近接目標をたてるとやる気がでます。近接目標の達成体験をくりかえして遠隔目標にいたります。自分にあった目標を設定します。
今月から、新連載「あなたを助ける実践心理学」を『Newton』がはじめました(注)。その第1回は「モチベーション」の心理学です。何かを「やる」ためには、やる気(モチベーション)が必要です。しかしやる気がでないときにはどうしたらよいでしょうか?
グループBに課された目標は「遠隔目標」とよばれ、マラソンにたとえると「42.195 km を走りきろう」という目標であり、最終的に到達する地点を意識させるものです。
しかし実際にとりくんでみるとこの遠隔目標だけではうまくいきません。そこで役立つのが「近接目標」です。これは、達成すべきちいさな目標、いわば「チェックポイント」を設定することであり、マラソンにたとえると「まずは5 km 走れるようになろう」という目標をたてることです。グループAは、「毎回最低6ページ」という近接目標を設定したためにやる気がでて、努力が継続でき、近接目標を達成しながら、結果的に、遠隔目標を達成できた割合がたかくなりました。
近接目標を達成すれば遠隔目標にちかづけると感じ、また近接目標を達成できるとおもうとモチベーションがあがります。そして実際に達成できれば自信になります。
なお遠隔目標を他者に宣言する必要はありません。不言実行で、近接目標をまずは達成したほうがよいです。
またグループBとグループCの達成度合いがあまりかわらなかったことから、遠隔目標をたてるだけでは、目標を何もたてないことと同程度の効果しかえられないこともわかります。
どうしてもやる気がでない場合は、近接目標をたててとにかくやりはじめます。やっているうちにだんだんとやる気がたかまってきます。これを「着手動機づけ」といいます。
たとえば登山の場合をかんがえてみると、たくさんの山が国内にありますが、まずは、頂上までのぼれるとおもえるひくい山にのぼります。つぎにそれよりもややたかい山にのぼります。こうして登頂をくりかえすことによって達成体験がえられ、自信もつきます。
このやり方に反して、かなりたかい山を最初からねらうと、その山にのぼりはじめたものの、登頂できずに途中でひきかえしてくることになります。目標には到達できず、達成体験はえられません。このようなことをくりかえしていると心身がこわれてきます。したがって ひくい山でもよいので、頂上までいってかえってくることが重要です。
あるいはラジオ英会話で英会話を練習している人がいるとおもいます。この番組では、スキットの英会話文を暗記することを推奨しています。しかし自分の現在の実力からいって、それはどうもくるしい、できないと感じたならば、まずは、毎回のキーフレーズのみをしっかり暗記します。1日1文を確実に記憶します。ほかのことはかるくながせばよいです。そして1年ぐらいして余裕がでてきたら、スキットのなかのアンダーラインがひいてある文も記憶します。そしてさらに1年ぐらいして余裕がでてきたら、「EXPRESS YOURSELF IN ENGLISH! 英語で表現しましょう」の例文も記憶します。
あるいは英単語を500語おぼえなければならない場合、500語を目標にこつこつ暗記をはじめるのではなく、自分の現在の実力からいって、1日10語だったらおぼえられるとおもったら、1日10語をまずは確実におぼえます。週末には、あらたにおぼえずに復習します。そして余裕がでてきたら、1日12語おぼえます。さらに余裕がでてきたら15語おぼえます。その後、20語、25語、30語というようにふやしていけばよいです。そうではなく、最初から100語をおぼえようとするとくるしくなります。達成体験もえられません。
このように、現在の自分の実力にあった近接目標をまずは設定して、達成体験をつみかさねていくことが大事です。
さきほどの登山の例では、わたしは(わたしも)富士山を遠隔目標にしていましたが、そのまえに、もっとひくい山に数多くのぼりました。近接目標をたてて達成体験をくりかえしました。そして富士山にのぼるときには確実にのぼれるという実感をもてました。
またラジオ英会話の例では、キーフレーズをまずは記憶するのがよく、このやり方はいいかえると、それ以外のことはかるくながせばよい、記憶しなくてよいということです。最初からすべてを記憶しようとはせずに、キーフレーズのみを記憶してほかは記憶しません。はじめから、テキスト(教材)のすべてを利用する必要はなく、無駄があってよいのであり、完璧主義におちいらず、不完全さにたえることが必要です。
かつて、わたしがかよっていた学校には、教科書のすみずみまでを暗記するように指導していた教師がいましたが、それは遠隔目標かもしれませんが、近接目標をしらなかったために、結局うまくいきませんでした。完璧主義におちいって不完全さにたえられず、生徒も教師もくるしみました。几帳面な人がおおい日本人はとくに注意しなければならない問題です。
その科目その分野にどこまでふかいりするかは人によってことなるのですから、遠隔目標も人によってことなり、人それぞれに、近接目標と遠隔目標があります。
近接目標は、現在の自分の実力よりもわずかにたかいところに設定すると能力をのばすことにつながります。わずかにたかい目標をまずは達成し、その後さらに、わずかに目標をあげてそれを達成し、さらにわずかに目標をあげて達成していきます。こうすれば心身のバランスをくずすことなく自然に能力をのばせます。
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▼ 注:参考文献
『Newton』(2020年1月号)ニュートンプレス、2020年
1981年、カナダの心理学者アルバート・バンデューラらは、事前のテストで算数が苦手だと判定された7〜10歳の子供たちを40人集め、7回に分けて42ページの問題集をやらせた。ここで、子供たちを三つのグループに分けた。グループAには、「毎回最低6ページ終わらせよう」と伝え、グループBには「7回で42ページ終わらせよう」と伝えた。グループCには「できるだけたくさんやろう」とだけ伝え、具体的な指示をしなかった。
すると、7回の勉強が終わったとき、グループAのメンバーのうちの74%、グループBのメンバーのうちの55%が、グループCのメンバーのうちの53%が、問題集を終わらせることができた。
- A:「毎回最低6ページ終わらせよう」→74%
- B:「7回で42ページ終わらせよう」→55%
- C:「できるだけたくさんやろう」→53%
グループBに課された目標は「遠隔目標」とよばれ、マラソンにたとえると「42.195 km を走りきろう」という目標であり、最終的に到達する地点を意識させるものです。
しかし実際にとりくんでみるとこの遠隔目標だけではうまくいきません。そこで役立つのが「近接目標」です。これは、達成すべきちいさな目標、いわば「チェックポイント」を設定することであり、マラソンにたとえると「まずは5 km 走れるようになろう」という目標をたてることです。グループAは、「毎回最低6ページ」という近接目標を設定したためにやる気がでて、努力が継続でき、近接目標を達成しながら、結果的に、遠隔目標を達成できた割合がたかくなりました。
近接目標 → 遠隔目標
近接目標を達成すれば遠隔目標にちかづけると感じ、また近接目標を達成できるとおもうとモチベーションがあがります。そして実際に達成できれば自信になります。
なお遠隔目標を他者に宣言する必要はありません。不言実行で、近接目標をまずは達成したほうがよいです。
またグループBとグループCの達成度合いがあまりかわらなかったことから、遠隔目標をたてるだけでは、目標を何もたてないことと同程度の効果しかえられないこともわかります。
どうしてもやる気がでない場合は、近接目標をたててとにかくやりはじめます。やっているうちにだんだんとやる気がたかまってきます。これを「着手動機づけ」といいます。
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たとえば登山の場合をかんがえてみると、たくさんの山が国内にありますが、まずは、頂上までのぼれるとおもえるひくい山にのぼります。つぎにそれよりもややたかい山にのぼります。こうして登頂をくりかえすことによって達成体験がえられ、自信もつきます。
このやり方に反して、かなりたかい山を最初からねらうと、その山にのぼりはじめたものの、登頂できずに途中でひきかえしてくることになります。目標には到達できず、達成体験はえられません。このようなことをくりかえしていると心身がこわれてきます。したがって ひくい山でもよいので、頂上までいってかえってくることが重要です。
あるいはラジオ英会話で英会話を練習している人がいるとおもいます。この番組では、スキットの英会話文を暗記することを推奨しています。しかし自分の現在の実力からいって、それはどうもくるしい、できないと感じたならば、まずは、毎回のキーフレーズのみをしっかり暗記します。1日1文を確実に記憶します。ほかのことはかるくながせばよいです。そして1年ぐらいして余裕がでてきたら、スキットのなかのアンダーラインがひいてある文も記憶します。そしてさらに1年ぐらいして余裕がでてきたら、「EXPRESS YOURSELF IN ENGLISH! 英語で表現しましょう」の例文も記憶します。
あるいは英単語を500語おぼえなければならない場合、500語を目標にこつこつ暗記をはじめるのではなく、自分の現在の実力からいって、1日10語だったらおぼえられるとおもったら、1日10語をまずは確実におぼえます。週末には、あらたにおぼえずに復習します。そして余裕がでてきたら、1日12語おぼえます。さらに余裕がでてきたら15語おぼえます。その後、20語、25語、30語というようにふやしていけばよいです。そうではなく、最初から100語をおぼえようとするとくるしくなります。達成体験もえられません。
このように、現在の自分の実力にあった近接目標をまずは設定して、達成体験をつみかさねていくことが大事です。
さきほどの登山の例では、わたしは(わたしも)富士山を遠隔目標にしていましたが、そのまえに、もっとひくい山に数多くのぼりました。近接目標をたてて達成体験をくりかえしました。そして富士山にのぼるときには確実にのぼれるという実感をもてました。
またラジオ英会話の例では、キーフレーズをまずは記憶するのがよく、このやり方はいいかえると、それ以外のことはかるくながせばよい、記憶しなくてよいということです。最初からすべてを記憶しようとはせずに、キーフレーズのみを記憶してほかは記憶しません。はじめから、テキスト(教材)のすべてを利用する必要はなく、無駄があってよいのであり、完璧主義におちいらず、不完全さにたえることが必要です。
かつて、わたしがかよっていた学校には、教科書のすみずみまでを暗記するように指導していた教師がいましたが、それは遠隔目標かもしれませんが、近接目標をしらなかったために、結局うまくいきませんでした。完璧主義におちいって不完全さにたえられず、生徒も教師もくるしみました。几帳面な人がおおい日本人はとくに注意しなければならない問題です。
その科目その分野にどこまでふかいりするかは人によってことなるのですから、遠隔目標も人によってことなり、人それぞれに、近接目標と遠隔目標があります。
近接目標は、現在の自分の実力よりもわずかにたかいところに設定すると能力をのばすことにつながります。わずかにたかい目標をまずは達成し、その後さらに、わずかに目標をあげてそれを達成し、さらにわずかに目標をあげて達成していきます。こうすれば心身のバランスをくずすことなく自然に能力をのばせます。
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〈想起→アウトプット〉訓練をする -「最強の記憶術」(Newton 2019.8号)-
▼ 注:参考文献
『Newton』(2020年1月号)ニュートンプレス、2020年