夢は、人間主体の情報処理に役だっているようです。プロセシングが睡眠中にすすみます。インプットをしたらさっさと寝ます。
『Newton』2019年12月号の Topic では、「なぜ私たちは夢を見るのか」と題して夢について解説しています。


私たちの眠りには「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という2種類の状態がある。レム(REM)睡眠は「rapid eye movement」の頭文字を取ったもので、その名の通り、眠っている最中に眼球が急速に動く現象がみられる。レム睡眠は1953年、アメリカの研究者たちによって発見された。一方、ノンレム睡眠は急速眼球運動がみられない眠りである。(中略)

少なくとも、睡眠が記憶の固定に重要であることは数多くの研究によって定説となっている。学習中と同じ脳の部位が、その後の睡眠中でも活性化すること、学習後の睡眠を制限すると記憶の固定に支障が出ることなどが、さまざまな実験によって示されているのだ。


わたしたちは眠りにはいると、ノンレム睡眠が通常はまずはじまり、徐々に眠りがふかまっていきます。ノンレム睡眠は、眠りのふかさによってステージ1〜4にわけることがおおいです。眠りはじめてから60分ほどするとあさい眠りであるレム睡眠となり、ふたたびその後ノンレム睡眠にもどります。ノンレム睡眠とレム睡眠の1サイクルは約90分であり、これが、4〜5回ひと晩にくりかえされます。

従来は、夢は、レム睡眠でみるものだとかんがえられていましたが、近年の研究により、頻度はすくないながらもノンレム睡眠においても夢をみることがあきらかになりました。レム睡眠での夢は、比較的明確なストーリーや喜怒哀楽などの感情をともない、空をとぶなどの奇妙な内容であることがおおいのに対し、ノンレム睡眠の夢は、ぼんやりとした風景や抽象的なかんがえごとなど、漠然とした内容であることがおおいといわれています。

レム睡眠がはじまるときには、大脳皮質を刺激する持続的な信号を脳幹がだすようになり、大脳皮質は、目覚めているときにちかい状態になります。さらにレム睡眠中に脳幹は、「PGO 波」とよばれるランダムな刺激を断続的に発します。記憶が保持されている部位がこの PGO 波によって活性化されることで、過去のおもいでが視覚野で映像となって夢のなかにあらわれるとかんがえられています。PGO 波というつよい刺激により、レム睡眠中の夢は鮮明かつ複雑な内容になります。

また聴覚野が活性化して何らかの音がきこえてきたり、感情をつかさどる扁桃体が刺激されて喜怒哀楽が生じたりすることもあります。

あるいは夢のなかで空をとんだり、たかいところから落下したり、奇妙な夢をみることもあります。レム睡眠中は、理性をつかさどる前頭前野の活動が不完全なことなどから、現実的ではない内容になりやすいと指摘されています。

ただし夢が生じるメカニズムについては諸説あり、議論がつづいています。

  • ノンレム睡眠が記憶の固定に大切であるのではないか。
  • 胎児や乳児の大脳皮質が発達するためにレム睡眠が役だっているのではないか。
  • レム睡眠は、普段はあまりつかわれていない神経回路の維持に役だっているのではないか。
  • 夢は、感情の安定に役だっているのではないか。
  • 夢のなかで、現実で想定される脅威をシミュレーションしているのではないか、など。









睡眠中に夢をみて、アイデアをえたり、問題を解決したり、創作活動をしたりしたという話は昔からすくなくありません。たとえば黒澤明監督の『夢』(1990年公開)も監督みずからがみた夢を題材にしたそうです。

なぜ夢をみるのかということについては現在のところ諸説がありますが、すくなくとも 、人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)におけるプロセシングが睡眠中におこっていることはたしかです。

インプットとはみたり、きいたり、かいだり、味わったりすることであり、アウトプットとは声をだしたり、文章をかいたりすることです。プロセシングについては、記憶法や心象法(イメージ訓練)や空間法などがありますが、それら以前にそもそも、睡眠によってプロセシングがすすみます。

プロセシングにおいてどのような役割を夢がはたしているのかについては謎がまだありますが、たとえばカラーの夢、鮮明な夢、立体的な夢、ストーリーのある夢をみる人は情報処理能力が通常レベルよりもたかいということが十分にかんがえられます。

いずれにしても、プロセシングのためにもっとも睡眠は重要であり、おろそかにすることはできません。睡眠をけずって勉強をしたり仕事をしたりしていると体をこわすだけでなく、情報処理がすすみません。「四当五落」などというのはまったくもって非科学的・非医学的な時代おくれのおしえです。

このような観点からは、インプットをしたらさっさと寝るのがよいです。そしておきたらアウトプットをします。たとえば本をよんだら(本の内容をインプットしたら)さっさと寝ます。そのとき、不完全でもよいので最後まで本は1冊よみきってしまってから寝たほうがよいです。プロセシングがそのほうがよくすすみます。実は、このようなことのためにも速読法が有用だといえます。


▼ 参考文献
『Newton』(2019年12月号)ニュートンプレス、2019年


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