現代は大量絶滅の時代です。人間は自然に手をくわえます。基本的に人間は利己的な存在です。
生物の絶滅について、『ナショナルジオグラフィック』2019年10月号が特集しています(注1)。



最大の脅威:人間
脅威:
 感染症
 外来種
 生息地の分断
 生息地の消失
 密猟
 森林伐採


最大の脅威:人間
以下にのべる、おおくの生物をおびやかす脅威は人間のいとなみに起因しています。

感染症
1980年代以降、真菌のカエルツボカビがひきおこす感染症「カエルツボカビ症」が直接的な接触により、あるいは汚染された水を介して世界中にひろがり、500種以上のカエルが感染し、うち90種が絶滅した可能性があります。

外来種
太平洋のフランス領ニューカレドニアに生息する、ほとんどとべない鳥カグーは、18世紀末に入植者がもちこんだブタやネコ・イヌにねらわれ、地面に巣をつくるためネズミに卵をたべられてしまうこともあります。

生息地の分断
モロッコダマガゼルはダマガゼルの亜種で、サハラ砂漠西部にかつてはひろく生息していましたが、家畜用の牧草地によって生息地を分断され、狩猟にもさらされています。

生息地の消失
チョウは、土地開発で植物がへるにつれ激減しています。蝶の幼虫は、卵がうみつけられた植物やその周辺のものだけしかたべられません。

密猟
20世紀初頭には、10万頭のゾウがアジア各地におそらく生息していましたが、現在までに半減しました。象牙や肉・皮を目あてに、あるいは農作物をあらす報復としてころされています。

森林伐採
マダガスカルの樹上にすむキツネザルは森林がないといきていけませんが、開発や木炭生産・焼畑農業などによって島の森林の8割がうしなわれました。
 
キタシロサイサイ
2009年、チェコの動物圏で、キタシロサイの雄「スーダン」が巨大なコンテナにあるいてはいる訓練をしていました。6000キロちかく南にあるケニアへ移動するためです。当時、地球上にいきのこっていたキタシロサイはスーダンをふくめて8頭だけでした。1世紀前には数十万頭いましたが狩猟・密猟により激減しました。サイの角は、人間の爪とおなじケラチンでできていて薬効はないにもかかわらず、伝統薬として昔からつかわれてきました。迷信が、大虐殺をひきおこしました。

最期の時間はしずかにすぎていきました。スーダンの面倒をみてきた人たちのすすり泣き。これで、いきのこったキタシロサイは雌2頭だけとなりました。ひとつの生物種の絶滅を目のあたりにします。

ウミガメ
2018年に、メキシコ南部のオアハカで警察が押収した小型トラックには、ポリ袋につめられた2万2000個のウミガメの卵がつまれていました。その2年前には、フィリピン人4人と1万9000個の卵をのせた木造船がマレーシア当局に拿捕されました。4人は、地元の平均年収の3倍ちかい80万円あまりをかせごうとしていました。

ウミガメが産卵する海岸は、高層ビルやホテルがたちならび、分譲地としてうりだされており、車にはねられるカメがいます。沿岸部には、有毒物質やプラスチックゴミが漂着しており、そられをカメがたべてしまいます。

過去150年間に、人間にころされたタイマイは900万頭にのぼります。大半は、べっ甲めあての捕獲です。大量のべっ甲材料が日本と中国で販売されています。繁殖力のある雌のタイマイは、世界中に6〜8万頭しかのこっていないと専門家はみています。モザンビークとマダガスカルだけでも、年に数万頭、ひょっとすると数十万頭ものアオウミガメが違法にころされています。

キリン
アフリカではこの30年間でキリンが4割ちかく減少し、現在の生息数は約11万頭です。1700年代には100万頭以上いました。人口増加や家畜の過放牧・気候変動によって、牧畜民や農民は、手つかずの原野も利用せざるをえなくなり、キリンの生息地をおびやかしていあす。ウガンダを中心に生息するヌビアキリンはこの30年で97%も減少し、大型哺乳動物のなかでも絶滅の危険性がとくにたかいです。






現代は、地球史上まれにみる大量絶滅の時代です。大量絶滅は過去にも何回かありましたが、それらはいずれも自然現象であったのに対し、今回は、人間に起因する大量絶滅であり、人為的な現象です。大量絶滅によりどのように生態系が崩壊していくのかを観察・観測できる状況であり、人間は、地球史(進化史)における壮大な実験をはじめたといってもよいでしょう。

今日、地球上には、本来の(なまの)自然環境はほとんどなくなりつつあります。どこへいっても人為的な影響がかならずあります。“野生動物” たちは保護区で保護されていきていくようになりつつあり、そのような状況下では、本当の野生動物とはいえなくなります。

したがって研究者たちも、本来の自然環境の研究はできなくなりつつあります。残念なことです。これからは、人間の手のはいった自然環境や進化の研究をすることになります。

進化史的にみて、人間は、環境を改善しながら環境に適応してきました。人間は、もともと環境をかえる存在でした。しかし現代人(機械文明人)は、改善ではなく破壊あるいは改悪をおこなっています。現代人は、自然環境から独立し、自然環境に依存せず、自然環境を必要としない生活様式を追求しはじめました。そして今日の「人間ひとり勝ち」です。地球を支配して当然だと人間はおもっています。基本的に人間は利己的な存在であることがよくわかります。



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▼ 注1
「まるごと一冊 絶滅:生命の輝きが消えるとき」ナショナルジオグラフィック日本版(2019年10月号)、日経ナショナルジオグラフィック社、2019年