ウイルスと細菌はちがいます。新型インフルエンザに要注意です。マスク・手洗い・うがいが基本です。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2019年4月号の Topic では、かぜとインフルエンザについて、発症のしくみから治療・予防法までをくわしく解説しています。



インフルエンザが「インフルエンザウイルス」の感染によって生じることはよく知られているが、かぜもその原因のほとんどは「ウイルス」だ。ただし、かぜのウイルスとインフルエンザウイルスは、明確に区別される。ウイルスは、(中略)細菌と同じように、体に悪影響をあたえる「病原体」として知られているが、細菌はみずから細胞分裂して増殖できるのに対し、ウイルスはみずから増殖できず、ほかの生物の細胞に感染して増殖する。


ウイルスのおもな感染経路には、ウイルスに感染した人のくしゃみやせきなどにふくまれるウイルスをすいこむことによって感染する「飛沫感染」と、ウイルスに感染した人の鼻水や唾液などが手につき、その手からつり革や手すり・ドアノブなどにウイルスが付着し、それらにふれた手で自分の鼻や口・目などをさわって感染する「接触感染」という2つの感染経路がおもにあります。

  • 飛沫感染
  • 接触感染

かぜやインフルエンザの典型的な症状は発熱です。そのほかにも、さまざまな不快な症状があらわれますが、それは、わたしたちの体がウイルスとたたかっている証拠でもあります。


インフルエンザウイルスの中にはブタやトリ(水鳥)などに感染するウイルスが少なからず存在する。そして、これらのウイルスは、まれに種をこえて感染する場合がある。とくに、ブタの細胞には、トリのインフルエンザウイルスにも、ヒトのインフルエンザウイルスにも感染してしまう構造(受容体)がある。たまたま両方のウイルスに感染したブタの細胞内では、もともとヒトに感染する性質をもつウイルスの遺伝子と、トリに対する病原性をもつウイルスの遺伝子がまじりあい、遺伝子を交換することがある。


遺伝子を交換したウイルスがヒトに感染すると、今度は、ヒトからヒトへ感染するあたらしいインフルエンザウイルスとして拡散していきます。これが「新型インフルエンザ」です。新型インフルエンザに対する免疫をもつ人はほとんどいないため、非常におおくの人々に感染がひろがり、世界的な流行である「パンデミック」となる可能性があります。


スペイン型インフルエンザ(スペインかぜ、1918年)による死亡者は、全世界で2000万人〜4000万人、日本でも約40万人におよんだと推定されている。


記録にのこっている範囲では、新型インフルエンザによるパンデミックは10〜40年間隔で発生しており、十分に警戒しなければなりません。

またカモやニワトリなどの鳥類の間で感染がひろがる「鳥インフルエンザウイルス」のなかで、感染したニワトリ(家禽類)があっというまに多数死亡する強力なものを「高病原性鳥インフルエンザ」といいます。

1997年以降、アジアを中心に、このようなインフルエンザウイルスがトリからヒトに感染した事例がたくさん報告されています。

日本では、高病原性鳥インフルエンザが発生すると、感染拡大をふせぶために、ニワトリの殺処分などが徹底的におこなわれます。


かぜやインフルエンザの日常生活での予防の基本は、「マスク」、「手洗い」、「うがい」だ。


マスクは、口と鼻をおおうので、のどの乾燥をふせぎ、粘膜や線毛のはたらきをたすけます。また飛沫感染により、インフルエンザを他者にうつすリスクを低減できます。接触感染をふせぐためには手洗いが効果的です。しっかりと時間をかけてあらってください。またうがいにも、予防効果があることが現在では実証されています。ただし実験結果によると、うがい薬をつかわず、水だけでうがいをしたグループに効果があらわれました。これは、うがい薬によって、口内細菌のバランスがくずれ、ウイルスの侵入をかえってゆるしてしまったためではないかと推測されています。

また「抗生物質(抗菌薬)」は、細菌に対しては効果を発揮しますが、かぜやインフルエンザをひきおこすウイルスにはまったく効果はありません。かぜやインフルエンザにかかった場合は抗生物質はもらわないでください。

なおインフルエンザの治療では、「タミフル」や「リレンザ」「イナビル」「ラピアクタ」「ゾフルーザ」などの「抗ウイルス薬」が使用される場合があります。これらの服用後に異常行動をおこして患者が死亡したというニューズがありましたが、現在では、異常行動は薬によるものではなく、インフルエンザにともなうものであるとされています。

以上のように、かぜとインフルエンザについてのただしい知識は予防や治療のために役立ちます。とくに、ウイルスと細菌のちがい、抗生物質はきかないこと、特効薬はないこと、パンデミックの脅威などについてはしっておく必要があります。

そして何よりも、マスク・手洗い・うがい、という基本中の基本を心がけるようにします。



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▼ 参考文献
『Newton』(2019年4月号)ニュートンプレス、2019年