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王宮と王宮広場



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ネワール・ダンスの練習
(王宮広場)



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王宮(55窓の宮殿)とヒンドゥー寺院



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町中
(みやげもの店がならぶ)



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町中
(日用品店がならぶ)



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民芸品店(左)とマンダラ・仏画店(右)



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ドゥンゲダーラ(石の水道)
(各所にあり、いまでも一部はつかわれている)



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ダッタトラヤ寺院とタチュパル広場



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ネワールの伝統舞踊
(タチュパル広場)



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孔雀の窓
(ネワール彫刻の最高傑作のひとつ)



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バイラヴナート寺院(正面)
(トウマディー広場へむかう)



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バイラヴナート寺院



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トウマディー広場



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夕方には市がたつ
(市街地周辺の農家の人達が野菜をうりにくる、
トウマディー広場)



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結婚式の行列



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結婚式の行列



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結婚式の行列



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仮面舞踏
(バクタプルの伝統芸能のひとつ) 



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王宮広場のレストラン
(スパイスミルクティー、ネワール料理、
ズーズーダウ(王様のヨーグルト)
などがたのしめる)










以上のフィールドワーク(現地調査)から、バクタプルは、市街地(都市)を中心として、その周辺に耕地があり、その外側に、自然環境(山岳地域)がひろがるという同心円的な構造をもつことがわかりました。市街地(都市)が闇夜にうかびあがる夜景をみてもこのことがよくわかります。

バクタプルは、15〜18世紀のマッラ王朝時代に、カトマンドゥ盆地(当時はここがネパールとよばれていました)でさかえた都市国家のひとつであり、往時の姿を色こくのこしているため、基本的な構造はいまでも保存されているとかんがえられます。

これをモデル化(図式化)すると図1のようになります。

200402 バクタプル
図1 都市国家のモデル


このモデルは、世界各地にかつて存在した都市国家でもなりたつとかんがえられます。たとえば古代ギリシアには、アテネやスパルタなど、都市国家がかつては存在し、遺跡の発掘調査から同様な構造があったことがわかっています。あるいは古代オリエントのウルク、古代インドの王舎城(ラージャグリハ)、古代アンデスのカラルなどにも同様な構造がありました。

このような都市国家は、領域国家(領土国家)の時代がくるまえに世界各地に多数存在していました。

しかし都市国家バクタプルは、1769年、ゴルカの王・プリトビ=ナラヤン=シャハの軍勢の攻撃をうけ、滅亡しました。プリトビ=ナラヤン=シャハは、カトマンドゥ盆地の全域を制圧、さらに支配地域を拡大して領域国家(領土国家)ネパール王国を建国、初代国王になりました。

ところが、ネパール王国の首都はカトマンドゥにおかれたこともあり、バクタプルは、建物や町並みが破壊されることもなく、住人(ネワールの人々)たちもそのまま生きのび、ネワールの伝統文化もまもられました。

したがって、世界各地の都市国家が今では遺跡になっているにもかかわらず、ここバクタプルは遺跡にはならず、都市国家の姿を色こくのこす世界で唯一の場所となり、当時の様子を現代につたえる人類の遺産であり、実際、世界遺産に登録されています。

都市国家は、領域国家とは基本的にことなる体系(システム)をもっていました。それは、領域国家にくらべてスケールがちいさかったこともあり、そこは「顔」がみえる世界であり、人間的なやりとりがあり、また自然環境とも調和していました。都市国家は、現代のわたしたちに、環境保全や都市再生のためのヒントをあたえてくれます。

それに対して領域国家は、スケールがはるかにおおきく、国のために管理されて人間は “部品” になり、人間疎外と環境破壊がすすみます。わたしたちは、国家というと領域国家をすぐにおもいうかべますが、都市国家と領域国家はおおきくことなるのであり、もっと素朴な時代がかつてはあったことに気がつかなければなりません。

さて、バクタプルの町中へは、町の西側にあるゲート(ライオンゲート)からはいるのが一般的です。外国人は、ゲート左手にある窓口でチケットを購入します(1500ネパールルピーあるいは15USドル)。つづけて何日も入場する場合や中で宿泊する場合は延長手続きが無料でできますので受付にもうしでてください。

ゲートをくぐると王宮広場(ダルバールスクエア)がひろがります。左手(北側)にたっている建物が旧王宮であり、その一部は、国立美術館として公開されています。2015年のネパール地震で被害をうけたため、公開範囲(展示室)は一部にまだとどまっていますが、修復が徐々にすすんでいます。ゴールデンゲートをくぐって中にはいるとタレジュ・チョークの入口までいくことができます。ヒンドゥー教徒以外はさらに中にははいれません。ゴールデンゲートの東側には、うつくしい木彫りの窓がならぶ「55窓の宮殿」があります。

さらに東にむかってあるいていくと、道沿いには、赤茶色のレンガづくりの建物がびっしりとたちならび、まるで中世の町そのままのようなたたずまいがつづきます。町並みのなかをせまい路地が迷路のようにひろがり、ネワールの人々の生活を垣間みることができます。ここは観光地ですが、一方で、人々が今でも実際にくらす「現役」の都市でもあります。

15分ほどあるくとタチュパル広場につきます。中央には、1427年建立のダッタトラヤ寺院があり、本尊のダッタトラヤは、ヒンドゥー教のブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァの3神が一体になったものです。その南側には、かつては僧院だったプジャリマートがあり、今は、木彫美術館として公開されています。その東側壁面には、ネワール彫刻の最高傑作のひとつといわれる「孔雀の窓」があります。せまい路地をはいったところにありますのでおみのがしのないように。また木彫美術館の北側には、ブロンズ・ブラス美術館があります。これらの美術館は、国立美術館のチケットではいることができます。撮影も許可されており、撮影料はカメラ100ネパールルピー、ビデオ200ネパールルピーです。

タチュパル広場から南西へもどってくるとトウマディー広場につきます。カトマンドゥ盆地でもっとも高い(高さ30メートル)、5層の屋根をもつニャタポラ寺院がみえます。正面の石段の両脇には下から、伝説上の戦士、ゾウ、獅子、グリフィン、女神の石像が守護神として1対ずつおかれています。ニャタポラ寺院にむかって右手にはバイラヴナート寺院があります。これらは、2015年のネパール地震でも倒壊することはなく、ネワール建築は耐震技術もすぐれていることがわかります。

それぞれの広場には、観光客用のレストランやカフェがあり、ネパールティーやネワール料理をたのしめます。バクタプルの名物「ズーズーダウ」(王様のヨーグルト)もたべてみるとよいでしょう。また各所に、地元の人がつかうローカル食堂もありますので、おもいきってはいってみてください。英語が通じます。モモ(蒸し餃子)の店がおすすめです。

ネワールの友人宅を訪問させていただいたら、1階は玄関と物置、2階は工房と居間、3階は各人の部屋や寝室、4階(最上階)は台所と祈りの場でした。台所は神聖な場所であり、ネワールの家では最上階につねにあります。調理の様子を見学させていただいたところ、実にたくさんの種類のスパイスや調味料をつかいわけます。塩は、この地域独特のヒマラヤ岩塩をつかい、いくつもの種類がそれにはあり、料理によってつかいわけます。

たとえばネパールには、モモ(蒸し餃子)という料理があり、ネパールではポピュラーな料理で誰もがたべますが、そのなかでもネワールのモモは、何がちがうかといえば、タレ(ソース)がちがいます。モモにつけるタレが幾種類もあり、これらがとてもおいしい。ほかの民族では決してだせない味です。ネパールでは、ネワール料理を第一におすすめします。

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ネワールのモモ


バクタプルにきて わたしは、高度な文化をもった人々がいるとおもいました。ネワールの人々は、早食いをするようなどこかの国の民族とはことなります。ネワールは、人間的なやりとり、自然環境とのやりとりをとおして独自の文化を発展させました。それは、「都市文明」といってもよいでしょう。ここには、都市文明が息づいています。機械的でつめたい領域国家とはちがい、いきいきとした世界がひろがります。

このようにみてくると、都市国家は単なる「遺産」では決してなく、貴重なメッセージを現代人におくっていることがわかります。

わたしは、その後また、王宮広場にいってみました。レストランで、うまいチア(スパイスミルクティー)をのみながら、都市と自然環境があいまってつくりだす空間と、その歴史をあらためて想像してみました。




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▼ 注
2020年2月にいずれも撮影しました。


▼ バクタプルの位置



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▼ 参考文献
地球の歩き方編集室編集『地球の歩き方 -ネパールとヒマラヤトレッキング-』(2018~2019)ダイヤモンド・ビッグ社、2018年
佐伯和彦著『ネパール全史』明石書店、2003年