害獣なのか、経済資源なのか、保護すべき固有種なのか? オーストラリアでカンガルー問題が発生しています。生態系調査をするだけでなく、先住民からまなばなければなりません。
『ナショナルジオグラフィック』2019年2月号では、オーストラリアのカンガルーの現状について報告しています。
政府の公式な発表によると、カンガルーの生息数は人口の2倍を上回り、その存在を害獣と見なす国民は少なくない。![]()
オーストラリアの人口は約2500万人ですが、カンガルーの数は推定5000万頭であり、ただでさいたりない家畜の水や牧草がカンガルーにうばわれ、また年間2万件をこえる自動車と動物の接触事故のうち約8割がカンガルーによるものだといいます。
オーストラリアでは、ディンゴのような捕食動物がへり、先住民による狩りもおこなわれなくなった今、カンガルーを駆除しなければ生態系のバランスが維持できないと主張する人々がいます。
また政府公認のもと、営利目的で駆除されたカンガルーの肉と皮革製品の輸出高は2017年には約35億円にのぼり、雇用者数も約4000人に達し、オーストラリア経済にカンガルーが貢献しています。
しかし動物愛護団体や著名人や研究者は、カンガルーの駆除は非人道的で不必要であり、オーストラリア固有の貴重な動物を保護していかなければならないと主張します。
カンガルーは、根絶すべき害獣なのか、活用すべき経済資源なのか、保護すべき固有種なのか?
営利事業をおこなっている人と、環境団体や研究者など、非営利事業をおこなっている人とは根本的に立場がちがい、どこまでも議論は平行線をたどります。
一般論からいうと、生態系調査をもっと徹底しておこなって、どこかに保護区をつくることによっておりあいをつけるといったことになるのでしょうが、本報告では、オーストラリアの先住民とカンガルーのかかわりかたについても紹介しています。
オーストラリアの先住民はカンガルーを食用にしてきましたが、厳格な作法がそこにはあります。繁殖期は禁猟であり、また無駄は一切だしてはなりません。肉は、わけあってたべ、腱は糸にし、皮は衣類に、毛皮は鞄や服にします。また天地創造をえがいた先住民の神話でカンガルーは中心的な役割をはたしており、先住民とカンガルーは、歴史的にも文化的にもふかいかかわりをもちつづけてともに生きてきました。カンガルーは、根絶すべき害獣なのか、活用すべき経済資源なのか、保護すべき固有種なのか?
営利事業をおこなっている人と、環境団体や研究者など、非営利事業をおこなっている人とは根本的に立場がちがい、どこまでも議論は平行線をたどります。
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一般論からいうと、生態系調査をもっと徹底しておこなって、どこかに保護区をつくることによっておりあいをつけるといったことになるのでしょうが、本報告では、オーストラリアの先住民とカンガルーのかかわりかたについても紹介しています。
これとやや似たようなことは日本のアイヌにもみられます。
近代教育や科学技術教育をうけてきた人々にとっては、先住民からまなぶなどということはおもいもよらないかもしれませんが、実際には、上記のような問題を解決するために先住民の知恵が必要です。
そのためには、生態系調査(自然環境調査)とともに先住民からの聞き取り調査もおこなわなければなりません。自然環境のなかでくらしてきた住民からも取材し、データをあつめ、住民(主体)と環境の相互作用をとらえるなかから真の解決策がみつかります。自然環境だけに注目していると環境問題は解決できません。〈主体-環境〉系といったみかたが必要です。
▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック』(2019年2月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2019年