動物たちと触れ合える観光施設がはやっています。ブームに SNS が火をつけました。観光の陰で動物たちは過酷な生活をしいられています。
『ナショナルジオグラフィック』2019年6月号の特集では「動物たちの悲鳴」を特別レポートしています。




カーステンと私は世界各地を回り、飼育下の動物を眺めている観光客を見てきた。タイでは、米国人の男性たちがチェンマイの施設でトラを抱き、アマゾン川では、10代の若者たちがナマケモノの赤ちゃんと自撮り写真に納まっていた。

だが、こうした出会いを楽しむ観光客の多くは、成熟したトラが人間に危害を加えないように、かぎ爪を抜かれたり、薬を投与されたりしていることを知らない。いつ行っても頬ずりできる小さなトラがいるのは、出産後すぐに母子を引き離して母トラの発情を促す「スピード繁殖」を行なっているからだ。また、ゾウが人間を背中に乗せ、芸をするのは、幼い頃にブルフックで痛い目に遭わされ、野性の本能が “破壊” されたからだということ、そして、アマゾンの森林で密猟されるナマケモノの多くが、飼育下に置かれるとわずか週週間しか生き延びられないことも、観光客の多くは知らないのだ。


「動物たちと触れ合える観光施設」が世界中ではやっています。動物をよびものにした観光施設に観光客がおしよせます。外国旅行をする人の数は15年前の2倍になって急成長をとげる観光産業のなかで、動物との触れ合い観光は巨額な利益をもたらす目玉事業になりました。

さらに、フェイスブックやインスタグラムなどのインターネット交流サイト(SNS)がこのブームに火をつけました。動物と一緒に自撮りをしたがるツアー客が激増、SNS を通じて発信すれば世界中の人々と自撮り写真が瞬時に共有され、一気に拡散、さらにおおくの人々が触発されます。SNS は、かつてない強力な宣伝ツールです。

しかし「動物たちと触れ合える観光施設」で、動物たちが劣悪な環境におかれていることをしっているでしょうか。SNS の「インフルエンサー」の写真はレンズのむこうにひそむ現実はとらえていません。アトラクション施設の動物たちは使い捨てであり、過酷な生活をしいられていることには誰もきがつきません。

このように、観光産業と SNS があらたな問題をひきおこしています。SNS によって自己宣伝をする人々がふえ、そのために動物たちも利用されます。表面的には、動物愛護の様子がうつっているようですがそれは虚像であり、実際には、動物たちが人間の “奴隷” になっています。こうして、人間たちは地球上で自我を拡大しつづけます。

このような自己宣伝ではなく、現場の事実をつたえる写真が本当は必要です。自己宣伝をすればするほど人の精神は実際にはくるしくなります。

「動物たちと触れ合える観光施設」やアトラクション施設の実態が理解できれば、そのようなところにいって自撮りをするよりも、もっと健全な動物園にいって、動物の生態についてまなんだほうがよいことがわかります。



▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック 日本版』(2019年6月号)、日経ナショナルジオグラフィック社、2019年