ゴロンゴーザ再生プロジェクトがすすんでいます。鍵をにぎるのは緩衝帯と女性です。自然と人間のあらたな共存の道をさぐります。
『ナショナルジオグラフィック』(2019年5月号)が、内戦で荒廃したモザンビーク・ゴロンゴーザ国立公園ですすんでいる自然再生プロジェクトについて報告しています。




リカオン
2018年4月に公園に連れてこられる前、14頭はほとんど別の群れにいた。群れとしての結束を強めるため、囲いの中で2カ月同居させた。

ウォータバック
ゴロンゴーザ国立公園はスイギュウの天下だったが、現在はウシ科のウォータバックが草食動物のなかで最も多く、公園にすむ動物の生物量の63%を占める。捕食動物がほとんどいない湖や河川の周辺で順調に増えている。

スイギュウ
公園内の生息数を増やすために、アフリカのほかの公園から導入された。最初は野生動物保護区の囲いの中にとどめ、数が十分に増えた2014年に自由に移動できるようにした。

カバ
2018年に実施されたブンドゥジ川とウレマ川の飛行調査で、内戦後、始めて500頭以上のカバを確認。内戦前の調査では、3000頭以上が生息していた。

ゾウ
内戦中にほとんど殺されたが、2018年10月には544頭を確認。首輪が付いた雌6頭とその子が木に隠れていて数に含まれなかったので、実際は650頭近い。




2004年に、モザンビーク政府と米国のグレゴリー・C・カー財団が「ゴロンゴーザ再生プロジェクト」を開始しました。

ゴロンゴーザ国立公園は、1977年〜92年のモザンビークの内戦で壊滅的な被害をうけました。公園の再生を実現するためには、動物の個体数を回復するだけでなく、学校や診療所の開設、持続可能な農業の促進など、周辺住民の生活も向上させる必要があります。

ゴロンゴーザ国立公園は、アフリカ大陸を南北につらぬく大地溝帯の南端に位置する氾濫原にあり、サバンナ・森林・湿地、おおきなウレマ湖など、多彩な自然環境を擁します。もともとは、植民地時代の宗主国ポルトガルが、狩猟をたのしむために住民をおいだし、1921年にもうけた狩り場でした。1960年に、モザンビークの国立公園第1号となったときは、ゾウ2200頭、ライオン200頭、アフリカスイギュウ1万4000頭をはじめ、カバやインパラ、シマウマ、オグロヌーなど、アフリカを代表する動物が数おおく生息していました。

しかしモザンビークは、1975年の独立後に内戦へ突入し、公園本部はロケット砲で破壊され、サバンナは殺戮の舞台となりました。ゾウやシマウマなどの大型動物は食料のために、あるいは憂さ晴らしのために何千頭もころされました。

1992年に、和平協定で停戦が合意されましたが密猟はつづき、周辺住民も食料をえるために罠を仕掛けました。

くりかえされる破壊と喪失に転機がおとずれたのは2004年でした。米国人実業家グレゴリー=カーは、生物学者エドワード=O.ウィルソンの研究をしって自然保護活動にめざめ、ネルソン=マンデラをはじめとする活動家を通じて人権問題にも興味をもちはじめました。カーは、モザンビークを訪問し、そこで、ジョアキン=シサノ大統領からゴロンゴーザ再建を要請されました。2018年には、モザンビーク政府とカー財団は25年間の長期契約を更新しました。


人づくりと自然保護がここで一つに交わるんです。女性と子どもの権利を向上させ、貧困を緩和する。アフリカの国立公園を救うには、それしかありません。


国立公園をとりかこむ緩衝帯では、現在、約2000人の女の子が生活しています。ゴロンゴーザ国立公園は、彼女たちのまなぶ機会をふやすために50の「少女クラブ」を結成して支援しています。「女の子が学校に通い、女性が多くの機会に恵まれれば、子供は1家族に2人ぐらいに落ち着くでしょう」とカーはいいます。これは強制ではなく、女性が活躍する場が増えれば自然にそうなるということです。






動物を保護し、監視を強化して密猟をとめることも重要ですが、少女たちの早婚と多産によっていきおいよく人口がふえているという現実もあります。人口の急増も自然破壊の原因です。ゴロンゴーザ再生プロジェクトは、自然と人間のあらたな共存の道をしめそうとしています。

鍵をにぎるのは緩衝帯であり、女性たちです。国立公園をとりかこむ広大な緩衝帯とそこでの活動を強化することが重要です。緩衝帯には、自然環境から人間が恩恵をうけ、自然環境に人間があたえる作用をやわらげる仕組みがはたらきます。またあらたなライフスタイルがうまれる場でもあります。保護区をつくればどうにかなるといった問題ではありません。

このようなゴロンゴーザ方式は、ほかの地域の環境保全活動の参考にもなります。今後とも注目していきます。



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▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック 日本版』(2019年5月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2019年