておくことができるからです。
そこで気象庁は、初期値をわずかにかえて複数回の計算をおこない、それらの平均をとる「アンサンブル予報」という手法をつかい、1週間先までの予報と1ヵ月以上先までの予報をしています。
また海洋の影響がおおきくなる長期間の予報に関しては、エルニーニョ現象など、大気に海がおよぼす影響も予測することで予報の精度をあげようとしています。
あるいは予報官や予報士が、過去の大気の傾向などをみて予報を判断すること(人間による判断)もおこなっています。
気象学と天気予報は観測を必要とします。大気現象を観測してデータをえます。データとは、事実を、数値や言葉やその他の記号で記述したものです。
また大気現象は物理現象ですから、熱力学の法則・運動の法則など、物理法則を前提として論理をすすめます。気象学が地球物理学の一分野であることのゆえんです。
そして全球モデル・メソモデル・局所モデルなど、モデルをつくります。モデルとは、仮説を、数式や図式であらわしたものです。数式であらわした仮説を「数理モデル」ということもあります。
このように、天気予報のための第1段階では、〈観測データ(事実)→ 物理法則(前提)→ モデル(仮説)〉という論理(方法)をつかい、これは、仮説法(仮説発想法あるいは発想法)といえます。
つぎに天気予報のために、物理法則を前提として、適切なモデルをつかって、まずは、過去のデータで大気現象を計算し、予測します。そして最新の観測データ(事実)とてらしあわせて当初の予測を修正し、天気予報をだします。予報をだしたら、現実(事実)とそれがどこまで一致するかを確認します。このような検証により、モデル(仮説)と予報をさらに修正できます。
これは、〈物理法則(前提)→ モデル(仮説)→ 予報と観測データ(予測と事実)〉という、一般から個別へすすむ論理であり、演繹法といえます。
そしてモデルのもとで、観測をおこなって膨大なデータが集積してくると、大気現象には、カオス(渾沌)性があることがあきらかになりました。カオスは今では、あらゆる気象学者がみとめる一般的な認識となり、論理の前提となります。
これは、〈モデル(仮説)→ 観測データ(事実)→ カオス(前提)〉という、個々の事実のあつまりから一般的な前提をみちびきだす論理であり、帰納法といえます。帰納法によって、カオスというあらたな前提があきらかになりました。
以上の仮説法・演繹法・帰納法をモデル化(図式化)するとつぎのようになります。
また仮説法・演繹法・帰納法はこの順序でつかうのがもっとも効果的です。これを「3段階モデル」といいます。
気象学は、物理法則を前提にしてなりたっていると先にのべましたが、実際には、物理法則とともにカオス(渾沌)も前提にしなければならないことがわかりました。物理法則だけで現象は説明できません。物理法則は必要ですが十分ではありません。
カオスは、誰もがしっておかなければならない重要な知見です。これは、“地震予知” ができないことにも通じるおおきな前提です。カオスをなくすことはできません。なくせないどころかカオスは宇宙の根本です。つねに意識しておかなければなりません。
カオスがあるため天気予報ははずれることがあります。天気予報には限界があります。
今年も、豪雨や台風の季節がやってきます。気象は、予報どおりになるとはかぎりません。つねに、最新の情報を確認し、現状をしり、災害にそなえなければなりません。
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▼ 参考文献
『天気予報の科学』(Kindle版)ニュートンプレス、2015年
地上では、気象台や自動観測装置がその地点の気象を直接観測するだけでなく、「気象レーダー」や「ウィンドプロファイラ」が、電波を上級に放ち、上空の雨雲や風をとらえている。(中略)
海上でも、船やブイが国際協力のもと気象観測を行なっているが、陸とくらべて数は不足している。一方、上空では航空機や気象衛星が気象観測を行なっている。
観測機器がとぼしかった時代は、上空の大気の様子は、雲の変化や地上の気圧変化などから間接的に推測するしかありませんでしたが、現代では、さまざまな観測機器が、気温・気圧・水蒸気量・風向風速など、大気の状態を観測しています。なかでも気象衛星は、とりわけ重要な役割をはたしています。
観測によってえられたデータは、「全球通信網」をつかって国際的に短時間で交換され、蓄積されています。
地球全体の大気の状態を予想するモデルは「全球モデル」とよばれる。
現代の天気予報は「数値予報」を基本にしており、これまでのデータや経験にもとづき、熱力学の法則・運動の法則・質量保存の法則などの物理法則をふまえて、まず、予報のためのモデルをつくります。
- 観測データや経験
- 物理法則
- モデル
地球全体の予測のためには「全球モデル」がつかわれますが、局所的な予測のためには「局所モデル」が、両者の中間として「メソモデル」がつかわれ、用途に応じてモデルはつかいわけます。
このようなモデルをつかって、どのように気象が変化するかを計算し、予報をだします。
- 物理法則
- モデル
- 予報(予測)
具体的には、適切なモデルを選択し、まず、過去の観測データから現在の大気の状況を計算します。つぎにそれを、最新の観測データ(事実)とてらしあわせ、最新データを反映させて補正します。これが予報計算の「初期値」となります。そして地形など、地域ごとの特性をみて、それにあわせて初期値を補正します。最後に、雨・曇り・降水確率・最高気温・最低気温など、一般の人にわかりやすい表現にして予報をだします。
数値予報では、現在の値(初期値)にわずかなずれがあると、計算をくりかえすうちに予想は大きくずれていく。この現象を「カオス」という。カオスは、1960年代初頭、気象学者のエドワード・ローレンツ(1917〜2008)が、気象モデルをコンピューターにとかせていた際に発見した。
今日の天気予報は、明後日までの予報でしたらかなり正確にできるようになっていますが、それより先の長期予報はいまだにむずかしい状況です。これは、大気のふるまいにカオス性があらわれるからであり、カオスは大気がもつ性質であり、観測や予報の技術を改良しても完全に解決することはできないことがわかりました。
- モデル
- 観測データ
- カオス
長期予報はむずかしいといっても、さまざまな産業がそれをもとめています。たとえば今年は厳冬になることが事前にわかったら、冬物商品をおおく仕入れておくことができるからです。
そこで気象庁は、初期値をわずかにかえて複数回の計算をおこない、それらの平均をとる「アンサンブル予報」という手法をつかい、1週間先までの予報と1ヵ月以上先までの予報をしています。
また海洋の影響がおおきくなる長期間の予報に関しては、エルニーニョ現象など、大気に海がおよぼす影響も予測することで予報の精度をあげようとしています。
あるいは予報官や予報士が、過去の大気の傾向などをみて予報を判断すること(人間による判断)もおこなっています。
*
気象学と天気予報は観測を必要とします。大気現象を観測してデータをえます。データとは、事実を、数値や言葉やその他の記号で記述したものです。
また大気現象は物理現象ですから、熱力学の法則・運動の法則など、物理法則を前提として論理をすすめます。気象学が地球物理学の一分野であることのゆえんです。
そして全球モデル・メソモデル・局所モデルなど、モデルをつくります。モデルとは、仮説を、数式や図式であらわしたものです。数式であらわした仮説を「数理モデル」ということもあります。
このように、天気予報のための第1段階では、〈観測データ(事実)→ 物理法則(前提)→ モデル(仮説)〉という論理(方法)をつかい、これは、仮説法(仮説発想法あるいは発想法)といえます。
- 事実:観測データ
- 前提:物理法則
- 仮説:モデル
つぎに天気予報のために、物理法則を前提として、適切なモデルをつかって、まずは、過去のデータで大気現象を計算し、予測します。そして最新の観測データ(事実)とてらしあわせて当初の予測を修正し、天気予報をだします。予報をだしたら、現実(事実)とそれがどこまで一致するかを確認します。このような検証により、モデル(仮説)と予報をさらに修正できます。
これは、〈物理法則(前提)→ モデル(仮説)→ 予報と観測データ(予測と事実)〉という、一般から個別へすすむ論理であり、演繹法といえます。
- 前提:物理法則
- 仮説:モデル
- 予測と事実:予報と観測データ
そしてモデルのもとで、観測をおこなって膨大なデータが集積してくると、大気現象には、カオス(渾沌)性があることがあきらかになりました。カオスは今では、あらゆる気象学者がみとめる一般的な認識となり、論理の前提となります。
これは、〈モデル(仮説)→ 観測データ(事実)→ カオス(前提)〉という、個々の事実のあつまりから一般的な前提をみちびきだす論理であり、帰納法といえます。帰納法によって、カオスというあらたな前提があきらかになりました。
- 仮説:モデル
- 事実:観測データ
- 前提:カオス
以上の仮説法・演繹法・帰納法をモデル化(図式化)するとつぎのようになります。
図1 A:仮説法、B:演繹法、C:帰納法
また仮説法・演繹法・帰納法はこの順序でつかうのがもっとも効果的です。これを「3段階モデル」といいます。
図2 3段階モデル
気象学は、物理法則を前提にしてなりたっていると先にのべましたが、実際には、物理法則とともにカオス(渾沌)も前提にしなければならないことがわかりました。物理法則だけで現象は説明できません。物理法則は必要ですが十分ではありません。
カオスは、誰もがしっておかなければならない重要な知見です。これは、“地震予知” ができないことにも通じるおおきな前提です。カオスをなくすことはできません。なくせないどころかカオスは宇宙の根本です。つねに意識しておかなければなりません。
カオスがあるため天気予報ははずれることがあります。天気予報には限界があります。
今年も、豪雨や台風の季節がやってきます。気象は、予報どおりになるとはかぎりません。つねに、最新の情報を確認し、現状をしり、災害にそなえなければなりません。
▼ 関連記事
雲と雨のしくみ -「天気と気象の教科書」(1)(Newton 2019.2号)-
気圧と風のしくみ -「天気と気象の教科書」(2)(Newton 2019.2号)-
気象災害から身をまもる -「天気と気象の教科書」(3)-
気象現象のゆらぎをしる -「天気と気象の教科書」(4)-
集中豪雨にそなえる -『天気予報の科学』-
台風の眼の位置を確認する -『気象のきほん』-
居住地の地形と地質を確認しておく - 土砂災害対策 -
「重ねるハザードマップ」を利用して土砂災害にそなえる
ハザードマップ・大雨警報・避難 -「西日本豪雨」(Newton 2018.10号)-
スーパー台風にそなえる -「スーパー台風の到来を予測せよ」(Newton 2017.11号)-
熱波・干ばつ・集中豪雨・台風などの気象災害にそなえる -『Newton』2016年9月号 -
複雑系とゆらぎに気がつく - バタフライ効果 -
自然現象には“ゆらぎ”があることを知る - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(4)-
▼ 参考文献
『天気予報の科学』(Kindle版)ニュートンプレス、2015年