事実・前提・仮説に注目します。3段階モデル(仮説法→演繹法→帰納法)が有効です。一般的傾向や規則性・本質があきらかになり、予測ができます。
2020年4月7日、安倍総理大臣は、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大している事態をうけ、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法にもとづき、東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」を発出しました。
(前略)最も重要なことは、国民の皆さんの行動を変えることだ。専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができる。効果を見極める期間も含め、大型連休が終わる来月6日までの1か月間に限定して、国民の皆さんには7割から8割の削減を目指し、外出自粛をお願いする。(後略)(NHK NEWS WEB, 2020.4.7)
今回の新型コロナウイルスの特徴は、感染しても症状が(ほとんど)でない人々がいて、しらずしらずのうちにその人達が感染を拡大させてしまうところにあり、この点がおそろしいところです。
日本では、2020年2月下旬に、「スポーツジムでも感染者が見つかった」という事実から、「かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか」という仮説がたてられました。
- 事実:スポーツジムでも感染者が見つかった。
- 前提:スポーツジムには体調の悪い人は普通は行かない。
- 仮説:かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか。
これは〈事実→前提→仮説〉とすすむ論理であり、仮説法(あるいは仮説発想法、発想法)です。
そして「ウイルスは感染力がつよく、ほとんどの人に感染する」というこれまでの研究結果を前提としてふまえ、「かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか」という仮説がただしいとし、感染が確認される人数はさらにふえるだろうと予見(予測)しました。
- 前提:ウイルスは感染力がつよく、ほとんどの人に感染する。
- 仮説:かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか。
- 予見:感染が確認される人数はさらにふえるだろう。
これは〈前提→仮説→予見〉とすすむ論理であり、演繹法です。
その後、データが集積され、予見がただしかったことが確認されました。同時に、仮説の蓋然性がたかまりました。
データは数値でまず報告されます。たとえばつぎのようです。
データは数値でまず報告されます。たとえばつぎのようです。
(読売新聞オンライン, 2020.4.6)
しかし数値をみているだけだと一般的傾向や規則性がわかりにくいため、グラフをつくります。数値をグラフにすることは統計の基本であり、データをグラフにすることで情報の意味がわかりやすくなります。たとえばつぎようようにしめされます。
(NHK NEWS WEB, 2020.4.7)
(日本経済新聞社, 2020.4.4)
(毎日新聞, 2020.4.5)
このようなグラフをみると、先月下旬から、感染確認者数が急にふえていることがわかります。しかも東京都の例をみると、感染経路不明者の割合がしだいにおおきくなってきていることがわかります。感染経路不明者がふえているということは、感染しているけれどもかなり軽症の人々があちこちに普通に存在するようになってきているということであり、その人達が、しらずしらずのうちに感染をひろげており、今後、ますます感染がひろがるだろうということになります。
日本政府の専門家会議の委員で北海道大学の西浦博教授は、現状のままでは(現在の一般的傾向がつづけば)、「1日あたり数千人の感染者がでる」と試算しました。しかし「人と人との接触を8割程度へらすことができれば、10日〜2週間後には、1日数千人をピークに減少させることができる」、「2割減程度では、流行を数日おくらせることはできても爆発的な患者増はおさえられない」と予測しました(下図)。
(日本経済新聞社, 2020.4.3)
こうして本日の、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができる」という首相の発言となりました。
あとは今後、7〜8割の削減が実際にできるかどうか、2週間後にはピークアウトできるかどうかをみることになります。
ここでつかわれた論理(方法)は、「かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか」という仮説にもとづいて、データ(事実を記述したもの)を集積し、グラフをつくって一般的傾向や規則性をあきらかにしたものです。
- 仮説:かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか。
- データ(事実):感染者数、感染経路不明者数など。
- 一般的傾向:感染者数の増加傾向、グラフからよみとれる変動、規則性など。
このような〈仮説→データ(事実)→一般〉とすすむ論理は帰納法といいます。統計は帰納法の典型です。帰納法で「一般」があきらかになればあらたな予測(あらたな演繹)もできます。
なお仮説を、数式あるいは図式であらわしたものをモデルといい、とくに、数式であらわされた仮説は「数理モデル」ということがあります。
以上みてきた、仮説法・演繹法・帰納法をモデル化すると図1のようになります。帰納法における「一般」は、あらたな仮説をたてるための「前提」としてつかえるので、ここでは「前提」と記しておきます。
図1 A:仮説法、B:演繹法、C:帰納法
また以上のプロセスから、仮説法・演繹法・帰納法は、この順序でつかうのがもっとも効果的であることがわかりました。これを「3段階モデル」といいます(図2)。
図2 3段階モデル
この方法は、ひとことでいうと仮説をたてて検証するということであり、自然科学あるいは学問の基本的な方法であり、人間の論理です。論理についてはこれで必要にして十分であり、これをしっておけば、どのような課題がきてもたちむかっていくことができます。
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