光の実体は電磁波であり、音の実体は空気振動です。みかけの現象と現象の実体と人間の情報処理について認識をふかめると、宇宙や世界のイメージがかわってきます。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』 2019年3月号の Newton Special では「なるほど!! 物理入門」と題して、高校物理の内容をわかりやすく解説しています。その PART 3 は「波」です。



波とは周囲へと何らかの「振動」が伝わっていく現象です。音であれば、たとえばスピーカーで発生した空気の振動が次々と周囲の空気をふるわせて、空間を伝わっていきます。

光とは、空間自体にそなわっている「電場」と「磁場」の振動が伝わる波です。

波は大きく2種類に分けることができます。それは「横波」と「縦波」です。波の進行方向に対して垂直に振動する波が「横波」で、進行方向と同じ方向に振動する波が「縦波」です。

光は横波で、音は縦波です。地震により発生する「地震波」は両方を含んでいます。最初にやってくる(地中を速く伝わる)P波は縦波で、遅れてやってくる(遅く伝わる)S波は横波です。地震が直下でおきた場合、最初にやってくるP波は縦波であるため、真下から突き上げるようなゆれが突然やってきます。

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わたしたち人間は、波長がながい光は赤、みじかい光は青や紫というように、光の波長のちがいを色として認知しますが、実際には、波長のちがいがあるだけで光そのものに色がついているわけではありません。光の実体は、電波・赤外線・紫外線・X線・ガンマ線などとおなじ「電磁波」であり、目でみえる波長の電磁波(可視光線)を光とよんでいるだけです。

たとえば太陽光(白色光)を、ガラスの三角柱(プリズム)にあてると、虹のように七色に分散させることができます。ガラスのなかに光がはいると、その速度は、秒速20万キロメートル(空気中の約65%)程度までおそくなり、しかもガラス中の進行速度は波長によってわずかにことなり、波長がみじかいほどおそくなります。その結果、光の波長によって、ガラスにはいったときの「屈折」の角度がことなり、太陽光が七色にわかれてみえます。屈折とは、空気中からガラスや水などの透明な物質中に光がはいるとき、あるいは物質中から空気中にでていくときに、光の進行速度が変化するために光の進路がまがる現象です。


 

このように七色にみえる光は、光の波長のちがいを反映しているにすぎないことに気がつくことは重要なことです。たとえばカラフルな風景をみてうつくしいと感じるとき、実体として、そのようなカラフルさが存在するのではなく、電磁波の波長のちがいがあるだけであり、さまざまな色は、人間がもっている視覚系の情報処理のしくみによってうみだされているにすぎません。電磁波が目にとどくと、それが電気信号に変換されて脳におくられ、それを脳が処理すると色が生じます。

しかもわたしたちが目で認知できるのは、電磁波のなかの非常にかぎられた部分でしかなく、わたしたち人間は、非常にかたよったみかたしかできないのであり、みえている宇宙(世界)はみかけの現象にすぎないといってよいでしょう。

また光(可視光線)は陰をつくります。光の波長は400〜800ナノメートル(0.0004〜0.0008ミリメートル)程度であり、音波や電波にくらべてかなりみじかいです。波は、障害物があってもまわりこむという性質をもっており、これを「回折」といいます。基本的には回折は、波の波長がながいほどおきやすく、みじかいほどおきにくい現象です。光は波長がみじかいため、回折がおきにくく直進性がたかいため、光のあるところにはかならず影が発生します。人間は、このような光しかみることができないので、光をみるときには同時に陰をみとめることになり、光と陰をセットにしていきていく癖をもっているため、「光と陰」といった二項対立の思考が常識化しました。

また音は、空気の振動がつぎつぎに周囲の空気をふるわせながら空間をつたわっていき、その振動が耳にとどいて、それが、聴覚系の情報処理により認知されたものです。空気振動が耳の鼓膜にとどくと、電気信号にそれが変換されて脳におくられ、それを脳が処理すると音が生じます。音にも、せせらぎ、小鳥のさえずり、ヴァイオリンの音など、さまざまな 「音色」がありますが、音の実体は空気振動であり、それに音色がついているわけではありません。空気振動の波形や波長のちがいがあるだけで、人間の聴覚系の情報処理によってそれが音色として認知されています。

このように物理学の進歩により、光や音の実体があきらかになりました。一方で、視覚系や聴覚系など、人間がもつ情報処理のしくみもわかってきました。みえたり、きこえたりすることはみかけの現象(認知された情報)にすぎません。それらの実体は何なのか、そのしくみはどうなっているのかをかんがえると、宇宙や世界のイメージがかわってきます。


『Newton』(2019年3月号)ニュートンプレス、2019年