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PART 3 宇宙の死と転生


宇宙が膨張していることは1927〜1929年、ジョルジュ・ルメートル(1894〜1966)とエドウィン・ハッブル(1889〜1953)によって明らかにされました。遠くの銀河ほど大きな速さで遠ざかっていることがわかったのです(ハッブル・ルメートルの法則)。これは私たちの住む天の川銀河と、遠方の銀河の間の空間が広がりつづけていることを意味しています。

その後、時間と空間と重力の理論である「一般相対性理論」にもとづいて、宇宙の膨張速度は徐々に遅くなっているはずだと考えられました。(中略)

ところが20世紀の終わりごろ、宇宙の遠方の超新星爆発の観測によって、宇宙の膨張速度が加速していることが明らかになりました。この発見は、天文学者や物理学者に大きな衝撃をあたえました。重力とは逆に、空間を押し広げる作用(斥力の作用)をもつ “何か” が、宇宙空間を満たしていると考えざるをえなかったからです。(中略)この正体不明の “何か” は、ダークエネルギーと名付けられました。


「ダークエネルギー」は、空間が膨張しても うすまらない(密度がかわらない)と仮定した場合は、空間がふえた分だけダークエネルギーがどこからともなくわきでてくることになります。ダークエネルギーの密度は一定なのか増減するのかわかっていません。

ダークエネルギーの密度が一定な場合
1034年後以降、陽子が崩壊し、原子は消滅します。また10100年後ごろになるとブラックホールも蒸発しつくし、天体とよべるものが宇宙からなくなります。この宇宙では、何も変化がおきません。時間がたっても何もかわらず、時間は意味をなさなくなり、事実上の時間の終わりといえます。この宇宙は、「ビッグフリーズ」あるいは「ビッグウィンパー」とよばれます。

ダークエネルギーの密度が減少する場合
減少の割合が極端におおきく、ダークエネルギーが「負のエネルギー」をもつようになると、宇宙の膨張はいずれとまり、そのご収縮に転じます。銀河は合体し、ブラックホールは、銀河などをのみこみ巨大化し、宇宙は、巨大なブラックホールだらけになります。超高温の宇宙のなかでブラックホール同士が合体していき、最終的には、宇宙空間全体が1点につぶれて、宇宙は終焉、無に帰します。このような宇宙の終わりは「ビッグクランチ」とよばれます。

ただしビッグクランチのあと宇宙は膨張に転じ、ビッグバン・膨張・収縮・ビッグクランチというサイクルをくりかえすという仮説もあります。「サイクリック宇宙論」とこれをいいます。

ダークエネルギーの密度が増加する場合
宇宙膨張の効果は、銀河団を構成している銀河同士の重力の効果をうわまわり、銀河団をちりじりにしてしまいます。あらゆる構造が空間の膨張によってひきさかれ、空間の膨張速度は無限大に達し、宇宙は終焉をむかえます。このような宇宙の終わりは「ビッグリップ」とよばれます。






わたしたちがくらす地球は、太陽の増光と膨張とともに「死の星」にいずれなります。太陽は、赤色巨星になり、白色矮星になり、終焉をむかえます。地球は太陽と運命をともにします。

太陽などの恒星の最期は、惑星状星雲を形成する場合と超新星爆発をおこす場合とがありますが、いずれにしても、恒星をつくっていたガスのほとんどが宇宙空間に放出され、恒星は終焉をむかえます。ただし中性子星が形成される場合よりも重い恒星が超新星爆発をおこした場合にはブラックホールが形成されます。しかしブラックホールもいずれは消滅します。

このように天体にはかならず終焉がおとずれ、初めがあれば終わりがあるのであり、これは、宇宙の原理といってよいでしょう。地球の生物も、いずれはすべてが絶滅するのであり、したがって何のために生物は生きているのかという議論は意味をなしません。

わたしたち人間は、このような生と死をおもいうかべることによって時間を自覚します。誰もが、自分が生まれたことといずれ死ぬことをしっており、そして自分にのこされた時間を定量的に想定し、何をやるかをかんがえます。死んで変化がなくなれば時間は意味をなさなくなり、時間は必要なくなります。

一方、宇宙空間については、宇宙は膨張しており、その速度は加速していることが観測によりあきらかになりました。加速度をもって宇宙が膨張するためには、重力とは逆に、空間をおしひろげる作用が必要であり、「ダークエネルギー」の仮説が提唱されました。

天体ができるときには重力がいりますが、宇宙空間をひろげるためにはダークエネルギーがいります。天体は集中のイメージ、宇宙空間は分散のイメージであり、重力とダークエネルギーを対にしてとらえるとわかりやすいでしょう。

何事も、認識をしようとするときには、天体のような特定の対象だけでなく、それがはいっている空間にも意識をはらうことが大事です。たとえば茶室にはいったら、茶碗をみるとともに、壁・畳・天井などによってかこまれた空間にも意識をくばります。茶碗に意識を集中させる一方で、茶室の空間にも心をくばります。集中のイメージとともに、分散のイメージもいります。茶碗は点的情報、茶室は空間的情報です。空間に心をくばることは「分散配心」といってもよいでしょう。

  • 重力とダークエネルギー
  • 対象と空間
  • 集中と分散

学校教育などでは、集中力が重要であることはさかんに強調されますが、分散力の重要性についてはほとんど誰も気がついていません。意識を集中させる方法と意識を分散させる方法の双方があいまってこそ認識がすすむことに気がつかなければなりません。

今回の『Newton』の記事をとおして、天体と宇宙空間、そして宇宙の終わりをイメージすればそのようなことがわかります。同時に、時間についてもあらためてとらえなおすことができます。



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▼ 注:参考文献
「宇宙の終わり」Newton、2020年2号、ニュートンプレス、2020年