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森林破壊
人間が農耕をはじめた8千年ぐらいまえは全陸地面積の半分は森林だったといわれていますが、現在の森林面積は約38.7億ha、全陸地面積の約30%であり、森林は急速に減少しつづけています。

森林は、「地球の肺」であるといわれ、大気中の二酸化炭素を吸収して、木のなかに炭素をため、糖やデンプンなどの炭水化物を生成し、酸素を放出します。たとえば南米アマゾン地域の熱帯雨林は地球上の酸素の1/3を生成しているといわれます。しかし国際食料農業機関(FAO)によると、世界の熱帯林は18.7億haあり、そのうちの1540haずつが毎年うしなわれています。これは、日本の本州の67.5%に相当します。熱帯林は生物の種類がもっともおおい森林であり、その減少は、そこに生息する動植物・バクテリア・細菌・遺伝子資源などの減少にもなります。

砂漠化
砂漠化する要因は、自然的要因と人為的要因に大別できます。自然的要因のうちもっともおおきいのは旱魃であり、これは飢餓につながります。人為的要因としては、人口増加による過放牧・過耕作、過剰な薪炭材の採取などがあり、過放牧のおもな原因は、家畜数の増加、耕地の拡大による放牧地の減少、放牧民の定着、戦争や内乱などであり、社会変革による伝統的放牧生活の崩壊もその一因といわれています。

生物多様性の減少
特定の種の個体数の減少や絶滅、生育環境の減少や消失によって生物多様性の減少は進行します。たとえば全生物種の50〜90%が生息するといわれる熱帯林において現在のような環境破壊による森林減少がつづけば、今後25年間に、地球上の種の4〜8%が、50年間では9〜19%が絶滅すると試算されます。

国際自然保護連合(IUCN)の2000年版「レッドリスト」によれば、比較的よくしられている野生動物のうち、哺乳類1130種(全体の約24%)、鳥類1183種(13%)が絶滅の危機にさらされています。2014年版によると、絶滅828種、野生絶滅69種、絶滅危惧IA類4574種、絶滅危惧IB類6829種、絶滅危惧II類10773種、準絶滅危惧5220種、軽度懸念33601種、情報不足12212種です。

外来種
もともとはいなかった国や地域に、人間活動によってもちこまれた生き物を外来種といます。日本には2千以上いるといわれます。ペット・観賞用植物・釣り・食用などのためにもちこまれたもの、物資などにくっついていつの間にかもちこまれたものなどがあります。外来種は、本来の生態系がこわして在来種を絶滅させたり、農林水産業へ悪影響をもたらします。毒をもった外来種による人体への悪影響もあります。

サンゴ礁の白化
1998年、サンゴが白くなる現象が世界各地の海で確認されました。サンゴには、褐虫藻という単細胞の藻類が共生していて、赤・緑・茶色などのサンゴの色はこの共生藻類の色です。褐虫藻は、海水温が30℃をこえたり、海水が酸性になる水質汚染がおこったりするとサンゴの体内からにげだし、その結果、サンゴの白化がおこり、サンゴは死滅します。サンゴ礁は多様性の宝庫といわれており、対策がいそがれますが有効な手立てはありません。

地球温暖化
地球の平均気温は20世紀からたかまりつつあり、この130年で0.85度あがり、最近の25年だけをみるとその上昇速度は2倍になっており、温度上昇が加速しています。これは、産業革命以降、人間活動が活発になり、石油や石炭などの化石燃料をつかったことにより大気中の温室効果ガス濃度がまし、温室効果がたかまったためであるとかんがえられます。

温暖化により陸上の氷がとけ、海水面が上昇します。雨のふりやすいところでは降水量がますますふえ、雨のすくないところでは旱魃がますますふえます。台風やハリケーンの勢力もつよまります。生態系が変化し、感染症も拡大します。農作物の種類の変更に各地でせまられます。温暖化にともなう急激な気候変動がさまざまな被害をもたらします。

都市化
世界的に、都市への人口集中がおこっており、とくに、開発途上国において環境問題が深刻になっています。

都会では、水・電気・ガス・通信網などが高度に整備され、家電製品などが毎日つかわれるため、エネルギーの大量消費がおこります。

また生活にとうもなう廃棄物(ゴミ)が大量に発生します。日本では、1960年代からの高度経済成長期からゴミ問題がはじまりました。そのころから日本は、大量生産・大量諸費型の社会へ転換しました。2011年度における家庭からのゴミ・一般廃棄物の排出量および最終処分量はそれぞれ年間4539万トン、482万トンであり、1人1日当たり975gを排出しています。一方、事業所から排出される産業廃棄物は総排出量は3億8121万トン、最終処分量は1244万トンです。廃棄物の収集と処理は都市のおおきな問題です。

あるいは東京都心の年平均気温は、20世紀の100年間に3度上昇しました。これはヒートアイランド現象といわれ、都市の気温は、その周辺地域にくらべて異常にたかくなる現象です。これが進行すると、都市のみでなく周辺部の気温も急上昇し、上昇気流による突然の豪雨や落雷など、局所的な気象現象に影響がでます。

都市では、自動車の数がふえます。自動車がふえると、排ガスや振動・騒音など、住民に健康被害がでます。大気汚染の原因となる物質でみると、窒素酸化物の60%、一酸化炭素の78%、炭化水素の50%が自動車交通が原因とされます。その他の粒子状物質による健康被害もあります。

先進国だけでも、交通事故で年間10万人以上が死亡、重傷者は200万人以上といわれます。人口10万人あたりの年間死者数は、南アフリカは32.5人、スウェーデンは3.4人、日本は6.7人となっています。年間死者数は、自動車交通分野での安全性をしめす指標です。

都市においては、住まいと職場は一般的にかなりはなれており、通勤(しばしば遠距離通勤)が必要です。自宅は、寝るだけの場所となり、家庭内でのコミュニケーションもなくなり、非常におおくの人々が家庭崩壊を経験します。地域の人々との交流もなく、地域社会も機能しません。

家のそばには、森や原っぱや川など、自然とふれあう場もなく、子供たちは、カブトムシはデパートで買うものだとおもいます。あるいは都会人は、イヌやネコなど、ペットを買ってきて癒しをもとめます。ペットのおおさは都会度のひとつの指標です。

このように、都市における大量生産・大量消費のしくみは、エネルギーを大量に消費し、有害物質を大量に排出するという問題をもちます。さらに人々は、都市という巨大システムのなかにくみこまれ、人間は「部品」となり、人間疎外がおこります。










以上みてきたように、環境問題にはさまざまなものがあり、枚挙にいとまがありません。 このような環境問題は、文明の発展とともにうまれました。

わたしたち人間は、物質・エネルギーを自然環境からとりいれ、生産活動をし、あらたに生じた物質を自然環境に排出、また自然環境を改変します。

たとえば自然環境から水をとりいれます。農業用水や上水としてつかいます。あるいは水力発電所を建設してエネルギーをとりだして利用します。他方で、生活排水や工場排水を下水として放出したり、工事をおこなって自然環境をおおきく改変します。

このような物質・エネルギーの流れが、人間と自然環境のあいだでおこっており、人間が、物質・エネルギーをとりいれることは、自然環境から人間へはたらく作用(力)であり、それはインプット(入力)といってよいでしょう。その反対に、自然環境へ人間からはたらく作用(力)はアウトプット(出力)といってよいでしょう。

近現代では、たとえば灌漑施設や上水道の建設、下水道の建設やさまざまな工事など、インプットとアウトプットために文明の利器をつかいます。文明は、インプットとアウトプットの道具を開発することにより発展してきました。人間は、文明を介して、自然環境とやりとりをしてきたといってもよいです(図2)。


200209a 文明
図2 文明のモデル


このモデル(仮説)において、「人間」は、個人であっても集団であっても組織であっても民族であっても国民であっても、あるいは人間全体であってよいです。

文明は、小規模で、人間と自然環境とバランスをとり、調和していているうちはよかったのですが、現代では、大規模かつ巧妙な機械が開発され、文明が肥大化しすぎ、自然環境を破壊しています。

一方で現代人は、さまざまな機械にかこまれて生活しており、大規模な機械システムにくみこまれた存在になっています。人間は、機械なしではいきてゆけず、機械にあわせて生活しており、機械が主で人間が従となりつつあります。人間疎外です。

こうして文明は、自然環境だけでなく、人間をも「侵食」します。これが今日の機械文明の正体です(図3)。


200209b 文明
図3 機械文明の正体


したがって自然環境の保全と同時に、人間性の回復もすすめなければなりません。そのためは、生活様式(ライフスタイル)の変更が必要です。

たとえばリサイクルを実践します。今日、先進国では、リサイクル事業を各自治体がすすめています。積極的に参加します。また「グリーンコンシューマー」になります。グリーンコンシューマーとは、環境のことをかんがえて、環境への負荷のすくない商品を購入する人々のことをいいます。企業は、「グリーンマーケティング」にとりくみます。グリーンマーケティングとは、地球環境に配慮した商品やサービスを提供する企業活動であり、環境負荷の低減と利益の両立を目指します。また「地産地消」のしくみを発展させます。地産地消は、地域で生産されたものをその地域で消費するしくみであり、その地域の消費者ニーズにあったものをその地域で生産します。生産者の顔が消費者にみえ、地域農業や関連産業の活性化がはかられます。

これらにくわえて、人間の情報処理能力の育成も重要です。

人間は、文明を介して、物質・エネルギーをインプットし、アウトプットしていますが、実は、物質・エネルギーとともに情報もインプットし、アウトプットしています。物質・エネルギーにくわえて情報のはたす役割にも注目しなければなりません。インプット・アウトプットというのは、物質・エネルギー・情報の流れであり、人間は情報処理をする存在でした。

情報処理は、コンピューターがやるものだとおもっている人がいますが、そうではなく、まず、人間がおこないます。コンピューターは人間を補助する道具にすぎません。

しかし非常に高性能なコンピューターである人工知能が開発されてきたこともあり、コンピューターの処理結果にしたがって行動すればよいとおもう人がでてきました。しかしコンピューターの結果にただしたがっていかされるのでしたら、機械文明に支配されていきていくのとおなじであり、人間疎外がさらにすすみます。

必要なのは人間主体の情報処理(知的情報処理)であり、人間が、コンピューターをつかうのであって、コンピューターが人間をつかうのではありません。

以上のような生活様式の変更は、究極的には文明の転換につながります。機械文明から、リサイクルを基本とした環境調和型の文明に転換しなければならない段階にわたしたちはきています。




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▼ 注:参考文献
西岡秀三・村野健太郎・宮﨑忠國著『[改訂新版]地球環境がわかる』技術評論社、 2015年2月10日