発達障害には、自閉症スペクトラム障害、注意欠如多動性障害、学習障害があります。発達障害は、情報処理能力のかたよりとしてとらえることもできます。発達障害について正確に理解するるともに、発達障害の人が活躍できる場をみつけることが大事です。
『Newton』2020年1月号の Topic で発達障害について解説しています(注)。最近、発達障害という言葉をよく耳にするようになりました。発達障害とはそもそも何なのでしょうか?


2016年に厚生労働省によって行われた「生活のしづらさなどに関する調査」によると、発達障害と診断された人の数は約48万1000人で、2016年の日本の総人口約1億2693万3000人のうち0.37%ほどだ。

その一方で、2012年の文部科学省による調査では、全国の小・中学校の教員による回答で、通常学級に属する小・中学生のうち「学習面または行動面でいちじるしい困難を示す」とされた割合は、6.5%にのぼっている。

自閉症スペクトラム障害(ASD)の患者の特徴は、第一に「対人関係やコミュニケーションの障害」である。(中略)第二の特徴は、「限定的で反復的な行動や興味」である。(中略)

注意欠如多動性障害(ADHD)は、約束や物を忘れるなどの「不注意」や、じっとしていられない、しゃべりつづけるなどの「多動」が主な特徴だ。そして、同時にさまざまな作業を並行して進めるマルチタスクも苦手である。(中略)

学習障害(LD)の人は、知能の遅れはないが、「読む」「書く」「計算する」などの能力の一部に障害をもつ。小・中学生のうち、数%程度が学習障害であると推定されている。


自閉症スペクトラム障害(ASD)の患者は、会話の文脈に関係なく唐突な発言をしやすいため、「空気が読めない」と周囲からいわれることがあり、また相手の表情やしぐさなどの非言語的メッセージを理解することも苦手です。あるいは外出時の目的地までの道順や物の配置場所など、特定の対象へのこだわりがつよかったり、手や指をバタバタするなどの反復的で機械的なうごきをしたりしがちです。

注意欠如多動性障害(ADHD)の患者は生きづらさを徐々に感じ、ほかの精神疾患も同時に発症することがおおいため、うつ病やパニック障害・依存症をきっかけに精神科を受診して発達障害が判明する例がすくなくありません。

学習障害(LD)は、就学前の日常生活にはさほど支障がなかった子供が、就学後に、学校の授業についていくのがむずかしいことから診断されることがおおいです。


Aさんは、子供のころから対人関係が苦手で、一人遊びを好んでいた。協調性がなく、相手によって言葉を選ぶことができなかったため、ささいなことで先生や同級生とよく衝突し、いじめの被害にもあった。しかし、数学と理科が得意だったのを生かして大学院を修了し、大手企業に就職することができた。

だが、職場では上司の意図をうまくくみ取れず、叱られることが多かった。また、同僚にも「話題がマニアックすぎる」と相手にされず、うまく関係を築くことができなかった。このようにして職場で孤立してしまったため、上司と産業医からすすめられて専門外来を受診し、自閉症スペクトラム障害(ASD)であるという診断を受けた。

30代後半のBさんは、子供に多動の傾向があり、インターネットなどで調べていくうちに自分も注意欠如多動性障害(ADHD)なのではないかと考えた。Bさんが自分の子供時代を思い出すと、やはり物忘れが多く、不器用で落ち着きがなかった。しかし友達は多く、対人関係は良好だった。私立の有名大学を卒業後、証券会社に就職。単純な事務作業ではケアレスミスが多かったという。その後、結婚を機に退職したが、整理整頓や片づけが苦手で、友達との約束を守れなかった。そんなBさんが病院を受診したところ、軽症の注意欠如多動性障害(ADHD)と診断された。


AさんやBさんの例は「大人の発達障害」とよばれることがありますが、発達障害は生まれつきのものであり、大人になってから発症したのではなく、発達障害であることが大人になってから判明したというケースです。就職や結婚を機に問題が表面化し、病院を受診して発達障害だと診断されることがおおいそうです。










つぎのような例もあります。ある会社に、管理職Cさんと社員Dさんがいました。

会議中に、Dさんは突然、デスクのうえにおいてあった消しゴムを約15cmのたかさまでつまみあげ、下におとします。またつまみあげておとします。またつまみあげておとしなす。また・・・。おなじことを延々とくりかえしているので、Cさんは注意してやめさせました。

仕事のうちあわせをしていたら、Dさんは突然 横をむき、デスクの上においてあったボイスレコーダーをつまみながらなではじめました。延々となでているので、Cさんは注意してやめさせました。

仕事の準備でCさんは、野菜の種類と効能についてDさんに説明していました。
「白い野菜、赤い野菜、青い野菜など、いろいろな野菜がありますが、青い野菜にはとくに注意してください。青い野菜は・・・」
Dさんは突然、
「緑色じゃないんですか?」
と質問しました。
Cさん「青というのは幅があって、たとえば青信号など、緑色にちかくても青ということがあります。しかし今は、野菜の種類と効能について説明しているのであって、青か緑かの話ではなく・・・」
Dさんは、Cさんの話が理解できませんでした。

Cさん「今 説明したとおりです」
Dさん「さっきじゃないんですか?」
Cさん「今というのは、ある程度ひろがりがあって、たとえば5分前でも今ということが・・・」
Dさんは、コミュニケーションがとれませんでした。

Dさん「給与を、振り込みではなく現金でもらいたいです」
Cさん「わかりました」
Cさんは、Dさんに現金をわたしながら、
「さぁ、そのお金で、今日は飲み食いするか」
とジョークをいいました。
Dさんは後日、Cさんの発言をほかの管理者に連絡し、パワハラだということで大騒ぎになりました。Cさんは、言葉どおりに言葉うけとり、ジョークを理解することができませんでした。

Dさんは、会計の計算では、一桁まちがえるなど、つねにミスをしていました。

Cさんは異変を感じ、Dさんにきいてみたところ、精神科を以前にも受診したことがあったということでした。そして専門外来をふたたび受診してもらうことにしました。

以上の事例をみてもわかるように、AさんもBさんもDさんも悪意があるのではなく、本人は真面目なのですが、発達障害のためにトラブルをおこしてしまいます。トラブルをさけるためには、周囲の人も、発達障害についてただしく理解することが必要です。

他方で、発達障害の人々は、たぐいまれなる能力を発揮することがあります。総合的な情報処理能力はひくいですが、その代償として、特定の能力に限定した情報処理能力がたかくなるのではないかという仮説が提唱されています。

人間が、感覚器官をつかって情報をとりいれて(インプットして)処理するとき、通常の人々は言葉だけでなく、相手の表情やしぐさ、周囲にだだよう匂い、飲食物の味、さわってみたときの感触など、さまざまな情報を総合して処理し認識し判断します。そもそも、情報のすべてが言葉だけであらわされるはずはなく、言葉は、情報のひとまとまりの見出しや要約でしかありません。

発達障害の人々は、そのような総合的な情報処理ができないためにトラブルをおこしてしまいます。ところが一方で、たとえば視覚が異常に発達していたり、常識をこえた するどい聴覚をもっていたり、一般の人々にはない共感覚をもっていたりする人がおり、歴史的な芸術家や学者のなかには、発達障害だったのではないかとかんがえられる人々が結構います。このような観点からは、発達障害は、情報処理能力のかたよりとしてとらえることもできます。

したがって発達障害の人に対して偏見をもったり、差別したりしないようにし、発達障害の人が活躍できる場はどこかにあるはずですから、それをみつけることが大事です。今回の『Newton』の記事は、最新の研究成果を解説しており、とても参考になります。



▼ 注
「謎多き『発達障害』とは」、Newton、2010年1月号、ニュートンプレス、2020年