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アジアの植生
(平行法で立体視ができます)
自然植物園があります。森林生態系や生物多様性などについて理解できます。貴重な自然をのこそうと努力している人々がいます。
東北大学植物園は、研究と教育のために東北大学が設立した、仙台市青葉山に位置する植物園です(注1)。自然植生のモミ林がのこるなど、学術上貴重な動植物が存在することから、1972年、植物園としてはわが国ではじめて天然記念物に指定されました。その本館展示では、森林や植生・生態系に関する基礎的な展示・解説がみられます。

ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます(注2)。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -



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日本の植生



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モミ(マツ科)の成長



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モミ(マツ科)の成長



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モミの木片



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トウホクノウサギ(ウサギ科)



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ホンドキツネ(イヌ科)



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カケス(カラス科)



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ノスリ(タカ科)




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カタクリ(ユリ科)の成長



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スギ(スギ科)
(年輪年代法により年代を測定、西暦1631年〜1947年の年輪(317年)がきざまれている) 



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クリ(ブナ科)



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ハナサナギダケ(冬虫夏草)



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ヌメリタンポタケ(冬虫夏草)



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クワガタムシタケ(冬虫夏草)










植生分布

地球上の植生分布には水平分布と垂直分布があり、水平分布は、赤道から南北両極へむかって、熱帯・亜熱帯・暖温帯・冷温帯・亜寒帯・寒帯の各気候帯に対応した帯状になった分布であり、垂直分布は、海抜(標高)0mから世界最高峰エベレストにいたる高度による分布です。植物の分布は基本的には、気温と降水量に対応しているため、水平分布と垂直分布はよく似た変化をしめします。一見すると植生分布は複雑なようですが、水平分布と垂直分布にわけてとらえなおすとわかりやすくなります。

日本列島は、ユーラシア大陸の東端に位置し、南北およそ3000kmにわたって弓状につらなり、南から北へ、亜熱帯から亜寒帯にいたる植生の水平変化、海岸平野から山地にいたる植生の垂直変化、日本海側と太平洋側の積雪量の相違が生態系を変化にとんだものにし、多様性にみちた自然環境をうみだしています。

日本でみられる樹林にはつぎのようなものがあります。

常緑広葉樹林:葉の表面に光沢があるので照葉樹林ともよばれます。冬季の気温があまりさがらない地帯で植物の生育の障害がないため、緑の葉を一年中つける広葉樹林がひろがります。水平分布では、雨のおおい亜熱帯や暖温帯の気候的極相樹林であり、垂直分布では、平地帯から丘陵帯に分布します。初夏には、あたらしい葉が展開してふるい葉は落葉します。

モミ・ツガ林:常緑針葉樹であるモミやツガが高木層に混交する森林が、常緑広葉樹林帯(暖温帯)と落葉広葉樹林帯(冷温帯)の間に存在します。この「中間温帯」ともよばれる境界領域には不明な点がおおく、カシ類を混交する巨木の森としてはもっとも北に位置する、東北大学植物園・青葉山のモミ林は、そのなぞをときあかすために貴重です。

落葉広葉樹林:さむく乾燥する冬のあいだは落葉・休眠している広葉樹からなる森林であり、水平分布においては冷温帯の、垂直分布においては山地帯の気候的極相林として分布します。ただし東北地方北部や北海道では平地に分布します。ブナ・ミズナラ・シナノキ・ウダイカンバ・カエデ類などがおもな構成種です。

常緑針葉樹林(亜寒帯・亜高山帯):北海道の東側の地帯には、常緑の針葉樹であるエゾマツ・トドマツ・アカエゾマツなどからなる針葉樹林が、また本州の亜高山帯には、シラベ・アオモリトドマツ・シコクシラベなどからなる森林が分布しています。

北方針・広混交林:落葉広葉樹林帯と常緑針葉樹林帯の境界域に存在する移行的森林です。

高山植生:低温、強風、紫外線、土壌の凍結・融解、生育期間のみじかさなど、環境条件がきびしいのが特徴であり、植物の生長はきわめておそく、植生は、モザイク状に分布することがおおいです。冬の北西風がもたらす積雪のために、尾根筋の西側には風衝草原やハイマツ低木林が、東側には、雪田植生といわれる湿生のお花畑がみられます。砂礫がはげしく移動する場所は高山荒原とよばれます。
 


生物多様性の森
 
おおくの樹種をはぐくみ、高木層から草本層まで立体的な階層構造をもつ森には、おおくの動物もくらしています。食う食われる関係でむすびついた生物どうしのつながりは網の目のようにいりくんでおり(食物網)、このネットワークをとおして、エネルギーや物質が循環し、非生物的要素もふくめたひとまとまりのシステムである生態系をつくっています。

トウホクノウサギ(ウサギ科)は、東北から中国山地までの、雪のつもる地域に分布するノウサギの亜種であり、東北大学植物園にも生息しますが、個体数がへっており、その原因のひとつとしてホンドギツネの増加がかんがえられます。

ホンドギツネ(イヌ科)は、本州・四国・九州の低地から亜高山帯に生息し、草原と森林がいりくんだような環境をこのみます。繁殖のために巣穴をほり、基本的には雑食ですが、ネズミやウサギをとらえるなど、肉食傾向があります。

カケス(カラス科)は、全国で繁殖し、冬には暖地へ移動するものもいます。丘陵地から山地の森に生息し、昆虫などをたべ、小鳥の巣から卵や雛をとることもあります。

ノリス(タカ科)は、北海道から四国にかけて繁殖し、留鳥といえますが、寒地や高地のものの一部にはさむくなると暖地・低地に移動するものもいます。亜高山から平地の林にすみ、付近のひらけた場所で、ネズミ・カエル・ヘビ・昆虫・鳥をとります。林内の大木の枝に枯れ木をつみかさねて営巣します。
 


クリ
 
クリ(ブナ科)は、山野・雑木林に普通にみられる落葉高木です。縄文時代は、「クリの文化」だったといわれるほどクリは重要な樹木でした。青森県の三内丸山などの遺跡から巨大なクリの木材がでてきます。果皮も大量に出土するので、当時の主要な食糧だったこともわかります。東北大学植物園では、望洋台周辺など、あかるい林内や林縁にふつうにみられます。
 


冬虫夏草
 
冬虫夏草(とうちゅうかそう)は、冬は虫で夏に草になるという不思議な生き物とかんがえられていましたが、実際には、「冬虫夏草菌」が昆虫に寄生したキノコです。特定の昆虫に特定の菌類だけが寄生する「寄主特異性」でしられます。古来から、滋養強壮・鎮静・鎮痰にきく漢薬として珍重されてきました。元来は、中国南西部〜チベット高原・ヒマラヤ高山帯に生息するコウモリガの幼虫に寄生するものを限定的にさしましたが、日本では、同属全般をさします。



このように、東北大学植物園の本館展示は、森林や生態系に関する基礎的な解説をしています。ここは自然植物園であり研究植物園であるため、たくさんの花々をそろえて来園者をよろこばせるといったたぐいの植物園ではありませんが、本館展示をみてから園内をあるけば森林に関する理解がふかまり、自然を堪能できます。植物園のタイプとしては、国立科学博物館附属自然教育園ににているといえるでしょう。



▼ 注1
東北大学植物園



▼ 注2
2019年9月に撮影。


▼ 参考文献