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パシュパティナートの参道 
(交差法で立体視ができます)
インド亜大陸の4大シヴァ寺院のひとつであり、ネパール最大のヒンドゥー教の聖地です。ヒンドゥー教徒たちは荼毘にふされ、輪廻転生します。ヒンドゥー教の神々は日本にも渡来しています。
ステレオ写真はいずれも交差法で立体視ができます(注)。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -



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パシュパティナート(入口)



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バグマティ川



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ガート



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エッカイダス・ルドゥラ(11の白い塔、奥)



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リンガ(エッカイダス・ルドゥラの内部)



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パシュパティナート寺院



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パシュパティナート寺院



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ホスピス



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修行の洞窟



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バグマティ川










神具や供物・花・みやげ物などをうる店がずらりとならんでいます。パシュパティナートの参道はとてもながく、参拝にきた たくさんの人々でにぎわいます。ずっとあるいていき、火葬ガート手前の入口で、外国人は、入場料1000ネパールルピーをはらってなかにはいります。

ガイドがすぐに声をかけてきます。希望する場合はたのみ、希望しない場合ははっきりことわります。ガイド料は1回10USドルが相場、たのむときには、価格の確認・交渉をかならずしてください。支払いは最後でよいです。

なかに一歩はいると、そこはもう異空間。異界体験は旅の醍醐味です。

聖なる川・バグマティ川の右岸では火葬の炎と煙がたちあがります。ヒンドゥー教徒たちが死者をおくり、祈りをささげます。ネパール各地やインドからやってきた巡礼者やサドゥー(行者)もたくさんいます。なかには、偽物のサドゥーもいて写真撮影をするように催促してきます。撮影するとお金をとられますので注意してください。

白い建物はホスピスです。みずからの死期をさとり、聖なる川のほとりで死ぬことをのぞみ、信仰する神の御名をそれぞれにとなえながら、ある人は愛する家族とともに、ある人はただひとり修行をしながら、最後の日々をしずかにすごし、そして死を受容します。

橋をはさんで上流と下流に火葬場があり、上流は富裕層の人々が、下流は庶民がつかいます。葬儀と火葬がつぎつぎにとりおこなわれて、肉体にとりついていた悪魔がやきはらわれます。遺灰は、バグマティ川にながされ、やがてガンジス川にいたります。ヒンドゥー教徒は輪廻転生し、したがって墓はつくりません。

バグマティ川の両岸につくられた階段はガートとよばれ、水位にかかわらず水へのアプローチを可能にする施設であり、水にまつわる場所を神聖視するヒンドゥー教徒が沐浴や葬礼などの場としてつかいます。ただしここパシュパティナートでは沐浴をしている人はいませんでした。

バグマティ川の左岸には、エッカイダス・ルドゥラ(11の白い塔)があり、シヴァ神の象徴であるリンガがまつられています。リンガは男性器を象徴し、女性器を象徴するヨーニのうえに直立し、ヒンドゥー教の3大神の1柱であるシヴァ神の精力(エネルギー)をあらわし、豊穣多産の祈願の対象として信仰をあつめます。パシュパティナートは、インド亜大陸の4大シヴァ寺院のひとつとしてひろくしられます。

ヒンドゥー教の3大神とは、ブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァであり、ブラフマーは世界を創造し、ヴィシュヌはこれを維持し、シヴァはそれを破壊し、するとまたブラフマーがあらたな創造をします。「創造→維持→破壊」、そしてあらたな「創造→維持→破壊」がくりかえされるというのがヒンドゥー教の世界創造説であり、3神が、創造・維持・破壊のそれぞれの役割をうけもちます。「創造→維持→破壊」の循環は歴史の法則として理解することもできます(図1)。ひとつの時代が創造されると、それが維持される期間がしばらくつづき、やがてその時代がいきづまると破壊され、あたらしい時代が創造されます。「○○時代」というものがどの地域でもどの分野でも存在するのはこの法則のためです。

200414b 歴史の法則
図1 歴史の法則 


そもそも「ヒンドゥー」という語は、サンスクリット語の「川・流れ」を意味する「シンドゥ」に由来し、「シンドゥ」すなわち川とは、古代インドにおいてはインダス川をさし、古代イラン人(ペルシャ人)は、インダス川の東岸にすむ人々を「シンドゥ地方の住民たち」とよび、そのとき、「シンドゥ」がイラン風になまって「ヒンドゥ」と発音され、その語がインドに逆輸入されて「ヒンドゥー」が定着したといわれます。その後、8世紀以降、インドに侵入してきたイスラム教徒たちがインダス川流域の住民を「ヒンドゥ」とよぶようになり、「ヒンドゥ」という語が一般的になりました。またインダス・ガンジス両川にはさまれた大平原を「ヒンドゥスターン(ヒンドゥの土地(くに))」ともよびました。

古代のヒンドゥー(インド)においては、「バラモン(司祭階層)」がとりおこなう「バラモン教(ブラーフマニズム)」が信仰されていました。

しかし紀元前5世紀ごろ、祭祀におもきをおくバラモン教に批判的な仏教とジャイナ教がおこり、とくに仏教は、バラモン教をしのぐおおきな勢力となりました。

するとバラモン教は、先住民の土着信仰をとりいれながら民衆宗教へと変貌しつつ巻き返しをはかり、グプタ王朝の時代になると、社会秩序を維持する理論的根拠としてふるいバラモン教学も復興され、バラモン教と仏教の勢力はふたたび逆転しました。

こうしてバラモン教は国家宗教ではなくなり、民衆の信仰と日々の生活をささえる民族宗教としてヒンドゥー(インド)の大地に根をはり、そして大衆化されたこのバラモン教は「ヒンドゥー教」とよばれるようになりました。したがってバラモン教とヒンドゥー教は別個の宗教ではなく、ヒンドゥー教は、バラモン教を母体として、あるいはそれを継承してうまれた伝統宗教であり、こうしてヒンドゥー教は「世界最古の民族宗教」ともいわれるようになりました。

このヒンドゥー教の神々は、日本にもつたわってきています。

たとえば弁才天は、もとをただせばサラスヴァティーという女神であり、この女神は、弁舌や学問・芸術(とくに音楽)をつかさどることから、弁舌の「弁」と才能の「才」の字をあてて弁才天と漢訳されました。「天」は神の意です。そもそもサラスヴァティーは北西インドにあったといわれる川の名称であり、本来は、川や湖にすむ霊が神格化されたもので、日本でも弁才天は水辺にまつられるのはこのためです。日本では、「弁天さん」とよばれて したしまれ、七福神のひとつにもかぞえられ、すっかり日本の神さまになりきって庶民の人気を博しています。

七福神信仰は、室町時代末期からはじまった民間信仰であり、弁才天のほか、大黒天、毘沙門天、吉祥天の4神がヒンドゥー教起源です。

大黒天は、シヴァの別名「マハーカーラ」の訳語であり、「マハー」はおおきな(偉大な)、「カーラ」は黒いという意味であり、大黒天は「マハーカーラ」を直訳したものです。シヴァは日本にもきていました。

このほかにも、梵天、帝釈天、十二神将、聖天、閻魔など、仏法の守護神として数多くの神々が渡来しています。

また禅という語は、サンスクリット語の「ディヤーナー(瞑想)」を漢字に音写したものであり、禅(瞑想)は、ヒンドゥー教・仏教をとわず、心をととのえる修行としてとても重要です。

あるいは三昧という語は、サンスクリット語の「サマーディ」の音写であり、「瞑想による心の統一・安定」を意味する語として日本にもつたわり、やがて、「物事に熱中する、専念する」といった意味に拡大され、読書三昧、音楽三昧、ゴルフ三昧など、日常的にもよく耳にする語になりました。

あるいは空海が日本につたえた密教は、ヒンドゥー教の影響をおおきくうけながら発展した、仏教の「最終ランナー」です。 

このようにみてくると、パシュパティナートあるいはヒンドゥー教は、意外にも、わたしたち日本人と深層においてつながっていることがよくわかります。ここに、東洋の広大な精神文化圏、あるいは東洋文明圏をみとめることができます。



▼ パシュパティナートの位置



▼ 注
2020年2月にいずれも撮影しました。


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▼ 参考文献
地球の歩き方編集室編集『地球の歩き方 -ネパールとヒマラヤトレッキング-』(2018~2019)ダイヤモンド・ビッグ社、2018年