(交差法で立体視ができます)
恐竜は鳥類に進化していきのこりました。生物と環境の両者に注目します。個体だけをみるのではなく、生命のおおきな流れをとらえます。
デイノニクスの発見から50年を記念して「恐竜博 2019」が国立科学博物館で開催されています(注1)。「恐竜は鳥に進化した」。この仮説の根拠を最初にもたらしたのがデイノニクスです。
ステレオ写真はいずれも交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -
第1展示室 恐竜ルネサンス -デイノニクス-
1969年、新種の肉食恐竜がアメリカで発見され、それは、するどいカギツメをもつことから「恐ろしいツメ」を意味する「デイノニクス」と命名されました。このデイノニクスの研究から「恐竜温血説」や「鳥類の恐竜起源説」といったあらたな仮説が提唱され、それまでの恐竜のイメージが一新、「恐竜ルネサンス」とよばれる恐竜研究の新時代が幕あけました。
従来は、恐竜は絶滅したとかんがえられていましたが、現在では、恐竜の一部は鳥類に進化したのであり、恐竜は絶滅はしていないとかんがえられています。恐竜と鳥類には、両者にしかみられない形態学的・生態学的な共通の特徴があり、どこまでが恐竜でどこからが鳥類なのか、境界線が簡単にはひけないほど連続的な進化があったことがあきらかになってきています。
第2展示室 ベールを脱いだ謎の恐竜 -デイノケイルス-
1965年、ポーランドとモンゴルの共同調査隊がモンゴルのゴビ砂漠で2.4mにも達する巨大な前足を発見し、1970年に、「恐ろしい手」を意味する「デイノケイルス」と名づけました。デイノケイルスは、さまざまな恐竜の特徴をあわせもつ「想定外」の恐竜だったことが近年わかってきました。
ここに展示された頭骨や足などの実物化石はゴビ砂漠で盗掘され、ヨーロッパにかつて密輸されたものです。世界各国の研究者たちの努力によりモンゴルにこれらが返還されたことで、全身骨格の復元が世界ではじめて本展のために実現しました。
デイノケイルスは、白亜紀末のモンゴルに生息していた、「キメラ」のようなへんてこな恐竜でした。キメラとは、ギリシャ神話に登場する、ライオンの頭とヤギの胴体、蛇頭の尾といった、さまざまな特徴をあわせもつ怪物です。
第3展示室 最新研究からみえてきた恐竜の一生
1923年、アメリカの探検隊がゴビ砂漠で「卵化石」を発見しました。それは、プロトケラトプスのものだとかんがえられ、そのちかくで発見された獣脚類恐竜は、「卵泥棒」を意味する「オヴィラプトル」と名づけられました。
それからおよそ100年がたち、研究がすすんだ結果、この仮説はくつがえされ、つぎのようなあらたな仮説が提唱されています。
こうして、現在みられる鳥類の行動のおおくは、恐竜からひきつがれたものではないかという仮説がたてられました。
また恐竜も羽毛をもっていたのであり、成長による羽毛の変化や羽毛の色なども推定できるようになってきています。
第4展示室 「むかわ竜」の世界
2003年、北海道穂別町(当時)在住の堀田良幸氏が連続した13個の尾椎(びつい)を発見、その化石は、首長竜の化石だろうとかんがえられ、北海道むかわ町穂別博物館に収蔵されます。
2011年8月、古生物学者の佐藤たまき氏(東京学芸大学)がむかわ町穂別博物館を訪問、この化石は首長竜ではなく、恐竜の化石であると指摘します。
2011年9月、古生物学者の小林快次氏(北海道大学)が、この化石を、恐竜(ハドロサウルス類)のものと同定しました。そして小林氏は、この化石の産出状況に注目します。
尾椎は胴体にちかいほどふとくなり、尻尾へいくほどほそくなります。
このことを前提にすると、露頭(地層断面、崖)の奥つまり地層のなかへいくほど尾椎がほそくなり、手前ほどふとくなるように化石がうまっていたら、恐竜の胴体の化石は浸食によりすでにうしなわれているという仮説がたちます。
しかしその逆に、手前ほど尾椎がほそく、露頭の奥つまり地層のなかへいくほど尾椎がふとくなるように化石がうまっていたら、恐竜胴体の化石が地層中にまだ存在するにちがいないという仮説がたてられます。
2011年11月、化石産地の再調査(検証)がおこなわれます。尻尾のつづきはどちらへむかってふとくなるか?
地層を奥にほっていくと、手前よりもふとい尾椎(つまり胴体にちかい部分の尾椎化石)がでてきました。すなわち胴体などの化石が連続して地層中にうまっていることが想像できます。
2012年、2013年、2014年、本格的な発掘がすすみます。尾椎骨・大腿骨・頸骨・頭部などがつぎつぎに採集されます。スタッフを増員し、クリーニング作業がすすめられます。
2015年、2016年、追加の発掘をおこない、化石数点を発見します。ほぼすべての化石を採集しつくします。
2018年、クリーニング作業が終了、全体の8割にもおよぶ、ほぼ全身の化石が確認されます。
2019年、通称「むかわ竜」は、学名は「カムイサウルス・ジャポニクス」(新属新種)と小林快次氏らにより命名されました。「日本の竜の神」という意味がこめられています。
カムイサウルス・ジャポニクスは完全にちかい全身骨格化石としてたいへん注目され、恐竜進化の研究におおいに貢献すると期待されます。また日本国内のほかの海の地層中からも恐竜の化石がもっとみつかるだろうというあらたな仮説ももたらしました。
第5展示室 絶滅の境界を歩いて渡る
約6600万年前のある日、現在のカリブ海に巨大な隕石が落下しました。隕石は粉々にこわれて地表の土とともに大気圏にまきあげられ、それらがそのご落下して、全地球をおおうような地層をつくりました。そのときに、隕石にふくまれていたイリジウムも世界中にふりつもり、イリジウムは通常は 0.3ppb と、ごく微量しか地表に存在しませんが、この特殊な地層には 10ppb と、通常の30倍もの高濃度でふくまれています。この地層は世界各地で確認され、「K/Pg 境界層」とよばれます。
巨大隕石のこの落下によって地球上の環境が非常に悪化し、当時の動物・植物の実に75%以上の種が絶滅しました。
K/Pg 境界は、中生代と新生代(中生代白亜紀と新生代古第三紀)をわける境界として認識され、鳥類に進化しなかった恐竜(鳥類以外の恐竜)はこのときに絶滅しました。白亜紀はドイツ語で Kreide、古第三紀は英語で Paleogene というのでこの境界は K/Pg 境界と命名されました。
生存と絶滅の明暗をわけたのは、第1には、体のサイズだったとかんがえられます。気温の急激な低下や、食べ物となる植物量の激減に対して、すくない食量でやりすごすことのできるちいさな体の生物の方が生存率がたかかったとおもわれ、飛ぶという制約のために小型なものがおおかった鳥類の方がいきのこりました。
哺乳類も、中生代白亜紀までは、最大でも全長1mぐらいにしかならなかったので、体がちいさかったことがさいわいして生存率がたかまりました。
ワニやカメなどの爬虫類は変温動物であり、これは恒温動物よりも必要とする食量がすくなくてもすむため、比較的おおきなものでも絶滅をまぬがれました。
生命の進化とは、もと一つのものから分化・生成・発展する、命の巨大な流れであり、単なる物理現象・化学現象としては理解できず、機械論的世界観でも理解できません。
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想像や推理の方法を知る - 国立科学博物館「恐竜博 2016」(まとめ&リンク)-
3D画像 をつかって奥行きの情報もインプットする -『恐竜3D図鑑』-
恐竜は鳥に進化した - 大英自然史博物館展(1)-
鳥の多様性と進化 -「鳥たちの地球」(ナショナルジオグラフィック 2018.1号)-
もう一方の進化 -「鳥の知能」(ナショナルジオグラフィック 2018.2号)-
事実と想像を区別する -「恐竜はどのように鳥になったか?」(ナショナルジオグラフィック 2018.5号)-
空白領域に進出する - 特別展「生命大躍進」(4)-
今西錦司『生物の世界』をよむ
大量絶滅をくいとめられないか
▼ 注1
特別展「恐竜博2019」
会場:国立科学博物館
会期: 7月13日(土)~10月14日(月)
※ 写真撮影が許可されています。
▼ 参考文献
真鍋真監修『恐竜博2019』(図録)、NHK・NHKプロモーション・朝日新聞社発行、2019年
▼ 関連書籍







ステレオ写真はいずれも交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -
第1展示室 恐竜ルネサンス
第2展示室 ベールを脱いだ謎の恐竜
第3展示室 最新研究からみえてきた恐竜の一生
第4展示室 「むかわ竜」の世界
第5展示室 絶滅の境界を歩いて渡る
第1展示室 恐竜ルネサンス -デイノニクス-
1969年、新種の肉食恐竜がアメリカで発見され、それは、するどいカギツメをもつことから「恐ろしいツメ」を意味する「デイノニクス」と命名されました。このデイノニクスの研究から「恐竜温血説」や「鳥類の恐竜起源説」といったあらたな仮説が提唱され、それまでの恐竜のイメージが一新、「恐竜ルネサンス」とよばれる恐竜研究の新時代が幕あけました。
従来は、恐竜は絶滅したとかんがえられていましたが、現在では、恐竜の一部は鳥類に進化したのであり、恐竜は絶滅はしていないとかんがえられています。恐竜と鳥類には、両者にしかみられない形態学的・生態学的な共通の特徴があり、どこまでが恐竜でどこからが鳥類なのか、境界線が簡単にはひけないほど連続的な進化があったことがあきらかになってきています。
デイノニクスの足(ホロタイプ標本)
恐竜ルネサンスのきっかけとなったデイノニクスのホロタイプ標本です。ホロタイプ標本とは、ある生物を新種として記載する際に必要な模式標本のうち、記載論文でただ一つ明示的に指定されるもっとも重要な標本のことです。
テノントサウルス(手前)におそいかかるデイノニクス(奥)(複製)
テノントサウルス1個体と、デイノニクス複数個体が一緒にみつかったことから、デイノニクスが集団で狩りをおこなっていたのではないかという仮説がたてられました。 始祖鳥(複製)
アメリカの古生物学者 ジョン=オストロムは、始祖鳥と、デイノニクスを中心とする獣脚類恐竜の研究をおこない、一時は否定されていた「鳥類の恐竜起源説」を1976年に復活させました。第2展示室 ベールを脱いだ謎の恐竜 -デイノケイルス-
1965年、ポーランドとモンゴルの共同調査隊がモンゴルのゴビ砂漠で2.4mにも達する巨大な前足を発見し、1970年に、「恐ろしい手」を意味する「デイノケイルス」と名づけました。デイノケイルスは、さまざまな恐竜の特徴をあわせもつ「想定外」の恐竜だったことが近年わかってきました。
ここに展示された頭骨や足などの実物化石はゴビ砂漠で盗掘され、ヨーロッパにかつて密輸されたものです。世界各国の研究者たちの努力によりモンゴルにこれらが返還されたことで、全身骨格の復元が世界ではじめて本展のために実現しました。
デイノケイルスは、白亜紀末のモンゴルに生息していた、「キメラ」のようなへんてこな恐竜でした。キメラとは、ギリシャ神話に登場する、ライオンの頭とヤギの胴体、蛇頭の尾といった、さまざまな特徴をあわせもつ怪物です。
デイノケイルスの肩帯と前肢
獣脚類恐竜のものとしては史上最長であり、その大きさと形から、新属新種デイノケイルス・ミリフィクスと名づけられました。デイノとはおそろしい、ケイルスとは手、ミリフィクスとは変わったを意味します。女性研究者によって命名された最初の恐竜としてもしられています。
デイノケイルス(複製)
デイノケイルスは白亜紀末のモンゴルに生息していました。体の基本構造はダチョウ型恐竜であるオルニトミモサウルス類ですが、ハドロサウルス類のようなクチバシ、竜脚類のような空洞化した骨、スピノサウルスのようなおおきな帆をもちます。デイノケイルスの胃石
植物を体内ですりつぶすためとかんがえられる胃石がたくさんみつかっています。また魚の骨もみつかっていることから、植物だけでなく魚もたべた雑食性であったとかんがえられます。
第3展示室 最新研究からみえてきた恐竜の一生
1923年、アメリカの探検隊がゴビ砂漠で「卵化石」を発見しました。それは、プロトケラトプスのものだとかんがえられ、そのちかくで発見された獣脚類恐竜は、「卵泥棒」を意味する「オヴィラプトル」と名づけられました。
それからおよそ100年がたち、研究がすすんだ結果、この仮説はくつがえされ、つぎのようなあらたな仮説が提唱されています。
- 卵はオヴィラプトルのものである。
- オヴィラプトルは、鳥類のように巣のうえにすわって卵をまもりながらみずからあたためていた。
- 抱卵はオスも担当していた。
- 恐竜には、群れで行動したり、役割分担をしたりするという社会性も発達していた。
こうして、現在みられる鳥類の行動のおおくは、恐竜からひきつがれたものではないかという仮説がたてられました。
また恐竜も羽毛をもっていたのであり、成長による羽毛の変化や羽毛の色なども推定できるようになってきています。
オヴィラプトル類の新種?
3体のオヴィラプトル類がかさなるように保存されているので、彼らが死んで埋没したときに、現生の鳥類のように身をよせあい、あたためあっていたことを示唆します。
マクロエロンガトゥーリトゥス
(恐竜の巣と卵、複製)
巣の直径は2m前後あり、長径が40〜60cmのほそながい楕円形の卵が配置されています。巣のおおきさも卵のおおきさも脊椎動物のものとしては最大級です。これは、大型オヴィラプトロサウルス類のものだとする研究が2018年に発表されました。 (恐竜の巣と卵、複製)
オルニトミムスの子ども化石
胴体から腕のあたりの赤みがかった部分に線のようにみえるのが羽毛です。
第4展示室 「むかわ竜」の世界
2003年、北海道穂別町(当時)在住の堀田良幸氏が連続した13個の尾椎(びつい)を発見、その化石は、首長竜の化石だろうとかんがえられ、北海道むかわ町穂別博物館に収蔵されます。
2011年8月、古生物学者の佐藤たまき氏(東京学芸大学)がむかわ町穂別博物館を訪問、この化石は首長竜ではなく、恐竜の化石であると指摘します。
2011年9月、古生物学者の小林快次氏(北海道大学)が、この化石を、恐竜(ハドロサウルス類)のものと同定しました。そして小林氏は、この化石の産出状況に注目します。
尾椎は胴体にちかいほどふとくなり、尻尾へいくほどほそくなります。
このことを前提にすると、露頭(地層断面、崖)の奥つまり地層のなかへいくほど尾椎がほそくなり、手前ほどふとくなるように化石がうまっていたら、恐竜の胴体の化石は浸食によりすでにうしなわれているという仮説がたちます。
しかしその逆に、手前ほど尾椎がほそく、露頭の奥つまり地層のなかへいくほど尾椎がふとくなるように化石がうまっていたら、恐竜胴体の化石が地層中にまだ存在するにちがいないという仮説がたてられます。
2011年11月、化石産地の再調査(検証)がおこなわれます。尻尾のつづきはどちらへむかってふとくなるか?
地層を奥にほっていくと、手前よりもふとい尾椎(つまり胴体にちかい部分の尾椎化石)がでてきました。すなわち胴体などの化石が連続して地層中にうまっていることが想像できます。
2012年、2013年、2014年、本格的な発掘がすすみます。尾椎骨・大腿骨・頸骨・頭部などがつぎつぎに採集されます。スタッフを増員し、クリーニング作業がすすめられます。
2015年、2016年、追加の発掘をおこない、化石数点を発見します。ほぼすべての化石を採集しつくします。
2018年、クリーニング作業が終了、全体の8割にもおよぶ、ほぼ全身の化石が確認されます。
2019年、通称「むかわ竜」は、学名は「カムイサウルス・ジャポニクス」(新属新種)と小林快次氏らにより命名されました。「日本の竜の神」という意味がこめられています。
カムイサウルス・ジャポニクスは完全にちかい全身骨格化石としてたいへん注目され、恐竜進化の研究におおいに貢献すると期待されます。また日本国内のほかの海の地層中からも恐竜の化石がもっとみつかるだろうというあらたな仮説ももたらしました。
「むかわ竜」(カムイサウルス・ジャポニクス)
「白亜紀の牛」とよばれるハドロサウルス類に属する恐竜です。海岸線にちかい場所にすんでいましたが、死後 海にながされ、沖合の海底にしずみ、そこでゆっくりとうもれて化石になりました。すくなくとも222個、全身の8割ほどもの骨が発見され、新属新種の恐竜であることがあきらかになりました。
「むかわ竜」(カムイサウルス・ジャポニクス)(複製)
むかわ竜の先祖は、8400万年前には東アジアの東縁にすみついていました。その後、ほかの地域と隔離され、独自の進化をしたとかんがえられます。第5展示室 絶滅の境界を歩いて渡る
約6600万年前のある日、現在のカリブ海に巨大な隕石が落下しました。隕石は粉々にこわれて地表の土とともに大気圏にまきあげられ、それらがそのご落下して、全地球をおおうような地層をつくりました。そのときに、隕石にふくまれていたイリジウムも世界中にふりつもり、イリジウムは通常は 0.3ppb と、ごく微量しか地表に存在しませんが、この特殊な地層には 10ppb と、通常の30倍もの高濃度でふくまれています。この地層は世界各地で確認され、「K/Pg 境界層」とよばれます。
巨大隕石のこの落下によって地球上の環境が非常に悪化し、当時の動物・植物の実に75%以上の種が絶滅しました。
K/Pg 境界は、中生代と新生代(中生代白亜紀と新生代古第三紀)をわける境界として認識され、鳥類に進化しなかった恐竜(鳥類以外の恐竜)はこのときに絶滅しました。白亜紀はドイツ語で Kreide、古第三紀は英語で Paleogene というのでこの境界は K/Pg 境界と命名されました。
生存と絶滅の明暗をわけたのは、第1には、体のサイズだったとかんがえられます。気温の急激な低下や、食べ物となる植物量の激減に対して、すくない食量でやりすごすことのできるちいさな体の生物の方が生存率がたかかったとおもわれ、飛ぶという制約のために小型なものがおおかった鳥類の方がいきのこりました。
哺乳類も、中生代白亜紀までは、最大でも全長1mぐらいにしかならなかったので、体がちいさかったことがさいわいして生存率がたかまりました。
ワニやカメなどの爬虫類は変温動物であり、これは恒温動物よりも必要とする食量がすくなくてもすむため、比較的おおきなものでも絶滅をまぬがれました。
イクチオルニス
アメリカ・カンザス州の白亜紀の地層から報告された鳥類です。現生鳥類ではうしなわれた歯をもつ一方、頭骨は、餌をとる際に柔軟にうごくといった現生鳥類にみられる特徴をもっており、より原始的な獣脚類恐竜の特徴と現生鳥類にみられる特殊化した特徴とが混在しています。
*
以上みてきたように、デイノニクスの研究をきっかけに、形態学的・生態学的研究から、恐竜のなかの竜盤類は鳥類に進化したことがわかりました。
一方、中生代末(白亜紀末)に、巨大隕石の落下によっておおきな環境変動がおこり、鳥類に進化しなかった恐竜は絶滅しました。当時の環境変動に対しては、体のサイズがちいさい種のほうが生存に有利でした。
そして新生代になると、鳥類が、哺乳類とともに繁栄していくことになります。
このように進化とは、生物の変化と環境の変動が密接にむすびついておこるのであり、生物が変化するだけで進化がおこるのでもなく、環境が変動するだけで進化がおこるのでもありません。
生存できるかどうかは、生物だけではきめられませんが、一方的に環境が生物を支配するわけでもありません。生物の変化と環境の変動のシンクロナイズが重要であり、生物と環境の相互作用によって進化がおこります。
このような生物と環境がつくりだす体系の全体が生命システムであり、本当の生命です。生物だけに注目していても、環境だけに注目していても、生命や地球の本質は理解できません(図1)。


図1 生命のモデル
生命の進化とは、もと一つのものから分化・生成・発展する、命の巨大な流れであり、単なる物理現象・化学現象としては理解できず、機械論的世界観でも理解できません。
今回の特別展は、中生代から新生代にいたる生命の壮大な流れを化石をみながら想像できる、迫力のあるすぐれた博覧会でした。
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3D画像 をつかって奥行きの情報もインプットする -『恐竜3D図鑑』-
恐竜は鳥に進化した - 大英自然史博物館展(1)-
鳥の多様性と進化 -「鳥たちの地球」(ナショナルジオグラフィック 2018.1号)-
もう一方の進化 -「鳥の知能」(ナショナルジオグラフィック 2018.2号)-
事実と想像を区別する -「恐竜はどのように鳥になったか?」(ナショナルジオグラフィック 2018.5号)-
空白領域に進出する - 特別展「生命大躍進」(4)-
今西錦司『生物の世界』をよむ
大量絶滅をくいとめられないか
▼ 注1
特別展「恐竜博2019」
会場:国立科学博物館
会期: 7月13日(土)~10月14日(月)
※ 写真撮影が許可されています。
▼ 参考文献
真鍋真監修『恐竜博2019』(図録)、NHK・NHKプロモーション・朝日新聞社発行、2019年
▼ 関連書籍