北極圏の氷がとけはじめています。北極経済圏が形成されつつあります。覇権あらそいがはじまります。
「北の果ての覇権争い」と題して、北極圏の温暖化にともなう経済活動について『ナショナルジオグラフィック』2019年9月号が特集しています。

地球温暖化の進行により21世紀なかばまでに、北極から夏には氷が毎年きえると予想されています。海底にねむる資源や新航路をめぐるあらたな争いがはじまりました。




2019年5月初め、マイク・ポンペオ米国国務長官がフィンランド北部に飛び、北極圏の8カ国と先住民団体の代表で構成される「北極評議会」の会合で演説した。(中略)
 
「米国は北極圏に領土をもつ国として、北極圏の未来のために今こそ立ち上がる」。ポンペオは公式会合の前夜に開かれたイベントでそう宣言した。「なぜなら、かつては不毛な奥地とみられていた北極が・・・それとはかけ離れた商機と豊かさの最前線となったからだ」(中略)
 
かつては氷に閉ざされた不毛の地とみられていた北極が、今では大きな可能性を秘めたフロンティアの名をほしいままにしている。北極は経済活動の場として注目されるようになった。


北緯66度33分より北が北極圏です。ここでいま、かつてない異変がおきています。おそくとも今世紀なかばまでに、北極の夏の気温が一線をこえ、冬にうまれる海氷の大半が融解すると予想されます。カナダ北部の島々とグリーンランド沿岸には氷がわずかにのこりますが、それらをのぞけば、北極海全域が航行可能になります。また周囲の陸地のおおくは凍土がとけて緑におおわれ、あらたな漁場として、そして膨大な天然ガスや石油・鉱物の採掘地として利用可能になります。

地球の平均表面温度は、1880年代から1℃上昇しました。北極では、その2倍のペースで温暖化がすすみ、過去5年間は観測史上最高を記録しました。

永久凍土の融解もすすんでおり、凍土が分布するツンドラは、ひときわはやく温暖化がすすむ生態系です。低木は丈がたかくなり、北限があがります。北極圏の緑化がすすみます。

2017年、砕氷船なしで、北極海航路の初の航行が実現しました。毎年、夏季の数カ月は完全に氷がなくなるので普通に航行が可能になります。また北西航路は、複数の探検家が19世紀に開拓をこころみ、いずれも失敗しましたが、今世紀なかばまでに、年に、最低5週間は氷が完全になくなるので航行が可能になります。

ロシアのヤマル半島は天然ガスの埋蔵量が世界最大であるとみられます。すでに、ヨーロッパとアジアに天然ガスを輸出しています。

公海での漁業については、2018年の国際的な合意により、科学者による資源評価が完了するまでは禁止することになりました。






北極圏の変動は、地球温暖化の指標(目印)として非常にわかりやすいです。物事の変化をしるためには適切な指標を選択することが肝要です。

北極圏はかつては、開発など不可能であるとかんがえられていました。しかし地球温暖化により氷がとけてはじめて、膨大な資源を採掘できるようになり、戦略的な重要性をおびてきました。北極をとりかこむ8カ国は権益を主張しはじめました。

氷がなくなって北極海を自由に航行できるようになると、「北米 - グリーンランド(デンマーク)- ヨーロッパ - ロシア」はいちじるしく距離をちぢめます。というよりも、もはや、「北極経済圏」というひとまとまりを形成します。地球儀やグーグルアースをみればあきらかです。


200109 北極圏
北極圏(グーグルアース) 


地球上には、フロンティアはもはやないと誰もがおもっていましたが、おどろいたことに、地球温暖化という環境変化によりあらたなフロンティアが出現しました。

すると人間は、欲望をおさえることはできません。政治家や経済人の野望が爆発します。しかしあらたな環境破壊がはじまります。国際紛争も発生します。

温暖化をくいとめようとする人々がいる一方で、温暖化をよろこんでいる人々もたくさんいます。むずかしい歴史的局面を地球はむかえました。



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▼ 参考文献
『ナショナル ジオグラフィック日本版』2019年9月号、日経ナショナルジオグラフィック社、2019年