語順とテンの原則にしたがて日本語を書けばわかりやすい日本語になります。
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術』(朝日文庫)は同著『日本語の作文技術』の続編であり、日本語の作文の原則について例文をしめしながら簡潔に解説しています。
語順の原則
I. 述部(動詞・形容詞・形容動詞)が最後にくる。
「生まれた」という述部が文の最後にきます。
II. 形容する詞句が先にくる(修飾辞が被修飾辞の前にくる)。
「うれしそうな」が「生徒たち」の前にきます。
III. 長い修飾語ほど先に。
「ガイド」にかかる言葉をまとめてひとつにすると、たとえばつぎのようになります。
語感がもっともよく、わかりやすく誤解がすくないのは物理的に「長い順」に単にならべた 3a です。
IV. 句を先に。
「ガイド」にかかる言葉をまとめてひとつにすると、たとえばつぎのようになります。
4b は、「III. 長い順」の原則に反して短い修飾語が先にきているにもかかわらず、むしろ誤解がすくなくてわかりやすいです。これが「IV. 句を先に」の原則です。つぎの例もみてください。
同様につぎのようになります。
4d は、「III. 長い順」の原則には反していますが「IV. 句を先に」の原則にしたがって誤解がすくなくわかりやすいです。4c は、親和力がはたらくため「東南県立熱帯地域植物園の環境保全」であるかのように誤解されます。句になると、句内部の文節の結合力と外部との親和力とがきそって、言葉によっては外部との親和力のほうが勝ってしまいます。
しかし句であっても、相対的に非常に短ければ「III. 長い順」のままでも不自然ではありません。
語感としては 4e のほうがいいです。
テンの原則
長い修飾語の原則:長い修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうつ。
これはテンを必要としません。ところが太郎・花子・一郎につぎのような長い修飾語がつくとどうでしょうか。
どんなことでもよく知っている博学な太郎が美術も音楽も得意なとてもうつくしい花子を小学校から高校まで同級生だった一郎に紹介した。
とてもわかりにくいのでテンをうちます。
ついでにもう一つ、つぎのような修飾語をくわえてみます。
n 個の長い修飾語があるときは(n-1)個のテンが必要になります。重文の境目にうたれるテンもこの「長い修飾語の原則」によるものです。
逆順の原則:語順が逆になったときにテンをうつ。
語順 I の逆順
語順 II の逆順
これを逆順にすればーーー
これもテンをくわえないと非文法的です。
語順 III の逆順
これは語順 III の「長い順」にしたがっているのでテンはいりません。
ところが「一郎に」を強調したくてこれを冒頭にもってくるとーーー
たちまちわかりにくくなります。逆順だからです。こういうときには「一郎に」のあとにテンが必要です。
このタイプの文はたくさんみられます。
この文で「わたしは」のあとにテンが必要なのは、単に「逆順」の原則がはたらくからであり、それ以外の理由はありません。「III. 長い順」にしてテンをのぞけばつぎのようになります。
「わたしは」を強調したい、先にしめしたいという意志があるならば冒頭にもってきて、「逆順」によりテンをうたなければなりません。これはきわめて機械的で単純な作業です。
「わたしは」を冒頭にもってきても、ほかの修飾語が短ければテンはいりません。
「わたしは」につぎにような修飾語をつけるとーーー
「III. 長い順」の原則によりテンはいりません。
「わたしは」(彼は、彼女はでも同様)と述語を直結させるか、「わたしは」のあとにテンをうつかは、語順とテンの原則にあくまでもしたがいます。これは、いわゆる「主語-述語」という関係とは無縁であって、「主語-述語」は日本語では百害あって一利もありません。
語順 IV の逆順
これも、同様な意味でテンをうちます。
「IV. 句を先に」原則の逆順にするとテンが必要です。
同様にーーー
思想のテン
以上のようにテンは、語順とテンの原則にしたがってうたなければならず、不要なテンはうってはなりません。とくに構文上 決してうってはならぬテンに注意してください。
ただし筆者の思想の最小単位をしめす「思想のテン」があります。強調であれ、ふくみであれ、ある意味を筆者はそこにもたせてテンをうちます。これは「自由なテン」だとはいえ、筆者の文体であり思想だからこそかんがえぬかれたテンでなければなりません。「思想のテン」がおおくなりすぎると効果はなくなり、かえってわかりにくくなりますので、必要だととくに感じたときにのみつかうようにしてください。
ブログや SNS などが普及して、誰もが手軽に情報をアップ(アウトプット)できる時代になりました。ツールはそろいました。しかしアウトプットの量がふえてくると、情報の質がつぎに問題になってきます。よくできたアウトプットを誰もがしたくなります。
そこで本多勝一さんが提唱した「作文の原則」が役立ちます。この原則をつかえば、読む側にとってわかりやすい文章を書くことができ、メッセージがただしく相手につたわります。
作文技術の入門編としては、語順とテンの原則を習得するのがよいでしょう。語順とテンの原則がつかいこなせるようになるだけでもあなたの作文能力は確実に向上します。語順とテンを習得したら、つぎに、「は」と「が」のつかいわけの練習にすすむとよいでしょう。
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▼ 参考文献
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術』(新版)朝日文庫、朝日新聞出版、2019年4月
語順の原則テンの原則
- 述部(動詞・形容詞・形容動詞)が最後にくる。
- 形容する詞句が先にくる(修飾辞が被修飾辞の前にくる)。
- 長い修飾語ほど先に。
- 句を先に。
- 長い修飾語の原則:長い修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうつ。
- 逆順の原則:語順が逆になったときにテンをうつ。
語順の原則
I. 述部(動詞・形容詞・形容動詞)が最後にくる。
女の子が生まれた。
「生まれた」という述部が文の最後にきます。
II. 形容する詞句が先にくる(修飾辞が被修飾辞の前にくる)。
うれしそうな生徒たち。
「うれしそうな」が「生徒たち」の前にきます。
III. 長い修飾語ほど先に。
- 東南県立熱帯地域植物園のガイド
- 博識なガイド
- よいガイド
「ガイド」にかかる言葉をまとめてひとつにすると、たとえばつぎのようになります。
3a 東南県立熱帯地域植物園の博識なよいガイド
3b 東南県立熱帯地域植物園のよい博識なガイド
3c 博識なよい東南県立熱帯地域植物園のガイド
3d よい博識な東南県立熱帯地域植物園のガイド
3b 東南県立熱帯地域植物園のよい博識なガイド
3c 博識なよい東南県立熱帯地域植物園のガイド
3d よい博識な東南県立熱帯地域植物園のガイド
語感がもっともよく、わかりやすく誤解がすくないのは物理的に「長い順」に単にならべた 3a です。
IV. 句を先に。
- 東南県立熱帯地域植物園のガイド
- とおくから通勤しているガイド
- よいガイド
「ガイド」にかかる言葉をまとめてひとつにすると、たとえばつぎのようになります。
4a 東南県立熱帯地域植物園のとおくから通勤しているよいガイド
4b とおくから通勤している東南県立熱帯地域植物園のよいガイド
4b とおくから通勤している東南県立熱帯地域植物園のよいガイド
4b は、「III. 長い順」の原則に反して短い修飾語が先にきているにもかかわらず、むしろ誤解がすくなくてわかりやすいです。これが「IV. 句を先に」の原則です。つぎの例もみてください。
- 東南県立熱帯地域植物園のガイド
- 環境保全を解説するガイド
- よいガイド
同様につぎのようになります。
4c 東南県立熱帯地域植物園の環境保全を解説するよいガイド
4d 環境保全を解説する東南県立熱帯地域植物園のよいガイド
4d 環境保全を解説する東南県立熱帯地域植物園のよいガイド
4d は、「III. 長い順」の原則には反していますが「IV. 句を先に」の原則にしたがって誤解がすくなくわかりやすいです。4c は、親和力がはたらくため「東南県立熱帯地域植物園の環境保全」であるかのように誤解されます。句になると、句内部の文節の結合力と外部との親和力とがきそって、言葉によっては外部との親和力のほうが勝ってしまいます。
しかし句であっても、相対的に非常に短ければ「III. 長い順」のままでも不自然ではありません。
- 東南県立熱帯地域植物園のガイド
- 顔が四角いガイド
- よいガイド
4e 東南県立熱帯地域植物園の顔が四角いよいガイド
4f 顔が四角い東南県立熱帯地域植物園のよいガイド
4f 顔が四角い東南県立熱帯地域植物園のよいガイド
語感としては 4e のほうがいいです。
テンの原則
長い修飾語の原則:長い修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうつ。
太郎が花子を一郎に紹介した。
これはテンを必要としません。ところが太郎・花子・一郎につぎのような長い修飾語がつくとどうでしょうか。
- どんなことでもよく知っている博学な太郎
- 美術も音楽も得意なとてもうつくしい花子
- 小学校から高校まで同級生だった一郎
どんなことでもよく知っている博学な太郎が美術も音楽も得意なとてもうつくしい花子を小学校から高校まで同級生だった一郎に紹介した。
とてもわかりにくいのでテンをうちます。
どんなことでもよく知っている博学な太郎が、美術も音楽も得意なとてもうつくしい花子を、小学校から高校まで同級生だった一郎に紹介した。
ついでにもう一つ、つぎのような修飾語をくわえてみます。
- はなはだ余計なことだとおもいつつも
どんなことでもよく知っている博学な太郎が、美術も音楽も得意なとてもうつくしい花子を、小学校から高校まで同級生だった一郎に、はなはだ余計なことだとおもいつつも紹介した。
n 個の長い修飾語があるときは(n-1)個のテンが必要になります。重文の境目にうたれるテンもこの「長い修飾語の原則」によるものです。
逆順の原則:語順が逆になったときにテンをうつ。
語順 I の逆順
女の子が生まれた。
これを逆順にすればーーー
生まれた女の子が。
となりますが、これでは非文法的ですのでテンをくわえます。
生まれた、女の子が。
語順 II の逆順
うれしそうな生徒たち。
これを逆順にすればーーー
生徒たちうれしそうな。
これもテンをくわえないと非文法的です。
生徒たち、うれしそうな。
語順 III の逆順
- どんなことでもよく知っている博学な太郎
- とてもうつくしい花子
- 一郎
どんなことでもよく知っている博学な太郎がとてもうつくしい花子を一郎に紹介した。
これは語順 III の「長い順」にしたがっているのでテンはいりません。
ところが「一郎に」を強調したくてこれを冒頭にもってくるとーーー
一郎にどんなことでもよく知っている博学な太郎がとてもうつくしい花子を紹介した。
たちまちわかりにくくなります。逆順だからです。こういうときには「一郎に」のあとにテンが必要です。
一郎に、どんなことでもよく知っている博学な太郎がとてもうつくしい花子を紹介した。
このタイプの文はたくさんみられます。
わたしは、今年の夏もたぶん暑くなるのではないかとおもった。
この文で「わたしは」のあとにテンが必要なのは、単に「逆順」の原則がはたらくからであり、それ以外の理由はありません。「III. 長い順」にしてテンをのぞけばつぎのようになります。
今年の夏もたぶん暑くなるのではないかとわたしはおもった。
「わたしは」を強調したい、先にしめしたいという意志があるならば冒頭にもってきて、「逆順」によりテンをうたなければなりません。これはきわめて機械的で単純な作業です。
「わたしは」を冒頭にもってきても、ほかの修飾語が短ければテンはいりません。
わたしは寒いとおもった。
「わたしは」につぎにような修飾語をつけるとーーー
気象予測研究所で予報業務に20年以上たずさわってきたわたしは今年の夏もたぶん暑くなるのではないかとおもった。
「III. 長い順」の原則によりテンはいりません。
「わたしは」(彼は、彼女はでも同様)と述語を直結させるか、「わたしは」のあとにテンをうつかは、語順とテンの原則にあくまでもしたがいます。これは、いわゆる「主語-述語」という関係とは無縁であって、「主語-述語」は日本語では百害あって一利もありません。
語順 IV の逆順
これも、同様な意味でテンをうちます。
とおくから通勤している東南県立熱帯地域植物園のよいガイド
「IV. 句を先に」原則の逆順にするとテンが必要です。
東南県立熱帯地域植物園の、とおくから通勤しているよいガイド
同様にーーー
環境保全を解説する東南県立熱帯地域植物園のよいガイド
東南県立熱帯地域植物園の、環境保全を解説するよいガイド
東南県立熱帯地域植物園の、環境保全を解説するよいガイド
思想のテン
以上のようにテンは、語順とテンの原則にしたがってうたなければならず、不要なテンはうってはなりません。とくに構文上 決してうってはならぬテンに注意してください。
ただし筆者の思想の最小単位をしめす「思想のテン」があります。強調であれ、ふくみであれ、ある意味を筆者はそこにもたせてテンをうちます。これは「自由なテン」だとはいえ、筆者の文体であり思想だからこそかんがえぬかれたテンでなければなりません。「思想のテン」がおおくなりすぎると効果はなくなり、かえってわかりにくくなりますので、必要だととくに感じたときにのみつかうようにしてください。
*
ブログや SNS などが普及して、誰もが手軽に情報をアップ(アウトプット)できる時代になりました。ツールはそろいました。しかしアウトプットの量がふえてくると、情報の質がつぎに問題になってきます。よくできたアウトプットを誰もがしたくなります。
そこで本多勝一さんが提唱した「作文の原則」が役立ちます。この原則をつかえば、読む側にとってわかりやすい文章を書くことができ、メッセージがただしく相手につたわります。
作文技術の入門編としては、語順とテンの原則を習得するのがよいでしょう。語順とテンの原則がつかいこなせるようになるだけでもあなたの作文能力は確実に向上します。語順とテンを習得したら、つぎに、「は」と「が」のつかいわけの練習にすすむとよいでしょう。
▼ 関連記事
日本語の原則
本多勝一著『日本語の作文技術』をつかいこなす - まとめ -
三上章著 『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』をよむ
日本語法を理解する - 三上章『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』-
「は」と「が」をつかいわける - 川本茂雄『ことばとこころ』-
記号とルール - 川本茂雄『ことばとイメージ』-
類比法をつかった作文技法 - ウメサオタダオ展「はっけんカード」から -
▼ 参考文献
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術』(新版)朝日文庫、朝日新聞出版、2019年4月