新型コロナウイルスの起源がコウモリにあることがわかりました。仮説をたてて検証しました。地球上における すみわけが重要です。
『日経サイエンス』2020年5月号が、「コロナウイルスはどこから来たのか」と題して新型コロナウイルスの起源について考察しています(注1)。
「コロナウイルス」という言葉は今まではあまりしられていなかったかもしれませんが、かるいコロナウイルスならほとんどのヒトが経験ずみであり、通常の風邪の約1/5は、コロナウイルス4種のうちのどれかが原因であることがわかっています。20年前までは、ヒトに感染拡大するコロナウイルスによる病気はごくかるかったため、問題にされることはほとんどありませんでした。
しかし2003年、中国で流行した SARS(重症急性呼吸器症候群)の病原体がコロナウイルスだと判明してから状況は一変しました。その後2012年には、別のコロナウイルスが MERS(中東呼吸器症候群)をひきおこし、それによる死者は、サウジアラビアを中心にこれまで858人、致死率は約34%にのぼります。
SARS と MERS の起源はいずれもコウモリであり、コウモリは、コロナウイルスを宿すことができる動物(コロナウイルスの「宿主」)であることがすでにしられています。新型コロナウイルスは、SARS のコロナウイルスに似ていることから、今回の新型コロナウイルスの起源もコウモリにあるのではないだろうかという仮説がたてられました。
この論理は、〈事実→前提→仮説〉とすすむ方法であり、仮説法(仮説発想法あるいは発想法)です。
そして、コウモリは、コロナウイルスを宿すことができる動物であるということを前提にし、この仮説がただしいとすると、新型コロナウイルスを宿しているコウモリがさがせばみつかるはずだという予見ができます。
この〈前提→仮説→予見〉とすすむ論理は推論であり、演繹法です。
そして研究者たちは、さまざまなコウモリの調査をおこなって、それらがもつコロナウイルスのゲノム解析をおこない、つぎの結果をえました。
このデータ(事実)がえられたことにより、先にたてた仮説の蓋然性がたかまりました。
コロナウイルスのゲノムは DNA ではなく、1本の RNA であり、ウイルス粒子はタンパク質の膜につつまれています。
ウイルスは、動物の細胞に侵入し、その構成要素の一部を勝手につかって自分の複製をたくさんつくり、別の細胞にそれらがまた感染していきます。
コロナウイルスの粒子は4種の構造タンパク質、ヌクレオカプシド・エンベロープ・膜・スパイクでできています。ヌクレオカプシドはウイルスのゲノムをつつむ中核部分で、これが、エンベロープと膜タンパク質でできた殻のなかにおさまっています。スパイクは球の外につきだした突起であり、先端がふとくなっており、その様子が太陽コロナや王冠に似ていることからコロナウイルスの名がつきました。これらのスパイクが宿主細胞の受容体と結合するのであり、これが、コロナウイルスが感染できる細胞のタイプや生物種をきめています。
新型コロナウイルスの起源もコウモリであることはほぼ確実になりましたが、今回の感染拡大がはじまった中国・武漢の市場ではコウモリは販売されていなかったため、コウモリから、何らかのほかの動物にまず感染し、その後ヒトに感染したのではないか、つまり「中間宿主」が存在したのではないだろうかというあらたな仮説がたてられました。その中間宿主はいまだに不明です。中間宿主により、コロナウイルスの変異がすすみ、感染爆発につながった可能性もあります。中間宿主の特定がおおきな課題になっています。
▼ 関連記事
新型コロナウイルスの感染拡大と〈仮説法→演繹法→帰納法〉
みえにくい感染症 - 新型コロナウイルス(Newton 2020.4-5号)-
論理の3段階モデル - 新型コロナウイルスの感染拡大 -
新型コロナウイルスの感染拡大がつづく -「基本再生産数」(Newton 2020.6号)-
コウモリ起源説 -「コロナウイルスはどこから来たのか」(日経サイエンス 2020.05号)-
往来拡大の歴史 - 池上彰・増田ユリヤ著『感染症対人類の世界史』-
長期的視野にたつ -「感染拡大に立ち向かう」(日経サイエンス 2020.06号)-
ウイルスにうまく対処する -「COVID-19 長期戦略の模索」(日経サイエンス 2020.07号)-
▼ 注1:参考文献
S.メイキン「コロナウイルスはどこから来たのか」日経サイエンス2020年5月号、日経サイエンス社、2020年
「コロナウイルス」という言葉は今まではあまりしられていなかったかもしれませんが、かるいコロナウイルスならほとんどのヒトが経験ずみであり、通常の風邪の約1/5は、コロナウイルス4種のうちのどれかが原因であることがわかっています。20年前までは、ヒトに感染拡大するコロナウイルスによる病気はごくかるかったため、問題にされることはほとんどありませんでした。
しかし2003年、中国で流行した SARS(重症急性呼吸器症候群)の病原体がコロナウイルスだと判明してから状況は一変しました。その後2012年には、別のコロナウイルスが MERS(中東呼吸器症候群)をひきおこし、それによる死者は、サウジアラビアを中心にこれまで858人、致死率は約34%にのぼります。
SARS と MERS の起源はいずれもコウモリであり、コウモリは、コロナウイルスを宿すことができる動物(コロナウイルスの「宿主」)であることがすでにしられています。新型コロナウイルスは、SARS のコロナウイルスに似ていることから、今回の新型コロナウイルスの起源もコウモリにあるのではないだろうかという仮説がたてられました。
- 事実:SARS と MARS のコロナウイルスの起源はコウモリである。新型コロナウイルスは SARS のウイルスに似ている。
- 前提:コウモリは、コロナウイルスを宿すことができる動物である。
- 仮説:新型コロナウイルスもコウモリに起源があるのではないだろうか。
この論理は、〈事実→前提→仮説〉とすすむ方法であり、仮説法(仮説発想法あるいは発想法)です。
そして、コウモリは、コロナウイルスを宿すことができる動物であるということを前提にし、この仮説がただしいとすると、新型コロナウイルスを宿しているコウモリがさがせばみつかるはずだという予見ができます。
- 前提:コウモリは、コロナウイルスを宿すことができる動物である。
- 仮説:新型コロナウイルスもコウモリに起源があるのではないだろうか。
- 予見:新型コロナウイルスを宿しているコウモリがみつかる。
この〈前提→仮説→予見〉とすすむ論理は推論であり、演繹法です。
そして研究者たちは、さまざまなコウモリの調査をおこなって、それらがもつコロナウイルスのゲノム解析をおこない、つぎの結果をえました。
新型コロナウイルスのゲノム配列は、中国にすむキクガシラコウモリのコロナウイルスと96%一致した。
このデータ(事実)がえられたことにより、先にたてた仮説の蓋然性がたかまりました。
コロナウイルスのゲノムは DNA ではなく、1本の RNA であり、ウイルス粒子はタンパク質の膜につつまれています。
ウイルスは、動物の細胞に侵入し、その構成要素の一部を勝手につかって自分の複製をたくさんつくり、別の細胞にそれらがまた感染していきます。
コロナウイルスの粒子は4種の構造タンパク質、ヌクレオカプシド・エンベロープ・膜・スパイクでできています。ヌクレオカプシドはウイルスのゲノムをつつむ中核部分で、これが、エンベロープと膜タンパク質でできた殻のなかにおさまっています。スパイクは球の外につきだした突起であり、先端がふとくなっており、その様子が太陽コロナや王冠に似ていることからコロナウイルスの名がつきました。これらのスパイクが宿主細胞の受容体と結合するのであり、これが、コロナウイルスが感染できる細胞のタイプや生物種をきめています。
新型コロナウイルスの起源もコウモリであることはほぼ確実になりましたが、今回の感染拡大がはじまった中国・武漢の市場ではコウモリは販売されていなかったため、コウモリから、何らかのほかの動物にまず感染し、その後ヒトに感染したのではないか、つまり「中間宿主」が存在したのではないだろうかというあらたな仮説がたてられました。その中間宿主はいまだに不明です。中間宿主により、コロナウイルスの変異がすすみ、感染爆発につながった可能性もあります。中間宿主の特定がおおきな課題になっています。
*
このように、ウイルスの感染源と感染ルートをしらべることは、今後の感染拡大をふせぐために、また将来的なウイルス対策のために重要です。
そのためには仮説法により仮説をたて、演繹法をつかって検証します。演繹法は予見し、それを確認する過程であり、この作業を、分析あるいは実験ということもあります。分析や実験によってデータが大量にあつまれば、帰納法によって、ウイルス挙動の一般的傾向やウイルスの本質が解明できます。
そのためには仮説法により仮説をたて、演繹法をつかって検証します。演繹法は予見し、それを確認する過程であり、この作業を、分析あるいは実験ということもあります。分析や実験によってデータが大量にあつまれば、帰納法によって、ウイルス挙動の一般的傾向やウイルスの本質が解明できます。
これまでに、新型コロナウイルスもコウモリを宿主とすることがあきらかになりました。コウモリは、コロナウイルスを宿しているのであり、コウモリとコロナウイルスはそもそも共生しています。ここで、コウモリは、ヒトよりもつよい動物だとかんがえるのは誤解です。共生しているのであって強弱の問題ではありません。
しかしヒトにとっては有害です。コウモリそして中間宿主と接触しないことが根本的には必要なことでした。中間宿主が何であるかはまだ調査中ですが、今後は、野生動物を退治したり、おいつめたり、販売したり、あるいはジャングルなどの自然環境を破壊したりしないようにしなければなりません。
そうでないと今後とも、未知のウイルスが断続的に人間界にでてきて、人間をくるしめることになります。地球上でのすみわけの意義にはやく気がつくべきです。
▼ 関連記事
新型コロナウイルスの感染拡大と〈仮説法→演繹法→帰納法〉
みえにくい感染症 - 新型コロナウイルス(Newton 2020.4-5号)-
論理の3段階モデル - 新型コロナウイルスの感染拡大 -
新型コロナウイルスの感染拡大がつづく -「基本再生産数」(Newton 2020.6号)-
コウモリ起源説 -「コロナウイルスはどこから来たのか」(日経サイエンス 2020.05号)-
往来拡大の歴史 - 池上彰・増田ユリヤ著『感染症対人類の世界史』-
長期的視野にたつ -「感染拡大に立ち向かう」(日経サイエンス 2020.06号)-
ウイルスにうまく対処する -「COVID-19 長期戦略の模索」(日経サイエンス 2020.07号)-
▼ 注1:参考文献
S.メイキン「コロナウイルスはどこから来たのか」日経サイエンス2020年5月号、日経サイエンス社、2020年