よい睡眠は認知症を予防します。やる気がたかまると眠気がふきとびます。テーマ設定が必要です。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2019年8月号の Newton Special では「新・睡眠の教科書」と題して睡眠の研究最前線を紹介しています。その PART 2 は「睡眠と病気」です。



睡眠時間の短い人ほど、認知症の発症リスクが高いことが報告されています。認知症の中で最もよくみられるのが「アルツハイマー病」です。「アミロイドβ」とよばれるタンパク質の老廃物が脳内に異常に蓄積するのが特徴で、それによって脳の神経細胞がこわされ、記憶や思考に問題が生じると考えられます。


近年、脳で生じた老廃物がどのように排出されているのかがわかってきました。脳や脊髄には「脳脊髄液」とよばれる液があり、これは、脳の動脈の周囲にある通り道「動脈周囲腔」(どうみゃくしゅういくう)をつたわって脳内にはいり、老廃物をおしながしながら、今度は、静脈の周囲にある通り道「静脈周囲腔」をとおって脳の外にでます。

この脳脊髄液による「洗い流し」は、おきているときよりも寝ているあいだにさかんにおこなわれます。したがって短時間しかねむっていない人は、脳の老廃物が十分に排除されずに蓄積し、アルツハイマー病などの脳疾患になる可能性があります。

アミロイドβは、脳の神経細胞にあるタンパク質が分解されて生じた断片であり、老廃物です。アルツハイマー病の患者の脳には「老人斑」とよばれる、アミロイドβがたくさんあつまってできたしみのようなものがみつかります。アルツハイマー病がすすむと神経細胞が死滅していき、脳が萎縮します。


やる気(モチベーション)を高めるような刺激があたえられると、アデノシンを受けとった側坐核(そくざかく)の神経細胞が眠りを誘導する作用がおさえられ、その結果、眠気が吹き飛ぶと考えられます。


退屈な授業や会議などの途中で眠気におそわれた経験は誰にでもあるでしょう。しかし興味のあること、すきなことをはじめると眠気が急にふきとんで目がさえてきます。

脳の「側坐核」という領域には、「アデノシン」とよばれる脳内物質の受容体をもつ神経細胞があり、この神経細胞がアデノシンをうけとると眠気が誘導されますが、やる気をたかめる刺激があると、側坐核の神経細胞の活動がいちじるしくおさえられ、眠気がふきとびます。






このように睡眠中に、脳のメンテナンスがおこなわれます。睡眠によって認知症の予防もできます。

しかしどんなに睡眠をとっても、やる気がでないことに直面するとねむくなってきます。興味のない資料をよんでいるとうとうととしてしまいます。

やはり、やる気がたかまること、興味のあること、すきな分野を、生活や人生の中軸にすえて情報処理をすすめることが重要でしょう。そもそもあなたは何を知りたいのか? 

このようなテーマ設定がはじめにあってこそ、認知症予防も記憶法も情報処理もすすみます。必要にせまられて興味のないことをやらなければならないとしても、生活や人生の中軸が設定されていれば、それなりにやる気が高まり、側坐核の神経細胞の活動がおさえられて眠気がふきとびます。

『Newton』の今回の記事にはよい睡眠をとるためのテクニックも紹介されています。睡眠不足はさまざまな病気をひきおこします。睡眠をけずってもよいことは何もありません。しっかり睡眠をとれば病気を予防できるだけでなく、情報処理がすすみます。しかしその前提としてテーマ設定が必要です。



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記憶の仕組みとアルツハイマー病 -「アルツハイマー病 研究最前線」(Newton 2017.3号)-


▼ 参考文献
『Newton』2019年8月号、ニュートンプレス


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