IMG_9725_6
四脚クローラ方式双腕型コンセプトマシン
(4本足で2本の腕をもつ最新のマシン)

(平行法で立体視ができます) 
土木技術の歴史がわかります。土木技術は文明をささえる基本的な技術です。循環の技術開発に活路があります。
企画展「工事中! - 立ち入り禁止!? 重機の現場 -」が日本科学未来館で開催されています(注1)。現代の工事に欠かせない重機に焦点をあて、工事現場でおこなわれていることを理解するという企画です。

ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -


  • プロローグ: 実物の重機でスケールを感じよう!
  • 第1展示室:「大地」工事中! ― 世界を拓く重機たち
  • 第2展示室:「都市」工事中! ― 建物、街、生活をつくる
  • 第3展示室:「都市」再・工事中! ― 解体の美学
  • 第4展示室:「未来」工事中? ― これからもくらしを支えるために
  • 写真コーナー
  • エピローグ



プロローグ

絵巻調のイラストで土木技術の歴史をみることができます。

わたしたち人間は地球上で大昔から、住居をつくり、大地をきりひらき、農地をつくり、道路をつくり、都市をつくり、活動の場をひろげてきました。たとえば古代ローマをみてください。おおくの道が大都市・ローマに通じ、陸地をいきかう人々が交易をおこないました。あるいは江戸をみてください。海をうめたて土地をひろげ、堤防をつくり、大都市・江戸がうみだされました。

現在、世界中にあるトンネルや橋は山や川や海をこえ、土地と土地をむすび、人々の交流と世界の経済をささえています。

このように、地球と人間とをつないで、文明をささえる技術が土木技術であり、現代において具体的にそれをすすめるのが重機です。


IMG_9727_edited-1
土木技術の歴史(1)



IMG_9728_edited-1
土木技術の歴史(2)


最初の土木技術(工事)は人力にたよっていました。しかしその後、さまざまな道具が工夫され、家畜もつかわれるようになりました。そして道具は高度化・大型化していき、ついに重機が発明されました。今日では、ハイテクもつかって、大規模な工事が効率的におこなわれるようになり、大都市を中心にしていわゆる近代文明が発展しつづけています。





第1展示室:「大地」工事中! ― 世界を拓く重機たち

土砂をすくいあげたり、大地の形をととのえたりする重機であるブルドーザやホイールローダの実機を観察して、大地をきりひらく力強さや迫力を感じることができます。


DSCF9483ab
ホイールローダ(Cat 910M)





第2展示室:「都市」工事中! ― 建物、街、生活をつくる

工事現場の万能選手である油圧ショベルの実機や、ジャンボジェット機と同じ重量をつりあげることができる大型クレーンの運転席やフックなどをみることができます。街中の大規模工事現場の様子や、わたしたちの生活をささえる建物や街をつくる技術について理解できます。


IMG_9751_2
日本初の油圧ショベル「ユンボ」(Y-35)





第3展示室:「都市」再・工事中! ― 解体の美学

解体現場で活躍する油圧ショベル用のいろいろなアタッチメントをみることができます。鉄筋をふくんだコンクリートの圧砕や鉄骨の切断、電磁石で鉄筋の収集を効率化するなど、街中でおこなわれる解体工事についてしることができます。


IMG_9830_1
解体アタッチメント「鉄骨・鉄筋切断機」
(ガジラ DS カッター DSX-300A)





第4展示室:「未来」工事中? ― これからもくらしを支えるために


重機をとりまく技術革新や未来の工事現場についてしることができます。

ICT(情報通信技術)やロボット技術の導入により、より効率かつ安全に工事がすすめられるようになってきています。また炭素繊維など、あたらしい素材をとりいれた技術開発もすすんでいます。さらに災害からの復旧作業など、人々の安全や快適な暮らしをささえる技術が重視されてきています。技術によって実現する未来社会について想像してみてください。


IMG_9852_3
自律型鉄筋結束ロボット
(T-iROBO Rebar)






プロローグの「土木技術の歴史」(イラスト)をみればあきらかなように、土木技術は、住居や農地をつくるところからはじまりました。

人間は大昔は、ほかの動物たちと同様、自然環境にとりかこまれて、自然環境と一体になってくらしていました(図1)。

190419a 文明
図1 〈人間-自然環境〉系のモデル


しかし石器時代になると積極的に、道具をつくったり、住居をつくったりするようになりました。たとえば住居の床の部分を地表面よりもひくくほりさげ、半地下式の住居「竪穴式住居」をつくりました。これは、最初の工事(土木技術)といってもよいでしょう。あるいは土地を整地したり、林をきりひらいたりして農地をつくりました。

さらに集落をつくり、道をつくり、橋をつくり、そしていくつかの集落は都市へとしだいに発展していきました。文明(古代文明)のはじまりです。

人々は土地に手をいれ、土地を改良し、自然環境を改変したのであり、人間(あるいは人間社会)と自然環境のあいだに人工的な領域をつくりだしました。このように文明とは、基本的には、人間と自然環境のあいだにあって、人間が自然環境に作用をあたえ、他方で、自然環境から人間への作用をやわらげるはたらきをもっています(図2)。

190419b 文明
図2 〈人間-文明-自然環境〉系のモデル(その1)


さらに時代がくだると人々は、治水・治山など、よりよいくらしをもとめてもっと大規模な工事をおこなうようになり、また建造物も巨大化していきます。

そして近代になると重機(大型機械)が発明され、文明の力はさらにつよくなり、現代では、あらゆる地域で、自然環境(本来の自然、野生)をおおきく破壊するまでにいたりました(図3)。

190419c 文明
図3 〈人間-文明-自然環境〉系のモデル(その2)


近代文明(機械文明)がこのままの状態で発展しつづければ、自然環境はいずれは消滅し、人間は、文明にとりかこまれて生存していくことになります(図4)。

190419d 文明
図4 〈人間-文明〉系のモデル


このように歴史的にみれば、土木技術は文明の中核技術であったのであり、土木技術について理解をふかめれば文明史の概要がわかり、また未来の予想もできます。

人間は土地に手を入れ、地表を改良して生産性をあげるとともに、雨や風、暑さ寒さ、災害から身をまもる工夫をしながら文明を発展させてきましたが、その文明も限度をこえると生態系の破壊、自然環境の壊滅をもたらします。

したがってなるべくはやい段階で環境調和型の文明に文明のパターンを変更しなければなりません。循環の技術革新と生命論的世界観の確立に活路があります。あらたな土木技術もそのためにこそつかわれなければなりません。



▼ 関連記事
梅棹忠夫『比較文明学研究』をよむ
認知革命、農業革命、科学革命 - ハラリ『サピエンス全史』-
明治150年記念特別展「日本を変えた千の技術博」(国立科学博物館) - 日本の近代化をふりかえる -
巨大化は崩壊の前兆? -「サピエンス(3)」(Newton 2019.1号)-
文明のはじまり -「サピエンス(2)」(Newton 2019.1号)-
生命力を再生させる - 太陽の塔 -
江戸時代の測量・土木技術 - 特集展示「玉川上水」(江戸東京博物館)-
日本の近代化とは何だったのか? - 姜尚中著『維新の影 - 近代日本 150 年、思索の旅』-
環太平洋文明と地理学をみなおす - 安田喜憲『森の日本文明史』-


▼ 注1
企画展「工事中! - 立ち入り禁止!? 重機の現場 -」
会場:日本科学未来館
会期:2019年2月8日~5月19日
※ 写真撮影が許可されています。